マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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次話投稿します。

投稿したつもりがされてなかった。急いで投稿します。





取られたものは取り返すだろ? その一

 『今回、俺らはタービンズと協力して、地球への道を邪魔して来た連中を叩き潰す。ブルワーズとかいう連中の手を借りたギャラルホルンの逆恨み野郎どもに、俺たちの力を見せてやるぞ!それに昭弘の弟も救出だ!』

 

 オルガの作戦前の激を受けタービンズのハンマーヘッド、鉄華団のイサリビの両艦から一機ずつMSが発進する。

 一つは三日月の乗るバルバトス、一つはアミダの乗る百錬先行生産型であり、二つの組織でのそれぞれ最強戦力と目される技量を持つ少年と美女だ。

 今回の作戦上、長距離の航行能力とスペースデブリや敵対するブルワーズ、ギャラルホルンのMSからの攻撃に対する防御能力の必要性から、二人の乗る機体には無人のクタン参型が装着されていた。

 テイワズで開発されたものは汎用性が高いものが多いが、このクタン参型もテイワズ勢らしい汎用性を有しており、長距離輸送機、MSの追加武装、迎撃機等の複数の役割をこなす事が可能なのである。

 

 『じゃあ、お願いします姐さん』

 『あいよ、団長さんとうちの亭主に恥はかかせられないからね。きっちり作戦を成功させるよ』

 『うん。そういえば、そっちにもそれあったんだ』

 『クタン参型かい。そりゃこれは基本輸送用だから、ウチらタービンズが一番使う機会は多いからね。ドンパチやることの多いうちら用にナノラミネート加工もされてるよ』

 

 エイハブリアクターの発するエイハブ粒子無しでは効果の無いナノラミネート加工であるが、MSの搭載時に限りクタン参型はMS本体のエイハブリアクター影響下におかれ、その効果を発揮できるのだ。

 無論、その加工を施す事で諸々の費用が凡そ五割り増し程度になる上に、クタン参型の装甲自体がMSほどは無いために戦闘中に一番先に損傷する可能性も高い為に、一部希望者のみにしか行わない処置である。

 が女性、特に自分の妻達の安全のために金を惜しむ事はない名瀬にとっては安い買い物であるといえた。

 

 『鉄華団のクタン参型にも同じ処置をしたけど、MSほど丈夫じゃないからね。気をつけるんだよ』

 『うん、判った』

 

 アミダと数回のシミュレーターでの模擬戦と会話により、アミダの実力と影響力を知る三日月はアミダの言葉に素直に従う。

 かくして、二機のMSはギャラルホルンとブルワーズが待ち受けると予想されるスペースデブリ帯へと向けて航行していった。

 

 

 

 「いよいよ作戦開始だなユージン、準備は良いか?」

 「おう、いつでもいけるぜ!」

 

 現在イサリビのブリッジには出撃の準備のために格納庫にむかったダンテとチャドに代わりオルガとマルバが座り、常であればオルガの座る艦長席には阿頼耶識システムをイサリビと接続したユージンが座っている。

 鉄華団の副団長に就任して以来の初めての大任に、直前までシノに不安をこぼしていた様には見えない自信にあふれた態度でこの場に臨んでいた。

 直前にタービンズからの通信で、ブリッジの名瀬とその妻達からの『頼りにしてるから頑張って』の通信を受けての事であるとは思われたが、テンションの高い方がユージンが力を発揮する事を知る鉄華団のメンバーはそのままにしておいた。

 

 「ギャラルホルンとブルワーズの待ち構えてる予想地点まで、スペースデブリの漂う場所をどれだけ無事に素早く行けるかはおめえの腕次第だ、頼むぜ」

 「ユージンならやってくれますよ顧問。俺ら鉄華団自慢の副団長すからね。なあユージン?」

 「お、おう!大船に乗ったつもりで任せてくれよ!」

 「…大船じゃデブリ帯抜けるのに不安しかないんだけどね」

 

 オルガの返した答えに、大分テンションの上がったユージンを見てぼそりとつぶやくビスケットの声は幸いにもユージンには聞こえていなかった。

 

 「フミタンさん。そろそろデブリ帯に向かいますんで艦内連絡を頼みます」

 「わかりました」

 

 マルバの言葉を受け、フミタンはイサリビ内へデブリ帯突入間近の警戒放送を流す。

 その放送を医務室で聴きつつ、音羽たちはいつでも治療に移れる様に準備を進めていた。

 

 「よし医療ベッドの電源は入れたね。次は応急手当用の道具の整理だ、小分けにして各自で対応できるようにしとくンだよ」

 

 音羽の言葉に、医務室に集められた三名、アトラ、クーデリア、メリビットは頷いた。

 イサリビに音羽が着任してすぐに鉄華団のメンバーを何組かに分けて、音羽による応急処置の講習が行われたが、戦闘要員でも整備班でもないこの三名には、折に触れてより専門に近い医療行為のあれこれを叩き込んでいた。

 元から知識と技能のあるメリビットや、度胸と手先の器用さをもつアトラに比べ、最初は戸惑いともたつきを見せたクーデリアであったが、持ち前の熱意と物覚えのよさに加え音羽の的確な指導により、充分な技量を持つに至っている。

 

 「あんた達には必要な分は大体教えたからね。後は本番でびびらない事さね。まあこの練習用の時を思い出して焦らないようにね」

 

 そういって音羽は足元に落ちていた医療用ダミー人形『けつあご君2号』を足で蹴り飛ばし部屋の隅に寄せた。

 

 「あの、テレジアさんの私物ですから。細かくは言いませんけどもう少し丁寧に扱ったほうが」

 「ああ大丈夫だよ。アレくらいで壊れるほどやわな作りはしてないからね」

 「あ、ははは…」

 「で、でもこの子のお陰で私たち色々覚えられたよね!」

 

 メリビットの苦笑交じりの言葉に平然と返す音羽に、引きつった笑みと微妙なフォローで応じるクーデリアとアトラ。

 設定された障害の度合いにより、妙にリアルな苦痛の声や暴言を吐くこの人形のお陰で彼女らのスキルが上がった事は事実である。

 ちなみに、誰かモデルがいるのかとクーデリアが聞いた時、音羽はただ良い笑顔を浮かべるだけで答える事はなかった。

 

 「三日月、大丈夫かなあ」

 

 一区切りの準備を終え、右腕に巻いた三日月とお揃いのお手製お守りを押さえつつ、アトラがつぶやいた時とほぼ同じくして、三日月はアミダと共に敵MSらと遭遇していた。

 

 『我が名はコーリス・ステンジャ!我が弟オーリスの魂の安らぎのために!バルバトスとそのパイロットの命貰い受ける!』

 『姐さん、なにあれ?』

 「さあ、殺してほしいんじゃない?」

 

 バルバトスと百錬を包囲する十二機のマン・ロディの後方に見える二機のグレイズ。

 その一つの全身が黒く塗られ、両肩を赤で染め上げたグレイズからの共通回線による発言に、三日月とアミダは呆れに近い感情をこめた通信を交わす。

 

 『もう一機の白いグレイズは先にデータをもらった見届け人らしいから攻撃しちゃ駄目よ、三日月』

 『うん、後緑のロディってやつもなるべく殺さないようにするんだよね』

 『そうだね、一応昭弘の弟が乗っていた機体のエイハブリアクター反応は知ってるけど、別の機体に乗り換えてたりするかもしれないからね。まあアンタなら楽なもんだろ』

 『コイツの調子もいいし。多分大丈夫、です』

 

 会話を交わす間にもマン・ロディからの攻撃が加えられているが、お互いに背中合わせに回転しながら戦うバルバトスと百錬にまともにダメージを与えられていない。

 一方で二機の持つクタン参型の滑腔砲から放たれるトリモチ弾が。モニターカメラやセンサー部分に命中する度にマン・ロディらの動きは鈍くなっていく。

 機体のダメージは軽微であるが動きが確実に阻害される未知の攻撃に必要以上に警戒するもの、ダメージが少ないからと接近戦を挑もうとするものと別れだし、マン・ロディの包囲網は綻びを見せ始めた。

 その隙を見逃す三日月とアミダではなく、すぐさま守りから攻勢へと移行する。

 

 『じゃあ、アタシがロディのお守りしとくから、あの死にたがりをさっさと始末してきな』

 『了解。さっさと始末してくる』

 

 短く言葉を交わし三日月はバルバトスを動かし包囲の穴を高速で抜けると、後方にいたグレイズに襲い掛かる。

 

 『おのれ、バルバトスめ!その首大人しく寄越せ!』

 『そんなわけないじゃん』

 

 コーリスのグレイズに短く返した三日月は勢いを殺さず、そのまま加速して彼我の距離を縮める。

 対するコーリスも射撃では間に合わないと見たのか、大降りのアクスを抜き取りバルバトスの脳天へそれをつきたてようと図った。

 が衝突の寸前でクタン参型のアーム部より射出された槍状のものがグレイズに迫ってきた為に咄嗟にアクスで払いのける。

 がそれは両アームから射出された二本の内の一本であり残る一本はコーリスのグレイズの腰部に命中し深く突き刺さった。

 二機はそのまますれ違い、コーリスのグレイズは振り返り追撃を行おうとするが、急速にバルバトスのほうに轢き付けられ体勢を立て直すことが出来ない。

 

 『な、なんだ!槍にワイヤー?』

 『槍じゃなくて銛って言うらしいよ』

 

 慌てるコーリスの声に短く返した三日月はバルバトスを更に加速させ、狭い空間で器用に急旋回させる。

 バルバトスの射出した銛によって繋がれたコーリスのグレイズも同じ挙動を取るが、ワイヤーで延長された分大回りの軌道を描く事になり、周囲のデブリ帯へと機体を突っ込まされた。

 コーリスはうめき声を上げつつも自機に刺さる銛を抜こうとするが、巧妙な返しのついたそれは平時でも簡単に抜けるものではなく、ましてやデブリに機体を衝突させつつグレイズのマニピュレーターで抜く事はほぼ不可能であった。

 三日月はそのままバルバトスを走らせ、丁度百錬の背後に回ったマン・ロディに加速したグレイズをデブリ帯から引き抜き衝突させて、マン・ロディの攻撃を防いだ。

 

 『姐さん。大丈夫?』

 『ありがとう、三日月。そのロディのほうは大丈夫かい?』

 『一番硬そうなとこにぶつけたし、まあ死なないと思うよ』

 『なら、いいか。じゃそのグレイズ捨ててこっちを手伝ってくれないかい?』

 『うん、判った』

 

 三日月はそういうと、既にコクピットブロックの無くなったグレイズだったものに刺さった銛をワイヤーごと分離するとアミダの加勢へと入った。

 

 「これが、ガンダム…いや阿頼耶識の力ということか」

 

 見届け人として白に青く縁取られたグレイズに乗り、その場にいたグルーガはバルバトスの大出力とその搭乗者の技量に、人知れず呟いた。

 

 「実に…恐ろしくも、素晴らしいものだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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