あの破損した装甲を脱ぎ捨てて一撃入れる様がたまらんのです(恍惚)
戦場の主力となる強化外骨格、人間の体を完全に覆いつくし、胸部にて収容、直接操縦が可能な人型軍事兵器。過去から現在に掛けて、戦車や戦闘機が活躍する時代は終わりを告げ、各国の主戦力はこのBFを中心に構成されていた。あらゆる地形、気候に対応し、武装による制限が存在しない汎用兵器。
今から十数年前に開発されたのが第一世代機、最初期の機体は数が少なく全てが傑作と呼ばれた。彼ら彼女等は尊敬の念と共に『オリジナル』と呼ばれ、多くの戦場で活躍、奮闘を見せ、後のBF開発の先駆けとなった。
しかしそれも既に過去の話、現在のBFは第五世代、第四世代機が戦場を闊歩し、第一世代は愚か第二世代機も姿を見ない。世代は移ろい、彼らオリジナルの戦場は既に何処にも無かった。
しかし、未だに戦場で戦う第一世代機が一機、残っている。
装甲が分厚く、何度被弾しても蘇る第一世代機、通称【オールド・ワン】
最後に残された
BFは日々進化を続けている。
彼は改修を繰り返しながらも、しかしその動力源であるコアは第一世代のままであった。出力が変わらない、それは強力な兵器を搭載できず、また今以上の装甲は積み込めないという事。
一年が過ぎ、二年が過ぎ、既に彼我の性能差は雲泥の差と言う他無いところまで来てしまった。如何にオールド・ワンが優れた兵器であっても、或は蓄積された経験があったとしても、その性能差はどうこう出来る場所になかった。第一世代と第五世代では、既に勝負のステージが異なるのだ。
そしてBFが開発されて十八年、オールド・ワンは遂に最後の時を迎える。
旧ロシア連邦、カストーネ渓谷。
帝都の誇る第三強化外骨格部隊、オールド・ワンはその一員として旧ロシア領土へと派遣された。そしてカストーネ廃都市での作戦行動中、ガンディア先遣隊と遭遇戦。敵の狙いは旧ロシア領の暫定統治を行っているシーマルクへの威力偵察。図らずも帝国の増援隊と鉢合わせたという結末。
戦闘は二日間に及び、正面からの撃ち合いでは帝国軍が圧倒した。しかし、潰走した敵を追撃中、ガンディア増援部隊による超長距離狙撃を許し、オールド・ワンはコアに直撃弾を受けた。
結局その戦闘は追撃中止となり、そのまま部隊はシーマルクへと収容。共和国であるシーマルクで修理作業を行ったが、コアの損傷率が規定値を超えるという結論に至り、【オールド・ワン】は祖国以外でのスクラップ処理が決定した。
☆
オールド・ワン、その名は五年前に定着した異名である。
ロールアウトしたばかりの当時、BFという存在が時代の尖兵でしか無かった時代、彼は【重鉄】と呼ばれていた。それは彼のコンセプトから取って付けた名前であり、オリジナルの一機として数多の戦場を駆け抜けた。
しかし、それも既に過去の話。
オールド・ワン、時代に取り残された老兵、死に場所を失った亡霊、そう呼ばれ始めたのは記憶に新しい。彼自身も、自分が何故ここまで戦い続けるのか疑問ではあった。既に隣に並び立つ同胞は鉄屑に還り、切り開いた道からは新たな世代が生まれていた。自身が先頭に立って戦う時代は終わり、第二、第三、第四と、徐々に新しい兵器が生み出され、気付けば自分の戦場はどこにも無かった。
ただ、意地を張っていた。
そう言われれば、そうなのだろうと。
彼は独りでに思う。
場所はスクラップ工場、通称【兵器の墓場】
戦場で修復不可能な被害を受けたり、或はロールアウト直前で審査に引っ掛かった不良機体を廃棄する為の場所。そこには数多の機体が鉄屑として押し込まれ、暗い暗い奈落の底に埋まっている。
嘗てオリジナルと呼ばれ、戦場の花形を全うした彼――オールド・ワンも此処に居る。積まれ、山となったスクラップの上に横たわり、既に切れかけの視界情報をただ眺めている。コアが撃ち抜かれ、稼働率が十パーセント未満の状態で彼は生き永らえていた。
機体は右腕が丸ごと抉られており、腹部に至っては風穴が空いている。その陰から半分消えたコアが顔を覗かせており、時折火花を散らしている。
見上げる天井は高く、コンベアから流れて来るスクラップが広い奈落を少しずつ埋めていた。それは被弾し鉄屑になった機体であったり、品質に問題のある新品同様の機体であったり、様々だった。
こうして上を眺めているだけで、自分はいつかこの死体の中に埋もれるのだろうと彼は考えた。シーマルクはアジア同盟国の中でも力を持つ国であり、暫定統治を行う都市であってもかなり大規模なBF製造工場を持っている。この山の様に積まれた機械を見れば誰でも分かる事だ。
オールド・ワンのスクラップが決定した時、誰もが何も言わなかった。ただ少しだけ、残念そうに視線を伏せるだけであった。そういうモノなのだろうと思う、あるいはその程度の情だったのだろうと、彼は彼なりに納得している。あの部隊に編入して数年足らずだが、あからさまな侮蔑の視線が無かっただけマシなのだろうとポジティブに考えた。
部隊ではお荷物が一人居るだけで何人も死ぬ、だからこそ時代に取り残された骨董品が何処まで戦えるのか、最初こそ心配だったに違いない。受け入れて貰えただけ儲けもの、そうノイズの奔る思考で考えてはみるものの、やはり少しだけ悲しく思った。
彼は横たわったまま自身の左右を挟む様に、また彼と同じように上を向いている僚機を見る。彼よりも幾らかスマートなフォルムで、その装甲には無数の弾痕、溶解した痕が見られる。オールド・ワンと同じように何度も改修され、何度も戦場へと駆り出された戦友。その二機もまた、彼と同じようにスクラップの中に在った。
AI制御の僚機はマスター個体である彼の命令に従って共に戦ってきた。AIには学習機能が搭載されている、彼が得意な戦術も、癖も、陣形も、二機は全て記憶していた。十数年と共に戦ってきた両機は最早命を預けるに足る唯一無二の仲間であり、決して裏切らない友でもある。
そんな彼らが自身と共に力尽きる。彼らは未だ現役だ、コアこそ第一世代のモノだが自身と違ってコアを損傷していない、動かそうと思えば動かせる筈だった。しかし、彼らは此処に放り込まれた。
それは所詮第一世代の機体である事もそうだが、何よりメイン個体であるオールド・ワンがスクラップにされた場合、AIの初期化設定が面倒であるというクソの様な理由。
十数年戦い続けたAIなど、恐らくこの二機だけだろう。その学習履歴は膨大な数に上り、それらを全て消去して真っ新な機体として運用するには、二機とも年を取り過ぎた。であればその手間を他の機体に回したい、何なら鉄屑にして資材にした方が余程効果的である、そういう事なのだろう。
オールド・ワンから命令の出されていない二機は微動だにしない、一度戦場に出れば自分と共に奮闘する二機は、糸の切れた人形という表現そのままに横たわっている。頭部のモノアイからは小さな赤いランプが点滅するだけで、その視覚は遮断されていた。彼らの目には暗闇しか見えていないだろうし、AIも動いてはいないだろう。
オールド・ワンはその姿を見て唐突に泣きたくなった。
【重鉄】の名を授かり、時代の尖兵として踏み出したこの身、我が国の為にと戦い続けた果てが――このザマか。
恐らく今まで廃棄されたオリジナルもまた、同じような末路、同じような感情を抱いた筈だ。祖国の為に戦い、祖国の為に死に、祖国の為に鉄屑と成り果てる。そこには何の見返りも無く、両手に抱き絞めていた祖国への愛から得られる対価など、
いや、それを両手に持っていた時には確かに光り輝いて見えるのだ。誇らしく、手に持っているだけで胸を張れるような、そんな力強さに満ち溢れていた。しかし一度、たった一度でも
この身になって十数年、当時若人だった自分も良い年だ、今死んだとしても惜しくは無い。
しかし、その結末がこのスクラップの底であるのならば、それは到底受け入れられない事実だった。特別な褒章を貰うつもりもない、恩に報いろと祖国に強請るつもりもない。
ただ嫌だったのだ、戦い続けた己の生が、こんなにも呆気なく――祖国の栄達を目にする訳でもなく、何か多大な貢献を成して逝くわけでもなく、朽ちて行くのが。
オールド・ワンには我慢出来なかった。
――ここで終わるのか、自身の十数年の戦いは。
辛うじて動く左腕を伸ばし、横たわった僚機に触れようとする。
しかし指先が触れる事は無く、頭上から降って来る廃棄物が屍の山を積み上げるだけ。其処にはそれ以外の音も、動きも無く、ただ死を待つ者の為の墓場だけがあった。それがまるで、「お前は此処で終わりだ」と言われている様で、オールド・ワンは猛烈な怒りを覚えた。
BFに繋がれてから久しく忘れていた感情の激流、或は生への執着。伸ばした腕を屍の山に叩きつけ、装甲同士が擦れ火花を散らした。鉛色に輝くそれに自身の姿が反射し、ボロボロになった頭部装甲が見える。
そこからモノアイが爛々と輝き、不気味な唸りを上げていた。
――終われる訳がない、こんな場所で、こんな結末で。
納得など、出来るモノか。
生きるのだ。
そう決意した瞬間、オールド・ワンの心中は驚く程晴れやかになった。
そして、神が微笑んだとしか言えないタイミングで頭上から廃棄された機体が降って来る。それは大きな破砕音と共に屍の山へと落下し、オールド・ワンの目の前へと転がった。
真新しいフレーム、装甲の装着されていない基本骨格状態のソレ。剥き出しのフレームに包まれる様にして存在する動力炉――コア、見る限りソレは第五世代の機体であり、オールド・ワンの第一世代コアの出力を遥かに凌ぐ性能を誇っていた。
綺麗に繋がれた動力炉、繋がれたパイプからフレーム全体へとエネルギーが伝達されている。恐らく装甲を纏わせ、人を搭載すれば真っ当な兵器として稼働するであろう、オールド・ワンの目にはコレのどこが不良品なのか全く分からなかった、或は外見的な差異は無く、動力炉やフレーム内部に異常があるのかもしれない。
いや、それでも構わなかった。
既にこの身は老いぼれ、第二世代どころか第三世代にも届かない出力しか持たない。砕かれ穴の穿たれたコアは風前の灯火だ、このままじっと時を待てば何れ機能を停止し永遠に動く事は無いだろう。
そう考えれば、不良品だろうが何だろうが、構わなかった。
オールド・ワンは横たわった機体に辛うじて動く左腕を伸ばし、その剥き出しの動力炉を引っ掴んだ。そのまま力任せに引っ張れば、バチバチッとパイプが弾けフレームからコアが露出する。動力炉――コアがフレームへと伝達していたエネルギーが途切れ、フレームに走っていた伝達回路の光が形を潜めた。
コアは球状で、拳程度の大きさだ。青紫色の不気味な配色で、その表面は妖しい光を放っている。これ一つでBF一機分の動力を全て補うと言うのだから凄まじい、手のひらからは第一世代とは比べ物にならない程のパワーを感じた、ただ持っているだけでエネルギーの波動を感じるのだ。
自身の使用して来た動力炉の二倍、三倍、四倍――いや、二桁の差があってもおかしくは無い。
オールド・ワンは自身のメインプログラムに訴えかけ、胸部装甲の強制排出を行う。数秒して胸部装甲が独りでに弾け飛び、内部から蒸気が吹き上げた。腹部の装甲が胸部装甲に噛み合って、上手く排出出来なかったのだ。オールド・ワンは胸部装甲ごとパージすることで、己のコアを露出させた。
胸部にはオールド・ワンそのものが、そして腹部には半分砕かれたコアが繋がれていた。【オールド・ワン本体】から丁度、幾つかのパイプが伸びてコアへと繋がっている。しかしその半数は既に千切れ、コア自体の出力も刻々と下がっている。本来コアの換装など前例がない、しかも本体とコネクトした状態でなど自殺行為も甚だしい。下手をすればこのまま永遠に目覚める事無く、鉄屑の山に埋もれるかもしれない、そう思った。
しかし、どうせ何もせずにいたとしても、緩やかに朽ちて死に逝くのだ。それは今この瞬間に息絶えるか、或はゆっくりと死に向かうのか、それだけの違いだった。
迷いは無かった、躊躇いも無かった。
オールド・ワンは自身の意思によって【動力炉強制排出】を決定、再三に渡る警告とエラー音声を無視し、腹部に収まっていたコアを弾き飛ばした。辛うじて接続されていた数本のパイプが離れ、弾かれたコアはスクラップの山へと消える。エネルギー源を失った機体は急激に熱を失い、視界が白黒に瞬いた。機体が急激に重くなり、左腕を動かすだけでも億劫だ。
残留したエネルギーのみで動く抜け殻、成程、これは死ねる。エネルギーを失った機体は生命維持すら危うく、本体が喘ぐように口を開けた。
それでも。
オールド・ワンは声なき叫びを上げ、勢い良く腕を腹部へと叩きつける。窪んだ動力炉のスペース、コアの形に空いた空間にソレを殴る様な勢いではめ込んだ。
風穴の開いた腹部に、再び光が灯る。その瞬間、凄まじい勢いで全身をエネルギーが駆け巡った。それは何と表現すれば良いのだろうか、今までの出力が水溜りの様なモノだったとするならば、オールド・ワンを襲った出力の波は海の様だった。
際限なく溢れ出るエネルギー、それは未だ嘗て経験した事のない力の奔流。ともすれば吞み込まれてしまいそうな凄まじさだった、オールド・ワンは自身の四肢、その末端までエネルギーが行き渡るのを感じ、大きく歪に笑う。機械の顔面が唸り、一つしかないモノアイが鈍い光と共に瞬いた。
屍の山に手を掛け、満ち溢れたエネルギーを制御下に置く。それは猛獣を手懐けている様な感覚、これで生き永らえる、自分は鉄屑では無く兵器として生き永らえた。四肢を巡る強大なエネルギーの塊、オールド・ワンは叫び、何度も強く屍の山に拳を落とした。それは暴れる力の奔流を堪える様に。
オールド・ワンの叫びに応える様に、横たわっていた二機が幽鬼の如く再起動を果たす。強大なエネルギーの余波を受け、また
この墓場に落とされた時点で、AIはその役目を終えた筈だった。しかしプロテクトに逆らって尚、二機は唯一無二の主人の為に動き出す。
もうブリキの様に塗装が剥げ、ボロボロになった腕を伸ばして懸命に足掻く。既に二機の損傷は全壊に近く、最後の最後までオールド・ワンを庇った機体は穴だらけと表現して相違ない。それでも二機は辛うじて動く体に鞭打って、同胞の残骸を漁る。そして残骸から引き抜いた手には、第五世代のコア。
山の様に積み上げられた屍の中から、最もエネルギー波の強いコアを掘り当てる、二機は手にしたソレをじっくりと見つめ、同じタイミングでコアを強制排出した。最も禁忌とされる行為、AIに学ばせる最も基礎的な知識、その一つにコアの強制排出は禁則行為として刷り込まれている。
それはコアの誘爆という例外を除いて。
二機はその例外に該当しないというのに、自身の意思にてコアの強制排出を行った。
そして振り上げた腕を勢い良く、風穴の開いた腹部に叩き込む。ガチィン! と火花が散り、コアがスペースに嵌め込まれた。瞬間、動力パイプがコアに接続され固定ボルトがコアに撃ち込まれる。
二機の点滅していたモノアイが一気に輝きを取り戻し、全身から青白い光が漏れ出す。それは第一世代の機体には余りあるエネルギーの奔流、二人の頭部装甲が弾け、機械が唸り声を上げた。
そして二機は勢い良く再度腕を屍の山に突っ込む、それは自身の欠損を補う為。既に役目を果たさない脚部、装甲の無い頭部、配線の擦り切れた腹部、胸部を己の手で改修する為に。このジャンクの山は最早三機にとって宝の山、新しいコアを得た三機にとって、今まで取り付けられなかった大容量のエネルギーを欲するパーツの入手は最も簡単に強くなる方法の一つだった。
僚機の片割れ――近接強襲機体であった【カイム】が第四世代機の軽量機用右腕部を掘り当てる。それを獲物の様に天高く掲げた後、徐に自身の右腕部を強制排出した。勢い良く飛び出した右腕部はジャンクの山にぶち当たり、そのまま有象無象の一つと成り果てる。
肘先からドロドロに溶けた第一世代の右腕部は、既に他の屍と見分けがつかない。カイムは新しい腕を接続口に押し当て、そのまま接続命令を下す。本来ならば第一世代に第四世代機のパーツ互換性は存在しない。しかし、BFの接続口の規格は大凡似た様な構造にある。吐き出されるエラーメッセージを黙らせ、無理矢理接続ボルトを出させる。それを接続口に捩じり込み、これでもかと補助ロックを働かせる。
肩部装甲の出っ張りが腕部の内面に接触してボルトが最後まで嵌らない、それを見るや否やカイムは唸りを上げて狂ったように肩部の装甲を殴り始めた。金属と金属がぶつかる甲高い音。それが何度も鳴り響き、やがて肩部の装甲が内側に抉り込み接続口のボルトが完全に呑み込まれた。
そして何度が作動する事を確認し、カイムは再び屍の中からパーツを探す作業に戻る。それは異様な光景であった、機械である二機が自身の改修の為に同胞の機体を漁り、何の躊躇いもなく接続して行く。
自身の身の丈に合えば機体重量規格も関係ない、用途も世代もバラバラ、兎に角自身の体に合い、最も強いパーツを。それは継ぎ接ぎだらけの亡霊の様でもあった、ただ強さだけに頓着し形も大きさも装甲の厚さも、或は製造された国すら異なる。
オールド・ワンはその二機の姿を見て、驚き、そして同時に生への強い渇望を抱いた。二機のその姿は、まるで生きたいと全身で叫んでいる様であった。その姿に触発され、オールド・ワンもまたジャンクへと手を伸ばす。二機程ではないが、オールド・ワンも全身のパーツ耐久値が限界に来ている。右腕に至っては全壊し、直撃弾を許した腹部には大穴が。
それでなくとも第一世代、機体の予備パーツすら無い老いぼれの体。
伸ばした手の先にあったのは、第五世代機、その重量機体用のヘッドパーツ。分厚い装甲が何層も存在し、その中央にモノアイが一つ備え付けられている。目の前のソレを左腕で鷲掴み、オールド・ワンは頭部の強制排出を実行する。
瞬間、先程まで眩い光を放っていたモノアイが光を失い、胴体部位との接続が解除、支えを失った頭部がグラリと落ちる。視界情報が遮断され、ズシン、と何か重いものが落ちる音が聞こえた。
オールド・ワンは再接続シークエンス、そのアナウンスに従ってヘッドパーツを首元へと近づける。その瞬間、第一世代機の矜持がエラーメッセージを吐き出すが、それをねじ伏せて無理矢理パーツを押し込む。ボルトが接続口と噛み合い、補助ロックを展開して頭部を接続した。
視界にノイズが奔り、エラーウィンドが幾つも開かれる。それらを片っ端から消去し、オールド・ワンは第一世代の頃とは比べ物にならない明瞭な【目】を手に入れた。世界が良く見えた、色合いも、細かさも、何もかもが違った。まるで今までモノクロ写真を見ていた気分、それはこの掃きだめすら多少マシに見せてくれた。
新しい目で自身の左腕を映す。
装甲ばかり厚いだけの、無骨な自身の腕。その表面装甲には無数の弾痕が残り、幾つかは内部の配線を食い破っている。我ながら良くこれで動くものだと感心した。そして周囲に目を向ければ、本体フレーム、各部位装甲、パーツ、動力部位、近接武装に銃火器まで、何から何まで揃っていた。
――ここでなら、自身はもっと高みを目指せる。
オールド・ワンは独りでに決意した。
自身は時代遅れの老兵だろう、或は自分達の求める戦場など、勝利など、何処にもないのかもしれない。今ここで生き永らえたとしても、自身は何処か世界の片隅で野垂れ死ぬ運命なのかもしれない。
それでも。
だとしても。
オールド・ワンは自身の体を捨て、新たなパーツを接続する二機を見る。必死にジャンクを掻き分け、新しい力を探し出す。継ぎ接ぎだらけの体は酷く歪で、しかし生命力に満ち溢れていた。
その姿は今までオールド・ワンの目にしたこのないモノ、十数年戦場を共にして来た戦友の、初めて見る感情の発露。
――死なせたくない 無駄にしたくない。
これまでの戦場を、これまでの殺生を、これまでの記憶を。
終わらせたくない。
この三機の戦いを、戦場の絆を――
二人の姿はオールド・ワンに今まで抱いた事の無い感情を抱かせる。それは何処までも深く、広く、全身に浸透して行った。何の為に戦うのか、何故そこまで拘るのか。そんなのは自分にも分からない、幽霊の様に実態が無い感情だ。
けれど終わらせたくなかった、この三人で戦う戦場を。
死なせたくないと思った、この
戻ろう、自分達の【戦場】へ、力を得るために、戦うために、守る為に。
我が祖国を捨てて。
☆
その日、廃棄場にて三機のBFが姿を消した事に、気付く者は誰も居なかった。
人知れず戦場を去った最後のオリジナル、年老いた第一世代の英雄。彼が鉄屑としてシーマルクに埋葬されたと報告されたのは、それから三日後。
帝都では最後の第一世代機を慈しみ、ごく小さな式典が行われた。それは第一世代機を生んだ技術開発者であったり、当時彼の整備を担当していた技術将校であったり、彼を知る少数、内々の面子であった。
彼らは知らない。
オールド・ワンがスクラップ工場より落ち延び、命を繋いだことを。
そして再度、
一話目なので9000字で投稿します。
後は恐らく3000字とかで区切っての投稿になると思います(゚д゚)(。_。)
ガンダムとかFAの様なスマートな機体もスンバラシイのですが、Vやフロントミッション、ヴェルベットファイルの様な重厚な機体も良いですよねぇ……。
皆魅力的過ぎて目移りしちゃう。