補足 方天画・激…方天画にグシオンルージュへの改装の際に、余剰になった装甲を各部に取り付け、エーコ・タービンの手によりサブアーム機構に手を加え、追加アーム二本を増設した。
機動力は若干落ちるも、元来のテイワズフレームの高出力を損なうほどではなく、装甲強化による頑強性を手に入れる。
方天画に比べて一回りマッシブ感を増し、追加アームの操縦が阿頼耶識システム前提な事も加わり、昭弘専用機に近づいた。
ゲイレールが一機、ブリュンヒルデのスピアに貫かれるのとほぼ同時に、ツヴァイはアドラーグレイズの機構を作動させる。
アドラーグレイズの下半身が半回転し、脚部に格納されていた大型クローを展開させるアドラーグレイズに驚きからか、バルバトスはの動きが一瞬止まる。
が、その一瞬でバルバトスにアドラーグレイズが肉薄するには充分な時間であった。
『隙ありだ!』
『っ!しまっ!』
三日月は咄嗟に、バルバトスの手にしたメイスを振るうも、ツヴァイはアドラーグレイズを直前で急速に上方へと、全身のスラスター駆動を駆使して方向を転換させメイスを回避する。
『ぐぶ!』
当然のように生じる急激なG変化による嘔吐感と目眩を、ツヴァイは必死に押さえる。
訓練での経験と直感から、ここで堪えて決めなければこの強敵相手に勝利は掴めないと、ツヴァイは確信していたからだ。
ツヴァイはそのままアドラーグレイズを操作し、バルバトスの頭上へと足からの急降下を放ち、振り回したメイスを再度構えなおしていたバルバトスの両肩を、アドラーグレイズの大型クローで捕らえることを成功させた。
『捕らえた!このまま!』
続けざまツヴァイはアドラーグレイズの両腕を操り、両手に握られたアックスで、バルバトスを搭乗者の三日月ごと脳天からかち割ろうと大きく振りかぶる。
『させない、よっ!』
『何…だと!?』
が、相手は阿頼耶識システム以外にも天性の戦闘センスを備えた三日月・オーガス。
瞬時にバルバトスのアドラーグレイズの大型クローが食込んだ両肩の装甲をパージさせ、攻撃を加えようとしていたアドラーグレイズのバランスを崩させる。
さらに、隙をさらしたアドラーグレイズのコクピットに、手にしたメイスを素早く押し当てる。
『終わりだ』
『くっ、ぐああ!』
次の瞬間にメイスから射出させたパイルバンカーがアドラーグレイズを貫く。
わずかながらに、アドラーグレイズの身を逸らし致命を避けられたのは、ツヴァイの瞬時の判断が功を奏したといえたが、もはや戦闘を継続できない程度にはアドラーグレイズは破損していた。
距離をとり、メイスを構えるバルバトスの前でコクピットブロックを射出させ、アドラーグレイズは停止したのであった。
『両者、それまで!今回のダルトン家による仇討ちはダルトン家の返り討ちで決着とする!』
共通回線で鉄華団、ダルトン家の両者へグルーガの乗るシュヴァルベ・グレイズからの宣告が届き、地球を目前としたダルトン家の仇討ち戦は終了を告げた。
この時点で生き残っていたダルトン家の戦力は中ば破壊され、かろうじて動くゲイレール二機のみであり、彼らはツヴァイの乗るコクピットブロックを回収するとそのままロックドラス級戦艦へと帰っていく。
『では、討ち取られたものの処遇はそちらにお任せするが、どうされるか?』
『機体はこっちでもらうけど、遺品なり遺体はそっちに返すから、持ち帰って手厚く葬るなりしなよ』
『…了解した。厚情を感謝する』
平坦な口調のグルーガからの通信に、カガリビの艦長を務めていたユージンからの回答が返され、ロックドラス級戦艦の艦長らしき人物からの返信によりこの場の処理が進められる。
密かに、カガリビ内で待機していたシノの流星号の手伝いもあり、それらの作業は比較して迅速に進められ、イサリビとハンマーヘッドからの積み込みを終えた降下船二隻が到着する頃には、全ての作業を終了させていた。
『皆、ご苦労だった。一人も怪我が無くてよかったぜ。疲れているところ悪いが、これから機体を積み込んだらすぐに地球へ降りるぞ。そこの、シグルドさんだったか、それで大丈夫なんだな?』
『ええ、今の地外艦隊の司令官は、よく知る人物でしてね。話は通してあります』
『なら、信用して俺達はこのまま、ミレニアム島への降下に入らせてもらうぞ』
『勿論です。それで一つお願いなのですが、あのアドラーグレイズ、我々に譲っていただけませんか?珍しい機体には目が無いものでして』
『…まあ、あんたらには色々と用立ててもらっているし、後三機ぐらいは譲渡しても構わねえ』
『いえいえ、一機だけで結構です。只の俺の我侭ですから。仇討ち後の分配は、問題ないですね、グルーガ殿』
『…仇討ち終了後については、当事者同士で決めればいい事だ。立会人としては別段問題は無いと判断する』
『では頂戴いたします』
その場に到着したオルガに、シグルドは求められた要求が通り、残りのゲイレールはカガリビの格納庫と、貨物室へと詰め込まれる。
稼動する機体としてではなく、荷物としての搭載は問題は無く、今後の鉄華団とタービンズの財産として、ゲイレールたちは役に立つことになるであろう。
『では、私はここで迎えの船を待ちますので、鉄華団の皆さんはどうぞ地球へと向かってください』
『そうか、じゃあこれからもよろしく頼むぜ、シグルドさん』
『じゃあ、またね。えーっと今は仮面の人?』
『ハハハ、三日月君。今はそれで頼むよ』
『わかった、じゃあね』
会話を終え、一路地球へと向かう降下船二隻とイサリビとの合流を目指す鉄華団たち、遺品とツヴァイらを回収したロックドラス級戦艦の姿が見えなくなったのを見計らい、グルーガの乗るシュヴァルベ・グレイズから、シグルドの乗るブリュンヒルデに通信が入る。
接触通信によるものであり、他に通信が漏れる事はエイハブリアクターの特性上ほぼ皆無だ。
『父上からの伝言です。ツヴァイの帰還後、その戦闘データのフィードバックをもって『例の機体』の準備が整う、『標的』の正確な場所を常に把握しておけ、との事です』
『フッ、ギザロ殿も恐ろしい人だ。自分の息子たちすら、目的の為の手駒でしかないのだからな』
『我々は父上の為とあらば、全てを使われようと本望かつ光栄です。父上の悪口は止めて頂きたい』
『すまない、そのような意図は無かったのだ。俺とて、人のことを言える立場ではないからな。さて、伝言は受けとったし返事を返しておこうか?』
『結構です。父上は貴方のミスが無ければ、問題は無いとお考えですので、その点だけをお忘れなきよう』
『了解した、ならば精々上手く踊らせて貰うとしよう』
と、近くにモンターク商会の艦の反応を確認した両者は離れ、シグルドはブリュンヒルデによりアドラーグレイズを曳航しつつ、艦へと帰還する。
「英雄気取りの私生児めが、精々父上の役に立ち、そして死ね、マクギリス・ファリド」
「狂った科学者に仕える忠犬、グルーガ・ダルトンか。俺の世界には要らないな」
それを見送るグルーガは、機体の中で誰に聞かれる事無く、静かなそれでいて深い侮蔑の感情を込めて一人呟き、シグルドも機体の中で、楽しげな笑みを浮かべつつ不要なゴミでも捨てるような気軽さで、そう呟いたのであった。
「よう来なさった、クーデリアさんと鉄華団の皆さん」
地球へと降下した鉄華団一同は、夕暮れ近くにミレニアム島付近へと無事到着し、蒔苗東護ノ介の秘書の一人からの出迎えを受け、島内の航空施設一帯を借り受けることができた。
その日はその施設へと降下船の荷物を運び込み、MS等の整備と換装に当てられる事となり、蒔苗との会合は翌日に行われる運びとなった。
自分の名にされた月を見上げる三日月に、寄り添うクーデリアとアトラ、流星号の整備で顔を付き合わせ続けるシノとヤマギ、百錬を改装した漏影(ろうえい)を自慢するラフタに付き合う昭弘と昌弘等、それぞれの時間を過ごすうちに日は変わり、蒔苗との会談へとオルガたちが向かう運びとなり、最初の歓迎の台詞にクーデリアやオルガ、ビスケットなどはほっとした表情を浮かべる。
が、マルバとミストは表情を変えず、次の言葉を待つ。
経験上、最初に歓迎してくる手合いは、次に厄介ごとを持ち込んでくることが多いからだ。
「というわけで、今のワシにアーブラウとクリュセの間の事をどうこうする力は無いんじゃよ」
そう締めくくった蒔苗の言葉は、クーデリアに軽い絶望を抱かせる。
会談の相手が、収賄疑惑をかけられ療養を理由にアーブラウを離れ、ここオセアニア連邦のミレニアム島に逃亡しているという事実を知ったためだ。
既に代表でもないこの老人に会う為に、今まで苦労をしてきたと思えば、そういう状態になるのもやむをえないことであろう。
「で、蒔苗さんよ、そんな与太話する為だけに俺らを呼んだわけじゃねえだろ、話を続けなよ」
「おう、お前さんは話が早いな。オルガ・イツカ君だったかな」
我が意を得たりとばかりに膝を叩き、蒔苗は話を続ける。
曰く、収賄疑惑は捏造であり、今度行われるアーブラウ代表指名選挙に当選すれば、覆すのは容易であるから、自分を代表指名選挙の開催されるエドモントンまで送り届けて欲しいということである。
「立候補するとされてる、アンリ・フリュウ。全てはあの女狐が、ギャラルホルンの一部と組んで仕組んだ事ゆえ、ワシが再選されれば全ての問題は解決という事じゃよ」
「成る程、確かに解決しやすな。じゃあ、商談といこうじゃねえですか」
蒔苗のこともなげに語られた無理難題の説明を受け、マルバは不敵に笑い、そう告げたのであった。
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「今日の三日月さんは女もツインドライブだね、ライド!」
「やっぱすげえよな、三日月さんは!」
一方のオルガは、次の日に備える為に、マルバとビスケットのツインドライブだった。