オールド・ワン   作:トクサン

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渓谷の蠍

 

 BFと一口に言っても、その全てが同じ目的、同じ規格で作られている訳ではない。それぞれ役割や適したパーツが存在し、必要な出力もそれによって変わって来る。本来二足歩行型の強化外骨格は人間サイズを基準として製作させるものであるが、作戦行動の幅が広がると同時に機能が増設され、更にそれによって必要な出力が上昇、機体の大型が一気に進んだ。現在BFは人の全長を遥かに上回るサイズを誇っている。

 第一世代と呼ばれるBFが最もスタンダードなサイズであり、最も効率的な大きさと言われている、そのサイズは凡そ七メートルから九メートル程。第二世代、第三世代と改良を重ねられたBFでも、そのサイズ以上以下のモノは現状生産されていない。

 ある意味、身に纏うと言うよりは搭乗すると表現した方が正しいだろう。最早車や飛行機と同じ類のモノだ、それは誰もが頭で理解していながらも昔ながらの形式に則っている。

 

 BFには幾つかの分類が存在し、【軽量二脚】、【軽量浮遊】、【軽量四輪】、【中量二脚】、【中量多脚】、【重量二脚】、【重量戦車】、【重量固定】と計八つに分けられる。その殆どは読んで字の如くだが、これらの分類には明確な兵種が割り当てられていた。

 

 例えば二脚であれば、遊撃、突撃、支援から偵察まであらゆる作戦行動に対応できる万能型であり、軽量、中量、重量全てに存在する。逆に軽量にしか存在しない浮遊、四輪は総重量の比較的軽い機体だからこそ運用できる移動方法である。

 浮遊は地面に接する事無く移動出来る脚部であり、主に水上での作戦や地雷原での戦闘で用いられる。また悪路や接触型のトラップ全般を無効化する為、主に偵察や支援機に用いられる。

 

 四輪型は不安定な場所でも正確な射撃が行える様開発された脚部で、中量の多脚型と比較しても機体速度が大きく上回る。浮遊と比べると多少機体重量が重くとも一定の速度が得られるので重火器も搭載可能、敵の攪乱や威力偵察に用いされる。

 

 中量の多脚型は主に狙撃兵用に開発された脚部であり、あらゆる環境で完全な狙撃を実現させる特化脚部だ。車輪では無く足形(フットスタイル)にする事でアンカーを地面に撃ち込み、例え断崖絶壁だろうと天井だろうと蜘蛛の様に張り付き、狙撃を行う事が出来る優れもの。完全な狙撃手仕様で、中量支援型の機体に好まれる。

 

 重量型の戦車、固定はそのまま、キャタピラと変形型の脚部である。固定脚部は通常時こそ二脚として機能するが、一度変形するとその場に重装甲盾を展開する砦の様な脚部。両脚部の前後が展開式になっており、ボルトで固定し機体をスッポリと覆ってしまうのだ。

 完全に足を止めて撃ち合うスタイルの脚部であり、無論装甲展開中の移動は不可能となる。正に前線で戦う兵士の為にある兵種。戦車型は戦車のキャタピラをBFの脚部に付け足した様な物で、かなりの重量を持ち運び可能、更に装甲を厚くしながらも移動が可能なので高低差の無い戦地では重宝する脚部となっている。

 

 これらの事から分かる様にBFは汎用性に富んだ兵器であるが、それはプレーン機体で何でも出来るという訳では無く、同一の機体の兵装を変更する事によりあらゆるケースに対応できるというのが正しい。

 

 オールド・ワンの率いる小隊は、重量機、中量機、軽量機の各一機ずつで編成されている。重量機は小隊の核であるオールド・ワン、嘗て付けられた【重鉄】の名に恥じないゴテゴテの重量機であり、そのメインフレームは積載重量と硬度に重きを置いている。BFにとってメインフレームとはつまり人間の脊椎に該当し、そこが破損するとBFの乗り換えが必要となる。その為第一世代ではメインフレームの破損=死の法則が成り立っていた。

 オールド・ワンのメインフレームはオリジナルの中でも随一の硬度を誇り、恐らく現在のBFと比較しても尚顕色無い、或はそれ以上だ。メカルバ合金で製作されたメインフレームは馬鹿らしい程の重量を誇るが、その硬度は絶対だ。恐らく装甲が全損し骨格が露出したとしても、あらゆる攻撃を耐えきるだろう。

 

 僚機の二機は軽量機と中量機、それぞれ【突撃】と【狙撃】に特化されている機体。元々オールド・ワンが生まれた世代はBFの生産ラインも整っておらず、量産が難しい世代であった。その為プレーンタイプである程度なんでもこなさなければならない状況下であり、三機には最も汎用性の富んだ二脚型が使われている。各機体のAIもソレに最適化されており、戦闘データのみで言うのであれば彼らのAI に敵うBFは存在しない。

 

 

 

 旧ロシア領 ボルクタ――過去の戦闘によって生まれた渓谷の一つ。

 

 三機は未だロシア領に留まり、刻々とその時を待っていた。

 国を脱し既に一週間の時が過ぎている、BFはコアさえ無事であれば延々に動き続ける燃料要らずの兵器だ。パーツの劣化などを除けば半永久的に動くと言っても過言ではない。無論、パイロットの精神的な理由により作戦行動は四十八時間が限界と言われているが。

 AI搭載機の無人機であればそんなモノは関係無い、弾薬とスラスターの推進剤が切れ続けるまで動くだろう。推進剤が無くなっても、兵種によっては戦闘続行が可能だ、勝てるかどうかは兎も角。

 

 渓谷の岩陰、オールド・ワンと僚機――軽量機の【カイム】、中量機の【カルロナ】は息を潜めてただ時を待つ。三機の姿は第一世代の頃と大きく異なり、それぞれの兵種に適したジャンクパーツで構成されている。

 オールド・ワンは兎に角重装甲、重火器に拘った兵装。カイムは要所要所に追加装甲を施した近接奇襲型の兵装、カルロナは中距離戦闘を完全に捨てた狙撃、近接逃亡特化兵装。

 

 三機が今ここで息を潜め、時を待っているのには理由がある。それは二日前にカルロナが受信した味方の長距離通信。過去帝都に属していた三機には長距離通信の解読コードが記憶されている、それによると今日――この渓谷をガンディアの強襲部隊が進行するらしい。

 恐らく先の先遣隊壊滅を受けて、ガンディアが帝都のBF隊を目障りに思ったのだろう。現状帝都とガンディアは対立している、その小競り合いが今正に行われようとしているのだ。

 

 オールド・ワンはこれの通信を聞き、チャンスだと思った。それは自身の戦場を見つけたという意味合いでもあったが、何より敵の強襲部隊の【兵装】が目的だった。ガンディアはBF先進国でもあり、その装甲や武装、コアの品質は一級品だ。仮に剥ぎ取る事が出来るのならば更に高みを目指せる筈。

 更に強襲部隊という事は殴り合い上等の部隊構成、重量機である自分にとってはこれ以上ない獲物だ。僚機の二機にとっても、ガンディアの武装は強さを得るための一助になるだろう。

 オールド・ワンはそんな思考の元、此処に足を運んでいた。

 

 岩陰に身を潜めていたカルロナがふと、頭部のモノアイを輝かせる。頭部が動き、天を仰ぎ見た。その数秒後、ぽつぽつと装甲を叩く音。二機が釣られて天を仰ぐと灰色の雲が雨音を漏らしていた。

 どうやら雨が降って来たらしい、運が良いとオールド・ワンは独り笑う。雨は音を消し視界を暗くする、更に高精度の探知機器を搭載していなければ敵の正確な位置すら分からない。

 

 カルロナが不意に頭部を前方に向け、オールド・ワンとカイムの元に地形情報が送られて来た。それを見てみると、二キロ程離れた位置に敵性反応が十二。

 中隊規模のBF部隊、突状陣形で少しずつ前進しているのが分かる。どうやら敵のお出ましらしい、オールド・ワンは手に持った重火器――H-97連射砲のグリップを強く握った。

 中隊規模のBF部隊に三機で戦いを挑む、普通なら自殺行為だ。

 しかしオールド・ワンにとってこの戦闘は、現在の自隊の戦闘能力確認、そして同時に限界の模索と言う意味合いも含まれていた。ここで死ぬならどの道、三機で戦場を歩き回るなんて事は不可能だ。この程度を相手取れなければ、三機で戦場を彷徨うなど夢のまた夢。

 

 オールド・ワンは片手を上げて指令を下す、その動作を確認し二機は頷く。カルロナが小さく腰部に装着されたスラスターを吹かせ、その場で跳躍。更に脚部、肩部に収納されていたアンカーを射出し渓谷の断面に撃ち込んだ。アンカーは壁に突き刺さると四つの返しを開き、深く壁の中に食い込む。

 高速で巻き取られたアンカーがカルロナの機体を壁際に引き寄せ、機体はそのままピタリと寄り添う様に壁へと張り付いた。

 カイムは足元に丸めて置いていた布を手に取ると、それを被ってすっぽりと体を覆ってしまう。胸部と背部からフックが射出され、布に吸いつき固定。それはBF用に開発された光学迷彩。地形に応じたカモフラージュを行い、早期発見を防ぐ役割を持つ。

 その状態で素早く、更に慎重に前方へと足を進めた。

 オールド・ワンは腹の底から二機を信頼している、必ずや己の役割を果たしてくれると。

 

 二機の行動を確認したオールド・ワンは、静かに立ち上がると岩陰から緩慢な動作で姿を現す。渓谷のど真ん中まで足を進め、その道中央に陣取った。世代も国もバラバラな機体、重装甲と言う点だけに着目した機体は酷く歪だ。しかし、その戦闘能力は既に過去のものとは比べ物にならない、もう時代遅れの老兵などと呼ばせはしない。

 そんな覚悟を抱き、オールド・ワンはカルロナに攻撃指令を送った。

 





 ヤンデレは中盤~終盤で猛威を奮うと思います。

 この小説にはAIアンドロイド「貴方には私がいるじゃない系」ヤンデレと
 異常性癖、監禁癖のある博士「貴方の全ては私が管理する系」ヤンデレと
 天然系無口パイロット「捨てないで、何でもするから系」ヤンデレが出現します、ご注意ください。

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