マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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次話投稿します。








鉄の華は、安かねえぜ その二

 医務室で昭弘は、弟の昌弘と自分に起きた事についてをボツボツと語り始めた。

 惑星間貿易の仕事をしていた両親について、航行中に海賊に襲撃された事。

 両親はその際の襲撃で、どちらとも死亡し積荷は奪われ、弟の昌弘共に海賊に捕らえられた事。

 ヒューマンデブリとして、別々の相手に売られていった事までを話し昭弘は一度口を閉じた。

 

 「俺は、楽しかった。MWバトルに出たり、仲間が出来たり、ラフタやアジーさんたちにしごかれるのだって楽しかったんだ。…だから罰が当たったんだ。ヒューマンデブリの俺が楽しいなんて」

 「馬鹿だね、この子は、ヒューマンデブリが楽しんで悪いわけ無いだろ」

 「えっ」

 「それにお前が楽しかったのは、団長の俺のせいだな」

 「顧問の俺も反省しねえとな、悪かったな昭弘」

 「いや、ちが」

 

 搾り出すような自身の最後の発言に、さらりと反論する音羽と、大仰にうなずいて返事を返すオルガとマルバに昭弘は思わず言葉に詰まる。

 

 「罰うんぬん言うなら、まずはその襲撃してきた海賊どもから当てなきゃ筋が通んないだろ?」

 「それから、俺と顧問で最後に昭弘だな」

 「まあ、それが筋だな。だからてめえに当分罰はこねえよ」

 「団長…すまん。動揺しすぎてた」

 

 三人の発言に若干いつもの調子を取り戻した昭弘は頭を下げた。

 

 「で、お前はどうしたいんだ昭弘?」

 「俺はあいつを、昌弘を取り返したい。団長『例の話』は途中参加でも有効なんだよな」

 「ああ『この仕事が終わり、火星に帰ったらヒューマンデブリの契約データを本人へ渡す』この取り決めは鉄華団団長として変わることはねえ」

 「なら、俺に昌弘を説得させてくれ。あいつが好きでMSに乗って命の取り合いをしてるんなら、その時は俺の手であいつを止める」

 「じゃあ、そのための作戦を考えなきゃいけないね」

 「まあ、昭弘の弟なら俺らの身内みてえなもんだろ」

 

 昭弘の発言の直後、三日月を連れたビスケットとユージンが医務室の入り口でそう告げてくる。

 

 「いや、これは俺の我侭だ。皆を巻き込むわけには」

 「昭弘は俺と同じで頭よくないんだし、みんなの知恵借りたほうが確率上がるでしょ」

 「ぐっ」

 

 三日月の的確な発言に二の句を告げられない様子に一同は笑いをかみ殺す。

 

 「はいはい、じゃ続きはブリッジでもやんな。ここは医務室だよ」

 

 その後、音羽からのもっともな指摘を受け、一同はイサリビのブリッジへと移動すると、ほぼ同時に通信を担当していたフミタンから声がかかる。

 

 「団長、ハンマーヘッドの名瀬様から通信が入ってます。可及的速やかにとの事でしたのでメインモニターに回します」

 「ああ、頼む」

 

 オルガが短く了承の言葉をかけると、イサリビブリッジのメインモニターに名瀬の苦笑いした顔が映し出される。

 

 『よお、災難だったな兄弟。早速だが良いニュースと悪いニュースがある』

 「どういうことですか、兄貴」

 『この辺を仕切ってる『業者』のブルワーズに今回の件を問い合わせたんだがな、その結果俺らを襲った相手がわかったぜ』

 「本当ですか、でどこのどいつです?」

 『ああ、ブルワーズ当人が襲撃者だったわ』

 「はあ?」

 

 オルガの気の抜けた返事もやむを得ない事である。

 事前の説明で、この辺りの宙域を根城にしている『業者』、主に通りかかった艦への海賊行為を主な収入源とする組織があることは聞いていた。

 同時に近隣では武闘派だが、テイワズと正面切って喧嘩を吹っかけるほどの武力は無いとも聞いていたのであるから、当然の疑問であろう。

 

 『まあ兄弟がそういう顔になるのも当然だが、今のが良いニュースでな』

 「つまり、もっと悪いニュースがあるんすね」

 『ああ、ブルワーズが動いたのは、例のギャラルホルンの仇討ち部隊の動きに合わせてのものだったってこった』

 「マジですか!」

 『ああ、ブルワーズの連中との会話が終わる間際に、こっちによこしてきた鉄華団宛のメールがあってな、それで判った。まあ今からそのメールを送るからよ、それを見終わってからこっちで打ち合わせといこうや兄弟』

 「わかりました、送ってください」

 

 ハンマーヘッドから送られてきた映像メールは、まず着信と同時にギャラルホルンの紋章が映し出されその存在を送りつけた相手を容易に推察させるものであった。

 

 『初めまして、私はギャラルホルン統制局のグルーガ・ダルトン三佐だ。この度セブンスターズの一つ、ファルク家の命により今回の仇討ちへの見届け人の任を拝領している者だ。私自身は公務として此処に立つものであり、仇討ちとは無関係である事を此処に宣言するものである』

 

 次に映し出された銀髪の整った顔立ちの青年、グルーガ三佐はそう淡々と最初に告げると仇討ちの説明を継いで行った。

 今回の仇討ちは、CGS襲撃の際に討ち取られたMSに乗っていたアイン・ダルトン、オーリス・ステンジャ両名の血縁者によって行われるという事。

 仇討ち対象はMSを討ち取ったバルバトス、及びそのパイロットに加え今回のCGS襲撃の原因となったクーデリア・藍那・バーンスタインとなる事。

 討つ方討たれる方の双方に助太刀という協力者をつけることが許されており、お互いがその裁量で用意する事と助太刀同士での戦闘行為も許されている事が告げられた。

 

 『今から送るデータの機体に私が搭乗する事になるが、それは狙わないで頂きたい。他のものは私情にて公務から離脱の扱いになっているが、私は公務中の身である故に明確なギャラルホルンへの敵対行為とみなされ、諸君らに追っ手がかかることになるからだ。

 最後に個人的な意見として、仇討ちという非合理的なものに加担するのは心苦しいが、主命とあっては果たさざるを得ない事を詫びる。以上だ』

 

 そこで映像メールは終了し、見終わった鉄華団メンバーはその内容を吟味する。

 

 「あの銀髪の人以外の襲ってくるやつらを全部やれば良いの、オルガ?」

 「簡単に言えば、ミカの言うとおりだがよ。相手の数がわからねえ以上、そう簡単にもいかないだろうな」

 「確かに協力者なんてギャラルホルンの方がどうしたって集めやすいだろうし、俺らはすげえ不利じゃねえか」

 「とはいえバルバトスだけならともかく、クーデリアさんを渡す選択は僕らにはできないよ。第一それをしてギャラルホルンが納得しても、協力者達がどう動くか予想がつかないからね」

 

 最後のビスケットの発言にオルガとマルバは頷く。

 仇討ちの協力への見返りとして、鉄華団団員を支配下に置く、ヒューマンデブリとして売り飛ばす、設備だけ奪い皆殺し等最悪に近い出来事の数々が容易に予想されたからである。

 

 「まあ良い情報は、仇討ちする奴らは公務扱いされてない事が確認できた事か、嘘の可能性もゼロじゃねえが、仇討ちとか名誉が好きそうな連中だけにその可能性は低いだろうがよ」

 「そうですね、とりあえずあの三佐の人が送ってきた機体データは登録しておかないとですね」

 

 皆の真剣な様子に、昭弘はうつむき加減につぶやく。

 

 「これじゃ、俺の事なんぞ気にしてる場合じゃない、か」

 「あ?何言ってんだ昭弘。お前の弟は俺らに迎え入れるのは変わらねえぜ」

 「けどよ、大変な事になってるじゃねえか!そんなときに俺の我侭を通すのはよくねえだろ」

 「違うぜ、昭弘。オメエの弟がブルワーズにいるのがわかったんだぜ。そしてそいつらが仇討ち部隊の奴らに協力してるだろう事もな」

 「確かに、ギャラルホルンのメールをブルワーズから送ってきた、という事からその可能性は高いですね。なら昌弘君の引き入れは僕らにも好都合だね」

 「敵が減って、味方が増える。一人できればその仲間も引き込めるってことか!たしかにな」

 「オルガがやれっていうなら、俺は何でもするよ」

 

 オルガの昭弘への答えに、ビスケットとユージンは納得の答えを返す。

 説得という難易度の高さを問わず、そのメリットだけを口にすることで昭弘の思いを通そうとしてくれる仲間達に昭弘は熱くなる目頭を押さえ深々と頭を下げた。

 

 「すまねえ、皆。どうか俺と昌弘を助けてくれ」

 

 昭弘の言葉に、ブリッジにいた鉄華団のメンバーは一様に笑顔と頷きで返し、このスペースデブリの舞う宙域での仇討ち部隊とブルワーズへの戦意を高めたのであった。

 

 

 

 

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 次は作戦回予定、事前準備が勝利の鍵。



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