魔導国の日常【完結】   作:ノイラーテム

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外伝、四者の視点【後編】

●墓杜の村と修行僧

 その村はアゼルシア山脈のとある谷にあり、割と大きいが都市とは比べられない程度だ。

 村で戦える者は格闘メインなので、訪れる稀人は墓杜の村だとか修行僧共だと渾名する。

 もっとも、この谷から出る許可は周囲の脅威の中で最低単位である、熊に勝てる事が基準なのであながち間違いでもないのだが。

 

 その村でつい最近に救助されたドワーフは記憶を失っており、仮の名前は適当に決められた。

「ロス、調子はもういいんだっけ?」

「記憶以外は問題無い」

 記憶と共に名前も自分自身も目的も無くしたのでロス、鍛冶屋なのでロス・スミス。

 それらしい名前なら何でも良かったが、ずいぶん昔に記憶喪失が他に居てそいつに付けたネモ以外で決められた。

 

「それじゃあ俺のシャツを直してくれっか?」

「なんじゃお前もか? ここの連中は物持ちが悪いのう。良く鍛冶屋無しでやってこれたものよ」

 この男が親身に世話されたのは久しぶりの来客という以外に、村へ専門の鍛冶屋が居ないと言うのが大きいだろう。

 でなければ雑用と引き換えに食料を渡される程度の扱いであったと思われる。

 

「居ねえわけじゃねえぞ? オリハルコンやミスリルが扱えねえだけで」

「ワシから言えば扱えて当然なんじゃがの。まあ…アレでは仕方あるまいか」

 この村では鉄や銅の武具は無く、それどころかロクな武器も無い。

 武器が無くて格闘を主体とするだけなら宗教に関連して居るのかと言えば、そうでは無い。

 単純に膨大な量の鉄や銅を渡してしている相手が居るからだ。

 

『おーうい、持って来たどー。交換しとくれー』

「ちょっと待っとれえ!」

 外から谷へ、ズシンズシンと地響き立てて青い肌の大男が現れる。

 鍛冶場の奥から引き出した巨大な穂先を苦労して持ち出し、渡した相手がそれを簡単に持ち上げるのが見えた。

 

 アゼルシア山脈に棲むフロストジャイアントだ。

 近くに棲む彼らと協力して暮らす事で、この谷にある墓杜の村では平和と生活が保たれていた。

 それほど器用ではない彼らに鉄器や銅器を渡していれば、人間用の武具を作る余裕などないし必要も無い、金属製の農具など不要でもある。

 負担ではあるが収奪という程では無く、外敵から守ってくれて重労働を簡単に片付けてくれるので重宝されてもいた。

 

 では他の金属で作れば? というが金銀などは硬くないし通貨代わりに使える。

 稀少過ぎるアダマンタイトなどは見つかっても遠くまでに卸ろしに行くし、比較的に見つかるミスリルも鎧用に需要が高いので同様だ。

 価格が微妙になるだけでオリハルコンも良い値で売れるなら売ってしまうので、残った少量のオリハルコンを伸ばしてチェインシャツの部品をコツコツ作るだけの話である。

 

「そういえばまだワシの外出許可が下りんのか? 記憶を取り戻す為にも出かけたいんじゃが」

「ロスは熊を倒せないだろ? なら駄目だよ、隊商か冒険者でも来るのを待ちな」

 村から出歩いている者は狩人でも修行者でも、熊を狩れることが条件だ。それは元外部の者である行き倒れも同様。

 出歩いて死ぬと判っている人間を、おいそれと出せるはずもない。

 

 とはいえ、そんな者ばかりではないので必然的に村の周囲から出る者は少ない。

 隊商を組んで出かけるのを除けば、谷の奥側にある鉱山やロスが流れて来た谷川の周囲だけが、唯一自由に動ける領域とも言える。

 割りと大きな村だと言ったが戦力を増強できるような魔法を使える者は、魔力の化粧を施し呪符を作る呪紋師が一名、心霊手術が出来る呪医が一名しか居ないので仕方無いとも言えた。

 

「そんな事よりかさ、ロスもずっと此処で暮らさねえか? 腕の良い鍛冶屋が居ると助かるんだ。ミスリルだって加工して売れるしよ」

「ワシはそんな事の為に旅をしたわけじゃないぞ! …ソレを忘れてしまっておるがの」

 男は怒りかけたものの、少しだけ寂しそうな顔で鍛冶場に仕舞ってある鞄を見た。

 そこには彼が後生大事に抱えていた謎の金属と鍛冶道具一式が入っていたのである。

 

 このまま記憶が戻らないまま暮らすのか?

 燻って居て良いのかと鬱積した気持ちと、このまま悩みなど忘れて暮らすのも良いかと思っていた時。

 ロスにとって状況を一変させる出来事が二つ起こった。

 一つ目は村に一人だけ居る呪紋師が魔化をするのを手伝った事だ。

 

「どんな魔化を施すんじゃ? それによって形状が微妙に変わってくるが」

「ティアーの奴が使える術次第って話だろ? まあ最悪、幽霊を触れりゃ十分さ。余裕があったら適当に強化してくれりゃいいよ」

 ロスは話を聞いて頭が痛くなった。

 これが既製品に近い形で一点物を作り、平均値が高いだけの品を作るのは良くある話だ。

 戦士が欲しがる能力など大抵が似たようなもので、基本を押さえておけば残りは買った者が自分で補強アイテムを揃えるからだ。

 

 だが今回は村社会という狭い中で作成する物であり、実質的なフル・オーダーである。

「オーダーする以上はどんな能力が欲しいか明確に決めておくものじゃ。まあ国の術師を動員する訳でも無し選択肢など…」

 もちろん国直営の工房で作る場合と違い、村に一人しか呪紋師が居らず精霊召還など魔化出来ない術もあるので、可能なことに限りがあるのは確かなのだが。

 そこまで考えた所で、おかしなことに気が付いた。

 

(国の術師を動員…? なぜワシはそんな事が思いつけるんじゃ?)

 自分が並の鍛冶師でないことはオリハルコンを扱える段階で判っては居た。

 好きなように魔術師・呪紋師の類を呼び寄せ魔化を頼んだり、こうするからと頼まれて製作した実感が湧いて来た。

 記憶を思い出したと言うには曖昧すぎるが、苦労して色々やった・やってこれたという経験の様なモノだけは思い出して居た。

(ワシがそれを可能な立場に居たとして、なぜ記憶をなくすような目におうた? 追われた? それとも何かを追い求めて…)

 まだ届かない、だがキッカケは直ぐ傍に在る様な気がする。

 比喩ではなくヒントは自分の荷物にあるわけだが、後少しナニカが足りないのだ。

 

 そして、決定的なナニカが彼の目に飛び込んで来た。

 

「こっこれは!?」

「あら判る? この村に伝わる品なのだけど…どうしたの? 憑き物が堕ちたような顔をして」

 目の下に緋で呪紋を描いた女呪紋師がクスリと笑った。

 心当たりがあるかのように、こちらに嫣然と笑いかけて来る。

「判るも何もないわ! ワシはこれを探していたんじゃ!」

「…そう。思い出してしまったのね。何十年ぶりでは聞かないくらいのドワーフの稀人だし、そうじゃないかと思っては居たのだけど」

 呪紋師の家にあったのは、見た事もない金属で出来たハンマーだった。

 ロスが持ち込んだ金属とは違うが、明らかにアダマンタイトより格上であることが一目で判る。

 

「渡すには条件があるわよ? これと引き換えた剣を戻す事。まあ当然よね」

「で…ではここに居る時だけでも貸してくれんか!? これであの金属が加工出来れば…あのアンデッドを見返してやれる!」

 鬼の様な形相がそこにはあった。

 先ほどまでの好々爺然とした顔はなりを潜め、一緒に付いて来た少年などはドン引きしている。

 

「アンデッド? 奇遇ね…私達もアンデッドで困ってるんだけどね。力を貸してくれるならこっちも力を貸すわ」

「ワシに出来る事なら何でもするぞ! アダマンタイトどころかもっと上の金属でも可能じゃろう!」

 目的の為には何でもする!

 だが聞いてくれないなら…そんな心根が顔に現れていた。

 だからティアーと呼ばれた女呪紋師は直球で譲渡の条件を述べ、借用条件にも即座に応じたのである。

 

「その意気込みは買うけど相手は地下だから十分な戦力も必要よ? 貴方は戦えないし、強力な護衛をすり抜けて本命だけを滅ぼさなくちゃならない」

「戦力…戦力か」

 そういえば注文主の少年は、幽霊を触れることが最低条件だと言って居なかったか?

 つまりは、ただでさえ倒し難い相手を追い詰める必要があるのだ。地下というならフロストジャイアントの力を借りるのも無理である可能性が高い。

 しかも、話を聞く限りは戦闘力に関して護衛も相当なモノであると思われた。

 

 考え込むロス…いやドワーフの国の元鍛冶工房長の元に二つ目の転機が訪れる。

 もう一つは彼に続いて川を降って来た闖入者が現れた事である。

 

●滅びし影の邦

 ティアーという女は村で一人しか居ない呪紋師。

 だから当然、闖入者が現れれば協力を求められることになる。

 

「大変だ! り、リザードマンが!」

「何体居るの? できれば構成も教えてちょうだい」

 飛び込んできた村人の言葉にティアーは作り置きして居た呪符に手を伸ばす。

 それほど強いモノは召喚できないが、数の不利くらいは補えるかもしれない。

 

「あ、ああ。敵じゃないんだ…一応」

「本当なの? とにかく油断はしないで。ユーあなたも準備なさい」

「こうしちゃ居られねえ!」

 形の良い眉を跳ね上げながら尋ねるが応えなどありはしない。

 話を聞けば一人だけでしかも怪我をしているから…というが、怪我が治れば襲うかもしれないからだ。

 

「リザードマンじゃと…? もしかしてワシが流されて来た川から出て来たのか?」

「陸を歩いて来たとも思えないし、そうなんじゃない? とりあえずロスは鍛冶場に戻って」

 その言葉にロスは首を振った。

 もちろんこの場に残ってハンマーを触りたい気持ちもあるが…。

「ワシらドワーフの国にもリザードマンが来たんじゃ。…知性はあるが胡散臭いアンデッドと共にの。同じ奴かその仲間かもしれん」

「それなら着いてきてくれる? 貴方を探しに来たのかもしれないし」

 奇妙なことにティアーもユーも、ロスの言葉を疑わなかった。

 いずれにせよ一同は急いで居たので、疑問に思う時間も尋ねる時間も無い。

 戦えるティアーとユーは装備を整えて先に向かった。

 

 

 そこでは一体の…いや、一人のリザードマンが遠巻きにされている。

 外に出ることができる者が中心となって、後ろの方に狩人や呪医が念の為に控えて居る様だった。

 

「ティアー、良い所に来てくれた。どうするべきだと思う?」

「敵意があればとっくに殺しあってるでしょうし、どこまで信用できるかってことよね」

 呪医のランディだかラムディとか言う男がこちらに気が付くと、ティアーはドワーフのほうをチラリと見ながら考え始めた。

「顔は判らんが体形が違っておる。別のリザードマンじゃな。しかし、あのアンデッドのことを考えたら油断はできん。どんな無茶を言われるか判らんぞ」

 彼が国元に居た時に見た相手なのか、まったく別の相手かで少し変わってくるかもしれない。

 だが、そもそもこのドワーフが国元で何をしたかも判って居ないのだ。

 

「仕方が無いわね。誰か家から鍋を持って来て! 魔法で判断するとしましょう」

「俺が取って来る!」

 魔法が使えるからか、それとも判断が他につけようがないのかティアーの言葉で村人が鍋を取り行った。

 ドワーフは首を傾げるが、彼女の魔法を知っている者は疑って居ないようだ。

 

「そろそろ話をしても良いでしょうか? あまり時間を掛けると次の者が訪れてしまいますが」

「援軍を期待しているのか? それとも俺達を脅す気か!」

 リザードマンは想ったよりも流暢に言葉を操ったが、だからこそ信用できないと村人の一部が声を上げる。

 旅に出ることが出来る数名は落ち着いたものなので、この辺が経験の差であろう。

 

「も、持って来たぞ!」

「ありがとう。川の側に置いて水を汲んで置いてね。ちょっと話して来るから」

「おい、あぶねぇぞティアー!」

 女は制止の声も聞かず、リザードマンの方に歩き出した。

 そして途中で立ち止まると、あろうことか身を守るための杖をその場に置いてしまう。

 

「よろしく、私はティアーという名前よ。この村の相談役というあたりかな?」

「私はキュクー・ズーズーと申します。私も集落での相談役と、魔導国のミスリル冒険者のランクを授かっております」

 キュクーと名乗ったリザードマンは、軽く頭を下げて手に持ったショートスピアを地面に置いた。

 そして腰に差した自衛用の短剣を、目の前に置いてから座り込んだ。

 

 流石に無防備になりはしないが、即戦闘は無理な構えに見える。

 どうやらキュクーもようやく話ができる相手が来たと判断してくれたようだ。

 

「さて、話をするのは良いのだけど、お互いに信用がおけるとは限らない。そこで魔法を使っても良くて?」

「構いませんが…どのような魔法かお聞きしても良いでしょうか?」

 当然と言えば当然の質問に、ティアーは用意させた鍋を指差した。

 そこには川から汲んだばかりの冷たい水が注がれている所だ。

 

「あの水に手を漬けた状態で嘘を吐くと、その人には熱湯に感じられると言う魔法よ」

「人間達には盟神探湯と呼ばれている魔法ですね。部族では真実の口と呼んで居りましたが」

 キュクーは心得たとばかりに頷いていたが…。

 後からドワーフや知らない村人が聞いた話では、他所者を信用するのに良く使われる呪術らしい。

 術が使えない場合はハッタリであることもあるが、ティアーは力があるので大丈夫だろうと知っている者は安心して居たようだ。

 

 しかし、鍋に魔法を使った後で、キュクーが突然に足を止める。

「どうした! いまさら怖くなったのか!」

「いえ、そう言う訳ではありません。ただ、このまま私がやったとしても信用されない可能性もあるかと思いまして」

「なんだと! ティアーが嘘を言って別の魔法を使ったとでも言いがかりを付ける気か!」

 キュクーはフルフルと首を振って自らの首元を指差し、次に指輪を掲げて見せた。

 それは美しい紋様が彫られており、キラリと輝くところからも相当の値打ものか…マジックアイテムであると窺える。

 

「それがどうしたって言うんだ!」

「これは魔導王陛下からお預かりしている装備で、熱障害や精神魔法に耐性を付けるものです」

「ェ……?」

 村人たちは一瞬、何を言われたか判らなかった。

 

 もしそうなら、嘘を言っても問題が無い。

 つまり、一方的に嘘をついてもよいし、真実を話しても良いということだ。

 

「これを外してから話をした方が良いと思うのですが、いかがなものでしょう?」

「…ぷっ。警戒して居たのが馬鹿みたい。リザードマンってのはみんな貴方みたいなのばかりなわけ?」

 クスクスと笑うティアーに、キュクーはもう一度首を横に振った。

 なんでも魔導国でミスリル以上の冒険者を名乗れるのは、警戒心の強い亜人とまともに話ができる事が前提である。

 つまり、ミスリル冒険者以上ならば信用出来ると教えてくれた。

 

 そして装備を外すと、おもむろに鍋に手を突っ込んで質問を待つ。

「どうぞ。なんでもは無理ですが、可能な範囲で聞かせてください」

「もう使わなくても不要だとは思うんだけど…。とりあえず貴方達は何をしに来たの? そして、アンデッドと手を組んでるって本当?」

 ティアーはキュクーを信用したとしても、他の村人までそうだとは限らない。

 この場合は村人が見て実際に億化があった魔法の方が重要だろう。

 

 二人はそう判断して鍋に手を突っこんだまま話を進めた。

「まず…魔導王陛下は理知的なアンデッドです。我々リザードマンはその勢力下にありますし、エ・ランテルの街も同様です。無意味に殺されている人間や亜人はおりません」

 手を組んで居るのではなく支配下である。

 更には殺されてアンデッドの列に加わっている訳ではないとキュクーは説明した。

 無意味でなければ殺されている者も居るのだが…、まあ嘘では無いし『誰も殺されて居ないのか?』などと質問される前に言っておいたのだろう。

 

 アンデッドに支配…。そう一部が騒ぎ始めた所でキュクーは次の話題に移った。

「ここに来た理由は二つ。巨人の邦へ行けるかを手分けして確認中です。もう一つは行方不明であるドワーフの鍛冶工房長が生きて居れば保護すること」

 支配下に置きに来たのではない、巨人の邦があるかどうかを確認している。

 そして他にもリザードマンが動いているということ、…最後にドワーフを捕まえるのではなく保護であると口にした。

 

 当然ながら鍋が煮え立つことも、キュクーが慌てて立ちあがって川に飛び込む様子も無い。

 村人たちは自分たちが目標では無いと知って安心すると同時に、この間助けたドワーフの事を思い出して居た。

 

「わ、ワシを捕まえに来たのか!?」

「いえ。陛下は窮地に居るなら保護せよ、鉱石の扱いを磨いているところであれば協力せよとおっしゃられました」

 キュクーはそこまで言ってから失礼かもしれませんが…と、もう一言付け加えた。

「…それと扱えないのであれば無理を押しつけてしまったことになるので、先の依頼は撤回するとも」

「何を言うか! そのヒントは既に掴んでおる! 条件さえ整えばいつでも可能じゃ! あのアンデッドへチェインシャツにして叩き返してくれる!」

 ドワーフは顔を真っ赤にして怒号を上げると、追っ手であるとか捕まるとか言う判断を置き去りにした。

 ガンコ職人の性格が顔を出し探究心と克己心が、アインズへの反骨心を圧倒する!

 

 激昂する彼を宥める様に、ティアーはポンポンと肩を叩いてから説明を続けた。

「その件も関係してるなら丁度良いわ。とあるアンデッドの問題があるんだけど大丈夫かな? 貴方の国の王様も執着心を持って居るタイプなのよね?」

「…ええ。私は存じ上げませんが、陛下は生命に憎しみを燃やす事はありません。そして全てのアンデッドがそうでないとも理解しております」

 二人の間で、微妙な空気が流れた。

 意図したことを理解できたのは、何かを知っている数人だけで他の者は首を傾げるばかりだ。

 

「そこにどう言う差があるんじゃ?」

「この周囲にも話の判るアンデッドと、生命と見れば襲いかかって来るアンデッドが居ると言うことでしょう」

「そういうこと。正確に言えば…話が通じる方は過去形なんだけどね」

 首を傾げるドワーフに、キュクーが理解したことを口にする。

 その様子で話しても大丈夫と思ったのか、ティアーが詳しい説明を始めた。

 

「貴方達の探して居る巨人の邦というのは、とっくに滅びているのよ。問題なのはアンデッド化した巨人と配下が地下の王国にのさばってるって訳」

「なんと…種すべてが…ではないにしろ、痛たましいことです」

 ティアーの言葉にキュクーは素直に頭を下げて見せた。

 彼女やこの村の住人達は関係ないにしろ、そういった事を知っている以上は庇護下にあった人間族の末裔なのだろうと推測。

 そして、仲の良い巨人や他の種族が犠牲になったのだろうと想像したのである。

 

「そこの入り口が幾つかあって、出て来ない様に見張ったり倒しに行ったりするわけね。理知的なアンデッドはその途中で出逢ったの…支配されちゃうまでは」

「なるほど。アンデッドが無数に居れば一体くらいは特殊なアンデッドが出る事もありえるでしょうね」

 これがティアーではなく、キュクーが口にしたことなら疑いを持つ者も居ただろう。

 

 だが、この村の相談役である彼女の言葉であり、更には他に知っている者も居たので話はスムーズに進んだ。

「それって”船長”のことだろ? この世に俺が行けない場所はねえって言ってたのに、支配されちまうなんざ情けねえ」

「そういえばあの爺も記憶が無かったよなあ。アンデッドになった時に記憶を無くしたのか、それとも途中からか知らねえけど」

 外に出る者たちがそう口にするが、流石に全員が勘違いするとは考えられない。

 出られない村人のなかにも、隊商を組んで出た時に見たことはあると言う者も居たので納得する者も出始めた。

 こればかりは経験であり、経験者が居なければ信用しないし最後まで出来ない者がいるのも仕方が無い。

 

「と言う訳で、地下に居るアンデッドを倒せる戦力は揃えたいのよね」

「そして…できれば”船長”という方を見掛けても倒さないで居られることが必要なのですね?」

「もしかしてアテがあんの? ティアーが言ってるのってかなり無茶な気がするんだけどよ」

 キュクーは頷くと自らが持つミスリルのプレートを取り出して説明を始めた。

 

「このプレートはミスリルですが、まだ上にオリハルコンが一組、アダマンタイトが一組おられます。その中でもモモン様は亜人種やアンデッドに偏見を持たれない方です」

「漆黒の英雄モモン! 話に聞いたことがある!」

 その名は王国でも帝国でも知られた名前であり、近年ではドワーフの国でも聞こえ始めた名前だと言う。

 アンデッドの群を蹴散らし強力な魔を退けた彼が、人類の守護者で在ると同時に身分や人種にとらわれないのだと言うことを知っている者は多かった。

 噂が尾を引いているのだろうと思ってはいたが、ことが自分達の圏内であり、逢えると判って馬鹿にする者は居ない。

 

 こうして魔導国の中で、地下帝国攻略戦のクエストが発令されることになる。




 今回の『四者の視点』では、今までのストーリーと十二巻の出来ごとに居り合いを付ける為のストーリーです。
「フロストジャアントが協力して居る」、「幽霊船が配下に加わっている」。などの幾つかの物語りを一気に解決する感じで強引に繋げております。
これは十三巻やDVD特典で新しい情報が出る前に、さっさとやってしまう為ですのでご了承ください。
外伝であるのは、この話自体が新巻が出た後に無かったことになる可能性がある為です。

 まあ、どれもジックリ一本分のショートシナリオが出来るストーリーだとは思うのですが、綺麗な始まりが思い付かないので、ドワーフの鍛冶工房長の件から繋げた感じですね。
次回以降は地下帝国に本命の班が侵入しつつ、強力な幽霊船が援軍に来ない様に足止め班が抑えに行く。という感じになる予定。
なお、最後に出て来たオリハルコン冒険者はモックナックさんが昇格した…としております。

/墓杜の村:クロービス・バレイ
 熊と戦って倒せないと外に出れない。
それも鉄・銅不足でロクな武器は無く、頼れる物は己の拳という過酷な環境に在る。
とある理由から、フロストジャイアントと仲が良く共棲関係に在る。
村の名前はかつてドラゴンを倒した英雄の名前から取っているとか。

/墓杜の戦士:●●●●●
 クロービス・バレイの住人の中で、熊を倒せる愉快な連中。
とはいえそんな奴らは数は多いわけではないので、基本的には彼らの誰かがチーフになって、隊商を組んで外に出ることになる。

種族:●●●●●:1~10レベル
種族職:遺跡の護り手:1~5
モンク:1~
キ・マスター1~

種族スキル:
『■■化』:■■になる
『サイズ適正』:相手がどんなサイズでも通常ダメージを適用出来る

種族職スキル:
『フル・ポテンシャル』:マジックアイテムを扱うのが上手い。装備に掛った魔化ランク+1程度

魔法:
『硬気功』:体が硬くなり、装甲と格闘ダメージが上昇する
『オーラパワー』:ダメージ補正。アンデッドに特に効果が高い

上位魔法:(覚えて居ても一人一つ)
『軽気功』:体が軽くなり、アクロバティックな行動が可能になる
『オーラエリベイション』:冷静になり、行動に若干の補正が出る
『オーラマックス』:素早く行動が可能になるが、行動を終えると反動で大ダメージ

装備:
『その辺の武器』
『オリハルコンのチェインシャツ』
 魔化:速度強化・筋力強化・幽体接触などから1つか二つ

式召喚の呪符(低位)など

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