オールド・ワン   作:トクサン

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砂塵の射撃戦

 瞬間、渓谷に響き渡る狙撃音。

 120mmという口径を、空中の不安定な状態から放つ。アンカーが衝撃で僅かに揺れ、しかし機体は完全に衝撃を逃がし切る。カルロナの持つ狙撃兵装――ヘカーテⅢが閃光を放った。一瞬の爆炎と風圧、空薬莢が排出口から吐き出され、雨が一瞬の高温に蒸発する。滴と共に地面へと吸い込まれて行く空薬莢。

 

 その空薬莢が地面を叩く前に、空気の壁を容易く抜いた弾丸が、先頭の中量機体に命中した。ガンディアのBF、そのパイロットが収納されている胸部。弾丸が発射されてから一秒か、或はそれ未満か。胸部に着弾したAPHE弾が盛大に火花を散らせ、装甲をぶち抜いた弾丸が内部で爆発を起こした。

 突然、先頭を歩いていたBFが被弾、爆発する。内部に居たパイロットが即死し、裏返った装甲の中から血が噴き出した。一緒に噴き出したそれが脳髄なのか内臓なのか、それすらも定かではない。

 

 ガンディアのBF部隊はカルロナの狙撃によって一気に浮足立った、爆炎に呑まれて崩れ落ちる機体。その一つ後ろの隊にいた重量機が素早く動き出す、片方の戦車型が前方に進み、もう片方が下がった。恐らく下がった方が有人機なのだろう、先の中量型の僚機はトップが撃破された事によって一瞬のタイムラグが生じ、棒立ちのまま辺りを見渡していた。軽量機が二機、恐らく偵察も兼ねた部隊編成だろう。しかし遭遇戦には弱い、軽量機の装甲は余りにも脆いのだ。

 

 BF部隊は基本的に命令機が撃破された場合、付近の味方に指令権が委譲される、もし付近に有人機が存在しない場合はAIによる自己判断で動く。タイムラグは致命的だった、少なくともカルロナのヘカーテⅢが次弾を装填、引き金を引き絞る程度の時間はあった。

 第二射は滞りなく、一秒かそこらで再び鳴り響く銃声。ズドンッ! と臓物まで響きそうな衝撃に、体が一瞬浮き上がる様な錯覚を覚える。爆音と灼熱、一瞬の閃光から弾丸が飛び出す、余りにも速いそれは銃口から尖った何かが飛び出した程度にしか認識できなかった。

 

 弾丸は一直線に棒立ちの僚機へと伸びる。軽量機の薄い装甲は簡単に120mmのAPHE弾を貫通させ、内部で小爆発を起こした。

 コア付近で爆発した弾丸は致命的な損傷を機体に与え、腹部から胸部に掛けて大きく爆炎を上げた機体は、ゆっくりと崩れ落ちる。飛び散った破片が味方に当たり、装甲に弾け甲高い音を立てた。

 思考は一瞬、混乱は刹那。

 

 ガンディアの部隊は一気に散開し、付近の岩陰へと身を隠した。本道に取り残されたのは最初に撃墜された中量機の僚機が一、背後に陣取っていた重量機が二、そして支援機だと思われる中量が一だ。

 既にオールド・ワンの小隊は二機のBFを撃破した、残りは十機。先手で二機潰せたのならば十分だろう、距離は凡そ一キロと七百メートル程度。その距離ならばH連射砲の射程範囲内、オールド・ワンはその場に片膝を着くと左肩を僅かに下げる。すると肩部後方に接続されていたコンテナがレールを伝って前方に運ばれ、オールド・ワンの背中に派手な火花が散った。

 

 大きさはBFの五分の一程度、四角形のボックス型。ロックが解除され、半ば放り出される様にしてオールド・ワンの目の前に落下するコンテナ。数秒して、そのコンテナの地面に接した面からボルトの射出音が鳴り響く。そして四角形のボックスが展開、BF二機程度を覆い隠せる即席の防御盾と変形する。

 複合電磁装甲、BFの装甲として開発されたものでは無く、重量を重くして携帯用設置装甲として開発された重量機専用兵装。並の重火器では装甲に穴を空けるどころか、凹ませる事すら難しい。流石に固定型脚部程の防御力は持たないが、この装甲の利点はパージしてしまえば機体重量に余裕が出るという点だ。

 

 オールド・ワンは装甲を展開させた後、丁度銃を突き出すように設計された窪みへと銃口を突き出し、左手で銃身を抑えつけながら引き金を引き絞った。瞬間、バキンッ! と鳴り響く金属音。それが連続して鳴り響き、足元から砂塵が舞い上がった。

 オールド・ワンのH連射砲は70mmの口径、軽量級ならば一撃食らっただけでも致命傷、装甲も紙切れの様に撃ち抜く。中量機でも被弾すれば装甲がもっていかれる、当たりどころが悪ければ一発で堕ちる。重量機ならば、機体装甲で受けるのは避けたい威力、例え増設装甲越しでもダメージを与えられる重火器だ。

 

 弾丸は風を切ってガンディアBF中隊へと飛来し、丁度今動き出そうとした軽量機の右足に着弾した。H連射砲の弾丸は凸型徹甲弾、AP弾が軽量、中量に効果的な弾丸とするならば、装甲の上からぶち抜く弾丸が凸型徹甲弾である。ハードスキンの目標に効果的なダメージを与える弾丸、対重量機用のソレは持ち運ぶ為に相応の重量分を食いつぶすが、威力はその分を差し引いて余りある。

 

 軽量機の右足に着弾した弾丸は、そのまま軽量機の足を捥ぎ取った。半ば回転する様な形でバランスを崩し、宙を舞う軽量機。根元から千切れた片足は上下に回転しながら地面を転がる。這う様な形で転んだ軽量機は、バランサーによって強制的な受け身へと移った、それを逃すオールド・ワンではない。

 

 這い蹲った軽量機目掛けてH連射砲を向け、連射。次々と吐き出される弾丸と閃光、銃身が蒸気を吹き上げオールド・ワンの片膝が地面に半ば食い込んだ。三発、四発と続けざまに撃った弾丸は軽量機の手元、足元に着弾して地面を粉砕する。

 そして四発目の弾丸が見事軽量機の頭部に命中し、凄まじい勢いで減り込んだ弾丸が頭部を破砕、赤いモノアイが宙を舞った。弾丸はそのまま胴体部位にも食い込み、その機能を停止させる。

 BFの心臓部は胴体に集中している、腹部から胸部に掛けての一帯が最も装甲の分厚い部分だ。軽量だろうと中量だろうと、この二部位には厚い装甲が張られている。しかし、オールド・ワンのH連射砲は容易くその装甲を食い破った。

 

 これで撃破は三。

 オールド・ワンの射撃に続く形で、カルロナも又狙撃を敢行する。再び放たれた轟音、そして飛来するAPHE弾は戦車型の重量機へと着弾した。肩部で派手な火花が散り、小爆発が巻き起こる。しかし表面の増設装甲が破砕されただけで、駆動部位は無事であった。砕けた装甲が地面に落ち、派手な砂煙を起こす。

 

 反撃が来る、オールド・ワンがそう考えた瞬間、前方で光が瞬いた。それは銃口が放つ炎、マズルフラッシュはオールド・ワンの視界にチカチカと自己主張し、一秒程して幾つもの弾丸が設置した複合電磁装甲に着弾、火花を散らした。

 中央に陣取った重量機が二、その重火器がオールド・ワン目掛けて放たれる。その後ろの中量機は壁に張り付いたカルロナを目敏く見つけ、突撃銃による射撃を敢行していた。距離があるとは言え、カルロナの装甲は通常の中量型より薄い。アンカーで機体を固定する為、機体重量に制限が掛かっているのだ。敵中量機より放たれた弾丸はカルロナの付近に着弾し、砂塵を撒き散らす。

 

 オールド・ワンは複合電磁装甲の裏に隠れながら反撃し、カルロナに後退命令を出した。その瞬間、カルロナは突き刺したアンカーを解除して壁を滑り落ちる。盛大な砂煙に紛れながら地面に着地すると、そのまま背を向けて走り出した。

 

 その後退を援護する為、重量機を狙っていた銃口を僅かに逸れさせる。キロ単位で距離が離れていると、数センチのズレが着弾地点を大きく変える。放たれた弾丸は重量機を通過し、背後の中量機付近に着弾した。恐らく自身が狙われていると理解したのだろう、中量機は中腰になると銃口をオールド・ワンへと向け直した。その冷静な動作から中量機は無人機であると確信する。

 

 




 一日二話更新ドンドコドーン
 明日も二話更新します、しかしヤンデレ大好きフレンズが多くて私とてもうれしい。
 君はヤンデレが大好きなフレンズなんだね!

 このままヤンデレが好きなフレンズで地上を埋め尽くそう(提案)

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