補足 MWバトル:火星での数少ない娯楽のひとつ。
MW同士の戦いを観戦して楽しむ。
裏では勝ち負けをかけた博打を、大手組織が仕切っている。
イメージとしては第二次大戦後のプロレス。
マルバの運転する車両で、オルガと三日月の連れて行かれた場所は、市街のはずれにある空き地であった。
そこでは柵で囲われた大きな円形の空間がつくられ、その空間を中心に小さい天幕や、組み立て式の店舗が、多くの人々によって組み立てられていた。
あるものは端末を片手に周囲のものに指示を出し、またあるものはMWの集められた天幕で。MWに新たな塗装や装飾を施したりと忙しげに動いている。
「社長。ここはなんかするんですか?」
「ああ、夕方からここで興行をすんだよ」
「えっと、あそこのMWを使うやつ?」
「おお、よく見てんなオルガ!MWを使ったバトルの興行だ」
「へえ、そんなのがあるんだ」
「ああ、これくらいの規模でできるのはここ最近、でだがな」
マルバはかいつまんで、オルガと三日月にMWバトルについて説明をする。
組織間での揉め事の解決方法の一つ、として行われていたMWを使った一対一の決闘。
それにショーとしての可能性が見出され、色々な決闘方法が派生したのだ。
「今晩にやるのは、ショーの要素が大きいやつだな。弾はペイント弾をつかうし、MW同士をぶつけ合って相手を動けなくすれば勝ちだ。それでもMW同士がぶつかり合うからな、それなりの迫力はある」
「成る程、でここに来たのは、ここの警備の仕事か何かの打ち合わせすか?」
「いや、俺が選手として出るんだよ」
「え?」
マルバの答えに、オルガと三日月は同時に驚きの声を挙げた。
『本日のセミファイナル!流星・スミス選手対Mrギャラルコング選手の入場です!』
夜深くにも拘らず、MWバトルの会場は大勢の人で賑わっている。
その中で、次の試合がコールされると、人々の声はいっそう大きくなった。
一方は白を基調に流れ星がペイントされたMW、一方は紫を基調にどこかギャラルホルン、現在世界を支配している軍事組織、のものに似た紋章がペイントされた機体が、柵で囲まれた試合場に現われる。
両者とも使用している機体は、CGSでも使用しているTK-53型という、旧型機の正面に衝突角をつけたものであるが、観客の反応は対照的であった。
「がんばれ!流星!」
「くたばれ!ギャラルコング!」
大別して流星のペイントされたほうには歓声と応援が、ギャラルホルン似の紋章をつけた機体には罵声と怨嗟が集中して送られていた。
更に入場した流星選手が周囲の観客に応える様に、試合場の中を周回しているところへ、ギャラルコング選手が不意にペイント弾を発射し、背後のエンジン部へと命中させた。
試合中ならば、エンジン部にペイント弾を命中させれば、そこで命中させたほうの勝利であるが、試合前ではただの弾薬の無駄使いである。
だがそのフライングの効果は劇的であり、観客からのブーイングが飛び交い、試合開始前から盛り上がりを見せていた。
「ねえ、オルガ、あの何とかコングに乗ってるの社長だよね?」
「ああ、さっきの話だとそうなるな」
「社長もMW使えたんだね」
「そうだぜ、マルバも昔は傭兵だったからな。一通りの武器の扱いは出来る」
「そうなんですか、えーと、名瀬さん」
試合の様子をオルガと三日月は、普通の観客席より高い場所へ天幕付きで作られた、特別観客席で観戦していた。
その横には試合前に紹介された、タービンズの名瀬・タービンとその護衛の女性二名も共にである。
「うちの兄弟から頼まれてね。興行をするのに丁度いい悪役が出来る人材がいない、ということでマルバに相談してな。引き受けてもらったのさ」
「はあ、でも操縦の腕とかなら、他にも人はいたんじゃないですか?」
「いやいや、こういうものは腕が立つ、というだけでできるもんじゃあないんだよ、オルガくん」
チッチッチと指を左右に動かして、名瀬はオルガと三日月に笑顔で話しかける。
「いいかい、MWの操縦がそれなりに出来て、対戦相手への配慮ができる悪役ってのはすごい貴重だよ、こういう世界だとな。見せ場を作りつつ、安全にも配慮しなくちゃあいけない」
「結構、やることが多いんですね」
「俺には無理かも」
「こういう加減は、色々な経験を重ねないと難しいもんだ。善玉を作るよりも受ける悪役、かつ相手に華を持たせるように終わらせるってのは」
そういう名瀬の目の前にある試合場では、いつの間にか追い詰められたギャラルコングが流星に対して、命乞いの声を挙げているところだった。
その命乞いを受けて、流星の機体が後ろを向いた瞬間に
『馬鹿が!死ねえ!』
と叫んで、衝突角を背後から流星に突きたてようとするギャラルコング。
が、その攻撃は流星の機体が急旋回したことで回避され、衝突角が試合場を作る柵に突き刺さり、ギャラルコングは身動きが取れなくなる。
何とか脱出しようともがくギャラルコングに、流星が雄たけびと共にペイント弾を射出、見事エンジン部に命中させて試合は終了した。
会場は盛り上がり、罵声と歓声の中、最後の試合への期待を観客達は高めていった。
「あー、いてて、首がムチウチになっちまうぜ」
「あ、お疲れさんです、社長」
「お疲れ、マルバ。いい仕事だったよ」
「ああ、名瀬さんもどうもありがとうございます」
「いやいや、これで俺らの面子も立つってもんだ。例の件も、何とかできると思うから期待していてくれ」
「分かりました。これからもよろしく頼みます」
暫くして、特別観客席にやってきたマルバを、名瀬とオルガたちが迎えて労いの言葉と、いくらかの酒と軽食を振舞う。
そのうちに、最後の試合も盛り上がりのうちに終わり、解散の運びとなった。
「ああ、そこの二人、ちゃんと社長を送ってくれよ?」
「はい、わかってます」
「うん、いや、はい」
「では、今後も頼みます。失礼します」
運転をオルガに任せ助手席に三日月が、マルバが後部座席に座り、CGSへと帰宅する。
「あの、社長なんでMWバトルって奴に出たんです?」
帰宅の途中、オルガは疑問に思っていたことを、マルバにぶつけた。
「ああ、それか。元々地元で手配してた悪役をする奴がな、名瀬さんの護衛の女性にちょっかいを出してな。まあ、そのアホは火星の大地に帰ってもらったんだが、その穴埋めってやつだ」
オルガは名瀬の両脇を固めていた美女達のことを思い出し、なるほどと納得する。
と同時に、その元悪役の軽率さに呆れもする。
「タービンズって,あのテイワズ直参なんですよね?そこのもんにちょっかいって、ちょっと信じられないです」
「ああ、おかげで興行主は真っ青だ。幸い名瀬さんは、話の出来る人だからな。そいつの命と多少の示談金で話はついたし、興行もそのままそいつが行えることになったからな」
「俺としては、いい取引だったさ。新しい仕事は増えたし、タービンズとのコネも出来た。これで俺に万が一があっても、名瀬さんに後を頼める」
「万が一って…縁起でもないですよ、社長」
「社長は殺しても死ななそうだけど」
「おい、ミカ!失礼だろ!」
三日月の言葉に、マルバは笑う。
「ハッ、俺も死ぬ気はないさ。だが万が一に備えておくのも大事だ。特に人を使ってる奴はな、そうだろオルガ?」
「そうすね、うん。そう思います」
肯くオルガの後頭部をみながら、マルバは心の中でつぶやく。
(それに地下のアレ、まともに動かすにはテイワズさんとこの力がいるからな)
時にPD321年3月の事であった。
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一期でユージンとシノが無事だったのは、子供扱いだったからと思ってください。
ヤ○ザの情婦にちょっかいだすとか、怖いもの知らずですよね。