マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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次話投稿します。

独自設定ばかりの上に、常より長文になりましたことをご容赦ください。






幕間 七星、栄光の光と挫折の影

 早朝のセブンスターズの本拠地、海上基地ヴィーンゴールヴのファリド家にて。

 

 「今日もよい朝だ。さあ、起きなさい」

 「う…ハイ」

 

 ファリド家の現当主にしてギャラルホルン統制局、地球本部司令官代行たるイズナリオはベッドの上で横たわる、昨晩自身の相手を務め、肢体の所々にあざを残す美少年を目で愛でつつ、今後の方針について思いを馳せる。

 イズナリオは、セブンスターズの一角を担う程度に優れた才覚を有しているが、美少年を甚振ることで、性的興奮を得る変態性欲の持ち主である。

 

 「務めご苦労であった。今日はゆっくりと養生しなさい」

 「ハイ…ありがとうございます」

 

 とはいえ、現状は数名のタイプの異なる美少年達を、当番制で相手をさせているだけ、以前の彼よりはましである。

 とある少年が来るまでは、一人の美少年を壊しきるまで痛めつけ、壊れたらまた次の美少年をというおぞましいサイクルを回していたからだ。

 ある時に、戯れで街の高級娼館で買い求めた少年、マクギリスと出会い、その美しさと知性を秘めた瞳の強さに、イズナリオは惚れこんだ。

 

 「あのマクギリスを、養子としてファリド家に迎え入れる手配をせよ」

 

 数日入り浸った高級娼館から帰ったイズナリオは、家臣たちを集めそう言い放った。

 一斉に反対を口にする者たちを、数名見せしめとして処分した後に、もう一度同じことを告げると、もはや誰も反対するものはいなかった。

 その後に、マクギリス一人に自身の相手をさせて、壊す事を惜しんだイズナリオは、複数の美少年を同時に屋敷に囲い込み、当番制で自身の相手をさせるようになり、それが現在まで続いている。

 

 「当主様、朝食の準備が整いました」

 「うむ」

 

 当番の美少年が退出し、暫く後に家宰を務める者が、ベッドの惨状を無視し入出して告げる。

 同時に、家付きのメイドたちが一例の後に入室し、イズナリオの服を寝巻きからギャラルホルンの制服へと着替えさせる。

 イズナリオはそれを当然のように受けて佇む。

 

 「急がずとも良い。今日の出立には充分余裕がある故な」

 「ハ、ハイ!申し訳ありません」

 

 途中着せ替えに戸惑う新人メイドに対して、声を掛ける気遣いを見せるイズナリオは、その性癖を除けば充分に仕えるに値する人物であった。

 

 「今日からアーブラウに向かう。暫くはお前に家を預ける」

 「承りましてございます」

 

 マクギリスがファリド家に来る以前、末の息子をイズナリオに壊されつつも、動揺なく仕え続けた初老の家宰はイズナリオの言葉に頭を下げる。

 セブンスターズの一角を担うイズナリオの暴虐を止めるものは、もはやこの家には存在しないかの有様に、イズナリオは優雅な笑みを浮かべる。

 マクギリスを養子に迎えて以降、イズナリオの人生は順風に近い。

 監査局を司るボードウィン家ともマクギリスを使う事で縁を結び、地球本部司令官の地位もイシュー家当主の難病による退位で転がり込んできた。

 そして、これから向かうアーブラウにて、自身の手駒であるアンリ・フリュウ、元ギャラルホルン高級将校を祖にもつ人物を代表の地位に据えれば、ほぼ磐石といえる権力が己の手に入るのだ。

 その際に、マクギリスが自ら技術開発部と交渉をし、ギャラルホルンの威光を示すのに相応しい新型MSを発表する手はずを整えてくれているという。

 

 虎に翼とは、このことだな。

 

 心中でそうつぶやき、マクギリスの次にお気に入りの美少年を連れ、高揚した気分で家を発ったイズナリオ。

 マクギリスや、家宰、隣に連れた美少年の眼に宿る静かな深い憎悪の炎に、気がつかない。

 その翼が、イカロスの翼のように限定期間しか飛べないものであることに、気がつかない。

 

 

 

 

 同時刻、アリアンロッドの月面本部基地ティル・ナ・ノーグの司令官室にて。

 アリアンロッド司令官である、ラスタル・エリオンと副司令であるアリー・クジャンの余人を交えない会議が行われている。

 

 「で、どうだったアリー。あの鉄華団という連中は?」

 「見事なものだ。例の仇討ち部隊の動きに合わせて、一番手薄な時を狙い襲わせたが、見事撃退してのけたぞ」

 「そうか!ならばイズナリオの動きの牽制、あわよくば頓挫まで狙えそうだな」

 「そうだが、そう嬉しそうな顔はするなラスタル。表向きはアリアンロッドを脱走した者たちの仕業という事になっている。誰の耳目があるとも限らん」

 「ハハハ、いつもながら用心深いことだな、アリー」

 

 そういいつつも笑顔を崩さないラスタルに、アリーは苦笑する。

 今回の偽装脱走者を使った計画の目的は主に二つ。

 一つはドルトコロニーでのアリアンロッドによる暴動鎮圧作戦を逆手にとった鉄華団の、対応能力を見るためでありその目的は完遂され、満足な結果が出せた。

 たとえ三名の隊員が戦死したとしても、今後の展開を予測する為の情報を得る、その目的は果たされたからだ。

 そしてもう一つの目的が、地球で活動するアリアンロッド密偵部隊員の増員である。

 鉄華団に送り込んだ六名は技量にやや不安があった為に、試金石として鉄華団に宛がい、生き延びたものを正式に採用することを定めていた。

 

 「先に送り出した四名に、鉄華団との戦闘を生き延びた三名。これで活動に支障はでるまい」

 「アリーの人選なら問題はないな。しかし、イズナリオでなくマクギリスの小僧にしてやられていたとはな。ただのアグニカ大好きっこではなかったか」

 

 月面に拠点を持つアリアンロッドを代々指揮するエリオン家とクジャン家は、能力があり高い忠誠心を持つアリアンロッド隊員を選抜し、その身分に関わらず厚く遇している密偵部隊を、他のセブンスターズにも秘密にして編成している。

 ギャラルホルンの身分を捨て、同じ組織からも命を狙われる危険もある任務をこなす部隊であるが、退職時より二階級上のものと同じ俸給と待遇、殉職時の遺族へに二十年の生活保障、当主らとの直接面談を約束されている。

 この密偵部隊はスカサハの弟子達と呼ばれ、アリアンロッド内では密かに『栄光無きされど名誉ある部隊』として浸透しており、指名されたもので着任を断るものは、皆無に近い。

 その精鋭らが、同じくファリド家の有する、マクギリス率いる密偵組織の手により、不自然な逮捕や事故死等の手段により、少なくない数を減らされていたのだ。

 

 「ああ、昔はどこにいてもアグニカ・カイエル物語を読み耽っていた子供が、大きくなったものだな」

 「その言い方は止せ。俺達が年寄りみたいではないか」

 「俺達とて永遠に生きるわけでもないぞ。特にラスタル、お前はそろそろ後継者を決めておくべきではないかな?」

 「相応しい者がいればそうする。あのイズナリオのように養子という手でもな。奴の稚児趣味には賛同できんが」

 

 そう嘯くラスタルは、実際未だに後継者を定めていない。

 当主と司令官を兼任できる人物という、ラスタルの要求が高いという面もあったが、今の候補者らは何れも才覚が小粒であり、配下には良いが自身の後継とするには足りないものばかりでもあった。

 

 「そういえば息子が、私の似顔絵を書いてくれたのだが、見るか?」

 「おい、今は公務中だ。ほどほどにしておけ」

 

 一方のアリーにも問題はある。

 後継者は既に一人息子のイオクと決まっていたが、アリーは息子を溺愛しているという点である。

 最愛の妻との一粒種であり、妻に良く似た顔立ちの息子を愛さないはずはないのだが、名君、名指揮官と呼ばれるアリーの冷徹な面が息子のイオクには一切発現せず、ただひたすらに彼を甘やかした。

 その結果、イオクは善良ではあるが、酷く幼児性を残した青年へと成り果てていた。

 ラスタルからしてみれば、折角の人材を不法投棄しているようなものであると感じられたが、近しいとはいえ他家の教育方針に首を突っ込むわけにもいかず、精々後に矯正せねばと、心中で誓う程度に留める。

 

 「ともかく、今回のアーブラウ代表選挙、これがどうなるかで今後の我々の方針も変わるというものだ。部下達の引き締めを頼むぞアリー」

 「無論、アンリが落選後には速やかにイズナリオの勢力をそぐ準備はしてある。だが、それ以外は監視程度でいいのか?もっと積極的な工作をするべきではないか?」

 

 息子以外には冷徹な判断を下せるアリーの言葉に、ラスタルはにやりと笑う。

 

 「技術開発部のあの男が動くらしいからな。もはや、上にファルクの七光りがいる状態に我慢がならんそうだ」

 「成る程、それであれば問題は無いか。精々速やかな事後の事態収拾に協力すればよいな」

 「そうだ、さてこの件はこれくらいでよかろう。では次の議題に移ろう」

 

 その後も続く議題の中で、鉄華団への贈り物として、大量の冷凍保存した牛肉を送る事も決定され、後日受け取ったユージンが処分に頭を抱えたという。

 

 

 

 

 新設された火星統制統合艦隊の本拠地、軌道衛星基地アーレスの司令官室にて。

 新たに着任した、カルタ・イシュー准将が、ガエリオ・ボードウィン特務三佐より任務引継ぎの為に、現状の説明を受けていた。

 

 「わかりました、ガエリオ坊やにしてはよくやってたわね。もう少しひどい事になっていると持っていたわ」

 「これでも、マクギリスに任された身だからね。色々な人の手を借りて何とかしてきたよ。正直武官のほうが気楽で良かったんだが」

 

 そうにこやかに告げるガエリオの顔は若干不健康に青ざめており、口には出さないが、前任者であるコーラル・コンラッドの不始末の尻拭いに奔走していた事が、カルタにもわかった。

 

 「結局処分したのは、コーラルとやらと癒着の激しかったオルクス商会他三つの商会の取り潰しだけなのね」

 「手持ちの人材では、各自治政府内部までは手が届かなくてね。まあ、取り潰した商会からいくらかまともな人材も引き入れたから、今は最低よりは大分ましだ」

 「良く、そこまで気が回ったわね。副官になったゼント特務三尉のお陰かしら?」

 

 そういってカルタは、アーレス到着時にガエリオと自分を出迎えた副官のクランク・ゼントの顔を思い浮かべる。

 クランク当人は、現在どこかしらマクギリスに似た容姿の特徴を持つ、カルタの親衛隊員らとシミュレーション戦で親睦を深めている。

 激しい決闘の末に敗北した相手に下り、不義のあった自らの上司と刃を交えたという、クランクの経歴が、カルタ配下たちの心の琴線が触れたようであり、階級を問わない尊敬を集め、戸惑っていたなとも思い出す。

 

 「いや、クランクも俺と似たような無骨者だからな。火星の民間人が協力してくれたんだ」

 「ふうん、随分と信用しているのね。火星人がーとか言って毛嫌いしてそうだったのに」

 「いや、地球にいたころの俺は狭量だったと反省するばかりさ」

 

 そう照れるガエリオを、弟の成長を喜ぶ姉のような顔になったカルタはすぐに顔を引き締める。

 

 「そういう人物は今後も必要そうね。資料をまとめて頂戴」

 「そういうと思って用意してある。この男だ」

 

 ガエリオは手持ちのタブレットを操作し、カルタの座るデスクのモニターにとある人物を映し出す。

 

 「今は、地上基地の非常勤隊員扱いにしている。本業と兼任だからその点は注意してやって欲しい」

 「ふうん、デクスター・キュラスター、ね。わかったわ」

 

 カルタはモニターに映る、善良そうな眼鏡をかけて笑みを浮かべる中年男性の顔を見ながら、そう呟いたのであった。

 この日から、カルタの新しい任務の日々は始まる。

 

 

 

 

 「さて、後はガロウ様のご決断のみでございます」

 

 イシュー家の奥まった当主の間、そこにある豪奢なベッドに横たわり、浅い呼吸を繰り返すやせ衰えた顔色の蒼白な老人、イシュー家当主にして前地球本部司令官であるガロウ・イシューに対して、何の感情を感じさせない声で、ダルトン家当主にして技術開発部副長であるギザロ・ダルトンは告げるのであった。

 

 

 

 

 




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 デクスター「ついでに溢れた人材もうちに引き込んで、一石二鳥でした」
 ルイス「僕がみっちり教育してあげるから、安心してね」

 火星に残ったおっさん達も怖い。


 

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