マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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 次話投稿します。





減らない悩みは後回しだ

 「なるほどねえ、お前さんたちはよほどトラブルの女神に愛されてるみたいだな」

 「生身の女にゃ、もてねえんですがね」

 

 タービンズの旗艦ハンマーヘッドのブリッジで、マルバたちから説明を受けた名瀬は呆れ気味にそう言ったのを受け、マルバは大げさに肩をすくめる。

 幾分かでも、その場の雰囲気が緩和されたのを見て、同行したビスケットが口を開く。

 

 「というわけで、このアリアンロッド脱走組九人もこちらにくるものとして、作戦を練りたいんですけど、よろしいですか?」

 

 ビスケットの問いかけに、名瀬とアミダは頷いた。

 

 「今までは、偽装した二番艦カガリビにクーデリアさんの影武者を乗せて、地球の二つあるステーションのひとつに接近、そちらに人目を集めてるうちに、ドルトコロニーで用意してもらった降下艇で、オセアニア連合ミレニアム島近くのアフリカンユニオンの拠点まで降下、その後船舶でミレニアム島まで向かう予定でした」

 

 ビスケットは作戦用のスクリーンと自身のタブレットを同調させ、鉄華団の予定ルートの説明を始める。

 

 「ですが、仇討ち部隊と脱走組の出現で、この予定は変更せざるを得ないでしょう」

 「なるほど、九人とはいえギャラルホルン最精鋭のアリアンロッド隊員がどう動くか不明なせいだな?」

 「ええ、ドルトでサヴァラン兄さんの権限でわかるだけの情報を集めてもらいましたが、アリアンロッドの実戦経験は他と群を抜いて多いんですよ」

 

 ドルトコロニーでサヴァランの協力により、ギャラルホルン内部の情報は以前より多く、鉄華団にもたらされている。

 その結果、他のギャラルホルンの組織に比べ、著しく実戦経験の多いアリアンロッドの姿が浮き彫りにされていた。

 

 「コロニーや月面、火星から地球間の定期航路巡回を担ってるだけに馬鹿にできねえわけだ」

 「ええ、そうなんです兄貴。今までのギャラルホルンと同じに思っていい相手でもなさそうなんで、人手を別けすぎるのも不味いんです」

 「オルガの言うことに加えて、仇討ち部隊にも対応しないといけないわけです。平たく言うと人手が僕らだけでは足りなくて」

 

 すまなそうにビスケットは帽子のつばをいじりながら、頭を下げる。

 

 「いやいや、確かに仕事は地球圏まで送り届ける事だったがよ、もうお前ら鉄華団と俺らは兄弟分なんだ。当然力を貸すさ。なあアミダ?」

 「そうだね、それなりに長い付き合いだし、手のかかる弟たちにはお姉さんたちが助けてあげないとね」

 

 アミダと名瀬の言葉に、ブリッジにいたタービンズのクルー達は同意の声を掛ける。

 

 「そうそう、ほっとくと寝覚めよくないよ」

 「エーコとか、ラフタなんか喜んでついていきそうだしね。そういや最近ラフタも変わったよね」

 「あのガチムチ君のお陰かな。まあ、そんなわけでうちらは賛成だよ」

 

 一部に何らかの意図が見えるも、鉄華団への協力に否定的な意見は無かったことにオルガとビスケットは安堵の表情を浮かべる。

 そして、その後の話し合いで、地球降下の際にラフタ、アジーの二人と、メカニック担当としてエーコの、仇討ち部隊への助太刀としてアミダが加わることが、残存する鉄華団の護衛と協力をタービンズが受け持つことが決められていった。

 

 「まあ、正面からギャラルホルンとドンパチするわけじゃねえからな。これくらいはさせてもらうぜ」

 「ありがとうございます兄貴。仇討ちの奴らもここで型つけておかねえと、地球でやらかす事になりそうだったんで」

 「それなら、向こうの指定した場所で叩きのめそうって言うんだろ。それはいいが、三日月と昭弘だけいいのか?」

 「ええ、あいつら二人なら乱戦に持ち込めば、そう簡単に負けません。それにアミダ姐さんがアレで助太刀してくれたら鬼に金棒ですよ」

 「あら、随分と持ち上げてくれるわね?なら、たっぷりとサービスしてあげないとね」

 

 アミダの妖艶な笑みに、オルガとビスケットは思わず赤面するも、マルバは悪い笑みで返した。

 

 「ああ、それと昭弘が方天画の改良してほしいところがあるらしいんで、エーコさんのところに向かわせてもいいですかね?うちは今、バルバトスとマン・ロディの換装で手一杯でして」

 「おう、エーコは最近あのグシオン、だっけかアレの調整が終わったところで手は空いてるよな?」

 「そうだね、後は私が使ってみて微調整するだけだし、大丈夫だよ」

 「なら、お願いします。MSの扱いだとうちの雪之丞より、エーコさんのほうが慣れてますんで」

 

 名瀬とアミダの答えに、マルバは頭を下げる。

 ヒューマンデブリらのまとめ役をやっていた昭弘に、マルバはオルガの次くらいには気に掛けている自分に、特に疑問を感じてはいなかった。

 

 「とりあえずの対策はすんだか、じゃあ次は連絡してきたモンターク商会とかいうやつらの件だな。あと半日もしないでこちらに来れるそうだが、どうするよ?会ってみるならセッティングするぜ?」

 

 そう名瀬は、鉄華団の三人へと問いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 「初めまして、鉄華団の皆様。モンターク商会の代表、アルベルト・モンタークです」

 「シグルド・モンターク、モンターク商会の顧問です」

 

 ハンマーヘッドの応接間にて、金髪碧眼の四十代の紳士然とした男と、くすんだ灰色の長髪と顔の上半分を金属の面で覆った男二人はそう名乗った。

 応接テーブルを挟んで対面しているのは、オルガ、マルバ、ビスケットに加えクーデリアが同席し、両者の間を取り持つように名瀬とアミダが席についている。

 結局、マルバたちはモンターク商会との会合を了承した。

 より多くの情報や協力の欲しい現状で、地球圏の商会との顔つなぎの機会は、多少怪しくても欲しかったからである。

 予想よりも大分怪しい風体の人物が約一名いたが、所作と服装は両者ともに全て洗練されており、クーデリアは高い教養を、マルバとオルガはその隙の無さを、ビスケットは高い資金力を感じていた。

 

 「まずは名瀬様の仲介に感謝を。そして鉄華団の皆様には、対面の機会をお礼申し上げます」

 「ご丁寧にありがとうございます。失礼な事をお尋ねしますが、お二人はご兄弟でしょうか?」

 

 そして、こういう手合いには一番慣れているクーデリアが、まず応じることにしている。

 

 「血の繋がりは無いですが、縁あって義兄弟となりましてね。人の出会いとはわからないものですよ、そうでしょうクーデリア様?」

 「ええ、おっしゃるとおりですね。すみません、話を続けましょうか」

 

 少々の世間話でお互いの背景を探りあった後に、アルベルトは本題を切り出した。

 彼らモンターク商会が望むのは、火星でのハーフメタル採掘利権にモンターク商会を参加させてもらうことであり、その代金として地球降下後の物資供給、情報提供を行うというものであった。

 

 「要求に対して、代金が大きすぎませんか?」

 「いえいえ、この話が纏まれば、我々モンタークが地球圏で初の参画者として他社に優位に立てます。その価値は計り知れないものですよ」

 「それはわかりますが、正直商会の屋台骨を揺るがしかねない程の行為ですよ?百年以上の伝統ある商会にしては博打が過ぎませんか?」

 「その点ですか…私の恥にもなるのでこの場だけにして欲しいのですが、よろしいですか?」

 

 アルベルトはビスケットの問いに、少しの思考の後にそう告げ、その場の人々からの了承を受け語りだした。

 

 「先代に拾われるまで、私自身は浮浪者同然の身でしてね。その原因がギャラルホルン上層部のある人物のせいでした。そして、先代のお陰で今日の地位についた私は、同じようにギャラルホルンに虐げられた者たちを密かに集め、機会を窺っていたのです。ギャラルホルンに一泡吹かせる機会を。それが今ということです」

 

  具体的な事柄はアルベルトは語らなかったが、その言葉にこもる情念は彼の言葉が真実であると、その場のものたちに伝えてきているのを感じさせるものであった。

 

 「ですので、まずはお近づきの印として、近々MS同士でやりあうご予定があるでしょう?そこに我々の戦力で最高の、隣のシグルトと『ブリュンヒルデ』をお貸ししましょう」

 「どこでその話を聞きやしたか?」

 「何、当人らは語らずとも周辺の雀共のさえずりはよく聞こえますのでね」

 

 マルバの凄みを利かせた問いを、アルベルトは涼しく流す。

 

 「シグルト、それで構わないですね?」

 「ええ、義兄上。我らの力をギャラルホルンの連中に見せ付けるいい機会でしょう」

 

 アルベルトの問いに、シグルトと名乗る仮面の男は不動の自信を滲ませてで平然と応じた。

 そのシグルトの背後に何か恐ろしいものの気配を感じつつも、マルバはこの協力を断る不利益を見出すことができないのであった。

 

 

 

 

 

 




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 仮面の男、シグルド・モンターク!その正体とは?待て次号!



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