「とまあ、こんな奴をつくりたいが、予算はどうだ?デクスター」
「ええと…規模的に三m程のものであればいけますね」
マルバはCGS内の社長室で、経理部長のデクスター・キュラスターに相談を持掛けている。
CGSは現在、MWバトルの興行、その出店への人材派遣等の業務増大により、デクスター個人での事務処理が困難になってきた為、読み書きができ、かつひとあたりがましな人材を募集し、経理部を設置している。
加えて今後の事も考え、一軍からトド・ミルコネン、参番組からビスケット・グリフォンにも仕事を手伝わせ、未来の経理部長候補として教育にも当たらせている。
まあ、トドの場合、目の届く位置において仕事をサボらせない、という意味合いが強いが。
「じゃあ、手配を頼むわ」
「はい、いい機会かもしれませんね」
それから数ヵ月後の早朝、CGS施設内に大声が響き渡る。
『全員、起床!三十分後に第二集合地点に集結せよ!』
声の主は教導隊隊長のルイス・ミリオン。
教導隊の設立後に、こういった抜き打ちの集合合図が、時折発せられる様になった。
「くっそ、いい夢だったのに!おい、急げよユージン!」
「待てよ、シノ!シャツきっちりしまってかねえと!ルイス隊長に絞られるぞ」
「おお、すまねえ!じゃあお前も急げよ、俺はちび共の支度、手伝ってくるからよ!」
「オッケー!よし、準備できた奴らは、第二集合地点へ急げ!おら、お前!靴紐ほどけてる!」
参番組古参のユージン・セブンスタークとノルバ・シノも、ここ最近に行われる様になったこの行事に最初は戸惑いもしたが、かつての憧れでもあった一軍隊長の指導を受けられている、その嬉しさもあって今は率先して従っていた。
三十分後、第二集合地点に定められた裏口前に、CGS隊員はほぼ集結を終えた。
既に集結を終えた教導隊員を背後に、ルイスは制服をきっちりと身にまとい、腕時計で時間を確認する。
「よし!時間だ!各隊長は点呼開始せよ!」
一軍と参番組、そして整備班がそれぞれに整列し、先頭から順に番号を叫ぶ。
一列で十人ずつの隊列を組ませ、年少者にも一から十までの数字は教えてあるので、間違うものはいない。
点呼が終了した後に、年少のものを数名かついで来たシノと、動きの鈍いトドとササイがやってきた。
「トドとササイ、その場で腕立てとスクワット百回五セット!シノ!仲間を見捨てないのは偉い!だが遅れた罰として、腕立てとスクワット百回を一セット!かかれ!」
「イエッサー!」×三
ルイスの指示に三名は大人しく従う。抗議の言葉を口にすると二倍三倍へと増やされることは、骨身に染みているからだ。
「残りの遅れた者は十日のトイレ掃除だ!了解したものから整列!」
年少者たちも自分が悪い事は自覚していたのか、敬礼をして隊列へと並ぶ。
そこで初めて隊員たちは、ルイスら教導隊の背後に覆いのされた何か、三mくらいの高さのものがあることに意識を向け、はてなと首をかしげる。
何名かは、工事の業者がここで何かを設置していた事は知っていたが、それが何かまでは思い至らないでいた。
「総員、注目!」
が、ルイスの一言でその意識を切り替える程度の錬度を、今のCGS隊員は手に入れていた。
「社長からのお言葉がある!傾聴!」
ルイスの言葉どおりに、CGSのジャケットと帽子を身につけたマルバがやってきて、ルイスの横に並ぶ。
「お前ら、朝からご苦労。今朝ここに集まってもらったのは、これを見てもらうためだ」
マルバがルイスに顎で促すと、ルイスは教導隊員に指示を出す。
教導隊員の数名が、背後にあった覆いに隠された何か、のもとに駆け寄り覆いを外す。
そこには白い四角柱の塊とその下、地上一mほどまでを、取り付けられた銀色のプレート板で覆われた建造物であった。
「このプレートには、今までCGS任務中に死亡したもの達の名前を刻んだ。これを慰霊碑とする。今朝は俺とお前らで、今まで死んでいった奴らに黙祷を捧げる」
「総員、脱帽!」
ルイスの言葉にマルバ始め総員が帽子をとる。
「目を閉じて、死んだ仲間達を思え、黙祷!」
ルイスの言葉の後に、暫し沈黙の祈りがその場に満ちる。
「黙祷、やめ!」
そして、ルイスのその言葉の後にも、自分たちの胸に静かな何かが残るのを、多くの隊員たちは感じていた。
「よし、今後は年に一度は黙祷式を行う。が、その後は美味い飯用意してやるからな。今日の飯も期待しておけよ」
マルバはにやりと笑い、隊員たちにそう告げると、年少者を中心に笑顔が広がった。
「では、解散!各自朝食前の業務にかかれ!」
ルイスの言葉に隊員たちは速やかに、自分のなすべきことをなす場所へと向かう。
そして、その場で慰霊碑を見上げるマルバに、声をかけるものがいた。
「社長」
「どうした、オルガ?不満そうだな」
「よくわからないんすが、この式に何か意味があるんすか?」
「ハッ、こんなことする暇あれば手を動かせってか?」
「ええ、死んだ奴らには死んだら、また会える。そうじゃないんですか?」
「まあ、お前の考えは正しいし、もっともだな」
「だったら、何で?」
そういい募るオルガの肩に、マルバは手を置く。
いつの間にか自分より背が高くなりつつある、オルガにマルバは告げる。
「だがな、それは強い奴の考え方だ。皆がみなそうじゃねえ、死んでいった奴らの事を上手く飲み込めねえ奴のほうがほとんどなんだよ。俺も含めてな」
「はあ、それは…まあ」
昨日までいた奴が今日はいない。そういう事は、CGSに入る以前から見て来たオルガにはその時の自分と三日月以外の連中の反応に思い当たり、納得の表情を浮かべる。
「そういう奴らをまとめていくにはな、上に立つ奴が、うまいこと飲み込めるようにしてやらなくちゃならねえ。それができねえと、いつか足元をすくわれるぜ。覚えとけ」
「うす!」
「よし、さっさと仲間達のとこにいってこい。きっちり仕事してこい」
「うす、オルガ・イツカ、仕事に戻ります!」
お互いに不敵そうな笑顔をかわし、オルガは仲間達の元へ戻っていく。
「おう、ずいぶんとオルガを買ってるじゃねえか、マルバ」
「まあ、あいつが俺らの部下の中じゃ、一番の出来物だろ。ならせいぜい恩でも売っておくさ」
「かぁっ、素直じゃねえ言い方すんなよ!」
「止めろ!イテテッ!てめえ力加減しろ、ボケ之丞!」
笑顔で近づいてきて、バシバシとマルバの肩を叩く雪之丞にマルバは抗議する。
「なんにせよ、こういうのは必要だ。俺らにも、若い奴らにもな」
「ああ、こういうもんでもないと、俺はまた忘れちまうからなあ」
「何を忘れるってんだ?」
「ん、まあ、あれだ。初心みたいなもんだ」
皆に見せた慰霊碑の反対側の隅に、小さく彫られた名前に、マルバは心でつぶやく。
(今まで悪かったな、お前ら。これからはちょくちょく来るから、勘弁してくれや)
小さく彫られた名前は『ケンケン』と『ワンワン』。
かつて、マルバの飼っていた愛犬たちの名前であった。
ご意見ご感想、誤字脱字のご指摘ありましたらお願いします。
原作開始まで、もう少しかかるかな。