マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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次話投稿します。





ようこそ、素晴らしき狩猟場へ

 マクエレク・ファルクという人物を一言で表すならば、「平凡」若しくは「凡才」という言葉が相応しい。

 

 「ファリドの妾腹と足して二で割れば丁度良い」

 「ほら、ファルク家の平凡な跡取りよ」

 

 ギャラルホルン上層部の集うパーティ会場に参加する度に、そうさえずる声を耳にしては、マクエレクはその巨体を密かに震わせて不快に耐えていた。

 彼自身も、自身に才覚や華というものがないことは自覚している。

 自然をいじる事を禁忌とするギャラルホルンでは、整形という手段を利用できないために、父エレク譲りの巨体と部品の大きな顔のつくりは、どうにもならない。

 ギャラルホルン上層部で催される社交パーティなどで同年代の眩い才覚、カルタ・イシューの高潔さと柔軟な思考、ガエリオ・ボードウィンの実直な武人の立ち振る舞い、マクギリス・ファリドが卓越した社交力、イオク・クジャンですらその天真爛漫さで、存在を高らかに示す様を、指を咥えて見ている事しかできなかった。

 

 「グフフ、そんな日々ももうすぐで終わりだ」

 

 誰もがマクエレク・ファルクの名を、偉大なMS開発者として記憶することになるであろうと、笑みを浮かべる。

 これまでにも、アドラーグレイズと言う革新的機能を持つ機体を完成させた、技術開発部の所長である彼の、更なる研鑽の末に完成させた『グレイズシェッツエ』、その姿に人々は驚嘆し、その後に賞賛するとマクエレクは確信するからだ。

 例え実際の開発者が、副長であるギザロ・ダルトンであろうとも、それを己の功績とする権力をセブンスターズが有しており、ただそれを実行しただけだと考えるマクエレクには何の問題にもならなかった。

 もっとも、ギザロの真の意図に気がつかない所が、マクエレク・ファルクの「凡才」という評価は妥当なりと人知れず証明していた。

 そして、マクエレク・ファルクの名が、本人の意図しない形で残る事になるのも、必然であったのかもしれない。

 

 

 

 

 「この基地で新型MSのデモンストレーションをおこなう。受け入れと準備を頼む」

 

 かつてのカナダという国の空軍基地跡を利用したコールドレイク基地は、今かつて無いほどに人で溢れている。

 側近の隊員達と共に、この基地を訪れたイズナリオ・ファリド地球本部司令官代行の放った上記の一言のお陰である。

 わずかな日数しかないにも拘らず、一部民間人と放送局の受け入れまでも可能とし、形を整えたコールドレイク基地司令は有能であるといえよう。

 

 「ちっ、司令のおべっか野郎が、そんなに出世したいのか」

 「枕営業でもすればいい、俺達に迷惑がかからん」

 

 例え陰で、酷使された基地の隊員達にそのようにささやかれていたとしても、有能であるといえよう。

 ともあれ、三機の大型輸送機によって、ギャラルホルンの本拠地ヴィンゴールヴから運ばれてきたコンテナと人員を、専用の一角を貸し与えてデモンストレーション当日に備えさせる。

 現状でも、基地の隊員とイズナリオ直轄の隊員達の反目が頻発している状態であり、これ以上の問題はご免こうむるという基地司令の思惑もあるが、お陰で当日まで新MSの詳細秘匿に成功していた。

 かくして、アーブラウ代表選挙が三日後に迫る中、行われたデモンストレーションの当日は朝より快晴であった。

 イズナリオは連れの美少年と共に、基地の管制塔へと上り、滑走路の一部を改修して作られた会場を眺める。

 

 「短い期間でご苦労であった。君のことは覚えておこう、基地司令」

 「はっ、感謝の極みであります」

 

 基地司令は美少年をイズナリオの世話係と紹介され、色々と思うところはあるものの、奥ゆかしく口には出さない。

 例え、夜半に少年のものらしき呻き声が、イズナリオの宿泊する部屋からもれ聞こえてきたとしても、それは彼の職分ではないからだ。

 基地司令は、己の職分に従い、整えた状況をイズナリオに説明する。

 MSを扱う以上、万が一のことがあってはならない事に加え、新型MSの詳細な情報を盗み見られるのを防ぐために、報道機関は報酬次第で昨日の敵も賞賛する、と噂されるモーニングサン社一社、招待者もアンリ・フリュウとその一派らギャラルホルンの、詳しく言えばイズナリオの賛同者のみとしてある。

 現在の最大スポンサーであるイズナリオをモーニングサン社が裏切る事はない。

 少なくとも報酬を支払い続けるうちは、であるが。

 

 「本日はお招きいただき光栄ですわ」

 「このような歴史的場面を映像に残せるとは!」

 「これもイズナリオ様のお陰です」

 

 招待された者たちが、次々とイズナリオに阿りの賞賛を送るのを、洗練された営業用の笑みで受け取るイズナリオは、彼らへの内心の侮蔑を欠片ほども見せない。

 

 (使えるうちは、精々と踊ってもらう必要があるからな)

 

 そう内心を隠しつつ、連れてきた美少年のほっそりした肩を舐めるように撫で回しつつ、デモンストレーションの開始時間までは待ちわびた。

 やがて時間となり、まず会場に入ってきたのは、新型MSの相手を務める為に用意された、スピアと大型の長方形シールドを装備した九機のゲイレールであった。

 旧型であるはずのそれらは、技術開発部でのフルチューンを受けたお陰であるのか、操るパイロットの腕であるのか、並みのグレイズよりも動きが滑らかで無駄が無い。

 ゲイレールらが管制塔に一礼し、整列し終えた頃に、先ほどのゲイレールのものよりも、力強く響く足音を立て、会場に新型MS、グレイズシェッツエが姿を現す。

 その姿を見て管制塔内のみならず周囲にどよめきの声が上がる。

 それはグレイズシェッツエの姿が機体の上半分が装甲の厚い大型のグレイズ、下半分が恐らく馬であろう四足獣を模した姿であることが大きいであろう。

 全身を鉄色に染め、装備した銅色のランスと円形シールド、角のような一角の大型アンテナを頭頂部に輝かせる姿は、騎乗する騎士を思わせる。

 その機体が三機、互いの足並みを揃えて現われた光景はまさに圧巻であった。

 

 「素晴らしい、まさにギャラルホルンの思想を体現したかのような機体ではないか」 

 「はっ、まさにイズナリオ様のお言葉の通りです」

 

 事前にスペック等のデータを知らされていたイズナリオであるが、やはり実際に稼動する姿を見れば違うものだと評価を改める。

 通常のグレイズの倍のコストはかかるが、グレイズ三体を軽く凌駕するであろうと、昨日の打ち合わせで語っていたマクエレクの言葉も、あながち嘘ではなさそうであるとイズナリオに感じさせる程には、感銘を与える機体であった。

 

 「マクエレク所長自らが操縦するほどだ、模擬戦のほうも期待できそうではないかな」

 「はっ、まさにイズナリオ様のおっしゃるとおりです」

 

 イズナリオのイエスマンと化した基地司令を、呆れたような視線で見つめるその場の一同であるが、自身もその同類である自覚がないのは実に滑稽ですぜと、マルバがいたら大笑いをしていたであろう。

 

 「あ、あのイズナリオ様」

 「うん、どうした」

 「す、すいません、急におトイレに行きたくなりまして…」

 「ハハハ、それはいかんな、一人で行けるかな?」

 「ハ、ハイ、申し訳ありません、このようなときに」

 「構わないよ、いってきなさい」

 

 急にもじもじとし始めた美少年からの言葉に、イズナリオは笑みを浮かべて快諾する。

 自宅であれば、美少年の恥じらいと苦悶の表情を楽しむ為に焦らしていたであろうが、ここは仕事場であるためにそのような事をしない程度には公私の分別が、イズナリオにはあった。

 仕事場に愛人を連れてくる時点で、かなり怪しい分別であるが。

 

 

 

 

 やがて時間となり距離を置いて対峙した、三機のグレイズシェッツェと九機のゲイレールグラディアトル(以下グラディアトル)との模擬戦が開始しれた。

 合図代わりに、管制塔から鳴らされたサイレンに呼応し、三機のグレイズシェッツエが九機のグラディアトルを目掛けて駆けて行く。

 そして、グラディアトルに接敵すると思われた瞬間に、三機のグレイズシェッツエはその頭上を跳躍する。

 ほぼスラスターを用いずに、脚力を生かしたのみでのその跳躍力は、実に驚異的性能であるといえた。

 が、真の驚愕は次の瞬間に起きる。

 

 『今こそギャラルホルンを私する奸賊、イズナリオ・ファリドとその一党を誅滅する!行くぞ同志諸君』

 

 グラディアトルの頭上を飛び越え、そのまま疾走するマクエルクの乗るグレイズシェッツエから、マクエルクの声で発せられた言葉と共に、その手に持つランスが、管制塔へと投擲される。

 そのランスが、管制塔を貫いた時をもって、後に『マクエルク・ファルク事件』と呼ばれる事件は開始されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 誤字脱字のご指摘、感想評価等ありましたらお願いします。

 イズナリオの性的嗜好表現にご不快な方がいたら、申し訳ありません。
 彼の人間性表現に必要でしたので、ご理解ください。




 
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