マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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 次話投稿します。


 補足:ツヴァイ・ダルトン…白髪と赤目以外はアイン・ダルトンと同じ顔立ちをした青年。グルーガ・ダルトンをベースにダルトン家で製造されたデザインベビーの二番目。阿頼耶識システムを使用しないMSパイロットの強化実験に参加していたが、計画変更につき、マクエレク・ファルクの替え玉として使用された。
 父であるギザロ・ダルトンを崇拝のレベルで尊敬している。






我ら火星の、鉄華団

 「団員の皆、ご苦労だった!火星から続いた依頼は一旦終わる!それを成功という形で完遂できたのはお前たちのお陰だ!ありがとう!」

 

 オルガ・イツカは自身の目前に整列する鉄華団の団員たちに、感謝の言葉を送る。

 マクエレク・ファルク事件から数日の後、予定より暫く遅れて開催されたアーブラウ代表指名選挙は、奈落の底から蘇った男、蒔苗が勝ち取った。

 最も対抗馬であり、本命と目されていたアンリ・フリュウがコールドレイク基地で事故死しており、かつその派閥の有力者という名の売国奴たちも、アンリと運命を共にしていたためか、対抗馬が出なかったためでもある。

 他の対抗馬になりそうな者たちは、事件に前後して次々と代表候補を辞退したのは、恐らく偶然であろう。

 

 『我らアーブラウはクリュセ自治区、ひいては火星圏と真の友邦としてあらねばならん』

 

 上の言葉により始まった蒔苗による就任直後の演説に続き、クリュセ自治区の代表をクーデリア・藍那・バーンスタインと定め、最終的には独立へ向けた支援体制をアーブラウがとることを方針として決定した。

 火星を一つの経済圏として独立した存在として、確立させるべきであるという、厄祭戦後にギャラルホルンにより定められた体制に対してのある種の反逆めいた方針であり、ギャラルホルンの介入も危険視されていたが、そうはならなかった。

 

 『ご覧ください!これが秩序の守護者といわれた者たちの姿でしょうか!』

 

 主義も主張も金次第で有名な報道機関、モーニングサン社によりマクエレクらの襲撃を受け、エドモントン仮駐屯地や、市内の司令部から我先にと逃走を図るイズナリオ派閥のギャラルホルン職員たちの姿が、世界に発信されてしまったからだ。

 ソース元は匿名とされたが、加工されたものではないと証明されたこの無様な映像により、正義と秩序の守護者というギャラルホルンの大前提を守るための実力が、ギャラルホルンにあるのかと疑問を全世界にもたれてしまったのだ。

 

 「我々は敗者であるが、卑怯者にはならない。約定は守る」

 

 加えて、マクエレク・ファルク事件で死亡したイズナリオ・ファリドが職責を悪用、私物化した行いを、マクエレクらに投降したシーバック二佐ら、イズナリオ配下の者たちが、降伏の際に交わした約定どおりに証言を行った。

 その証言に基づき、後継者であるマクギリスの許可の下、ファリド邸で行われた監査局による捜索の結果、その証言を裏付ける証拠資料が数多く発見されてしまった。

 ほぼ同時に起きた二つの出来事により、ギャラルホルンとそれを指導するセブンスターズは、内外に対する信用信頼を大きく損ね、直接的な反逆行為ならばともかく、経済圏への政治加入と取られるレベルの行為に出ることは不可能となっていた。

 よってギャラルホルンは、自らが正義と秩序の守護者であることを、世界に示し続け、名誉と立場を回復する必要があった。

 

 

 

 

 「前クリュセ自治区代表、ノーマン・バーンスタイン!贈賄、殺人教唆及び職権濫用罪にて逮捕する!」

 「な、何だ君達は!出て行きたまえ!」

 「抵抗するか!鎮圧後確保!」

 「や、やめ!ごひゅ」

 

 未明の火星クリュセ自治区、バーンスタイン邸の寝室にて、前自治区代表であるノーマン・バーンスタインは火星のギャラルホルン職員により逮捕された。

 取り潰しにあったオルクス商会に残された文書、クランク・ゼント特務三尉ら元火星支部の者たちの証言により、確定された罪状は数多くあり、今後のノーマンの人生全てを衛星監獄で送らせるには充分な量であった。

 このように、イズナリオ体制で見過ごされていた悪行が、世界各所で摘発されることが暫く続くことになるだろう。

 ギャラルホルンが正義と秩序の守護者であり、その力もある事を証明するためにも。

 

 「で、カルタが新代表が帰ってくるまでの臨時代表をするのか?」

 「仕方ないでしょう。混乱を抑えて、新代表のクーデリアとか言う小娘が火星に戻るまでにそれなりの状態にできるのは私しかいないのだから」

 「フーン、そうマクギリスに言われたら張り切るしかないよね?」

 「!あ、あの金髪イジイジ男は関係ないわ!そう、これはセブンスターズとしての義務よ!義務!それに貴方にも暫く付き合ってもらうわよ、ガエリオ!」

 「エッ、俺は監査局なんだけど?」

 

 顔を腫らし、武装した屈強なギャラルホルン職員に両脇を挟まれたノーマンが、屋敷から引き出されて護送車に詰め込まれるのを眺めつつ、カルタ・イシューをからかっていたガエリオ・ボードウィンは顔をしかめる。

 そんなガエリオに、カルタはふふんと鼻で笑い言葉を続ける。

 

 「火星統制統合艦隊司令の権限です!それに貴方のお父様にも許可はもらってるわ『どうぞ使ってやってください』っておっしゃられてたわ」

 「まったく、父上も人使いが荒いよ」

 「それだけ父上は貴方を買っておられるのですよ、ガエリオ様。私も微力ですがお手伝いします」

 「ああ、わかってるよクランク。頼りにしてるぞ」

 

 カルタの言葉にうなだれるガエリオに、クランクは真面目な顔で応じ、それを受けてガエリオは気を入れなおす。

 

 「そうなると、またもや人手不足か、デクスターに相談しなくてはいかんな」

 「地球はここから遠いわ。できるだけ現地の人材を確保しなくてはね」

 

 明らかに不足する業務に対しての人的資源を確保するか、カルタとガエリオの苦悩の日々はまだ終わりそうに無かった。

 

 

 

 

 

 「なあ、ノブリスさんよ。お前さん今回の件で、大分損をした割に機嫌がよさそうじゃねえか?良ければ理由を聞かせて欲しいもんだな」

 「ハハハ、そう見えますかな」

 

 同じ頃、テイワズの本拠地歳星にあるマクマード邸にて、テイワズの代表マクマード・バリストンと世界規模の大富豪ノブリス・ゴルドンは今後のクリュセ自治区でのハーフメタル採掘権についての談合のために顔を合わせていた。

 

 「確かに、大分あの娘には人も金もそれ以外も、ねだられましたがね。ハーフメタル利権にクリュセ復興の利権、それなりの利益はでます。がそれ以上にあの娘が大きく化けてくれたことが最大の利益といえますかね」

 「クーデリア・藍那・バーンスタインか。確かにたいした成長振りだが、手駒にしちゃ少し暴れすぎねえかい?」

 「いえいえ、手駒などど。もしかすれば、私を使いこなす人物になるかもしれません。それが喜ばしい」

 

 ノブリスの笑みを浮かべながらの答えに、マクマードは顔をしかめる。

 

 「自分の上に誰か立って、嬉しいのかい?よく分からんな」

 「でしょうな、貴方は自分の主が自分でないと許せないでしょう。でもね、私のように自分が選んだ自分のための主を望む、という人間もいるのですよ」

 「そういうもんかい」

 「そういうものですよ」

 

 そこまで話した両者は、お互いに理解できない感情であると思い、会話を打ち切る。

 とそこに、来客を告げる知らせがマクマードに入った。

 

 「まあいい、もう一人の客人も来たし、ビジネスの話にしようじゃねえか」

 「そうですな。これからのためにもきっちりとしたものにしなくては」

 

 部屋で話す二人の前に、案内を受けたもう一人の客人、金髪の身なりの良い中年男性が入ってくる。

 

 「お待たせしました。モンターク商会代表のアルベルト・モンタークです」

 

 今後の火星利権を巡る談合が、今から始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 「オウ、準備は順調そうだなオルガ」

 「ああ顧問、大体荷物はまとめ終わったそうす」

 

 火星への帰還準備をすすめる団員を監督していたオルガは、マルバに返事を返す。

 

 「すみません、まだ残ってもらう事になっちまって」

 「仕方がねえだろ、お嬢さんらだけ置いていくわけにもいかねえし、所帯の増えた俺ら全員で残るわけにもいかねえ」

 

 彼ら鉄華団はその大半が、再びタービンズと共に昌弘やスリン、音羽といった新規団員らと共に火星に帰還するが、マルバやハエダ、シノといった古参団員の一部がクーデリアらの護衛とサポートとして、暫く地球に残る事を決定していた。

 

 「増えた連中と残った連中、お互いの顔合せにおめえやビスケットがいねえと難しいからな」

 「ミカと昭弘の件は、音羽先生に相談してみますよ。まずこっぴどく怒られそうですが」

 

 マクエレク・ファルク事件の際に、共にグレイズシェッツエを撃破した三日月と昭弘は、大きな怪我こそ無かったものの、三日月は左目が見えなくなり、昭弘は左腕の触覚を失っており、地球では医療ベッドによる治療では治癒しなかった。

 阿頼耶識システムの弊害が疑われたが、そもそも阿頼耶識ステムを禁じている地球では対策が分からずじまいであった。

 

 『まだもう一つあるし、バルバトスに乗れば見えるから大丈夫でしょ』

 『問題ない。まだ戦えるし筋肉は動く』

 

 当の本人達が然程その事を問題視していないのが、オルガやマルバらにとっては頭の痛い問題であった。

 

 「まったく、ルイスにも帰ったら嫌味を言われそうでなあ」

 「あー教官、そういうの直接は言わないですからね」

 「そうだ、そのくせ絶対に忘れないで後からちくちくと言われるんだからよお」

 「…まあおやっさんと、少しは宥めておきます」

 

 視界の端に、何故かクーデリアとアトラの両者から挟まれ、頭をなでられている三日月と、それをみて笑いをこらえるフミタン・アドモス改めミスト・ランドを捉えつつ、ポツポツと今までの事や、今後の事を話し合うオルガとマルバに、呼び声がかかる。

 オルガに呼びかけたのは、困ったような笑みを浮かべるビスケットと、左目に眼帯をつけた三日月であり、マルバに呼びかけたのはクーデリアとその横に控えていたミストであった。

 

 「オルガ、相談したいことがあるんだ。こっちに来てくれる?」

 「ああ分かった!今いくから待ってろ」

 「マルバ顧問、次の打ち合わせお願いします」

 「了解ですぜ、今行きます」

 

 オルガはビスケットたちのほうに向けて歩き出す、とその途上で、不意に立ち止まり振り返ったオルガは、片目をつぶり不敵そうな笑みを浮かべ、マルバに声をかけた。

 

 「じゃあ、火星で待ってますぜ…親父!」

 「俺が行くまで、怪我してんじゃねえぞ、馬鹿息子!」

 

 そう言い合うと、お互いに照れたような笑みを浮かべ、オルガは三日月とビスケットらと共に、マルバはクーデリアとミストの待つほうへと歩き出す。

 

 これからの鉄華団の未来のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 誤字脱字のご指摘、感想評価等あればお願いします。

 次回エピローグにて完結となりますので、最後までお付き合いいただけると幸いです。





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