「お帰りなさいませ、お嬢様、マルバ様、ビスケット様」
ドルト3から、サヴァランにチャーターしてもらったランチで、急遽イサリビへ戻ったマルバたちをミスト・ランドが出迎える。
顔の上半分を覆う銀色のマスクをつけ、肩の高さで揃えられた黒髪を丁寧に下げるミストの声は、機械により変成されたものであり、年齢性別の判断はつかない。
服装も青を基調としたズボンとチョッキ、白いシャツに白手袋で覆われ、体型を推測するのは難しいものを着こなしている。
「ただいま、フミ…じゃない、ミスト」
「ここなら他所の目は気にしなくてもいいですぜ、クーデリアさん」
「いえ、普段から慣らしておかないと、どこで漏れるかわからないですから。ミストもそれでいいわね?」
「はい、全てはお嬢様のお心のままに」
「まあ、その件は今のうちに慣らしておかないとね。で、ミストさん、そのメールを見せてもらえるかな?」
ビスケットの言葉にフミタン・アドモス改めミストは頷き、ブリッジへと三人を導いた。
「おお、すまねえな大事な話のときに」
「大丈夫です。およその事は詰められましたので」
「そうか、なら早速その二つのメールを見て欲しいんだが、ダンテいけるか?」
「大丈夫です団長、時間順でいいすかね?」
「ああ、それで頼む」
今、イサリビのブリッジには、入ってきた四人以外にはオルガとダンテしかいない。
ユージンは昭弘、ハエダとタカキを連れ、新たに入手した鉄華団の強襲装甲艦、弐番艦カガリビで新メンバーの編成中であり、チャドは鉄雄とシノを連れ、クーデリアの影武者を務めるヤマギのサポートと護衛に回っており、不在だ。
ちなみに三日月はシュミレーターでの訓練漬けであり、『戦う以外ももっとしないと駄目』とアトラに注意されているところである。
『初めまして、鉄華団の諸君。私は月外縁軌道統合艦隊アリアンロッド、司令官のラスタル・エリオン。まずは諸君らの治安維持への協力活動へ感謝しよう』
ダンテによって再生された映像メールの出だしは、身なりの整った、髭のいかめしい中年のアップから始まった。
途中で映像を停止し、テイワズの情報資料からも本人で間違いないようであったので続きを確認した。
『よって、諸君らには後ほど感状と、記念品を送らせていただく。今後とも健勝であることを願う』
とそこまで告げて、メールは終わったかと思われたが、一度きれた画面に別の男性が映る。
『私はアリアンロッド副司令官、アリー・クジャン。このような形で申し訳ないが、急ぎ鉄華団の諸君に情報を送らせてもらう』
顎鬚を整えた、褐色の目つきの鋭い壮年男性が、アリアンロッドの一部のものが隊を抜け、私怨で鉄華団を狙っている、という情報を告げる。
彼らは、ドルト3での作戦行動を鉄華団に妨害されたと主張し鉄華団の拘束を訴えてきたが、それをアリーが諫め退けると逆上し、隊から逃走したとの事である。
『我々アリアンロッドとしては諸君らの活動を、なんら妨害する意図は無く、今もって彼らを捜索中である。だが、捜査の手が及ばずそちらに現われたならば、いかな処分をとろうとも、アリアンロッドは一切の関与はしない事を明言しておく。では良い旅を』
その言葉とともに、一つ目のメールは終了した。
「後はデータとして、今回の逃走者たちの情報リストが付随してます」
「ふん、なるほど。まあ次のメールも見てみようじゃねえか」
「では次のメール、再生します」
マルバの言葉を受け、ダンテが次のメールを画面に映し出す。
そこに映ったのは、以前もメールで見たグルーガ・ダルトン三佐の姿であった。
『再び知らせを送らせてもらう。ギャラルホルン統制局のグルーガ・ダルトン三佐だ。前回でステンジャ家の仇討ちが終わったので、次は我がダルトン家の番となる。ただ、私は見届け人としての任を受けている為に、弟のツヴァイ・ダルトン三尉に仇討ちを任せることになる。なお、助太刀としてギャラルホルン内部の有志が付くものとする。そちらの助太刀も随意にされるように』
そこまでを、平坦な口調で告げると一度言葉を切り、再び言葉を続ける。
『もし、弟ツヴァイ・ダルトンを返り討てば、今回の仇討ちは仕舞いとなる事を告げておく。私自身もツヴァイの生死に関わらず、諸君らには手出しはしない事をここに宣言する。以下に今回の日時と場所を同封する』
その続けられた言葉にも、感状の起伏を見せないままに、グルーガからのメールはそこで終了した。
「後は、先程のように付随したデータですね」
「で、この二つはほぼ同時に来たのか?」
「いえ、一つ目がドルト2に入った直後くらいで、もう一つが連絡入れる直前ですから一時間は開いてました」
「よっしゃ、じゃあ先のメールと合わせて、データの確認といくか」
マルバの指示で、ダンテは両方のメールのデータをこの場にいるもののタブレットと、ブリッジのモニターに送った。
「まずはアリアンロッドを抜けた人たちだけど、全部で九人か、多いような少ないような」
「後は、一人年齢の上の奴以外は、ほとんど若手ばかりなとこか、気になるのは」
一つ目のメールデータを一通り読み、ビスケットとオルガは感想を交し合う。
「それと、こいつら全員が、月面やコロニー出身というとこだな」
「それがどうしたんすか、顧問」
「サヴァランさんとのお話にあったのですが、地球に住む場所を持つものとそうでないものの間に、格差と差別があります。無論地球に住む側を上としているのです」
「まあ、火星に住む俺らへの態度からすれば、そうなんだろうな」
「で、そんな月面やコロニーの奴らが這い上がろうとするなら、商人として大成するか、ギャラルホルンでのし上がるか位なわけだ。そんな連中が、わざわざ上に逆らって組織を抜ける、ちょっと考えられねえな。俺なら石にかじりついてでも残ろうとするぜ」
「つまり、それほど僕らを恨んでいるか、若しくは誰か、例えば組織の上の命令?」
「そういうこったビスケット、後加えるならそうまでしても上の人の役に立ちたい、そう思っているかだな。どの道俺らには厄介なこったが」
最悪なのは、上に上げた三つの全てを満たした奴らだがな、とマルバは心中でつぶやくも、口には出さない。
そういう予想ができる程度には、オルガとビスケット、そしてクーデリアも頭の回転はあると確信しているからだ。
「じゃあ、その三つを同時に満たした連中がくると、想定して動くしかねえか」
「そうだねオルガ、最悪を考えておけば、いろいろと対策はできるからね」
「当初の予測どおり、アリアンロッドは表向き動かないようになった事を確認できただけ、よしとするべきですね」
そう会話を重ね、対策を練る三人を、マルバとミストは頼もしそうに見つめる。
ダンテは今一つわからないようであるが、空気を呼んで沈黙していた。
「そうすると、この仇討ち部隊と連携してくるかもしれないね」
「いえ、それは無いでしょうね、ビスケットさん」
「理由を聞いてもいいかな?クーデリアさん」
「仇討ち部隊が求めているのは私と顧問の命、そしてバルバトスですが、アリアンロッド離脱組はいまだその目的も不明です。それにメールのタイミングから妙です。両者が連動しているならば、アリー副司令がわざわざあのような発言をする必要がありません」
「つまり、逆を言えば、だ。俺らの主力が仇討ち部隊の相手をしている隙に、俺らにちょっかい出してくる可能性がでかいって事だな、クーデリア」
「そのほうが合理的で無駄が無いでしょう?」
「うん、確かに最悪の状況になるね」
若干首を傾げたクーデリアが指摘する最悪の状況に、オルガとビスケットは苦笑する。
誰の影響かは知らないが、悪辣な発想ができるようになったものだと二人は、マルバを見ると悪い笑顔で迎えられたので、すぐに目をそらす。
「ともかく、仇討ち部隊に対抗するには名瀬さんたちとも話さないとね」
「そうだな、また兄貴たちに世話掛けることになりそうだぜ」
とそこに通信コールが入り、ミストが素早く応対する。
「オルガ様、ハンマーヘッドから通信ですがお繋ぎしますか?」
「丁度いい、繋いでくれミスト」
オルガの了解を得て、ミストは通信を繋ぎ、スクリーンに通信相手の姿、洒脱な伊達男名瀬・タービンを映し出す。
『おお、ビスケットと顧問もいたか。丁度良かったぜ』
「どうかしましたか、兄貴」
『それがよ、地球のモンターク商会からの売り込みでな。何でもでかい商談があるんで、お前ら鉄華団に会いたいそうだぜ』
名瀬の言葉に、新たな面倒事の予感を感じるオルガとマルバであった。
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個人的には、アリアンロッドに喧嘩売るくらいなら、残りのギャラルホルン相手にしたほうがましだと思ってます。