マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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次話投稿します。


補足:スリングショット傭兵団…スリン・スリングとジョブ・ショットにより結成されたヒューマンデブリらによる傭兵団。
 スリンとジョブが、ドルトコロニーとは異なるコロニー出身者で通学経験もあったことから所有者に重用(酷使)され、色々な経験を経て後に仲間達と所有者を始末し、その財産を手に入れたことが始まりであった。
 その後、ブルワーズに吸収され、そのブルワーズが崩壊したことにより鉄華団に参加する。





目指す先は、はるか先

 「さあて、これで少しは時間が稼げるぜ」

 「お疲れ様です顧問」

 

 現在、マルバたち鉄華団はミレニアム島に設置された、航空施設を一つ間借りしている。

 その施設の一角に、地球に下りた鉄華団の頭脳担当といえる者たちが集う。

 マルバ、オルガ、ビスケットの元CGS組に加え、クーデリアとミスト、スリングショット傭兵団の元リーダーのスリン・スリングと元金庫番のジョブ・ショットが参加し、部屋の外では、三日月が警護に当たっている。

 

 「おやっさんはMSの整備で不参加として、メリビットさんは呼ばなくて良かったのオルガ?」

 「まあ、あの人はまだまだテイワズの人だからな、まずは鉄華団としての方針を決めてから報告するほうがいいだろ」

 「そんな席に新参の俺らを呼んでくれたのは、ありがてえがよ。なあ、ジョブ」

 「つまり、それだけ厄介な事。だろ?団長さん方」

 

 スリンの問いに、かつての地球の中南米で良く見られた人種の特徴の顔立ちをし、眼鏡をかけたドレッドパーマの男、ジョブが応じる。

 

 「そういうこった、これからの鉄華団がどうなるかがかかってるからよ」

 「ほらね、重大事。勿論スリンも俺も否応無しでやるしかない」

 「じゃあ皆さん、まずは蒔苗前代表との話し合いの内容を説明しますね」

 

 ビスケットの口から、蒔苗との話し合いで決まったことが、順序立てて説明されるのを、黙って聞く一同。

 余談であるが、この室内は雪之丞とエーコの手により、秘匿されていた盗聴器の類は全て取り外す等により無効化されいることをここに記しておく。

 

 「成る程、こりゃ大事だな」

 「俺達の進退、ここにかかってると理解」

 

 ビスケットの説明を聞き終え、スリンとジョブは大きく頷く。

 

 「僕達鉄華団は、確かに今はテイワズの傘下にいますし、ギャラルホルンという存在に対抗する手段としてはこれは有効ですので、当面はこのままでしょうが僕達の目標は、火星を本拠とした安定し且つ、強力な組織づくりにあります」

 「つまりはテイワズって非合法な後ろ盾だけでなく、合法的なアーブラウの後ろ盾も、必要になるってこったな」

 「その通りです。その為にも私達はクリュセ自治区を、正常な独立国家へと穏便に移行し、その政府の元で成長しなければなりません」

 

 現在の火星の体制は、四つの地球経済圏がギャラルホルンの武力により火星を分割統治という形で成立している。

 これは今は厄祭戦と呼ばれる戦争の呼び水ともなった、火星独立戦争の結果、敗北した火星政府の生き残りで編成された臨時政府との間で結ばれた、地球有利の取り決めによるものであり、この枠をまずは壊さねばならない。

 その方法として、支配する経済圏の決議により火星の支配領域の開放を認めるという一文があることを、クーデリアは語る。

 火星のクリュセ大学で歴史を学んだ際に知りえた事であり、締結から三百年を過ぎた今でも有効な条約に記載されている内容だが、これを実現するとなると途方もない困難が簡単に予想される為に一部の研究者や活動家以外はこの部分に触れようとはしない。

 

 「私は武力による急激な変革を望みません。あくまで対話による解決を望みます」

 「まあ、正面切ってドンパチすりゃ、ギャラルホルンに潰されて終わりだしな。だが俺らは今、上手くすれば代表に恩を売れるかもという状況にいるってことだぜ」

 

 現状、多くの人達が諦めてきた上記の条文を満たせそうな状況に自分達がいることも含ませ、クーデリアの言葉に、マルバが頷きつつ補足をつける。

 

 「するとだ、そのフリュウとか言うバアさんが代表じゃあ不味いわけだな」

 「そういうことだ、スリン。だが、ただ蒔苗に協力するだけでいいってわけじゃねえ」

 「どういうことだ?団長」

 「…一つ確認、蒔苗先生の任期は今何年継続?」

 「いい質問だジョブ。おいビスケット頼む」

 「蒔苗東護ノ介は既に任期二十年、四期に渡り代表を務めてます。つまり僕らが生まれる前からアーブラウの代表だったってことですね」

 

 アフリカンユニオンやSAUと異なり、再選に規制のないアーブラウでは、政権が安定しやすい反面、政策の硬直化の危機を常に孕んでいる。

 実際に蒔苗のそれまでの政策は、ほぼ前任の踏襲であり、改革的というよりはむしろ保守的であった。

 

 「そんな人物が、火星のハーフメタル利権を火星側に譲渡する、という発想をするとは考えにくいだろ、なあ」

 

 ビスケットの説明の後のマルバの発言に、皆は頷く。

 人はそれまで上手くいっていた事柄への手法を、変える事ができるものは多くない。

 かつて成功していたという経験が、自身の行動を縛るからだ。

 

 「つまり、本人が超有能、でなけりゃその蒔苗が意見を取り入れる程に信頼されてる誰か有能な人物がいるってことか」

 「そうだな、俺にとっての顧問やビスケット、それにお前らみたいなやつがいると考えるほうが自然だろう」

 「そして、その人物が恐らくは蒔苗さんの後継者か、そのブレーンになる可能性は高いと思う。僕らはこの人と接触して、コネクションを持たなくてはいけないんだ」

 

 その理由をビスケットはいくつか説明するが、一番大きいのは蒔苗がかなりの高齢であるということだ。

 いかに優れた地球の医療技術、その最先端を受けられる立場にいる蒔苗といえど永遠に生きられるわけはない。

 鉄華団が助けて、蒔苗が政権をとったとしても、そのすぐ後に彼が死去したのでは、まったく割に合わないであろう。

 

 「成る程、蒔苗の爺さんが倒れたとして、次の交渉相手に今から顔をつないでおく必要はあるわな」

 「太い客とのコネ大事。俺達がでかくなるとより必要」

 

 スリンとジョブにも充分な納得が得られたとみて、オルガはこれからの方針を示す。

 

 「これからは、ここにいる連中で二つのチームに別ける。一つはエドモントンまで安全に行く為の作戦を練るAチームと、もう一つはその隠れた後継者と協力をしていく作戦を練るBチームだ。多分同時進行になるだろうから、お互いの連絡を密にしておく必要があるぞ」

 

 そう切り出したオルガは、クーデリア、ビスケット、ミストをAチームに、マルバ、スリン、ジョブをBチームへと別ける。

 団長であるオルガは、両チームの作戦を客観的に判断する為、どちらのチームにも入らないということである。

 

 「アーブラウとの連絡員である坂浦さんが来てから、正式に動く事になるが、最悪の場合の心構えとして、隠れた後継者が望むのなら、蒔苗を見捨てる可能性があることを覚悟して置いてくれ」

 

 オルガは、若干顔を不本意そうに歪めながらその場にいるものに告げる。

 ありえない事ではない。

 人は自身の上に、長期間君臨するものがいればいずれ我慢し難くなるという事は、ギャラルホルンと各経済圏との関係を見れば明らかだからだ。

 隠れた後継者が、一刻も早く蒔苗を取り除きたいと願うような人物であれば、それを叶える事で鉄華団はその人物と強いつながりを持つことができるであろう。

 

 「まあ、非情なようだけど、今まで火星の状態を放置してきたのはあの人とその周囲の人達でもあるんだから、多少のツケ払いと思ってもらうしかないね」

 「私も、CGSで襲撃を受けたときから、自らの手を血で汚してでも事を成す覚悟はしております」

 「クーデリア様の為であれば、私は如何様にでもお使いください」

 

 火星から地球に至るまでに試練を潜り抜けてきたビスケットとクーデリア、ミストは少し苦笑を浮かべつつオルガに告げる。

 

 「そう深刻な顔するんじゃねえよ、オルガよお。あくまでも最悪の場合の心構えだぜ。うまくすりゃ、それほど面倒にはならねえよ」

 「そうだぜ団長、若いうちからそんなに悩んでると俺みたいに禿げるぞ?」

 「スリンは頭つかわなすぎた成果。頭使う俺は毛根元気」

 「うるせえぞジョブ。オメエにはトップの苦悩ってもんが判ってねえよ!」

 

 それなり以上の修羅場をくぐってきたであろうマルバ、スリン、ジョブの三人は、オルガの気負いをほぐすようにおどけた調子で応じる。

 それぞれに反応は違えど、自身を気遣う態度に、オルガは片目をつぶり笑みを浮かべる。

 

 「ありがとよ。俺は最高の仲間たちに恵まれたようだ」

 

 部屋の外で周囲の警戒を続けているであろう相棒の三日月を含めて、深い感謝の念を、オルガは心の底から彼らに送った。

 

 

 

 

 

 その後に会議を終えたオルガたち鉄華団一同は、交代で初めての海を満喫した後に、夕食に坂浦から差し入れられたヒラメ、或いはカレイを出され、見たことも無い食材の料理に騒然となるも、

 

 「おっ、なんだこりゃ、うめえじゃねえか!」

 

 と意地からか平然を装い、一口食べたオルガの一言に勇気付けられ、皆が魚料理に舌鼓を打つことになり調理を担当したアトラとタービンズの女性陣は満足そうな笑顔であったという。

 

 「やっぱり、オルガはすごいな」

 

 こっそりと手持ちの火星ヤシを口に入れつつ、三日月はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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 おかしいな、まだ島から出れないぞ?




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