マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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次話投稿します。






真実は特に役に立たない

 『コーラル!もうこれ以上罪を重ねるな!』

 『黙れクランク!この裏切り者の役立たずが!貴様がクーデリアか、監査の青二才どもを始末しさえすれば、こんな事には!』

 『大人しく裁きを受けよう!俺も一緒に罰を受ける!』

 『貴様のその在り様がこんな事になってる原因だ!騎士気取りの馬鹿野郎が!貴様のせいで俺の将来設計が台無しだ!』

 『大儀なき行いの果てだ!受け入れてくれ、コーラル!』

 

 「顧問、何かえらい事になってます」

 「わかってる、とりあえず三日月はまだ待機させとけ、タイミングをみるぜ」

 「うす」

 

 状況を確認するためにシャトルの操縦室へ向かい、今自分達の乗るシャトルを捕まえているグレイズと、それを包囲した複数のグレイズの一機との通信会話が、共通回線を使用しているためかシャトルに届いてくる中オルガとマルバは小声で相談をしあう。

 漏れて来る会話内容からして、ギャラルホルンらはこちらがコーラルの追われる原因の一つをつくった者たちであるとは気がついてない様だが、それが露見しないように慎重に動く必要がある。

 まずマルバは同乗している女性陣であるクーデリア、フミタンに加え調理担当として雇用したアトラ・ミクスタのところに向かい、自分達に任せて席についておくように指示を与える。

 特にクーデリアには、先走らないようにしっかりと言い含めておく事を忘れない。

 一方のオルガはその場にとどまり、取り付いているグレイズがシャトルのどの部分にどう取り付いているのかをパイロットらに確認を取る。

 スペースデブリ衝突等に備えて、外部センサーを簡易ながらに備えているのであれば、凡そでもその挙動を掴めるだろうとのマルバの助言によるものだ。

 

 「な、なあどうすんです!顧問!」

 「まずいって、早く逃げようぜ!こうズバーッと飛んでよ!」

 「いいから黙って座ってろ」

 

 いつも騒がしいユージンとシノはこの場合でも騒々しいが、対策を考えなくてはならないマルバは短く命令を出して二人を座らせ、通路をうろうろと往復を始めた。

 現状シャトルに体を固定しないのは危険であるが、マルバの思考回路は体を動かさないと稼動が著しく鈍る為にやむをえないのだ。

 囲んでいる側のグレイズらはまずは説得を試みる為か、取り付いているグレイズとは一定の距離を保っている。

 だが説得が失敗すれば、恐らくは戦闘になるだろう。

 彼らギャラルホルンは大義名分や手順にはこだわるが、逆にそれさえ屁理屈でも何とかなれば武力に任せて無茶をねじ込んでくる理不尽な組織である。

 治安維持の名目で活動家組織や政治家達が、問答無用で処刑された話は枚挙に暇が無く、今回の件でもMS捕縛の為ならば、シャトルの一台が巻き添えになる事もたやすく許容されるだろう。

 まして、自分達の乗るシャトルを捉えているグレイズに至っては、その大義名分すらも必要無いときているのだ。

 つまり、自分達が主導でこの状況を打破しなければならないとマルバは結論した。

 

 「オルガ、どうだ?」

 「シャトルに接触しているのは一箇所だけ、MSの手か有線通信装置のどちらかだろうと言ってます。貨物室の開閉には問題ないです」

 「よし、鉄雄!三日月をいつでも出せるように準備しておけ!タイミングは団長に任せろ」

 「了解です!」

 

 貨物室の開閉に問題なければ、用意していた手が使える。

 そう判断したマルバは今回地球行きに同行する事になった教導隊の一員である鉄雄・ブランドンに指示を出す。

 鉄雄は素早く席から離れシャトル後部の貨物室へと繋がる扉の前に立ち、懐からインカムを取り出し装着する。

 

 「三日月、オルガから指示があったら開けるから取り付いてる奴にだけ当ててくれ。それ以外は手を出しちゃ駄目だよ」

 『判った。いつでもいいよ』

 「三日月OK!団長、タイミングの指示お願いします」

 「おう、もう少し待ってろ」

 

 鉄雄の声に応じたオルガは、操縦室へ戻り二機のグレイズの会話を聞き取り、介入のタイミングを計る。そしてコーラルの口調が呂律も怪しく成りだした瞬間に行動開始の指示を出した。

 ビスケットのパネル操作でシャトルの貨物室がゆっくりと開きだすも、コーラルとクランクの会話の口調は変わらず、気がついた様子は無い。

 が、ほぼシャトルの貨物室の屋根が半分ほど開いた瞬間にその口調が変わる。

 

 『何、エイハブリアクター反応!?グワッ!シャトルからモビ!』

 

 コーラルの会話が途切れると同時にシャトルに衝撃が伝わる。

 マルバはシャトルの窓から様子を伺うと、取り付いていたコーラルのものらしきグレイズが、シャトルの後方へと回転しながら高速で飛ばされていく姿が見えた。

 コーラルのグレイズはその両手を使い、頭部のメインカメラに付着したものをはがそうとしているが逆に両腕の動きが阻害され、機体の回転を止めることもままならないようであった。

 

 「はっ、無駄な事だぜ!MSでの射撃用に作らせたトリモチ弾だ、MWのよりしつこいぜ?」

 

 オルガとマルバは万が一の襲撃に備え、三日月をバルバトスに搭乗したまま貨物室で待機させたのに加えて、通常弾ではナノラミネートアーマー付きのMSへの足止めが難しいので、雪之丞らに頼み込み鹵獲したグレイズの滑腔砲で射出できるトリモチ弾を、複数用意してもらい装填させていた。

 結果、取り付いていたグレイズの排除に成功したのである。

 

 「顧問、やりましたね」

 「おう、開閉操作ご苦労さん鉄雄。良い仕事だったぜ」

 「いやあ大分緊張しました」

 

 精密な作業に関しては元CGSでも随一である鉄雄は、年齢よりも若く見える童顔を破顔して応えた。

 

 「おかげでたいした損害も無く切り抜けられたぜ。ああ、後はオルガについてやってくれ。多分ギャラルホルンから通信が入るだろうからよ」

 「了解です。じゃ俺のインカムをどうぞ」

 「おう、頼んだぜ」

 

 鉄雄が操縦室へ向かうのを横目に外をみると、複数のグレイズにワイヤーを掛けられて引き立てられていくコーラルのグレイズが見えた。

 

 (せいぜい裁いてもらうが良いぜ、コーラル・コンラッドさんよお)

 

 命だけでなく、奴の持つ財産全ても失われますようにと祈りつつ、マルバは鉄雄から受け取ったインカムを装着し、また通路をうろうろと歩き始めた。

 

 

 

 

 『こちらはギャラルホルン監査部付武官、ガエリオ・ボードウィン特務三佐だ。『犯罪者』の捕縛に際し、民間人に無用の危害を与えた事を謝罪する』

 「こちらは鉄華団団長、オルガ・イツカっす。余計な手出しすみませんでした」

 『鉄華団?…悪いが宇宙へ出た目的を教えてもらいたいのだが』

 「ああ。今つかったアレ、ガンダムっていうんですか?アレを売りにいくんですよ。社長が財産もってどっかに逃げちまったんで、仕方なく残った仲間でやっていくことになりまして」

 『資金稼ぎか、よく買い手がついたな』

 「前からの取引先の人が、そういう骨董品好きな人を紹介してもらえるって話しなんで、藁にもすがる思いですよ」

 『そうか…では、迷惑料と礼を兼ねていくらかの資金を渡そう。代わりと言っては何だが、もし前の社長の行方がわかれば知らせて欲しい』

 「お安い御用ですぜ。うちの経理担当のデクスターと言う男に話しておきますんで、そいつと話してもらえますか?ああ、後俺らは何も見なかったことにしますんで、資金のほうへの色付けお願いしますぜ」

 『ふん、わきまえてるじゃないか。当分は火星支部にいるから、俺宛に繋いでくれ。では』

 

 通信を終え、オルガは大きく息を吐く。

 インカムでガエリオの会話をマルバに聞かせ、それに応じたマルバの台詞を又オルガが吹き替えてガエリオに返すという作業は、思いのほかにオルガに疲労を与えた。

 

 「お疲れ様です、団長」

 「おお、ありがとよ鉄雄さ、じゃない鉄雄」

 

 後ろに立っていた鉄雄がオルガににこやかに微笑む。

 教導隊であり隙の無い立ち振る舞いをする彼が背後にいたことは、幾分オルガに与える疲労を軽減させていた。

 

 「やっぱ、オルガ団長はすごい人です!」

 

 ただ、年上の鉄雄からの若干以上に高い尊敬が少しばかり重く感じるオルガであった。

 

 

 

 

 

 

 




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