マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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 次話投稿します。

 今回はギャラルホルン側の悪巧み組の視点のみです。





幕間 野望の角笛

 薄暗い一室にて、モニター越しに会談をする者たちがいる。

 一人は金髪碧眼の美青年、もう一方は銀髪を肩まで伸ばし髭を蓄えた厳格そうな壮年であった。

 

 「仇討ちとは良い口実ですね、ギザロ殿」

 「人を動かすには利か情に訴える必要がある。今回は情のほうが都合が良いのでな」

 「ファリド家から個人的な奨励金として幾ばくかご用意しましたが、他は大丈夫でしょうか?」

 「セブンスターズ傍流でも繋がりをという連中、身内の仇をとりたい連中はそれなりにおる。現状駒には不自由せんよ。情報もそちらの分とあわせれば相手の動きを掴むのに問題はない」

 「それはなにより。こちらはもう暫くすれば地球へ旅立てると思いますが、何分後始末に手間がかかりますので、当面はそちらが主体で動いてもらいます」

 「仕事とはいえご苦労なことだな、マクギリス特務一佐」

 

 マクギリスとギザロ、両者の出会いは数年前に技術開発部を訪れたマクギリスの案内役として、副長のギザロがあてがわれた時のことになる。

 初対面で両者は互いの目に隠そうとして隠しきれない野心の炎を見取り、その後に何度かの会合を重ね互いが互いの野望をかなえるに必要な存在であることを認め、野心成就までの協力を誓い合った仲である。

 彼らの野心はセブンスターズ一席たるイシュー家、その当主が病により公務から長く遠ざかっている現在、火種から炎へと変わろうとしてた。

 

 「いえ、自身の油断を戒める良い機会になりましたよ」

 「コーラルめが、まさか自身の所業を見逃すか否かで決闘をしかけてくるとはな。向こうの代理人とやらも相当の技量もちであったと聞くが」

 「ゼント二尉ですね。こちらもボードウィン特務三佐を代理人として立てられねば不覚を取っていたかもしれません」

 「流石のお主でも、生身の剣勝負では分が悪かったであろうな」

 「まったくです。危うく相手の策ともいえぬものに足をとられるところでしたよ」

 

 火星支部のコーラル三佐についての顛末を語り合う両者は、互いに貼り付けた笑みを浮かべてお互いの表情を伺いあう。

 マクギリスは自身の幼馴染達を更に有効につかうことを、ギザロは自分のための強力な武器を開発することを、会話を続ける今現在も脳内で計算しており、その事を互いに明かすことは考えてはいない。

 

 「で、念を押すがそのクーデリアという少女は鉄華団という連中の元にいることは間違いないのだな?」

 「ええ、コーラルの件で大分人手を取られ確認が遅れましたが、鉄華団の前組織であるCGSをコーラルらが襲撃させたとき逃亡した社員数名を確保、尋問をおこない確認しました。念のため鉄華団本部周辺も調査しましたが、それらしき人物を見かけたという証言も証拠も得られませんでした」

 「となればボードウィン家の子倅がコーラルを拿捕した時に居合わせたシャトル内にいた、という線が濃いか」

 「ええ、私も出撃できればよかったのですが、基地内部のコーラル派を押さえるのに手が離せませんでしたのでね」

 

 マクギリスのこの言葉に嘘はなく、決闘に敗北したコーラル逃走に少なくない火星支部のものが手を貸し、それの掃討指揮にマクギリスがあたり、コーラル自身の追撃はガエリオと非コーラル派で行わざるをえない状況であったのだ。

 現在火星支部の正常化の名目で、マクギリス自身の配下に組み込める手はずを整えたところであり、鉄華団とクーデリアの件にすぐに動ける駒を割ける余力がマクギリスにはない。

 その為に、今こうして同盟者であるギザロに情報と資金を流し、ギザロを動きやすくしているのだ。

 

 「火星にまわされた不平分子の取り込みは上手かったようだな、コーラルという男は」

 「MS乗りとしても相当な腕でした。時代が違えば別の出番もあった、そう思わざるをえないですね」

 「であるならば、こちらで使えるやもしれんな。折角の有用な人材ではある」

 「彼は犯罪者でありますが、よろしいのですか?」

 「フン、武勲にて汚辱を雪ぐ。下らぬ考えだが、今のギャラルホルンでは有効な方便でもあるのも事実。それに罪人であればこそ、どう使おうと文句も出ぬだろうて」

 「あまり派手に動かれて、我らの真意を見抜かれぬように願いますよ、ギザロ副長殿」

 「ワシを誰だと思っておる、マクギリス。そのような手抜かりをするほど、耄碌をしておるとでもいいたいか?」

 「いえ、ただの同盟者としての忠告ですよ。お気に障ったのであれば謝罪しましょう」

 「まあよい、忠告として受けておく。そちらも足元を掬われぬように、振舞ってもらおうか。ただえさえ貴官は人目をひきやすい」

 

 一瞬両者の間に緊張が走るも、衝突する事もなく両者の会話は続き、他にいくつかの案件をまとめた後に今回の密談は終了した。

 彼らの通信は、技術部であるギザロ、監査局であるマクギリスのそれぞれのノウハウから高度な秘匿性が保たれており、彼らが同席を許したもの以外にこの同盟関係を知ることは不可能であるといえた。

 たとえば、今ギザロと同室にいる男のようなもの以外には。

 

 「よろしいのですか、父上。いかにファリド家のものとはいえ、妾腹風情にあのような物言いを許して」

 

 それまで部屋の隅に控えていた、ギャラルホルン士官服をまとうグルーガ・ダルトンが口を開く。

 その容姿はアイン・ダルトンが十ほど年を重ね、髪を銀髪にした姿が近い。

 知る者が見ればアインとグルーガ、両者に血の繋がりがある事を認めるであろう。

 

 「構わぬ、奴は使える男だ。使えるうちはせいぜい利用するまでだ」

 「では、いずれは」

 「最終的には始末する腹積もりなのは奴とて同じであろうがな。だが最後に笑うのは我らであることには変わらぬ。その日のためにもお前には骨を折ってもらうぞ、グルーガ」

 「ハッ、我がダルトン家が全てを掌握する日の為、奮闘します」

 「よろしい、ではいくがよいグルーガ。下の者たちの差配見事果たして見せよ。追加の情報は後ほど送る故、今は部隊の編成に務めよ」

 「あの下賎の者たちの情報、信じてよい物でしょうか?何らかの思惑で我らを踊らそうとしているのではないでしょうか?」

 「であろうな、だが情報は情報だ。無頼の徒や商人どもの思惑などたかが知れておるわ。最後に我らが全てを牛耳るのだ、せいぜい連中には今は良い夢でも見せておけばよい」

 「ハッ、了解しました。全ては我がダルトン家のために」

 

 ギザロの言葉に、グルーガは敬礼をもって返し部屋を出て行く。

 

 「そう良い夢をな、ワシの真の野望が成就するまでどいつもこいつも夢にまどろんでおるが良いのだ」

 

 誰もいない私室でギザロは、静かにつぶやき酷薄な笑みを浮かべた。

 

 

 




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 マッキーより黒くなりそうなギザロ様。



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