魔導国の日常【完結】   作:ノイラーテム

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マイル・フリーク

「用件自体は分かった。暇なときに話すことは構わんが、先に一つだけ確認させてくれんかの?」

 ゴンドが魔導王の許を去るとき、レイバーは彼を捕まえてアポイントメントを取りつけた。

 これで予定が空いている時であれば、カルネ村で話を聞くこともできるだろう。

 とはいえ、何か話があるようで何時間か前にアインザックとそうするように、そのまま宿まで歩きつつ話を続ける。

 カンコロカンコロとゴンドの鉄靴が足音立てるのに歩調を合わせて、レイバーもスタスタと付き添った。

「私に答えられることであれば、なんなりと」

「何故、街道なんぞにこだわる? わしには到底理解ができん。じゃが…理解できんからこそ聞いておきたい」

 不思議なことに、ゴンドは顔合わせだけではなく、そのまま詳しい話に踏み込んできた。

 どうでもいいことだと言うなら、それこそまさに、暇な時に茶飲み話ついでに話せばいいものを。

「理解してもらえるか判らないですが、私が自分の夢に対し無能だったから。単に悔しいから、努力を無駄だと思いたくないから…少し長いですが?」

「構わん。どうせ飯屋を探して、その後は宿屋で寝るだけじゃしの」

 暇だから話に付き合うと言いながら、ゴンドは意外なほど真摯に頷いた。

 レイバーは与り知らぬ話だが、ゴンドにも同じような鬱積がある。いや、だからこそ同じ臭いのする相手を見付けて、聞いてみようと思ったのかもしれない。

 

 そうだな…。と前置きをしてレイバーは考えを整理してから話を再開した。

「結論から言うと、私はタレントと才能が乖離(かいり)していた。…この場合の意味は分かりますか?」

 人が生来持つ可能性の一つ、タレント。

 この特殊な恩恵は、強力かつ効率的な半面、ほぼランダムでしかも判り難いという欠点を秘めている。

 レイバーの言わんとすることを、ゴンドは自分の知り合いなどを引き合いに出し、推測を並べていった。

「魔化魔法が得意だが金属に触れられない、あるいはジっと集中作業ができないような、生理的な条件みたいな感じじゃろうか?」

「まさしく! 私の場合は見ての通り戦士の才能も盗賊の才能も、詳しくは調べていないが魔術の才能も無かった。場所把握が得意という、冒険者向きのタレントを持って生まれたのにもかかわらず」

 そういえば、レイバーはずっとゴンドの歩幅に合わせていた。

 着かず離れず、こちらの様子を見てもいないのに。

 

 そのことに気が付いたゴンドは、改めてレイバーの姿を確認する。

 肉付きは良くなくややヒョロ長い、誰もが思い浮かべる役人や魔術師など賢者を思わせるスタイルだ。魔法が使えないとも思えないが…。

「詳しく調べるなり、身を入れてやってみようとは思わなんだのか? お互いの位置を魔法も使わんと把握できるなら、やってみる価値はあると思うのじゃが」

「うちは名ばかりの貧乏貴族でしてね。せいぜい第一位階が物になる程度と言われては受講料を払うような余裕はありません」

 ひたすら修業すれば、アイテムや特殊な補助魔法の補助で第二位階を詠唱することもできるのかもしれないが…。

 そもそも魔法を学ぶのには、一部の系統は材料費などでさらにお金が掛る。

 教える方も善意でやってる訳でもないし、やっていたとしても、何かしらの労役が待っていただろう。費用という点に関して、魔化よりもルーンの方が優れていると主張するゴンドにとっては、よく分かる話であった。

「どの道、直ぐにでも働く必要がありました。香辛料を造る魔法を覚えながら学ぶ手もあったのかもしれませんが、才能の無いこの身では、そこで全てを終えてしまう」

 一度の成長で、覚えられる魔法は3つ程度だと言う。

 才能が頭打ちになる第二位階前後までで何度か覚えられるにしろ、冒険者として必要な魔法を覚えるのに足枷になるのは間違いが無い。

 口にこそ出さないものの、魔法の才能の他に魔力量なども欠けていたのかもしれない。

「そこで私は、上の貴族や派遣されてくる行政官の鞄持ちのような仕事から始め、いつかこの能力を活かせる地位に成ってやろうと思っていたのです。王女の計画を見たときは天啓が舞い降りたかと思ったくらいです」

「……」

 だが、既存の勢力や既得特権、あるいは現実的には不要、予算が無いといった壁がそれすらも打ち砕いた。

 レイバーは夢を何度も打ち砕かれ、それでも諦めずにここまで来たのだろう。

 自分に似た環境にゴンドは思わず途中から相槌だけを打っていた。

 

「そういうことなら分かった。話せることなら話すし口添えもするが…、それ以外で協力を求めるなら、ルーンを彫った物を効率的に試せる場合に限らせてもらうが良いかの?」

「ありがたい! 上の言うことに従ってウロウロしたことはそれなりにありますが、あくまで仕事上ですから」

 勿論、ドワーフの国に行ったことも無ければ、トンネルドクターなど聞いたこともない。

 かろうじて、自分が担当する未来を考えて、トンネルを掘る苦労に関して王国の鉱山で聞いたこともある程度だ。

「そういえば、失礼でなければ聞きたいのですが、その鉄靴はドワーフならではなのですか?」

「ん? ああ、そうじゃの。地下に住んでいるから鉱石のみならず石が崩れたり、物自体が頑丈じゃから、ゴツイ靴でないと困る。あとはまあ習慣のようなものじゃ」

 カンコロよく音のする鉄靴が気になっていたのだろうレイバーは思わず尋ねた。

 案の定、ドワーフならではの文化の差があり、地下に居るからと言われたら、確かにそうだと思わなくもない。

「でしたらドワーフの都はさぞかし賑やかなのでしょうね。高炉には鉄打つ鋼の音、道には闊歩する足の音…」

「何か勘違いしておるようじゃが、それほど音はせんよ。地を潜る魔物対策に、堅い岩盤の上に在るか、音を響かせぬ多層構造になっておる」

 目を閉じて推測しながら歩くレイバーに、ゴンドは器用だなと思いつつ、先ほどのタレントのことを思い出していた。

 軽く見ただけで、間違えることなく歩けるならば、性能は確かなようだ。

 だが、人とすれ違うときの足取りなどは素早いとは言えず、盗賊としての才能が無いと言うのも嘘ではないように見える。

「多層構造…。聞いてみないと判らないものですね。ですが、お陰で面白い御話を聞けました」

「まあそうじゃの。わしにしても、リザードマンと出会ったときに驚いたわい。あれらは水辺を歩くのに慣れておって、普通に歩くのは苦手なんじゃと」

 そんな風に端から繋げつつ、ゴンドに食事を奢りながら適当に話題を続けていった。

 そして別れ際にふと思いついたことを、レイバーは最後に質問したのである。

「そういえば、強力である必要はありませんが、ただ単に、消えない光というルーンは可能ですか? 文字などが光って見えるだけでも良いのですが」

「光量次第で寿命や予算も変わるが、可能じゃと思う。しかし、そんなものを何に使うんじゃ?」

 レイバーは指差しながら、その辺りの土塀に軽く文字を描いた。

 首を傾げながらもゴンドは仲間が造る複雑な物、自分でも可能な一文字ルーンを彫る場合の値段を教えてやる。

「いえね。あくまで国防に関係ない場所に限りますが、街道の一定距離ごとに目安の塔か何かあってもいいかと思いまして」

「ほうっ…。それは面白そうじゃの」

 酒を呑んでいるためか、レイバーは随分と口が軽いようだ。

 機密事項こそ話さないものの、自分が考えていたアイデアを次々に喋り始める。

 ゴンドはその話を聞いたとき、思わず目を輝かせて見上げてしまった。

「ということは、小さい目安には小さい文字だけをシンプルに、大きい目安には責任者や工事記録などを載せるのか?」

「そんな感じになりますかね? そうしておけば、いざというときに区画幾つか分で予算はどの程度と、記録を参照するとかできますから」

 ゴンドの誘導には気が付かず、レイバーは記録を付けることを口走る。

 実際に責任者の名前を入れるまでは思いついていなかったのかもしれないが、此処で頷かせれば、後で口にするときにやり易い。

「そうか。一つか二つの文字だけで何ができるか試せるし、わしは協力してもいいぞ。それに魔導国の業績に金字塔を打ち立てられるならば自分も関わりたいという者もでるかもしれん」

「それは良いですね。基本の骨子はともかく、実地でやる場合は様々な方の御意見があったほうがいいですから」

 ゴンドはドワーフとか、ルーン工匠という単語は入れずに、不信感を煽らないようにさりげなく締めくくって別れることにした。

 実際に参加するかは別として、国元で不遇を見た彼らが銘を残す日々を夢見ながら、その日は気分良く眠りについたのである。




 ゴンドが仲間になった!
という訳で、ローマ式の道路知識とか無いのと、マイルストーン的な物を導入するのに、ドワーフ系の知識として混ぜてしまいました。
実際には違うのかもしれませんが、だいたいそんな感じに、実地研究の結果で変わって行く感じです(ウルティマの街道にある光る文字とかが理想的ではありますが)。
 オリ主のレイバーですが、あまり大袈裟な話にはならないので、強力な能力はついてません。
指定した対象との相対位置を理解出来るという、魔法で可能そうなことを、なんとなく理解できる感じのタレントにしてみました。
もし仮に、今度に予算貰ったり魔法使いに教えてもらっても、方位を探る・距離を測るとかの魔法を覚えて終わりになるかと(アインズ様がアイテム持っていそうですが、現時点ではそこまでは注目されて無いので)。

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