マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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次話投稿します。


偉い人同士の会話は強敵でしたね。





それでは、商売の話をひとつ

 タービンズとの合流から十日ほど後、鉄華団の一同はテイワズが本拠とするコロニー『歳星』へと到着していた。

 その間、火星の鉄華団本部のルイスらからの報告が五日毎にはイサリビに届けられており、オルガたちは火星での状況を大まかにであるが知る事ができている。

 鉄華団の業務はやはり縮小気味ではあるが、ギャラルホルンからの入金を計上すればオルガたちが地球から帰還するまではやりくりはつけられること。

 ギャラルホルンの火星本部長が『急病』により地球で療養するために、引継ぎ業務であわただしいことや、それに前後するかのように、ノーマン・バーンスタインとノブリス・ゴルドンの秘書が自殺した事が知らされた。

 

 「顧問、これってやっぱり切り捨てたって事でしょうかね」

 「そうだろうよ、ビスケット。多分今頃はどっちも自分とこの秘書がコーラルと繋がって悪さしてた証拠がギャラルホルンへ恐れながらと、届けだされてるだろうぜ」

 「自分の部下を切り捨てか…きたねえ奴らだぜ!」

 「熱くなんなよユージン。全体のために一部を犠牲にする、そういう事自体は組織をやってりゃ直面するもんだぜ」

 

 現在マクマードへの訪問前の空き時間を利用して、受け取った情報をオルガの個室で鉄華団幹部らを集め、報告と相談をする中憤慨するユージンをなだめつつ、マルバは話を聞いていたオルガへと向き直る。

 

 「ただし、そのことをリーダーは慣れちゃいけねえし、やるとしてもあくまで組織の為ってことすよね。判ってますよ顧問」

 「そういうことだ、組織の頭やってるとよ、私利私欲とそこらが混ざりやすくなるからな。気をつけろよ団長」

 「うす、精々そうならねえように気をつけます」

 「そうなったら僕らが殴りつけてでも修正してやりますよ、顧問」

 「そうだったな、ビスケット。団長の操縦をしっかりしとけよ」

 「なんだよ、信用ねえなあ」

 

 オルガの不貞腐れたようなぼやきに、皆が笑顔で返しそれまでの重い空気を変えた後にビスケットが話を続ける。

 

 「それより、緊急扱いでデクスターさんからの情報があったダルトン家の動きが気になるところですね」

 「ああ、その辺は俺らじゃ探りようがねえからな、名瀬さんに頼んでテイワズの情報網にあたってもらってるからよ。その結果まちってとこだ」

 「ギャラルホルンの、しかも地球の情報なんてそうでもしないと取れないですね」

 「そういうこった。それより、これから会う人はテイワズ入りするには一度は会わなきゃならねえお人だからな。皆、気を緩めんなよ。名瀬さんが『圏外圏で一番おっかねえ人』というほどだからな」

 

 マルバの言葉に一同は頷く。

 これからこの場の面々にクーデリアと三日月を加え、会う事になる人物に各自は思いをはせたのであった。

 

 

 

 

 「おお、名瀬とお客人がた。ようこそ」

 

 名瀬の案内により、水堀と壁に囲まれた歳星で一番大きい敷地であろう地所にたつ、豪勢なつくりの屋敷内で鉄華団の面々はマクマードと対面した。

 私室と思われる高級かつ統一された調度品の並ぶ室内で対面した、恰幅の良く気さくなマクマードの態度に、鉄華団の面々は戸惑うが、三日月とマルバは別の感想を抱いていた。

 三日月は直感から、マルバは経験からであるが、言葉にしがたいマクマードの持つ極力控えられてはいる暴力の匂いを感じ取っていた。

 マルバは心の中で警戒心を保ちつつも、表情が硬くならないように気を配る。

 その後の名瀬とオルガの盃事についての相談は、貫目を四分六とし名瀬を兄貴分とすることを条件に、数日後にマクマード自身が媒酌人となる式を行うことが了承された。

 実積等を鑑みれば、立ち上げたばかりの鉄華団とテイワズ直系のタービンズで結ぶには破格の待遇といえるものである。

 が、その後に話があるとマクマードに声をかけられて、マルバとクーデリアはその場に残る事になり、念のための護衛として三日月にその場に残るように頼むと、名瀬に連れられオルガたちは退室した。

 

 「さて、人払いもすんだところでお嬢さんの件の相談といこうか」

 「ココからが本題、ということですか?」

 「まあな、名瀬が見込んでのことなら鉄華団のテイワズ入りは問題はない。いい土産ももらったしな。で、だ」

 

 マクマードはクーデリアの提案したハーフメタル採掘権の譲渡を、アーブラウ連邦の代表者は了承する方向である事を掴んだと語る。

 

 「下手をすれば戦争になるぜ。お嬢さん」

 「…矢張りそうなりますか」

 「おや、驚くかと思ったがそうでもないようだな」

 「ええ、オルガ団長さんたちからその可能性を指摘されましたので、考えてみれば歴史上そのような事は幾度となく起こっていた事を思い出せました」

 

 そうマクマードに語るクーデリアの声に緊張は見られたが動揺はない。

 

 「つきましては、その差配をテイワズにお願いしたいのです」

 「お嬢さん、うちらテイワズの実態を知って言ってると考えていいのかい?」

 「裏の顔のことですか?無論です。むしろ、その顔がなければこの件をお願いは出来ません。もし地球から採掘の利権を譲渡されたとしても、その差配次第では仰るとおり火星全土を巻き込む紛争となりましょう。それは避けたいのが一つ」

 「一つというとまだあるのかな?」

 「ええ、採掘の権利を火星が手に入れたところで、それを加工し精製する技術が地球からの企業に独占されてるのが今の火星です。採掘したハーフメタルを不当な値段で買い叩かれる可能性があります。いえ、そうする前提で採掘権のみ譲渡するつもりでしょう」

 

 端的なクーデリアの言葉にマクマードは内心感心するも、表向きはそれをもらさず会話の先を促す。

 

 「ですので、その技術を火星の方々へ教育する事を条件に火星にテイワズの企業をより多く誘致したいと考えております」

 「それは随分と政治的な問題だぜ。それをするには、権力がそれなり以上に必要になるぜ」

 「ええ、ですので」

 

 そこでクーデリアは一度、言葉を切りわずかに顔を扉近くに控えていた三日月に向ける。

 

 「大丈夫。俺もオルガもクーデリアが裏切らない限りはずっと味方だ。その道を邪魔するものは、全部壊してあげるよ」

 

 淡々と物騒な三日月のかけた言葉に、クーデリアは安心し頷き言葉を続ける。

 

 「私が、父ノーマン・バーンスタインを排斥し、クリュセ自治区の代表となります。そのお力添えをお願いしたいのです」

 

 暫しの沈黙の後、それまで咥えていた葉巻の火を灰皿でもみ消すとマクマードは低く笑った。

 

 「ククッ、どうやらあんたを見くびっていたようだ、クーデリア・藍那・バーンスタイン。非礼をわびよう」

 「いえ、私も言われて始めて気がついた愚か者です。どうぞお気遣いなく」

 「不義理な親に追われた子を助ける、か。確かに俺らにふさわしい仕事だな。良いだろう、首尾よく地球での交渉を終えて戻ってきた暁には、力を貸すとマクマード・バリストンの名にかけて誓おうじゃねえか」

 「ありがとうございます。そのときはよろしくお願い致します」

 

 会話の終了を見計らい、マルバがマクマードに平静な声で話す。

 

 「この件はこの場の四人以外にはオルガ団長と、クーデリア付きのメイドしか知りませんので、一つご理解くださいや」

 「おう、任せとけ。で、こいつはアンタの絵図面かいマルバ・アーケイ?鉄華団はまっとうな商売をしたかったんじゃねえのか」

 「そりゃあ、出来れば皆でそういう生活がしたいですぜ。ですがね、ご存じでしょうが世の中そういう血なまぐさい所で無いと輝けない、生きていけない奴らもいましてね。そういう仲間の事も考えなきゃあいけねえのが顧問のつらいところですぜ」

 「命の使いどころ、か。まあこれ以上は追求はしねえが、お前さんの今もっている『権利』は破棄するんだろうな?」

 「それは今回の成果が出たらすぐにでも、『権利』も『書類』も捨てますぜ」

 

 言葉を濁しつつ、クーデリアがマルバの資産扱いにある事についての処遇を決めると、話し合いはここまでとなりマルバらは退室する運びとなる。

 

 「マルバぁ。名瀬とは良い付き合いをしてやってくれや」

 「ウチとしても、それは望むところですぜ。親分」

 

 最後に短い言葉を交わして、マルバたちが完全に退室したのを見計らい、マクマードは室内の電話を操作する。

 

 「ああ、整備長か。ちょいと今度面白い奴らが入ってな。お前さんたちも力を貸してやってくれ」

 

 その後も暫く、マクマードは各傘下へと指示を出し続けた。

 

 

 

 

 

 




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次回はもう少し女性だせるかなあ。



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