マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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次話投稿します。


補足 テイワズ情報部門:上はギャラルホルン高官、下は市井の主婦等から集めた玉石混合の莫大な情報を精査しテイワズの利益になる形でまとめる情報収集組織。テイワズ直参9部門の一つであるが、主要な構成員はマクマード・バリストン以外は把握していない。もし、それを調べようとしたならば、その人物は不幸なことになる。


地球への道は楽じゃねえ

 その日の鉄華団定例会議は団長であるオルガが酒から、副団長であるユージンが女からの酔いが醒めた昼前に行われた。

 艦内の異常、団員の様子に問題なしの報告の後に、昨日テイワズから受け取ったギャラルホルンの情報を共有することになった。

 

 「割と量がないのはありがてえな」

 「判りやすくまとめてくれてるんだろうね、これなら他の団員にもある程度覚えてもらえると思うよ」

 

 歳星への道すがら、歴史に詳しいクーデリアから幾分その成り立ちを聞いていたギャラルホルンの現状が、最初の情報として簡単にまとめられていた。

 創立者たちの子孫であるセブンスターズによる要職の独占。

 組織を維持する費用の増加のほとんどを各地球経済圏へ捻出させており、際限ないその要求に各経済圏に不満がたまっている事実。

 加えて、その凡その軍事力についてまで記載してあった。

 

 「ひでえもんだな、監視者が聞いて呆れるぜ。ショバ代せびる暴力組織でももうちっとは大人しくせびるぜ」

 「そして凄い規模だよ。僕らが相手した火星支部なんて、彼らからしたらほんの一部だったって良くわかりますよ」

 

 情報内容を閲覧していたマルバはその要求額の増加に、ビスケットはその規模に呆れの声を上げる。

 

 「その上、このセブンスターズがおいしいとこ全部占めてんだろ、同じ組織にいてもやってらんねえじゃねえか、これ」

 「ユージンの言うとおりだ。火星支部の奴らが独断で動きたくもなるな。まともに仕事しても得られる報酬が割りにあわねえ」

 

 ユージンはその要職を独占するセブンスターズに怒り、オルガはその下で働く隊員達の境遇に少々の同情を示す。

 それぞれの感想を抱きつつ、四人は本編ともいえるダルトン家の情報に目を通す。

 そこに記されているのは、大まかには次の二つであった。

 一つは、当主はギザロ・ダルトン技術開発部副長、セブンスターズの一つファルク家の傍系としてギャラルホルン内で一定の影響力を持つ一族であり、庶子の一人アイン・ダルトンがCGS襲撃作戦中に死亡した事。

 もう一つは統制局にいる嫡子のグルーガ・ダルトン三佐の呼びかけで、CGS襲撃時に亡くなった者たちの縁者を集め、ダルトン家の庶子を中心に仇討ちの為の部隊を編成した事である。

 

 「なんともめんどくさい事になってるみてえだなこりゃ」

 「どう見ても僕ら専門に追いかけますって事だよね、これは」

 「おい、どうすんだよ!やべえじゃねえか!」

 「落ち着けユージン。不味いことだが、悪くねえ点もあるぜ」

 

 動揺するユージンにオルガは落ち着いた声で話しかける。

 

 「その仇討ち部隊とやらができたんなら、それ以外のギャラルホルンの連中は俺らに手出ししにくいだろうぜ。うっかり俺らを攻撃して死なせたら、セブンスターズ所縁のそいつらに恨まれるわけだからな。それにこれは明らかに私怨だぜ?ギャラルホルンの掲げる目的とは、まったく関係がない」

 「なるほどね、そんな部隊に表立っては協力はしにくいということだね」

 「そうだ。それに、俺らの目的はあくまでクーデリアをアーブラウ代表に合わせて話を付けさせることだ。最悪俺らの何人かでそいつらを惹きつけ、その隙に目的を果たしちまえば俺らの勝ちってことだ」

 「ついでに言うなら、その代表様に口を利いてもらえば、私怨の奴らも大人しくできる可能性もある。万が一、火星にそいつらが行ってもルイスたちがなんとかしてくれるだろ」

 「な、なるほどルイス隊長や三日月がいれば、俺らでもなんとかできるかもしれねえな」

 

 オルガの説明と、マルバの補足を加えられた意見にビスケットとユージンは同意と納得の返事を返す。

 無論、オルガの説明は楽観的な意見であることはマルバは理解しているが、リーダーが皆の士気をあげるためには必要な説明であることも同時に理解している。

 であれば、自分が今まで以上に知恵を回すだけのことだと、マルバは内心で静かに決意した。

 

 

 

 それから暫く後、整備班の年少組がイサリビに帰還してまもなく、艦を一台のトレーラーが訪れた。

 身分を照会したところ、テイワズの整備部門の人間でマクマードの依頼で届け物をもってきており、加えてテイワズの整備工場へ、バルバトス再整備のための引き取りに来たということであった。

 念のため、雪之丞と整備班数名がトレーラーに同行することを認めさせることで話はまとまり、まず持ってきたMSの搬入から始めた。

 

 「ん~、昔よく見たロディに装甲は似てるみてえだが、なんか違うな?フレームが違うのか」

 「わかりますか、テイワズフレームにスピナロディの装甲をとりつけたものです。規格が合わない部分は百錬と同じ物を使用してます。まあ百錬では具合が悪いんで、方天画(ほうてんが)と呼んでます」

 

 雪之丞とテイワズ整備部門の人物との会話に、テイワズ傘下のものにしか与えられないMSを与える、つまり見た目はどうあれテイワズの一員として認められたということであると理解し、立ち会っていたマルバとオルガは笑みを浮かべる。

 

 「式の前からでかい引き出物もらったじゃねえか。なあ団長さんよ」

 「ですね。明日の式は恥かかねえ様に頑張りますよ。さて誰にアレを動かしてもらうかだが」

 「なんかバルバトスより、ガチムチって感じだねあのMS」

 「ああ、あいつには似合うんじゃねえか。ガチムチならよ」

 「まあ、ミカの次にMSもたすなら昭弘しかいねえよな」

 

 かくして鉄華団二機目のMS、方天画の搭乗者は様々な理由から満場一致で昭弘に決定した。

 

 

 

 

 明けて翌日、鉄華団とタービンズの兄弟盃の儀が行われるテイワズホールの控え室のひとつでマクマードとの対面を許されたオルガとマルバ、クーデリアが歓談を行っていた。

 マクマードとオルガは現代でいう紋付袴、クーデリアは黒のイブニングドレス、マルバは背広の上から紋付をひっかけたスタイルである。

 

 「この度の支援ありがとうございます」

 「なに、ジジイの気まぐれと土産のお礼だ。せいぜい地球まで『気を抜かず』ふんばりな」

 「私も、交渉を成功させてみせますので、今後とも良しなに」

 「おう、期待してるぜ。お前さんたちは実に興味深い。ぜひとも末永い付き合いをしてえからな」

 

 オルガとクーデリアの言葉に鷹揚にマクマードは頷く。

 

 「で、まあお前さんたちのガンダムだが、何せ物がものだけに仕上がるのに少しかかる。後で送る手段はこちらで手配するが、パイロットと整備の奴を少しの間こちらに残してもらうことになる」

 「わかりました。今の俺らの切り札ですので、どうかよろしくお願いします」

 「そうだな、お前さんたちが地球に近づく程に厄介なことが増えるだろうからな。降りかかる火の粉を払える道具はきっちりした物を渡してやる」

 「すみません、ついでといってはなんですがね、二つほどお願いしたいんですが」

 

 マクマードとオルガの会話に、マルバが詫びを入れつつ横から口を挟んだ。

 

 「何かな?顧問さん」

 「俺も居残り組にいれてもらいたいのと、後誰か医療に明るい方をうちのイサリビに呼んで欲しいんですよ。恥ずかしながら、応急処置はともかく火星だとろくな医者の心当たりが無かったもんで」

 

 CGS時代に利用していた医者はいるが、艦に同行させるだけの医者を手配するだけの時間的また経済的余裕がなかったため、ここでマクマードの顔の広さを使わせてもらう頼みごとをマルバは切り出した。

 

 「一通りの設備はあるんだな?」

 「医療ベッドの整備や医薬品等は余分目には用意したんですがね。人だけはどうにも」

 「成る程、いいだろう。その辺は用心しておいて足りねえことはないからな。お前さんらの出航までにはなんとかしよう」

 「よろしくお願いします」

 

 マクマードの快諾にマルバは頭を下げ、式の時間が近づいてきたためオルガら三人はマクマードの部屋を後にした。

 

 「顧問もこっちに残るんですか?」

 「まあな、俺がいなくても上手く鉄華団を回せる練習だと思っとけ」

 「いや、俺だけじゃまだ足りないというか、少し不安つうか」

 「だから少しでも経験を積んどけ。いきなり出たとこ勝負ばかりじゃお前が俺の年になる頃には、髪の毛がストレスで全滅してるぞ」

 「げっ、それやばいっすよ。俺の団長像がピンチすよ!」

 「だから、今から慣らしとくんだよ。そうすりゃ俺ぐらいは残るぜ」

 

 そういって自分の頭を叩くマルバに、オルガは顔をゆがめ、クーデリアはくすくすと笑い出す。

 

 「お二人とも仲が良いんですね。親子みたいです」

 「「いやいや、それはないです(ぜ)」」

 

 同時に否定の言葉を上げるオルガとマルバに、クーデリアは式の緊張も忘れ笑顔を深くするのであった。

 

 

 

 

 

 

 




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