マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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次話投稿します。


補足 ルイス・ミリオン:元一軍隊長。とある事件から一軍の隊長を辞退し、CGS敷地の一
            角で菜園を作り半隠居していた。
            穏やかな性格だが、軍人としては相当に有能、教官としては鬼。
            参番組とは菜園の手伝いや作物のやり取りなどで、友好な関係。
            本来ならば原作開始前に退社し、菜園も破棄されていた。
 


現も夢もきっかけだ

 「なるほど、大体言いたいことはわかったよ」

 

 ルイスの部屋に通されたマルバと雪之丞の話に、ルイスはそういうと大分冷めたコーヒーで唇を湿らせる。

 

 「でも、その提案を受けるにはいくつか条件があるね」

 「いいぜ、言ってみてくれ」

 「まず、装備兵器類の補充だ。出来れば新型のMWや武器弾薬をそろえて欲しい。暴走する奴らを抑えるにはそれなりの力が無いと駄目だ」

 「それはそうだな、手配する」

 「次に、任務中の負傷で働けなくなった者たち、又は死亡した際にはその家族へ。幾らかの見舞金を出すこと。これがあるとないとでは任務の成否は大分違うからね」

 「…流石に一生分は無理だ。が、当座の生活が成り立つ程度のまとまった額、ということなら可能だな」

 「それでいいよ。本来は地球の、上の連中どもが何もしないのを、僕らで何とか補うしかない」

 「お前の地球嫌い、相変わらずだな。で、まだあるのか?」

 「最後に『阿頼耶識システム』あれを、子供達に埋め込むのをやめて欲しい」

 

 ルイスの最後の条件にマルバは顔をしかめ、横で話を聞いていた雪之丞も腕を組んでうなる。

 

 「だがよ、アレがないと仕事にならない」

 「もう埋め込んでしまった、という子供達は残念だけどどうしようもないだろう。でも、これから入れる子供達にはしないで欲しいんだ」

 

 ルイスとマルバはお互いの目をそらさずに、暫し睨みあう。

 雪之丞が二人を執り成そうか、と考え始めた時にマルバが大きなため息をついて目を閉じた。

 

 「ならよ、埋め込むのは希望者だけ、かつ上手くいかなかった場合は一年分の給金を渡す、という条件にするのならどうだ」

 「おいおい、そんなんで仕事が回るのかよ、マルバ」

 「まあ当面の、俺の給料が小遣い程度になりそうだな」

 

 心配顔の雪之丞に、マルバを肩をすくめて苦笑する。

 そんなマルバの表情を見たルイスは、表情を少しばかり崩す。

 

 「マルバのそういう顔を久しぶりに見た気がするよ。何だかこの会社の結成のときみたいで懐かしいな」

 「そうか?まあ、ここだけの話ひでえ夢を見てな。そのショックで色々と思い出したってわけさ」

 「なんだよ、そりゃあ」

 

 呆れたような声を挙げる雪之丞とカイゼル髭を指でしごきながら微笑するルイス。

 

 「まあ、マルバが立ち直ったのなら、僕もいつまでも落ち込んでられないか」

 「ああ、悪いがお前の力が要るんだよ、ルイス」

 「俺からも頼む。機械以外のことじゃ、俺はお前らの助けになれなかった。悪い」

 「そうじゃないよ、雪之丞がまともだったから、今こうして三人で話すまでCGSは持ち堪えていたんだと、僕は思う。ありがとう雪之丞」

 「そうだな、俺からも礼を言うぜ。雪之丞」

 「おいおい、止めてくれよ。ケツがかゆくなる」

 

 CGS結成時のメンバーであり、それ以前からの付き合いである三人はそれぞれに笑いあった。

 それからの今後のCGSについて話し合いは、深夜まで続いたが、翌日朝のマルバたち三人の顔に疲れは無く、逆に精気にあふれるものであった。

 そして、三人の話し合いから数日後のCGSの朝の報告会儀の場で、それぞれの報告と指示が終わった後にマルバがその場に集まったものたちにあることを告げる。

 

 「ああそれからな、組織の体制を少し変える、おい入ってきてくれ!」

 

 マルバの言葉に少し時間をずらして社長室前で待機していたルイスが入ってくる。

 一軍と同じズボンとブーツを履き、参番組と同じ色のジャケットの下に白いシャツを着たルイスの姿に、マルバ以外の三名、ハエダ、オルガ、昭弘は驚きの表情で迎える。

 

 「た、隊長!?」

 「えっ、ルイスさん、すよね」

 「……どうも」

 「よう、君達元気そうだね!元一軍隊長ルイス・ミリオンだ!」

 

 驚きで固まる三名に気さくに話しかけるルイス。

 

 「今後はこのルイス・ミリオンにCGSの教導隊を率いてもらう。後俺の不在時はルイスが俺の代行に成るからな、ちゃんと各自の部下に伝えておけ」

 「えっ、俺は何も聞いてませんぜ?」

 「ハエダ、何でお前に話す必要がある?」

 「そら、今まで俺ら一軍がその役目を」

 「その役目が出来てねえから、こういうことになったんだ。いちいち言わせるな馬鹿が!解雇されねえだけましだと思え」

 「うっ、す、すいやせん」

 

 実際、ハエダの任じた教育係はトド・ミルコネンを始めとして、まともにその役目を果たしているとは言えず、錬度の低さから現場でもトラブルを頻発させていた。

 その苛立ちを、主に参番組の年少者達にぶつけるハエダたち一軍により、更に練度の向上が阻害される悪循環に陥っているのを、ここ最近の観察でマルバは確認していた。

 そこで、新たに教導隊を設置し、その隊長に元一軍の隊長であるルイス・ミリオンを任命するために、あの夜の話し合いをしたのである。

 

 「そうそう、教導隊には僕と同じ服装をしてもらうから、その人たちの指示にはきっちりと従ってね。そうしないと、僕の特別訓練を強制的に受けてもらうからね」

 「う、ハッハイ!」

 

 ルイスのにこやかな表情と共に告げられた言葉に、すぐに直立の敬礼をするハエダ。

 そのハエダの冷や汗をかく姿に、その特別訓練が想像以上にきついものである、そう察したオルガと昭弘は仲間達にきちんと釘を刺しておく事を、心に留める事にした。

 その後一軍から引き抜かれた数名が率いるルイスの指導は、厳しくはあったが大怪我をしないよう、配慮されたものであり、何より一軍、参番組に平等におこなわれた。

 一度、調子に乗ったササイ・ヤンカスが参番組にちょっかいを出したが、すぐさまやって来たルイスの鉄拳制裁の後に公開特別訓練の対象とされた。

 その特別訓練の内容は詳細を省くが、ササイは暫く夜中に奇声を上げて飛び起きたり等の挙動不審になり、特別訓練の様子を見ていた一同は、トドですら真面目に、教導隊の指示に従うようになったことだけを記しておく。

 

 「おい、オルガ!出かけるから一緒にこい。後誰か、MWの扱いが上手い奴を一人一緒にな」

 「わかりました社長。おい、ミカ!」

 「うん」

 

 そんなある日、マルバに声をかけられたオルガはすぐさま三日月・オーガスを呼び、三日月もすぐに応じて駆け寄ってきた。

 

 「やはり、こういうときは三日月か」

 「はい、社長。誰か一人といわれたら、やはりこいつです」

 「まあ大事にしてやれ。そういう奴がいるといないでは、大分違う」

 「了解す。で、どこにいくんすか社長?」

 「ああ、輸送会社でタービンズさんのとこだ。大事な取引先だからな、お前ら向こうでは礼儀正しくしておけよ」

 「うす。気をつけます」

 「うん。オルガに恥をかかせたくないしね」

 

 (こいつら、すこしは驚きやがるかな?)

 

 悪戯を企む悪ガキの笑顔で、応じる二人を見るマルバであった。

 

 




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