魔導国の日常【完結】   作:ノイラーテム

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義務と権利の境目

「新たな領域守護者の話はデミウルゴス達が良いと判断したのならば、私に言うことは無いと伝えよ。しかし…」

 アインズは報告書を片付けると、関心は次に新しい資料に移った。

 本日のアインズ様当番であるアロケーションは、即座に資料を用意すると、デミウルゴス・アルベド向けの伝言を書き留める。

「学校への自主通学者もだがアンデッドの普及が、遅々として進まないな…」

「アインズ様の御厚情を理解できぬとは、やはり人間どもは愚かな存在です」

 そう言う事じゃなくて…。

 アインズは苦笑いを隠しつつ、窓辺に立って思案を重ねた。

(おっかしいなあ。上の学校行きたくても行けなかったし、そもそも小学校ですら無理して入れてもらったのになあ…)

 鈴木悟としての生活において、小学校で学んだことは重要だった。

 無理をしたせいで…と思わなくもないが、小学校で学べたこと自体には感謝しかない。

(と言う事は、根本的に勘違いしてるんだ。別に無理して学校を成功させなきゃいけない訳でも無いけど…。何を勘違いしてるのかは突き止めないとな)

 家族の事を思い出すと暗くなるので、気持ちを切り替えてアインズは前向きに考える。

 せっかく学校を造っても良いと考えたことが無駄に成る事よりも、間違いを確認する事で、他に活かそうとしたのだ。

 大変有効だからこそ、アンデッドの人足を普及させる必要が無い事を、綺麗さっぱり忘れて居ることが不幸と言えば不幸かもしれない。

 

「いっそのこと、対象となる全ての者が御厚情に感謝して参加するか、逆に無礼者らにその資格は無いと閉鎖…」

「それは早計だぞ。だが…考え方の一つとしては悪く無いな。うむ、やはりお前達が話し相手になってくれると思索が進むな。素晴らしい」

 アロケーションは顔を赤らめて恐縮した。

 本来、彼女達メイドは政策などに口出しできる立場に無いのだ。

 事実、求められた為に感想を口に出してみるものの、それが採用されることは少ない。

「申し訳ありません。私どもではアインズ様のお役に立てず…」

「そんな事は無いぞ。確かにお前達の提案に左右されることは無い。だが、様々な考え方が在り、その差を理解しようとする試みこそが、私の思考を前に進ませるのだ」

 ますます恐縮するのだが、どうぞどうぞと限りは無いので、アインズはそこで止めておいた。

 改めて思考を再開し、学校やアンデッドの普及に関して考えを巡らせる。

 

(どっちでも良いなんて言ったら、そりゃやらないよな。あの頃の年頃ならもう働けなくもないし、…賃金やっすいだろうけど。だけど、学校に行く事が地位ステータスになり、成り上がるステップになればどうだろ)

 元の世界と違って、この世界は環境が良いのだ。

 鈴木悟が子供の頃から働かなかったのは、児童労働の問題よりも、外出のための準備・メンテが問題と言う逆説的な理由に寄る面が大きい。

 学校に行かせてあげて良い将来をという愛情を享受できたが、もし仮に、自分もこの世界に居たら話は違ったかもしれない。

(せっかく孤児院みたいな形式で造るんだし、最初はそこで実験するとして…)

 今は自主的に通う者の数が少ないが、実験として考えるならば、むしろやり易いとも言える。

 ならば非難されない程度に色々な試みを施行し、将来に役立つようにすべきでは無いだろうか?

(学校に行けば、読み書きと簡単な計算を覚えることが可能。さらに才能があれば上に行ける可能性。…実際にはその過程を見て引き抜くと。…うん良い感じだ)

 できれば、タレントとか魔法適正とかも調べられたら良いんだけどな…。

 とか思いつつ、その辺りの知識が少ない事を自覚する。

 

(タレントや適正が調べられるか、フール…いやラケシルに相談するとして、モモンとして聞いてみた方が良いかな。魔導王が無知だと思われても困るし)

 適任者に思考が及んだところで、異常なほど熱意を燃やす老人の対応を思い出して身震いしそうになる。

 恐ろしくは無いが、あの極端なテンションには積極的に関わりたくは無い。

「急ぎでは無いので適当な時に、ニグレドかペストーニャが寄る様に伝えてくれ。手隙ならユリでも構わん」

「承知いたしました。アインズ様のスケジュールに余裕がある時間帯を伝えておきます」

 いや、向こうの都合がいい時で良いんですよー。

 とアインズは言いたくなったが、魔導国の全てが自分を中心に回っているので仕方無い。

 彼女達にとって、自分の命令こそが何をもっても優先すべきなのだ。

 

 まずは誰でも入れる孤児院で読み書き計算を勧め。

 そこで適正を調べ、レアや頭が回る者は魔術師や役人候補として育てる…。

 そんな考えに至って満足しているアインズだが、1つの事を忘れて居たのである。

 未来の手習いは中世レベルに置いて、丁稚や徒弟には必須の…十分に高度な物であると言う事を失念していた。

 

「アンデッドの普及に関しては、貸し与えている者たちに、次回から暫く一体当たりの成果を提出するように指示しろ。同時に対価や値引きの資格を付記する事で、目安を判りやすく提示する」

 アインズはそれらの事に気が付かないまま、ゲームを参考にアンデッドの取得制限を思いつく。

 誰でも数体までなら自由購入、資格を持てばより多く、よい安くアンデッドを雇えるならば、皆こぞって得ようとするだろうと。

 アインズもユグドラシルで自分が成長するごとに、wikiと見比べつつ、使い勝手の差を実感していたものだ。

「承知いたしました。ただちに発効し、伝令を送ります」

 アロケーションは隣室で待機するエルダーリッチに指示を伝えに向かう。

 そのくらい自分でやれるのになーとか思うのだが、仕事している実感がして嬉しいらしい。

 社長の秘書が課長に伝達するようなものかと思えば、確かにOLよりは恰好良いのかもしれないと納得した。

(後は適当な業務で、実際に成果が急上昇した例があれば完璧だな。目に見え易い…あーなんだっけ、誰か街道とか提案してたな)

 確かレイバーだったか…往年の名作ゲームに出て来る敵モンスターの名前だったので、比較的に早く思い出す事が出来た。

 彼の提案を採用する形で実績を出せば、下の者の意見を取り上げる王という評判は立つし、街道なら目に見えるよなーとアインズは自画自賛しそうになる。

 実際は限りある予算を割くことになるので、システマチックに成らざるを得ないのだろうが…。

 

 そこまで至った段階で、ふとアインザックの方も難航しているのを思い出した。

(これも同じ様な感じで、しかも一緒に解決が出来るんじゃないか?)

 冒険者の強さもだが、亜人に対する対応の悪さが直らないらしい。

 教導隊として派遣したはずのゴブリンやリザードマンに、良い顔を向けて無いと聞いた事がある。

(リザードマンの村周辺に避難所を造っておいて、カルネ村付近にも同様の避難所を造る。そして、いつもは交易所として使うんだ)

 避難所兼の交易所。

 普段はそこまでしか入れないが、許可を得た冒険者は入って話が出来るし、行商は自分だけの交易権も得ることが出来る。

 完全な自由を許可する訳でもないが、資格を得れば権利を貰えるということなら、狙って取得する人間も出て来るだろう。

 何より、サラっと亜人たちが魔導国の影響下にある事を宣伝できるし、強要して無い事を説明もできる。

(ナザリックを見付けられたら困るし、トブの森は迂回するとして、当面はその2つをチェックポイントにした街道を敷設すれば良いかな? ドワーフの方は街道の方が安全で早いと判ったら頼んで来るだろ)

 その道くらいしか予算的に無理だろうが、逆に言えば、その道だけに定期便を走らせても良い。

 そして、定期便に乗ることが出来るのは、やはり資格のある者だけ。

 その資格者の中に冒険者が…例えばミスリルはカルネ村まで、リザードマンの村にはオリハルコンが自動的に得られるのはどうだろう?

 一種のステータスになるし、亜人の事を許容できる人数的にも、丁度良いのではないだろうか。

「その路線で行くか…。パンドラズアクターに奴の…モモンのスケジュールが空き次第、来る様に伝えろ。その後に重要な話をする為、お前達は席を外せ」

「承知いたしました。その様に手配いたします」

 やはりメッセージの方が手っ取り早いのだが、今回ばかりはアインズにとっても伝令を使えと言う意味がある。

 なにしろ途中で交代し、ラケシルやアインザックの意見を聞きに行きたいからだ。

 ならば仕方無いと、久しぶりに冒険者気分を味わう言い訳をするのであった…。




 今回は現地人ではなく、アインズ様の視点なので直訳に近い形です。
小学校=職人・商人の卵であることを気が付いて居ないとか、県道とアウトバーンの差が判らない感じに成ります。
いずれ私鉄がシベリア鉄道になるかもしれませんが、1cmと2cmの区別が付かないとシャルティアも言ってますし…。

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