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数日後、鉄華団のイサリビとタービンズの旗艦である『ハンマーヘッド』は、特に問題も無く予定のポイントで合流した。
詳細はハンマーヘッドの船長室で行うことを通信で決め、鉄華団幹部の代表三名とクーデリアは名瀬・タービンとの交渉に臨む。
「で、マルバは座らんで良いのか?」
「今はただの一顧問ですからね。主役はうちの団長と、クーデリアさんに任せますぜ」
「そうか、そういうことなら構わんぜ」
「すいやせんね。けじめはしっかりしとかねえと、間違えちまうんで」
着席したオルガとクーデリアの後方で、ビスケットと並んで立つマルバに声を掛けた名瀬は興味深そうな表情を浮かべ、自身の隣に座る第一夫人、アミダ・アルカと顔を見合わせる。
「じゃあ、まずは仕事の話だが。そこのクーデリアお嬢さんを地球まで連れて行く道案内、ということでいいんだな?」
「はい、現状名瀬さんのとこに頼むのが、一番確実だと思いますんで」
「成る程、うちらタービンズはこういっちゃ何だが、荷物を確実に運ぶ事なら圏外圏なら右に出るものはいねえと自負してるがよ、それなりの代金は必要だぜ」
「そうだね。自衛できる戦力があるから、いくらかは割り引いてあげるけどさ」
名瀬とアミダはお互いに顔を突き合わせてタブレットを操作し、必要な金額の見積もりをオルガとクーデリアに提示する。
安いとはいえない額であるが、事前にマルバやデクスターらと予想していた額と然程離れていない額であったために、オルガは内心ほっとした。
後ろでそのタブレットに表示された金額を見たマルバとビスケットも、納得の頷きをオルガに送る。
「勉強していただいてありがとうございます」
「知らん仲でもないからな、多少はな。でもう一つの問題だが、まあなんとなくは推測は付くがな」
「ええ、俺ら鉄華団をテイワズに入れちゃあもらえないでしょうか?」
「ふむ、ギャラルホルンを敵に回す可能性が高いなら、テイワズの後ろ盾が欲しいということか?」
「無論、それもありますが、それだけじゃありません。僕らがこれから大きく変わるにはテイワズ、特にタービンズさんとの付き合いが必要なんです」
オルガの発言を引き継ぎ、ビスケットが名瀬に答える。
「僕らはCGSの頃から兵隊の仕事以外も少しやった事があるんですけど、今後はそういった仕事を増やして行きたいんです。そのためには、そういう仕事を回してくれる相手が必要なんです」
「成る程、新しく出来たお前ら鉄華団じゃ、火星ではもう相手がいるしうかつには割り込めねえし、舐められる。で俺らと提携したいってことか」
「ええ、今回のクーデリアとの仕事を成功させれば新しい道ができます。けど、その道を伸ばすには誰かの助けが必要になるんです。なら俺らは、その助けを名瀬・タービンに頼みてえんです」
オルガの言葉に名瀬は破願する。
「中々の口説き文句じゃねえかよ。マルバの目もまんざら節穴でもないようだな」
「ま、俺が仕切るよりはましな夢がみれるでしょうぜ」
「まったく、あんたの仕込みじゃないのかい?名瀬の弱いところを良く知ってるじゃないか」
「へへっ、アミダの姐さんには及ばねえですぜ」
お互いの軽口で場を軽くする大人たちに、オルガらは緊張を少しばかり緩めるが、ビスケットは参謀役として自身の気を引き締める事を忘れない。
「まあいいだろ、俺の兄弟分から始めてみな。そっから仕事積んでマクマードの親父の信頼を取れれば、直で盃なりもらえば良いだろ。後手土産の方は大丈夫か?それなりのもんがねえと周りがうるせえぞ」
「はい、今リストをお見せします。おいビスケット」
オルガに促され、ビスケットは手元のタブレットを操作して手土産として用意したリストを見せる。
「どれどれ…なるほどギャラルホルンのMS二機分のエイハブリアクターを含めた部品と、トリモチ弾の作成方法か。こりゃたいしたもんだ」
エイハブリアクターの新規製造はギャラルホルンが独占し、他の組織は厄祭戦時代のそれを鹵獲や回収して使いまわしている現在において最新といえるそれが手に入るのは実に貴重である。
もう一つのトリモチ弾にしても、MSを含めての足止めの効果は元より、破壊や損傷をともなわない点もテイワズという組織には有用である事が、もめた相手からの慰謝料や侘び代の一環として現物の譲渡を多々受けることが多い名瀬にはわかる。
自分達の手で自分達のものになる資産を痛めつける機会が減る、それだけでも十分なものであろう。
「これなら、間違っても話にならずに宇宙へ裸で投げ出されるようなことにはならねえだろ。だがよ、こういっちゃあ何だが、お前らの資金繰りは大丈夫なのかよ」
「ああそいつは今回の仕事が終わるまでは、何とかなりそうです。臨時の収入が入る予定なんで」
名瀬の親切心から出た疑問に、オルガは片目をつぶり良い笑顔で、後ろでマルバが悪い笑顔で答えた。
表現の差はあれ、色々と似て来た両者である。
同時刻、火星軌道上の宇宙ステーション『アーレス』にて。
「わざわざすまないな、確か鉄華団の」
「鉄華団経理担当のデクスター・キュラスターです、ええとどうお呼びすれば?」
「俺は監査局付武官、ガエリオ・ボードウィン特務三佐。隣がクランク・ゼント一尉だ」
「はい、どうぞよろしくお願いします。ボードウィン特務三佐とゼント一尉」
アーレス内のこじんまりとした個室に通されたデクスターは、デスクに座るガエリオとその横に直立するクランクと対面していた。
「失礼ですが、ゼント一尉が同席しての問題はないのでしょうか」
「構わん。決闘の代理人としてお互いに剣を交えた仲だが、もはや10年来の友人同然と考えている」
特に表情を変えることなく、されど深々と頭を下げるクランクに、彼の立ち振る舞いからうかつな事はしないと判断したデクスターも、それ以上の追及はしなかった。
会談は特にもめる事も無くスムーズに運び、互いの監視下の迷惑料という名の口止め料は滞りなく鉄華団の口座へと振り込まれた。
「はい、確認取れました。ありがとうございます」
「いや、こちらこそだ。では、今帰りの案内を呼ぶ」
「ああ、少しお待ちいただけますか?」
「?構わないが、何だろうか」
穏やかな笑顔のデクスターは持ってきたアタッシュケース、危険物のない事は検査済みのそれを開けると、中から大きめの包みをとりだした。
「これをお返しします」
「これは?」
「CGSへの襲撃の際、亡くなられたギャラルホルンの方々の徽章や私物らしきものを集めて持ってまいりましたので、どうぞお納めください」
「…何故、そんな事を?君達からすれば家を襲いに来た襲撃者に等しい存在ではないのか?」
困惑の表情を浮かべるガエリオとクランクに、デクスターは静かに語りかける。
「恨みつらみで命の取り合いをしたわけではありません。お互いただ上の命令に忠実であった結果の出来事ですから、なるべく後に引きずるような考えはしたくないとの団長の判断ですのでどうぞお受け取りいただきたい」
言外に、起きた事は忘れないがそれを元にこれ以上の争いは望まないという意思を含んだ言葉に、ガエリオに促されたクランクが震えだしそうな手を抑えてそれを受け取った。
「貴官らのような、誇りある相手にまみえたことを兵らを代表して感謝する」
「こちらこそ、全滅を選ばずに撤退を決意した勇気ある誰かに感謝をします」
そう告げて、お互いに形は違えど敬礼で返すクランクとデクスターを、ガエリオは何か尊いものを見るような眼差しで見つめていた。
「ゴホン、これは独り言だが」
気を取り直したガエリオは、わざとらしく前置きをする。
「今回の襲撃の後に統制局のダルトン家を中心に何やら動いているという情報がある。もしそれでCGSに累するものたちに危害が及ぶと、その、気に入らないことになりそうだ」
無骨なガエリオの気遣いにデクスターは無言で頭をさげつつ、今しがたもたらされた情報を迅速に確認する方法を頭の中で組み立てる。
ある程度の予想を持って行った遺品渡しであるが、その効果は充分であった。
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急に気温が暖かくなり、体のサイクルが乱れやすくなりました。