オールド・ワン   作:トクサン

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砂塵の砲撃戦

 

 続けて撃破してやると意気込むと、ガチンッ! とトリガーが深く指に食い込んだ。弾切れだ、反動からそう判断出来た。

 

 オールド・ワンはそれを確認するや否や、一度H連射砲を引っ込め弾倉を交換した。指先でボトルキャッチを押し込むと、連射砲下部に設置された空の弾倉が重力に従って落下する。地面に転がったソレを一瞥して、腰部右側に固定されていた弾倉を掴みロック解除を行った。弾倉は腰部の左右に一つずつ、最初から装填されていたものを含めて三つしかない。後はソレを連射砲に嵌め込み、再びボトルキャッチを押し込むだけ。

 

 弾倉の交換を済ませたオールド・ワンは再び反撃に転じようと身を乗り出すが、その視界に突如ウィンドウが開いた。辛うじて動き出そうとした体を留め、ウィンドウに注視する。それは地形情報の提供であり、送り主はカイム。見れば幾つかの赤い点――敵性反応がオールド・ワン目掛けて侵攻していた。

 

 恐らく最初の狙撃で左右に分かれた敵の小隊だ、敵の総数は十二、既に三機撃破し残りは九、そして今現在オールド・ワンの目に見える敵数は三。

 

 計六機、それぞれ左右から別々の小隊がオールド・ワンに迫っていた、距離は既に一キロを切っている。流石に機体を改修し、手練れと自負するオールド・ワンでも側面から挟撃されれば勝ち目は薄い。だが元より此方は数で劣っている、有効な策も無し、ならば――

 

 オールド・ワンは複合電磁装甲に寄り添い、機体を横向きに構えた。そして一度H連射砲を地面に置くと、右肩の兵装を起動させる。中ほどから折り畳まれる様にして収納されていたソレは、ゆっくりとした動作で一直線に伸び、三メートル近い砲身を露にする。見た目は戦車の砲塔に近い、口径は170mmという驚異的な大きさ。

 

 正式名称はTN06――【カルメン】

 

 例え展開式の装甲裏に隠れていたとしても、それ事ぶち抜く威力を秘めた大口径砲だ。接続部位にボルトロックが施され、弾倉から一発の砲弾が装填される。弾薬の重量や大きさから総弾数はたったの「三発」。弾倉は背部にバックパックの様な形で接続されており、砲弾の大きさが分かる。

 

 オールド・ワンは両手で砲身が完全に固定された事を確かめ、H連射砲を静かに拾い上げた。そしてタイミングを見計らい、複合電磁装甲の裏から飛び出す。その絶好のタイミングは相手の射撃が止んだ瞬間。

 軋みを上げ、火花を散らしていた複合電磁装甲が音を止める。飛び出したオールド・ワンの視界に三機のBFが映り込んだ。

 

 ――ぶち抜いてやる。

 

 オールド・ワンが砲撃を敢行するのと、相手の銃弾が飛来したのは殆ど同時。

 

 ズンッ! という臓物を跳ね上げる振動、轟音、足元の砂利が一斉に跳ね上がり機体の輪郭がブレる。六翼の閃光が視界にノイズを走らせ、背部の排気口から300℃の高熱が噴出した。バックブラストは足元の地面を舐め、扇状に砂塵を噴き上げる。

 

 砲弾は重量機が放った重火器の弾丸とすれ違うようにして突き進んだ。瞬く間、正に一瞬の出来事。着弾したのは戦車型のBF。オールド・ワンが放った170mmの砲弾は見事重量機の胸元に直撃し、その装甲を容易く貫通、盛大な爆発を巻き起こした。

上半身が丸ごと爆炎に飲まれ、その機体のシルエットすら残らない。強い光と赤い炎、それらが一瞬にして機体を包み込み、後に残ったのは白煙のみ。着弾した半径数メートルに火の粉が散り、白煙が晴れると腰から上がすべて吹き飛んだ機体の姿があらわになった。

 

 そしてオールド・ワンにも弾丸が着弾する、腐っても重量機の持つ武装。しかし強襲部隊であったのが幸いした、連中の武装は主に近距離で威力を発揮する武装ばかり、ロングレンジでの効果弾は薄い。

飛来した幾つかの弾丸はオールド・ワンの肩部装甲に着弾、食い込み、その表面に僅かに凹むだけに留まった。寧ろカルメンによる振動の方が着弾の衝撃より大きい程である。恐らくベストレンジは1km未満だろう、距離が離れている為威力が減退しているように見える。

 

 損害としては軽微、いや損害と呼べる損害もない。戦果としては上々だった、上半身を丸々失った重量機が燃え盛り、その背後で二脚型の重量機が滑り込むように付近の障害物に身を隠す。オールド・ワンの砲撃を警戒しているのが丸わかりだった、まさか連中も重量機の上半身を吹き飛ばす砲塔を積んでいるとは思わなかったのだろう。

 

 中量機は囮の様に棒立ちになって、突撃銃にてオールド・ワンに攻撃を敢行し続けている。しかしその攻撃は重量機搭載の武装には及ばず、55mm程度の口径ではマルタ合金の装甲を撃ち抜くどころか、凹ませる事すら難しい。

 

 ガコン! と背部から弾薬の装填される音。口径の大きいカルメンは弾薬の再装填にも僅かばかり時間が掛かる、凡そ十秒程か。オールド・ワンは中量機による威嚇射撃を複合電磁装甲に身を隠す事でやり過ごし、そのまま地形情報を確認。

 オールド・ワン目掛けて侵攻を続ける六機のBF、オールド・ワンはその内右側から進む小隊を標的とし、複合電磁装甲より飛び出す。その際カルロナに向けて攻撃命令を出す、対象は現在オールド・ワンに射撃を続けている中量機。

 

 複合電磁装甲から飛び出したオールド・ワン目掛けて幾つもの弾丸が飛来する。彼が出て来る瞬間を待っていたのだろう、射撃音と共に装甲上で火花が散り鉛弾は地面に転がる。弾丸は全て弾かれ、オールド・ワンの装甲を貫通する事は叶わない。

 中量機のAIは現在の距離では有効打を与えられないと判断、射撃を小刻みに挟みながら前方へ向けて移動を開始。

 しかし、動き出した中量機の頭部が突然弾け飛ぶ。

 硬く尖った弾丸が飛来し、そのヘッドパーツを撃ち抜いたのだ。

 

 凄まじい衝撃と小爆発、中量機が仰け反り一歩、二歩と後退する。その弾丸を放ったのはカルロナ、オールド・ワンから更に二百メートル程後方にてヘカーテを構えていた。先程異なり、比較的大きい岩突起を見つけアンカーを駆使し登頂、そこから膝立ち姿勢での射撃を敢行したのだ。

 

 頭部を失った中量機は数秒の沈黙、AIが自己診断プログラムを走らせ頭部の消失を認知。その瞬間、胸元に備え付けられているサブカメラを稼働させるが、画面が映るよりも早くカルロナの第二射が胸部を貫いた。

 ボッ! と撃ち抜かれた瞬間、オレンジ色の閃光が前後より発生し、遅れて爆炎が周囲に飛び散る。内側を破壊し尽くすAPHE弾は見事に役割を果たし、内臓を失った中量機は糸の切れた人形の様に、ガクンと膝を折った。

 

 オールド・ワンはその様子を横目にしながら、今正にオールド・ワンを挟撃せんと迫っていた小隊の前に飛び出す。三機のBFはオールド・ワンが挟撃を逃れる為、こうして現れる事を予測していた。この距離なると全BFに搭載されている索敵装置が熱源反応を感知し、自動的に地形情報へと反映する。それはどんな粗悪な索敵装置でも同じ、100や200の距離では丸裸同然だった。

 

 オールド・ワンが目前に身を晒した瞬間、三機の武装が火を噴く。小隊の構成は中量機三機の万能編成、恐らく強襲部隊である為、足の遅い重量機は最低限なのだろう。彼らの持つ武装は先程カルロナに撃ち抜かれた僚機と同じ突撃銃。

 

 パパパッ! という軽い破裂音、100m程まで距離の詰まった今では中量機の火器でさえ脅威となる。オールド・ワンが砲撃体勢を整えるまで三秒、その間に三機による集中砲火が表面装甲を襲った。

 

 甲高い金属音、キィン! という耳を劈く装甲の悲鳴。無情の嵐に装甲は凹み、黒ずみ、その形を歪なモノへと変えていく。跳弾した弾丸が頭部の装甲や関節に当たり、強い振動がオールド・ワンを襲った。55mm程度と言っても、食らい続ければ重量機と言えど撃墜される。現にBFの弱点である胸部こそ、分厚い装甲で何とか形を保っているものの、直撃弾を許している肩部の装甲など拉げ先端が抉れ始めていた。

 

 オールド・ワンは射撃を受けながらも決して砲撃体勢を崩さず、ピタリと砲口を前方中量機へと定める。狙いは中央の有人機、狙いを定めてから間髪入れず砲撃。

 ズドンッ! という爆音、振動と共に砲弾が凄まじい勢いで射出された。衝撃がオールド・ワンの足元を地面に埋め込み、バックブラストが砂塵を吹き上げる。砲弾は真っ直ぐ標的へと迫り、その腹部へと着弾、起爆した。

 

 直撃弾、爆発した中量機は上半身が爆炎に呑まれ宙を舞い、下半身はそのまま爆風で地面を転がる。引き金を引き続けたまま宙を舞った機体は、程なくして地面に叩きつけられ、その衝撃で内部パーツが飛び散った。撃破した、一撃即死の威力を誇るカルメンは素晴らしい、オールド・ワンは改めてそう感じた。

 

 





3000字投稿だと話が進まないなと思いました(小並感)

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