マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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次話投稿します。


前話に、補足 デクスター を追加しました。





けじめ、つけるならば

 鉄華団結成の宣言後、社長室にて引継ぎと新体制についての話し合いがおこなわれていた。

 参加者はCGS側からマルバ、ルイス、デクスターが、鉄華団側からはオルガ、三日月、ビスケットの計六名である。

 数時間の話し合いにより、以下の事が決まる。

 新組織、鉄華団の組織編制と役職についての事。

 クーデリアの地球行きの業務は引き続き請け負う事。

 マルバが鉄華団顧問として、地球行きに同行する事。

 火星にルイス、デクスターが残留し、地球行き以外の業務を継続させる事。

 昭弘らヒューマンデブリの所有権を、オルガに譲渡する事である。

 

 「留守の間は、私とルイスさんで何とかしますので、ご安心を」

 「よろしくお願いします、デクスターさんとルイス隊長」

 「もう君の組織だから、呼び捨てでもいいんだよ。オルガ団長?」

 「いや、なかなか慣れないもんで」

 「地球から帰る頃には、充分トップらしく振舞えるようになってるさ」

 「とはいえ、マルバみたく悪人顔にはならないでくれよ」

 「うるせえ、いってろよルイス」

 

 おおよその事は決まり、参加者の間に弛緩した空気が流れる。

 だが、まだ伝えておくべき事は残っていた。

 

 「今からの話は、ここだけの話に納めてくれ」

 

 マルバがそう最初に言い置いて語ったのは、クーデリアが親であるノーマンからマルバへと、譲渡されていたことについての経緯であった。

 

 「ひどい話…ですね」

 「ああ、親が娘を売るなんてな」

 

 オルガが顔をしかめる横で、ビスケットは帽子を両手で強く握る。

 子供を自分のために犠牲にする親という存在に、彼らが強い憤りを覚えていることが伝わってきた。

 

 「この話、あいつは知ってるの?」

 「いや、メイドのアドモスさんは知っていたが、お嬢さんはなにもしらねえ」

 「そっか」

 

 いつもの表情で三日月は火星ヤシを手で転がす。

 が、三日月が自身やオルガ、参番組に関しない事に関心が薄い事を知る、この場にいる者たちにとっては自主的にマルバに質問をしてきた時点で、三日月がクーデリアの事を気にしている事に気がつく。

 

 「そのメイドの人は大丈夫なんですか?その、お嬢様を何かしようとするとかは?」

 「ああ、確認はしてある。アドモスさんはお嬢様の味方と考えてくれていいだろ」

 「そうですか、ならひとまずは安心ですね」

 「ビスケット、お前のそういう細かいところに気が回る所、俺も買ってるぜ。オルガを支えてやれよ」

 「はい、分かってます。オルガが無茶しがちなのは知ってますから」

 「なんだよ、俺だってちゃんと考えて動いてるだろ」

 「はいはい」

 「俺はオルガの無茶をちゃんと通せるよう、頑張るよ」

 「ミカ、お前もかよ!」

 

 鉄華団の中心となるだろう三人の反応に、マルバは噴出しそうになるのをこらえつつ、この三人さえ無事ならば、鉄華団は上手く動いていくだろうと考えた。

 

 (まあ、そのためにも俺もまだがんばらねえとな)

 

 切欠はただ、夢で見た自分とそれを取り巻く環境への憤りだった。

 それを覆すために、あれこれと手を打ち社員達と接するうちに、気がついたのだ。

 参番組の子供達の可能性、その先にあるものをみたい。

 自分だけでは見れなかった光景が、その先にあるではないかという希望へと変化している自分の心境にマルバは思う。

 こういうのも悪かねえ、と。

 

 最後に、クーデリアについては他言無用の釘を刺し、まだマルバの資産としておく事を了承させる。

 

 「いいたい事はあるだろうが、地球行きを成功させるために必要なんでな。けして悪いようにはしねえよ」

 

 マルバの言葉を信用した鉄華団の三人はクーデリアへの現状の告知と、地球行きについての予算を含めた説明をするために動き出した。

 

 「じゃあ、俺達は席をはずしとくからよ。初契約頑張れよ」

 「うす、しゃ…顧問はどこへ?」

 「ああ、自分の部屋の片付けをしとかねえとだ。ルイスとデクスターもちいと手伝ってくれ」

 「まったく、人使いが荒い顧問様だね」

 「じゃあビスケット君、やり方はわかるね」

 「はい、大丈夫です。ありがとうございますデクスターさん」

 

 マルバたち三人は準備を始める鉄華団の様子をみて、社長室を退出する。

 

 「で、私達に何の相談ですか?マルバさん」

 「まあ、詳しくは俺の部屋で話そう」

 「判りました、ではいきましょうか」

 

 それまでの柔和な雰囲気を消し去ったデクスターに、マルバはふてぶてしい笑みで応じマルバの個室へと移動した。

 マルバの自室は、ギャラルホルンの襲撃後とは思えないほどに片付いていた。

 その部屋にあるソファーに、ルイスとデクスターを座らせると、マルバは蒸留酒とグラス三つを棚から取り出し、二人の前と自分の前にグラスを置き酒を注ぐ。

 

 「こっからは鉄華団じゃねえ、CGSとしてのケジメの話だ」

 

 ぐいと一口久しぶりの酒を飲み、マルバが切り出した。

 

 「うかがいましょうか」

 「ノーマン・バーンスタイン、お前とルイスに火星に残ってもらう理由の一つでもある。お嬢様が無事地球での交渉を終えた場合、まあ上手くいくように俺らが頑張るわけだが、あの野郎がどうなると思う?」

 「まあ、政治家としては終わりでしょうね。最悪、資産没収の上でクリュセ追放くらいはあるかもしれませんね」

 「そうだな、そうなった時にあの野郎には俺達へのツケを払ってもらおうと思う。その『取立て』をお前に頼みてえ、デクスター」

 「何故、と聞いても?どの道奴は終わりでしょうに、私達の手を汚さなくても独立運動屋たちが始末するかと」

 「そうだな、お前のいう通りかも知れねえが、あのクソ野郎は下種だが無能じゃねえ。どこかに上手く取り入って生き延び、また権力を握るかも知れねえ。それは許さねえ、だろルイス?」

 

 マルバとデクスターがルイスのほうに顔を向けるとちびちびと酒を舐めていたルイスが口を開く。

 

 「本来なら僕が取り立てたいんだけどね、ほらマルバも雪之丞もいないときだと動けないだろ。それに僕がやるとどうしても派手になるからね、鉄華団の皆にも迷惑だろ?」

 「私ならいいんですか?」

 「デクスター君ならそういうの得意でしょ、証拠を残さない『取立て』は」

 「まあ、否定はしませんけどね。もう大分やってないですから昔みたいに上手くいくかどうか」

 「そりゃ判ってるよ、だからマルバも僕もお願いするだけさ。あのクソ野郎は『身内で片を付けたい』、そういうわがままなのは判ってるからね」

 

 そういって肩をすくめるルイスに、デクスターはため息をつく。

 

 「まったく、そんな言い方されたら断れないじゃないですか」

 「やってくれるかい?」

 「但し、方法は任せてもらいますよ。期限もなし、いいですか?」

 「それでいいよ、ねえマルバ」

 「ああ、その条件でいい。これで安心して地球へいけるぜ」

 

 マルバはそういうとポケットから個人端末を出す。

 

 「こいつを持っておいてくれ。クリュセ市街、特にバーンスタイン邸周辺の情報を定期的に見張らせてる奴らから連絡がはいってくる」

 「それは助かりますけど、ちなみにどうやって?」

 「ん?ああ、ギャラルホルンの襲撃のときに逃げた奴らがいただろ、その中に紛れさせておいた。人選はルイスに任せたから、まず裏切りはねえと思う」

 「また危険なことを、途中でギャラルホルンに襲われてるじゃないですか」

 「ハッ、あいつらの乗ったMWと荷台には信号弾は付けてねえ、逆に信号弾があがったら全速で逃げるように指示もしてある。それで下手打つような奴はルイスは選ばねえよ」

 「結構、皆快く受けてくれたよ。参番組のダンジ君なんかは、『社長と隊長のために頑張るッす!』って目をキラキラさせてたし」

 

 マルバとルイスの言葉に、デクスターは再びため息をつく。

 

 「ついでになにも知らないで同乗してた逃亡組が、市街をうろついて囮になると?まったくひどい人たちだ」

 「そういう事に気がつくお前も、同類だろデクスターよお」

 「まあ、これも鉄華団の未来をましなものにするためだよ、泥は僕らがかぶればいいだろ?」

 

 悪びれないマルバとルイスに、呆れつつもデクスターはうなづき、。

 

 「そうですね、では鉄華団の未来のために」

 

 ぐいと一息にグラスの酒を飲み干す。

 

 「きっちりと『取立て』出来るように務めますよ」

 

 デクスターの目は眼鏡の奥で、きりりと細められた。

 

 

 

 

 

 

 




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