オールド・ワン   作:トクサン

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眠れる獅子との契約

 

 隣で言い淀む男の代わりに、スパッと言葉を口にした女。

 その言葉はオールド・ワンにとって予想外過ぎる言葉で、暫く言葉を失った。その沈黙を好機と捉えたのか、或は拙いと捉えたのか、女は尚をも身を乗り出して言葉を重ねた。

 

「元々、私達はこの拠点以外に行く宛て何てないの、外を彷徨ったって正規の軍隊に潰されるか、同じ流浪人に殺されるだけ、安住の地なんてない、唯一の頼みの綱だったBFも壊れたし、私達にはもう戦えるだけの武器が無い、けれどアンタ達は違う、BFがある、それも三機も、やれる事なら何だってする、戦闘じゃ役に立たないかもしれないけれど、BFの整備やパーツの調達だって出来るわ、この街の細かいところまで知っているし、今は庭の様なものなの、食料も水も手に入れられる、少ないけれど燃料だって……! ――だから私達を仲間にして、お願い」

 

 カイムに銃口を突き付けられながら、女は最後まで言い切る。

 此処は自分達のホームであると、仮に追い出されてしまったら死んでしまうと、必ず役に立つから傍に置いてくれと。

 

 オールド・ワンは外の情勢については余り詳しくない、十数年国同士の戦い、国家の尖兵として戦場を渡り歩いただけの軍人だ。無論この国家統治範囲外の場所での生き方など知らないし、BFという鉄の巨人に乘っている自分は生き方を選べる立場にある、だからこそ彼らのその後など全く考えていなかった。

 

 だからと言って、同情や優しさを向ける気などサラサラ無いのだけれども。

 オールド・ワンは暫く沈黙を守った後、自分にメリットが無いと告げた。

 

 オールド・ワンとしては小隊が補給できる場所さえあれば十分であり、他には何も望むことなど無い。適当に放浪し、敵部隊を見つけ、潰し、高みを目指すだけだ。それに言ってしまえば、オールド・ワンは食料も水も必要としない、燃料などコアが勝手に生み出してくれる。パーツも、こんなジャンク品ではガンディアの部隊と殴り合うことは出来ない、正直言ってしまえば部隊に殴り込みを掛けて奪った方が何倍も有意義だ。

 

 メンテナンスが出来るという点では確かに魅力的ではあるが、パーツを凄まじい頻度で切り替えるのならば必ずしも必要と言う訳では無い。オールド・ワンの部隊は現地調達が主なのだ。

 端的に言って必要ない、オールド・ワンが簡潔にそう告げると、女は表情を歪めながらなおも食い下がった。

 

「ッ、ならアンタ達の目的に協力するッ、やれって言うなら何でもするから!」

 

 女は必死だった、ある意味目の前の存在が簡単に自分達を殺せる事を理解しているからこその行動だった。その凶器を振るう事に何ら躊躇いの無いBFが三機、生身で対峙するには相応の精神力が要求される。

 

 しかし、どんな危険を犯してでも懐に入り込むべきだと四人は思っていた。自身の拠点を奪われたからという理由もあるが、何より三機のBFという点が素晴らしいのだ。この界隈に於いてBFというのは絶対的な力だ、戦車やヘリよりも余程役に立つし一機でも手元にあれば周囲の地区は軒並み縄張りとして取り込める。

 

 元々BFの改修、修理、メンテナンスの出来るエンジニアが外の世界には少ないという事もあるが、それ以上に適性を持つパイロットが少なすぎるという点があった。

 

 AIはキャプテン(隊長機)が存在しなければ十二分な働きは期待出来ないし、そもそも撃破された時点でAIは自己消去を行う、他国へと情報を引き渡さない為だ。故にパイロットの代わりにAI制御しようとしても、一から全ての行動を教え込まなければならない。更に言えばAI開発技能を持つ人間など外の世界に居る筈が無いのだ、彼らは皆自国の研究局にて手厚く保護されているのだから。

 

 結局、ハイエナにとって武装とは個人携帯可能な火器、良くても戦車や戦闘ヘリなどと言ったモノ、しかしコアの搭載出来ないそれらは当たり前だが燃料を必要とする。既に枯渇した石油など一体どうやって手に入れれば良いのか。ガンディアや帝都の様に合成燃料を作るだけの設備をハイエナは保有していない、燃料の調達は非常に困難であった。

 

 だからこそ彼らはハイエナの中では勝ち組であった、何故ならばBFを保有し、更にはパイロットもエンジニアも居るのだから。そのある種の驕りがこのような事態を招いたと言えば、そうなのだろうが。

 

 オールド・ワンは少しだけ考えた。

 この四人を取り込む事によって生まれるメリット、デメリット。正直オールド・ワンとしては味方などカルロナとカイムさえいれば十二分なのだが、確かに人手があるというのは便利だ。もし信頼関係を築けるのならば神経接続を一度解除し、肉体的な休息を得る事が可能になる。

 

 更に言えば機体にカスタマイズを施す事も出来るし、ガンディアや他国の情報を彼らを使って得る事も、もっと言うならBFがジャンクとは言え一機増えるのだ、戦闘の幅は広がるだろう。または自分の手が届かない部分に、あらゆる点で便宜を図ってくれる筈だ。

 

 逆に、デメリットは彼らが裏切った場合。

 メンテナンスを頼みながら機体に細工をされたり、寝首を掻かれたり、偽の情報を掴まされたり。そればかりは互いの信頼関係によるが、一度は敵対し命のやり取りをした仲だ。早々簡単に信頼を置く事など出来ない。

 

 日々に精神をすり減らすと言う点は確かにデメリットだが、接近さえ許さなければ彼らの戦闘能力はそれ程脅威ではなかった。BFならば兎も角、対人用の銃器程度ではオールド・ワン――この重鉄の装甲を抜く事は出来ない。設置型の爆薬やLEEの直撃があれば別だが、それはカルロナとカイムの警戒があれば気にする程の事でもないだろう。

 要するに、警戒を忘れず甘い汁さえ吸わせて貰えれば良いのだ。

 

 彼らにとって自分達を仲間にするメリットは――まずホームを失わない、更にはBF三機と言う戦力を手に入れる事が出来る、これだけでも凄まじい事だ。デメリットはオールド・ワン達が裏切った場合だが、それは今と大した変わりはない。元々死んでいてもおかしくない身だ、その辺りのデメリットは皆無と言って良い。

 

 連中にとっては得るモノはあっても、失うものはない。ノーリスク・ハイリターン、断られれば死ぬだけ、起死回生の一手も無し。

 

 ただ、存外自分にとっても悪い条件ではないのではないだろうか、オールド・ワンはふとそんな事を思った。

 仮に接近を許すとしても機体の細工はモニタから目を離さなければ良いし、内部機構に触れさせなければ済む話。外部装甲に対する反射処理や防塵処理程度なら問題は無い、夜はカルロナかカイムに見張りを頼み、もし仮に裏切ったならば殺せば良い。それだけの戦力差が双方の間には存在する。

 

 万が一信頼関係が得られたならば、再接続を頼める。信頼関係が築ければラッキー、駄目で元々、そう考えたオールド・ワンは少しの間を置いて、「分かった」と頷いて見せた。

 

 反応は劇的だった。

 最初に言葉を聞いた女が、「本当!?」と食い付く。次に運転席の男が身を乗り出し、驚きを顔に張り付けた。後部座席の二人も、まさか承諾されるとは思っていなかったのか立ち上がってオールド・ワンを見る。

 

 全員が全員、驚愕に目を剝いていた。そんなに望み薄だと思っていたなら、よくもまぁ取引を持ち掛けたものだとオールド・ワンは少しだけ感心する。銃口を向けていたカイムに下がるよう命令し、カイムは静かに銃口を上に向ける。オールド・ワンはその場に膝を折ると、静かに四人へと語り掛けた。

 

「ただし、万が一お前達が裏切れば遠慮なく殺害する、小隊の邪魔をしても同じ、不利益になる事をしても同じだ、お前達が小隊を害さず、仲間として真摯に過ごすならば力になる事を約束しよう、何かあれば守る、どうか裏切ってくれるなよ」

「あぁ、あぁ! 勿論だッ」

 

 ジープの運転席に座る男が何度も頷き、喜色を顔に滲ませる。オールド・ワンは彼らの喜び、それこそ今にも跳び上がって叫びそうな笑顔に何とも言えない気持ちになった。

 

 

 

 





 あぁ~ヤンデレを書きたいんじゃァ~

 こんな事前にも言った気がするんですけれど、ツンヤンデレっていいよね、ツンヤンデレ。

「……別に貴方の為じゃありません」 とかそっぽ向いて顔を赤くしつつ言って、ツンケンするんだけれど、いざ主人公が別の女と一緒に居ると、「何で別の女と一緒に居るんですか」って不機嫌そうに唇を尖らせて。

 主人公が一世一代の告白をすると、「べ……別に照れてなんていません、呆れてモノを言えないだけです」とか言っちゃうんです。それで主人公が帰った後に一人小さくガッツポーズとかしちゃったり。

 それで主人公が別の女の子に現を抜かすと、「なんですか、私では不満ですか」とか言いつつ嫉妬して、本当はもっとストレートに自分を見てと言いたいのに素直に好意を向けられ無くて歯痒い思いをしたり……。

 アァァァアア平和なヤンデレいいんじゃァアアア~!!!✌('ω'✌ )三✌('ω')✌三( ✌'ω')✌

 でも修羅場も見たい(真顔)

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