オールド・ワン   作:トクサン

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追跡

 

 シーマルク中央、軍事研究棟三階。

 第一研究室、機甲科と呼ばれるそのエリア最奥、そこで一人の女性が血走った目で作業に没頭していた。その場所は研究室というよりも倉庫であり、三階分をぶち抜いて作られた吹き抜けには幾つかのBF外装甲が吊るされている。その下にはブルーシートが広げられ、その上に武装が並んでいた。

 

「この形状、間違いないわ、それに口径も――武装は確実、それに装甲はシーマルク、軽量と中量と重量、一機ずつの編成で――あぁ、こっちの傷は溶断、これは狙撃」

 

 ブツブツと呟きながら武装や装甲を見て回る女性の姿は気味が悪い。女性は素材こそ悪く無いモノの、伸びっぱなしの髪やヨレヨレの白衣は女性らしさを微塵も感じさせない。化粧っ気も無く、彼女を女性と判断させる材料は髪の長さと胸の凹凸位であった。最も、現状倉庫には彼女以外の影は無く、見る者など居ないのだけれども。

 

「刺突杭だけ奪って使った――いいえ、あり得ない、それに凹んだ杭の残骸もある、あの子の癖そっくり――ふふふッ、やっぱり、やっぱりそうよ、そうだったんだわ……!」

 

 女性は一通り見て回ると、不意に難しそうに歪めていた表情を崩し、満面の笑みを浮かべて笑った。それは歓喜の笑い声と言うには余りにも甲高く、悍ましさが勝った。両手を突き上げ、腹の底から声を上げる。

 

「ははは、ハハハッ! あの子はッ、あの子は生きているッ! やっぱり、やっぱりあの子が死ぬ筈が無かったのよッ! ざまぁ見なさい、奉遷の間抜け共っ、私のあの子は生きていたわ、他の有象無象とは違うのよ!」

 

 女性の歓喜は、とある確信を得たが故だった。彼女の前に並べられたのはガンディアの強襲部隊を破ったという部隊の残した残骸。証拠隠滅を図ったのだろう、その殆どは大きく破損していたり形を崩していたりしていたが、彼女――技術将校には関係ない。

 

 見慣れた装備だった、或は自身が作った武装だった。それが幾ら形を失おうと、彼女の目は誤魔化せない。

 

 決定的だったのはとある武装、その特徴的な武装は彼女の記憶が正しければ、ある一機のBFにしか搭載していなかった。ピーキーな武装だ、絶大な破壊力を誇るもののレンジは短く、弾数も少ない。しかし使いこなせればどんな機体だろうが打ち倒す、そういう武器だ。

 

「コアの排出なんて、ふふっ、本当に命知らずで、なんて愛おしい――」

 

 シーマルクの鉄屑も漁った、嘗て彼の纏っていた時代遅れの装甲も見つけた。そしてその命の根源たるコアも――動力炉の換装など不可能だと言われていた、それもオリジナルの機体ならば尚更。だというのに彼らはやってみせた、死ぬ覚悟が必要だったろうに、それを彼らは超えて見せたのだ。

 

 彼女は一通り笑い終えると、ポケットの中から小型端末を取り出した。中央に位置する僅かに大きい凹みに触れれば、軽快な電子音と共にホログラムが展開される。それに映ったのは男性、金髪碧眼のイギリス人であった。

 

「っと、博士、突然コールを飛ばすのは勘弁して下さい、今は軍務中です」

「そんな事はどうでも良いわ、貴方今何処に居るの?」

 

 男の背景はどこぞの会議室、相手の事情もお構いなしに自身の都合を貫く将校に、男は溜息を吐き出そうとしてグッと我慢した。仮にも上官なので、醜態を晒す訳にはいかないという感情。最も帝都から態々シーマルクまで出張って来たモノ好き博士ではあるが。

 

「今は中央で防衛隊の編成を行っています、強襲部隊を相手にしなくて済むので、二部隊程余裕が出来たんです」

「そう、なら別に貴方を動かしても戦力的に問題無いわね」

「――?」

 

 男は怪訝な表情を浮かべ、将校は口元に笑みを浮かべた。短い付き合いではあるが、この女性が絡むと碌な事が無いと男は知っている。

 

「貴方に連れ戻して欲しい人が居るの」

 

 オールド・ワンが渓谷での戦闘を終え、二十四時間後の事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オールド・ワンとハイエナが手を組んで二日後。

 

 ホームから百メートル程離れた都心、その中央に鎮座する陸上トラック。スポーツが盛んに行われていたのか競技場がそのまま埃を被って残っていた、トラックはビル群に遮られて周囲からは視認が難しい。

 

 そのトラックの中央で対峙する機体が二つ、片方は機体の大部分をガンディアのパーツで身を固めた重量機。もう片方はちぐはぐのパーツで構成されたキメラ軽量機、その装甲や関節は僅かに錆びていてジャンク品だという事が分かる。

 二機は手に小さなナイフ武装を持っており、対峙したまま微動だにしない。互いに間合いを測り、踏み込みのタイミングを伺っていた。

 

 先に動いたのはキメラ機――ハイネ。

 痺れを切らして一閃、手に持ったナイフを突き出す。狙いは胴体と頭部の関節、首。如何に手製の切れ味の悪いナイフと言えど、装甲の薄い部分であればBFの怪力を以て容易く突き破れる。

 しかし突き出されたソレを、対峙するBFは滑らかな動作で避けた。体を僅かに傾けナイフの突きを躱し、ぬるりと敵の懐に潜り込む。凡そ重量機とは思えない動き、ハイネが潜り込んだ重量機に対して膝蹴りを繰り出すも、軽量機の足技など重量機の前では風の様に軽い。

 

 膝に手を突き出し、ガチンッ! と火花が散る。ハイネの繰り出した膝は重量機の手に抑えられ不発に終わった。そしてハイネの機体が更に力を籠めようとした瞬間、その首元にナイフが突きつけられる。

 それはあと数センチ動かせば装甲に触れる距離で、ハイネはコックピット内部で溜息を吐きながら機体の両手を挙げた。それを確認し重量機――オールド・ワンはゆっくりとハイネ機より離れる。

 

「十三戦十三敗……手も足も出ない」

 

 ハイネはどこか陰鬱とした雰囲気で言葉を零し、機体をその場に屈ませた。頭を抱える様に蹲るその様は余りにも人間臭く、オールド・ワンは少しだけ笑ってしまう。

 

 ハイネはオールド・ワン、カイム、カルロナの三機に手合わせを頼んでいた。

 全ての操作を神経接続で行うオールド・ワンでは操縦のコツやテクニックを伝授する事が出来ない、しかし手合わせの相手になることは出来る。ハイネから提案されたこの模擬戦は、機体を傷つけない、過度な消耗をさせない、遠距離武装を使わないという制約の元に許可された。

 

 オールド・ワンとしてもハイネが力をつけるのは賛成で、ローテーションで良いならと彼女の申し出を快諾、カイムとカルロナと順番に手合わせを行っていた。十三戦十三敗というのは三機全員と行った手合わせの数であり、ハイネは現状一度も勝利を手にしていない。

 あの遠距離戦闘に特化したカルロナにすら敗北を喫していた。

 

「反応が早すぎて攻撃が当たらない、次何をしてくるか分からない、皆凄い」

 

 ハイネは三人に対して技量が凄まじいと言うが、これまで激戦を潜り抜け誰よりも生き残る事に関しての知識と経験を持つ三機は他のBFと比べて別格だ。オールド・ワンは言わずもがな、カルロナとカイムも人類最古のBFAI機、蓄積されたデータは膨大な量に登る。更に言えばハイネは元軍属だったという訳でもなく、BFの操縦は完全な独学であった。戦闘経験が圧倒的に足りていない、ハイエナにとってBFという兵器は貴重である為BF戦闘が殆ど行われないという状況が災いした。

 

「まずはBF戦に慣れる事が必要だ、操縦にも粗が見える、数をこなそう」

「……うん」

 

 オールド・ワンの助言にハイネは頷く、その声は力なかった。今までBFという強大な力で負けなしだったのだろう、敵と言える敵も古ぼけた戦車や装甲車が精々、聞けば軍属相手に喧嘩を売ったのはオールド・ワンが初めてだったという。

 

 彼女の技量はお世辞にも高いとは言えない、恐らく新兵と同等か多少マシな程度だろう。幸いにしてハイネ自身にBF操縦の才があり、筋は良い、しかし才だけでBFが動かせるのかと言えば否だ。戦場では経験こそがモノを言う、そればかりは実戦で積むしかない。

 

 近接戦闘は兎も角、射撃の腕は未だ見た事が無かったオールド・ワンは、ハイネに向けて「銃火器の扱いはどうだ?」と問いかけた。

 

「銃は、余り弾が無いから……四回か五回か、その位しか使った事が無い」

 

 弾薬が貴重だった為、それ程使用した経験が無いという。銃器の扱いはそれ程難しいモノではないが、照準補正――エイムアシストが存在しないBFでは偏差撃ちが基本となる。慣れるまでは苦労するだろう、現状ハイネはオールド・ワンの小隊に組み込むには戦力不足であった。

 

「次、カイム、お願いしたい」

「……分かった」

 

 ハイネの言葉に頷き、オールド・ワンはフィールドの隅で待機していたカイムを呼ぶ。現在ホームにはカルロナが残り、カイムとオールド・ワンが模擬戦相手としてこの場に居た。カイムにナイフを手渡し、模擬戦闘の制約を付ける。AIは制約を受諾し、全力で攻撃を行わない様にコアの出力を幾つか下げた。

 

 オールド・ワンはカイムが模擬戦用の動作を取った事を確認し、そのままフィールドの隅に寄って観戦に徹する。カイムとハイネは戦闘スタイルが似ているので、練習相手としては最適だろう。

 

「行きます」

「―――」

 

 模擬戦は結局、ハイネの機体が出力低下を訴えるまで続いた。

 

 





 いやはや、ご心配をお掛けしました。
 取り敢えず思うところはあるのですが、今まで通り投稿は続けたいと思います。一日一話、書くべし書くべし。(゚д゚)(。_。)

 私の祖母の家は物凄い田舎にあって、周りに何も無く、山頂にドーンと建っているのですが(サマーウォーズみたいな家を想像して頂ければ)、祖母が死んだと言う知らせを受けてその日の夜に四十人以上の方が集まってくれました。
 田舎で街灯も無く、砂利道ばかりだと言うのに、祖母は村の方々に愛されていたのだなぁと実感しました。大往生と言っても良いのですかね、天国で楽しく過ごせてると良いなぁ……。

 いやはや、それにもしかしたら異世界転移でもして「ヒャッハー、私最強!」しているかもしれませんしね! 祖母は得を積みまくって善い行いを沢山していたので、それはもうチート得点のオンパレードでしょう! 流石ばあちゃん!

 取り敢えず祖母には私が向こうに行くまで待っていて貰うとして(私が天国に逝けるかどうかは兎も角)、五十年後か六十年後か、まぁそんな長生きできるかは分かりませんが、精一杯生きて行こうと思います! 私ッ元気ッ!

という訳で明日からもまた、よろしくお願いします!\( 'ω')/

 

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