マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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 次話投稿します。
 皆さんも季節の変わり目の体調には気をつけてくださいね。


 補足:グラディアートル…技術開発部によってフルチューンされたゲイレール。
 汎用性を捨て、対MS、近接格闘戦に特化した機体。
 搭乗者の技量が同格ならば、グレイズリッターと計算上は互角の戦闘能力を有する。


劣勢なのは、そっちだぜ

 『マクギリス・ファリド単身にて、この場へと来い!さもなくば人質を一時間に一人ずつ処刑する』

 

 場面は再びコールドレイク基地へと戻る。

 今、基地に残ったグレイズシェッツエからの人質を楯に取った要求により、アドラーグレイズに乗ったマクギリスが呼び出されていた。

 基地に所属する降伏した者たちの抗議は、彼らが肉片となることで止み、この暴虐に異を挟むものはいなくなっている。

 

 『ククク、来たなマクギリス・ファリド!貴様だけはこの俺の手で葬る!』

 『何やら随分と恨まれてるようだが、君は誰だ?』

 

 グライダーシールドにより地球へと降下した、地上装備に換装されそのカラーリングも銀色を基調に赤で縁取るものへと変えられた、アドラーグレイズに乗るマクギリスは、余裕を崩さぬ口調でグレイズシェッツエのパイロットに問いかける。

 

 『今はC1(シーワン)と名乗っているが、貴様にはコーラル・コンラッドといったほうが分かりやすかろう』

 『ああ、貴方か。しかし恨みがあるとは心外だな。火星での件は、君の責任だろうに』

 『そんな事はどうでもいい!イズナリオの手先として動いた貴様のせいでギャラルホルンは腐敗したのだ!養父共々地獄へと引導を渡してくれるわ!』

 

 兵士強化プログラムの影響か、復讐心と忠誠心を混合させ激昂するコンラッドをよそに、マクギリスは周囲を見渡す。

 そこには、アドラーグレイズとグレイズシェッツエの周囲を、残った八機のグラディアートルが取り囲んでいる。

 

 『で、この数で私を嬲り者にでもするのかな?』

 『フン、貴様如きは俺だけで充分だ。いや、貴様は俺の手で地獄に送らなくては気が済まん!』

 『たいした自信だな。一対一で私に勝てるとでも言うのかな』

 『機体性能、操縦の技量とも俺のほうが上だ。それに加えて、阿頼耶識システムも手に入れた!俺が貴様に負ける可能性は…ゼロだな』

 

 表情こそ見えないが、その口調からコーラルの増長と慢心を垣間見たマクギリスは大きくため息をつく。

 

 『やれやれ、たいした勘違いをしているようだ。ではその勘違いを正すのも私の役目だな。さあ、来たまえコーラル君』

 

 そういってマクギリスは器用にアドラーグレイズのスピアを握ってないほうの手を使い、コーラルに手招きをする。

 

 『貴様ぁ!舐めやがって!ぶち殺してやるわあぁぁ!』

 

 激昂したコーラルはそのままマクギリスの乗るアドラーグレイズへと銅色のランスを構え突撃を行うのであった。

 

 

 

 

 『おのれ!ドブネズミ共が!私の邪魔をするな!』

 『こっちも仕事なんでね!そっちこそ邪魔なんだよ!』

 

 ギャラルホルンの仮駐屯地付近の街道上で昭弘、ラフタ、アジーと交戦するコーリスは苛立ちの言葉をぶつける。

 ギャラルホルン製でないMSを相手取っているにも関わらず、対峙して暫く経つも、今だ一機の撃破もできていないためである。

 元からの資質に加え、兵士強化プログラムにより強烈な忠誠心を植え付けられたコーリスはギャラルホルンを絶対視しているために、自身の機体で中々落とせない昭弘らに強い怒りを抑えきれずにいた。

 この辺りが、今だこのプログラムが試験段階である所以の一つであった。

 

 『いっくら強くても、そんなみえみえの攻撃あたらないわよ!』

 『おのれおのれ!舐めるな女が!』

 

 加えて共通回線で時折入れるラフタらの煽りにより、その腕に装着したライトニングボウの使用を忘れるほどに、コーリスの動きは怒りにより単調化していく。 

 この辺りの流れは、事前にマクギリスから手に入れたグレイズシェッツエ、及び搭乗者のデータを元にビスケットら鉄華団の作戦どおりにことは運んでいた。

 事前の計画がなければ既に三機のいずれか、若しくは全てが機能停止に追い込まれていたことであろうが、この場ではそのようなことは起こらず、順当にグレイズシェッツエを討ち取るための作業を着実に進行させていた。

 

 『ラフタ、アジーさん、頼む!』

 『オッケー!行くよアジー』

 『ちゃんと合わせなよ、ラフタ』

 

 その掛け声とともに、グレイズシェッツエの同じ側面に回り込んだ二人の乗る漏影のショットガンが同時に火を吹き、グレイズシェッツエを襲う。

 

 『なめるなぁ!小娘共がぁ!』

 

 怒り頂点のコーリスであるが、この射撃をグレイズシェッツエの跳躍力を生かし上方へと飛び、回避する。

 しかしながら、それも鉄華団の計画のうちの行動であった。

 

 『ようし、全機一斉に発射!』

 

 マルバの掛け声とともに、ここまでコーリスを誘導し近くに潜んでいたMWたちの砲塔からトリモチ弾が発射され、グレイスシェッツエの着地予想地点に命中し予定道理に着地したグレイズシェッツエをその場に拘束する。

 

 『なんだとお!』

 『フン!』

 

 動揺し動きの止まったコーリスへと、昭弘の乗る方天画・激が跳躍し、グレイズシェッツエの馬の背にあたる部分に飛び乗ると同時に、四本の腕のうち二本を相手の腕を上げさせ、残る二本の腕でがら空きになった胴体部を締め上げる。

 

 『これで、しまいだぁ!』

 『馬鹿な!このわたしがぁ!』

 

 気合の入った掛け声とともにおこなった方天画・激の締め上げはその腕を圧壊させつつも、同時にグレイズシェッツエの胴体も押しつぶした。

 そして、グレイズシェッツエが糸の切れた人形のようにその場にうずくまり、この場での戦闘は終結した。

 

 『よう昭弘やったな』

 『…ありがとうございます顧問』

 『トリモチの除去にちょいと時間がかかる。暫くはその場で待ってな、まあ、ラフタとアジーの嬢ちゃんらに周囲を警戒してもらってるからめったな事はねえだろうがよ』

 『うす』

 

 マルバの通信に答えを返し、昭弘はやり遂げた満足そうな表情で大きく息を吐くのであった。

 

 

 

 

 『何故だ!何故貴様を倒せん!』

 

 場面は戻り、コールドレイク基地で戦闘を続けるコーラルとマクギリスであったが、状況はコーラルにとっては予想外のものであった。

 高速のチャージ攻撃はことごとく回避され、ならばと放つライトニングボウは、周囲を囲むグラディアートルを楯に防御されてしまい今だ有効打をアドラーグレイズに入れることができていないのだ。

 

 『勘違いその一。グレイズシェッツエは長距離行軍後の拠点攻略及び防御には最適であるが、対MS戦に限れば私のアドラーグレイズより優れているわけではない事』

 

 そんなコーラルをあざ笑うように、コクピットをライトニングボウで貫かれたグラディアートルを楯にしつつアドラーグレイズがグレイズシェッツエに迫る。

 咄嗟に手にしたランスでグラディアートルを跳ね除けるコーラルであったが、その背後にいたアドラーグレイズは既にその場にはおらず、中空を舞っていた。

 アドラーグレイズは飛翔能力、及び飛翔体勢に移る速度においてグレイズシェッツエを上回る。

 その性能をマクギリスは十二分に引き出していた。

 そして、グレイズシェッツエが射撃体勢に移るより早くアドラーグレイズはその後方に着地し、手にしたスピアでグレイズシェッツエの四足の内後方の二脚の間接部に正確無比な突きを入れる。

 

 『勘違いその二。阿頼耶識システムは装備者の空間認識能力を高め、機体性能をほぼ完全に引き出せるが、元の認識は人間のものであり、本来人間にないもの例えばスラスターや、貴方の機体の四足の後ろなどへは対応がとりにくい。まあこれは適性と慣れがあれば克服できるものだがね』

 『おのれ!舐めおってからに!』

 

 怒りの声とともに、コーラルはグラディアートルを突き刺したままの体勢でグレイズシェッツエを旋回させ、そのランスでアドラーグレイズをなぎ払おうとするが、後方の二脚が万全でないために、それでも恐るべき出力であるが、通常よりも速度も威力もない。

 当然のごとく、アドラーグレイズは宙へと舞いその攻撃を回避。

 すぐさま、その脚部を半回転させ巨大脚部クローを展開させ、グレイズシェッツエの両肩にそのクローを食い込ませる。

 

 『くそう!貴様ぁ、降りろ、降りんかぁ!』

 『そして最後の勘違いだが、貴様の腕は俺に遠く及ばないんだよ』

 

 そして、振りほどこうと暴れるグレイズシェッツエの上で絶妙のバランスを保ち立つアドラーグレイズが、その手に持つスピアを両手で握りなおし、グレイズシェッツエの首元の装甲の薄い部分へと深々と突き入れ、そのままコクピット部までを貫いた。

 

 『さて、というわけだが、おやもう死んでしまったか』

 

 さもこともなげに呟き、マクギリスは動かなくなったグレイズシェッツエに刺さったスピアを数回ひねり、搭乗者の死亡を確実にした。

 そして、モニター越しに見える、後ずさる生き延びたグラディアートルや、歓声を上げる人質達、恐ろしいものを見るような基地の生き残り達の視線を確認し、満足そうに微笑む。

 

 「フフフ、そうだ!もっと俺を見ろ。恐怖、憧れ、畏怖。何でも構わない。もっと俺をその心に焼き付けるといい!」

 

 聞くものもないコクピットの中で、マクギリスはそう呟き、生き延びたグラディアートルらにアドラーグレイズのスピアを突きつける。

 

 『残りのものはどうする?ここで降伏するならは軍事裁判を受けることもできるが?』

 

 マクギリスの言葉を最後通牒であると正確に受け止めた、生き延びたグラディアートルらはすぐさま武装を解除し、降伏の姿勢を示す。

 その様子を微笑を浮かべながら見守るマクギリスは、一人呟く。

 

 「最後の幕引きは、君達に任せるよ。鉄華団の諸君」

 

 

 

 

 エドモントン再開発地区に設置された、ギャラルホルンの臨時司令部を目指しツヴァイは最後のグレイズシェッツエを走らせる。

 今だコクピットでうめき続けるマクエレクを、英雄として完成させる目的を果たすまで、彼は止まれないから。

 だが、その行く手に一機のMS、悪魔の名を冠するガンダムフレーム、バルバトスが立ちはだかる。

 地上用に換装し、装甲とスラスターを増設したそれは、ツヴァイに向け手にした太刀を構える。

 

 『最後まで邪魔をするか、バルバトス!いや、三日月・オーガス!』

 『アンタ誰?まあいいや、オルガからの命令だからここで終わってもらうよ』

 

 それぞれの目指すものの為に、悪魔と人馬の戦いが、ここに始まろうとしている。

 

 

 

 




 誤字脱字のご指摘、感想評価等ありましたらお願いします。


 『昭弘、カッコよかったよ♪』
 『ラフタ、お前に怪我がなくてよかったぜ』
 『昭弘…心配してくれてありがと!』

 『(何この甘い空気は!)』



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