「イズナリオ様!イズナリオ様!どこですか!」
グレイズシェッツエの投擲したランスに貫かれ、瓦礫に埋もれた管制塔の室内に、イズナリオの連れてきた美少年の声が響き渡る。
そこかしこで、呻き声と助けを求める声が聞こえてくるが、イズナリオのものでないためか、美少年は特に反応しない。
「う、ううむ…ここだ…」
「イズナリオ様、そこですか!?」
イズナリオの声を聞いた美少年は、すぐさまその場へと駆けつける途中で、散乱するコンクリート片から手にすることのできる最大のものを拾う。
そして声を頼りに、下半身を瓦礫に埋もれさせたイズナリオを見つけ、
「大人しく死んでいろ、クソ野郎」
ぼそりと呟き、美少年は手にしたコンクリート片を思い切りイズナリオの頭部へと叩きつける。
「ぐぼ、びきゅ」
「しっかりしてくださいイズナリオ様!傷は浅いですよ!」
意味不明の呻き声をあげるイズナリオに、言葉だけの励ましを掛けつつ、美少年は何度も何度もコンクリート片をイズナリオの頭部に叩きつけ続ける。
やがて、驚愕の表情を浮かべつつ血の海に沈み絶命したイズナリオに美少年は表向きの悲しみの声を上げる。
だが、その内心は自らと敬愛するマクギリス兄様を苦しめ続けた外道の死を、心の底から喜んでいた。
「返事をしてください!イズナリオ様!」
「クソッ、一体どうなっている!?」
ランスを投擲したグレイズシェッツエの中で、マクエレクは混乱を抑えきれず叫ぶ。
デモンストレーションが始まったと思ったら、機体が制御から外れ、マクエレクの声で叫んびつつ管制塔へとランスを投擲していたのだから、無理も無い事だ。
そのような暴挙をして、無事に済むはずも無く、今三機のグレイズシェッツエの周囲を、多数のグレイズが取り囲んでいる。
『マクエレク様!何ということを!』
『大人しく投降してください!申し開きは法廷でお願いします』
「違う、俺じゃない、俺じゃ無いんだ!」
マクエレクはそう叫ぶも、その声は彼らには届かず、別のマクエレクの声が彼らに届けられる。
『既に、我らの覚悟は決まっている。奸賊イズナリオとその一党を討ち果たせば、後は大人しく裁きを受けよう。しかし、今はまだそのときではない!』
「ふざけるな、俺は何もしていない。冤罪だ!」
そう叫び、マクエレクは制御の利かない操縦機器を思い切り殴りつける。
『やれやれ、少しは落ち着いてくださいマクエレク様。あまり暴れられては機体に悪い影響が出ます』
「誰だ、貴様は!?」
突然スピーカーから聞こえてきた声は、マクエレクの現状を指摘する内容であり、どこかで聞いた声であった。
誰かまでは思い出せないということは、マクエレク自身の出世、立身に影響の無い人物であると評価している事を指す。
そのような人物がこの現状を把握しているという事に、マクエレクは怒りを覚え、後に処罰するためにその名を確認したいのだ。
『この作戦ではZ0(ゼットゼロ)。貴方にはツヴァイ・ダルトンと名乗れば、誰だか判りますかね?マクエレク様』
「た、たしか、ギザロの機体専属のパイロットだったか。だが、その男は死んだはずだ」
事実、ツヴァイ・ダルトンという人物は、地球軌道上での仇討ち戦の傷が元で死亡したという届出が、他ならぬギザロからあった事は覚えていた。
特に思うことなく、口先だけのお悔やみで済まし、今の今まで忘れていたことではあるが。
『確かに尋常の手段では助かりませんでした。ですが父上は天才です。私の活躍の場をまた用意していただけました』
「それは…ま、まさか」
『そうです、阿頼耶識ユニットによるMSとの一体化、その効果により私は生き延びました。いえ、新生と言い換えてもいいでしょう』
嫌悪に顔をゆがめるマクエレクに、ツヴァイはそう楽しげに歌うように告げる。
マクエレクの脳裏に、かつてギザロの研究の一つである『兵士教育プログラム』のことがよぎる。
阿頼耶識システムの導入を含めた洗脳に近いそのプログラムを、実現不可能の机上の空論として、一笑に付したものであるが、あの恐るべき男はいつの間にか完成させていたのであろう。
それを実の息子にすら適用する非情さに、マクエレクは自分の飼っていた男に恐怖を感じた。
『今はこのグレイズシェッツエが俺の体ということです。実にいい気分ですよ、これが父上の目指すものだったんですね』
「ふ、ふざけるなこの狂人が!俺を降ろして事情を説明するんだ、ファルク家次期当主としての命令だ!」
『申し訳ありません。その命令には完全に従えませんね。父上より最優先の命令を受けておりますので』
「一体何だそれは!」
『マクエレク・ファルク、貴方に英雄として死んでいただく事です』
そう答えたツヴァイの声は、マクエレクと同じ声へと変わっていた。
ここに至り、マクエレクはギザロの手のひらで踊っていた事に気がつく。
技術開発部での音声データのやり取り等を元に、マクエレクの声を合成しておいたと思われるものだけでも、その周到さを感じさせる。
「違う…俺はこんな事は望んでいない…」
両手で顔を覆い、力なく呟くマクエレクの声は、誰に聞かれること無く操縦席に浮かび、そして消えた。
マクエレクの乗るグレイズシェッツエ内部でのやり取りに関係なく、外界では事態が進んでいた。
投降を促すも拒絶の言葉を受け、基地司令とイズナリオ不在の現状で混乱しつつも、事態を引き起こした三機のグレイズシェッツエの捕縛若しくは破壊を、基地とファリド家の次席に当たる者達がそれぞれに命令を下した。
いささか以上に遅い命令であったが、三機のどれも逃亡する事が無かったために、遂行に移る事は問題が無かった。
が、実現の段階になりその難易度を彼らは思い知る事になる。
『クソッ、どういうことだ!』
『何であたらないんだよ!ヒッ』
包囲しての牽制の一斉射撃、その後の接近戦という定石で挑んだグレイズに乗る者たちは驚愕する。
まず射撃がろくに命中しないのだ。
正面はもとより、背後からの射撃すら視えているかの様に、高速で反応し回避する三機のグレイズシェッツエにグレイズは翻弄される。
そして、その突進力を生かしたランスや蹄のような脚部による攻撃を受け、ほぼ一撃で一機づつ数を減らしているのだ。
『こ、この動き、コンピューター制御では再現できないぞ!』
『ま、まさか、それでは奴らは!』
『いかにも、我らは既に人を捨て、使命にのみ生きる事を覚悟している!』
グレイズシェッツエの一機から発せられた言葉に、一部の者たちは、この性能の理由に察しが付いてしまった。
『やはり、こいつら阿頼耶識システムを体内に!』
『馬鹿な、それではもはや人ではないぞ!』
動揺するグレイズの操縦者達に更なる衝撃が襲う。
待機していた九機のグラディアートルらが、グレイズへの攻撃に参戦してきたのだ。
そのどれもが、グレイズシェッツエに似た異常なる反応速度と動きを見せたのであるから、動揺はさらに広がる事になった。
『畜生、こいつらも阿頼耶識持ちかよ!』
『い、嫌だ、こんなところで!』
元より、本部勤務と基地勤務の違いはあるが、実戦経験も無く地球から出た事のないグレイズの操縦者らであったが、禁忌を体内に埋め込んだ集団との戦闘を強いられる事により、よりその動きを鈍らせていき、五十以上あったその数を十に満たない数までに減らされてしまう。
『告げる!我らの目的はイズナリオに与する者共のみ!それ以外は手向かいしなければこれ以上の危害は加えぬと誓う!』
そして、串刺しにしたグレイズの頭部をそのままに、ランスを突きつけてきたグレイズシェッツエに対して、コールドレイクのギャラルホルンらに、それ以上の戦闘継続を望めるわけも無かった。
『判った!奴らを引き渡す!我々はもう貴公らとの戦闘の意思はない!』
『何を言う、貴様それでも!ぐぼッ』
その後はツヴァイらが手を出す必要も無く、イズナリオに与した者たちは、生き延びたコールドレイク基地のものたちにより、狩り立てられる。
MSに乗る者たちは、基地勤務のグレイズらに取り押さえられるか撃破され、基地内部に隠れていた者たちは、同じく基地勤務の者たちにより処分されるか、捕縛され、基地の格納庫の一つに、イズナリオの連れてきた美少年を含む、イズナリオ閥の生存者らは、閉じ込められる事になった。
『貴様らには、奸賊イズナリオの数々の悪行の証人となっていただく』
「ふ、ふざけるな、この下郎共ぎゅばら!」
その際に、出された条件に不服のあった者たちには、周囲のものとまとめてMSのライフル弾を馳走したためか、それ以上の抵抗は無かった。
『これで、このコールドレイク基地での目的は果たした。次はエドモントンに駐屯するイズナリオの飼い犬共を誅殺する!』
『応!全てはギャラルホルンの大義の為に!』
マクエレクの声で、ツヴァイ・ダルトンのなした宣言に、残りの十一機が高らかに応じる。
彼らの狩りは、まだ終わらない、終われない。
誤字脱字のご指摘、感想評価等あればよろしくお願いします。
「すごい、これでいつでもマッキーの言葉か再現できるのね!」
「喜んでくれて嬉しいよ、アルミリア」
(私も欲しいです、准将…)
マクギロイド、一部で大好評。