オールド・ワン   作:トクサン

5 / 24
砂塵の近接戦

 

 中央の機体を狙ったのは三機編成である場合、僚機を脇で固める事が多いから。有人機が中央だと推測し砲弾を撃ち込んだ。しかし、バラバラに砕け散った味方機を他所に、残り二機の動きは機敏だ。片方がその場で膝を着き、片方が突撃銃のトリガーを引いたまま突っ込んでくる。そこには隊長機ロストの停止時間も無く、明らかに有人機が残っている動きだった。

 

 有人機は膝立ちになって支援している機体か、或は今突っ込んで来た機体か。オールド・ワンは数秒思考し、自身に迫りくる機体に対し砲口を向ける。そして後方で膝立ちになり支援に徹するBFに対し、カルロナに狙撃命令。

 判断は迅速に、行動は素早く。

 

 ガコンッ! というリロード音、排出口から大きな空薬莢が排出され地面に重々し音を立てて転がる。背部の弾倉から砲塔に弾薬を装填、視界の隅に装填完了の文字が浮かぶ。

 その間にオールド・ワンは実に五十以上の弾丸を装甲で受ける。マズルフラッシュが絶え間なく視界に瞬き、表面装甲が凸凹に叩かれる。

 

 腰部のスラスターを活用し、滑る様な形で自身に迫りくる機体は想像以上に速い。距離が詰められれば詰められるほど、突撃銃の威力減退は無くなる。

 中量機の腰部両端、そこに長方形の推進加速装置。本来の任務目的地である場所、そこで使用する筈だった推進剤を中量機は惜しみなく使用している。ここに来て手を抜ける相手では無いと、強襲部隊も感じていたのだ。

 

 継ぎ接ぎだらけのパーツに、世代もバラバラなキメラ機体。それこそ所属している国ごとに統一されている筈のソレが、中には帝都とガンディアのパーツさえも組み合わさっている。所属は不明、目的も不明、しかし恐ろしく強い部隊。

 強襲部隊としては悪夢の様な連中だった。

 

 オールド・ワンの腰が僅かに下がり、機体が砲撃体勢に入る。その予備動作を見て、突撃を敢行していた中量機体はスラスターの角度を横にズラした。前方へと噴出していた炎が横を向き、姿勢制御用のバーニアが後押しする。

 本来回避用に作られていないソレは加速性に乏しい、しかし無いよりマシと言うのは事実。関節部位の負担も度外視し、中量機体は強く地面を蹴り飛ばした。ギチリッ、と脚部関節の衝撃吸収機構が悲鳴を上げ、固定ボルトが金切り声を響かせる。全重量を動かす為に片足を使い潰す覚悟。

 

 しかしその甲斐あってか、オールド・ワンの放った砲弾は中心である胸部から狙いが逸れ、突撃銃を持っていた左腕中ほどに着弾。

 爆音と衝撃が周囲の空気を揺らし、肩部に掛けて腕が吹き飛んだ。突撃銃が爆発で砕け、弾倉に詰まっていた弾丸が四方八方に飛び出す。最も近い中量機にも降り掛かったソレは、容赦なくその装甲を撃ち抜いた。

 

 しかし、機能停止する程のものではない。

 弾丸が千切れた腕から装甲内部を抉り、幾つかの空洞を開ける。それを物ともせずに、片腕を失ったままオールド・ワンに向けてスラスターを全開で吹かせた。一度態勢を立て直すため、つっかえ棒の様に脚部を酷使。地面を削り取る様に滑りながら、その力の向きを前方へと収束する。

 

 ドゥッ! というスラスターの咆哮、炎が地面を黒く焦がし機体が急速に加速した。それは本来BFの、ソレも中量機が出せる速度としては破格。推進剤を使い切るどころか、最早スラスターが壊れても構わないという気概をオールド・ワンは見た。

 

 コイツが有人機だ。

 

 この、勝負所を理解している様な動きに確信する。こんな、機体を犠牲にする様な動きは人間でしか成し得ない。恐らくこのパイロットも理解しているのだ、この肉薄に成功した今こそが勝機なのだと。

 

 オールド・ワンは素早くメインプログラムに訴えかけ、自身の肩部武装を強制排除する。その命令を受け、固定していたボルトが次々と弾けカルメンがゆっくりと機体から離れる。弾倉ユニットごとパージされたソレはかなりの重量を誇り、ズンッ! と落下した地面から轟音が鳴った。

 その重量分、オールド・ワンは軽量化に成功する。

 

 オールド・ワンは手に持ったH連射砲を構えると、一も二も無く引き金を引き絞った。バキン! バキン! と連続した射撃音が周囲に響き、眩いマズルフラッシュが視界を白く染め上げる。弾丸は寸分たがわず突撃する中量機へと向かう、しかし着弾の瞬間、中量機は僅かに機体の中心を逸らし直撃を避けた。

 弾丸は胸部と腹部の中心からやや右側に着弾、装甲をぶち抜き脇腹を抉った。装甲が後方へと流れ、内部のメインフレームが露出する。しかし機能停止レベルの損傷では無い、中量機は凄まじい速度のまま残った右腕を振り上げる。その肘先から火花を散らして実体剣が出現、恐らく腕部に格納されていた内蔵武装だ。

 

 折り畳まれていた剣は振るう直前でガチンッ! と一直線に伸び、その矛先をオールド・ワンへと向ける。突っ込む勢いそのままに、鋭く腕を突き出す中量機、狙いは胸部。

 オールド・ワンは咄嗟にH連射砲を胸元に引き寄せ、実体剣の矛先を受ける。速度と重量、さらに腕の馬力も相まって凄まじい衝撃がオールド・ワンを襲う。それは突きと言うよりも、体全体で繰り出されたタックルと言っても良かった。

 

 ガギィン! という鈍い音、それが銃身と実体剣の間で鳴り響き、火花がガリガリと散る。接触した瞬間、連射砲が実体剣の衝撃で無残に拉げたのが見えた、凄まじい威力だ。恐らく胸部に直撃していれば貫通を許したかもしれないと思う程に。

 

 突っ込んで来た中量機を受け止める様に踏ん張りを聞かせたオールド・ワンはH連射砲を力任せに振り上げ、中量機の実体剣を振り払う。その拍子に拉げたH連射砲が手から離れてしまうが、構わない。

 中量機は実体剣を振り払われ、大きく体勢を崩している。ここがチャンスだ、今こそ自身の勝機、そうオールド・ワンは確信する。複合電磁装甲も、カルメンも、H連射砲も失ったオールド・ワンには外側から見える武装はもう無い。しかし、外から見える武装だけが全てでは無い、中量機の取り出した実体剣の様にオールド・ワンにもまた、内蔵武装が存在した。

 

 バクン! と収納ハッチが開く音、オールド・ワンの肘から手首辺りまでの装甲が分離し中から小型の杭射出機が飛び出る。単発式のパイルバンカー、至近距離でのみ絶大な威力を誇るそれは、第二、第三と世代を重ねるごとに消えて行った旧式武装である。これだけは第一世代からオールド・ワンが持ち続けていた、ある意味彼だけの武装と言っても良い。

 

 密着した状態でオールド・ワンはパイルバンカーを握る、そして胸部目掛けて振り抜きトリガー。オールド・ワンが内蔵武装を展開、それを握って振り抜くまで僅か一秒足らず。その一秒で中量機は崩れた姿勢を戻し、再度実体剣を振り下ろした。

 攻撃の瞬間は殆ど同時。

 

 トリガーが引き絞られ、円筒の様な武装から長い杭が打ち出される、バキン! と排出される空薬莢。そして実体剣がオールド・ワンの肩部に刃を突き立て、互いの攻撃が機体に直撃した。

 射出された杭は一瞬の抵抗も許さず厚い胸部装甲を貫通、盛大な火花を散らして内部のパイロットごと撃ち抜いた。実体剣はオールド・ワンの肩部装甲を中ほどまで拉げさせ、そこで動きを止める。

 一拍置いて中量機がゆっくりと横に体を倒し、そのまま地面に横たわった。

 

 オールド・ワンが手にしたパイル・バンカーに次弾を装填、そして奥で支援に徹していたAI機へと視線を向ければ、いつの間にか頭部と胸部に強烈な弾丸を受け大穴を開けたまま大破炎上していた。

 

 どうやら気付かない内にカルロナは役割を終えていたらしい。オールド・ワンは一度機体に自己診断プログラムを走らせ、各部に異常が無い事を確かめる。そして大した損傷が無い事を確認し、逆側から進行していた小隊の方角へと視界を向けた。そこでは丁度カイムと小隊が衝突、近接戦闘を繰り広げているところであった。

 

 カイムはステルスとコンバットレンジでの戦闘に特化した軽量機、第一世代であった頃は精々囮か奇襲で一機仕留められれば上出来だったが、今は格が違う。カルロナの狙撃と素早い機動による攪乱戦闘は初見で対応できる代物ではない。

 

 視界では全身に四つ装着されたスラスターを手足の様に使い、縦横無尽に走り回るカイムの姿。カイムの機体には腰部に二カ所、肩部に二カ所、推進加速機器が装着されている。カイムは迷彩ローブを上手く利用し、自身の姿を目視し難くしつつ接近、その両手に構えた高周波振動ブレードを振るう。

 

 高周波振動ブレードは実体剣の様に物理で破壊するのではなく、超振動による熱によって溶断する武装。その性質の為常に電力を必要とし、そのグリップからは一本のケーブルがカイムへと伸びている。刃は凡そに十センチ程、その色は浅黒くカーボン(炭素繊維)で構成された刃物であると分かる。

 

 敵の小隊は既に二機にまで減っており、恐らく一機は奇襲による一撃で撃墜したのだろう。小隊から離れた位置に一機、頭部のないBFが転がっていた。背後から頭部を刈り取り、視界がブラックアウトした瞬間背中を一突きと言ったところか。

 

 後方からはカルロナのAPHE弾が容赦なく飛来し、二機の機体を襲う。だが的を絞らせない為か二機の軽量機は足を動かし射線を避けている、後は狙撃を避けながらカイムと斬り合う訳だが、このままいけばカイムとカルロナが勝つだろうとオールド・ワンは確信する。

 

 器用にスラスターを使って攻撃を回避、移動を行うカイムは実に華麗だった。少なくともオールド・ワンはBFでバク転や側転をする奴をカイム以外に見た事が無い。AIも随分尖った方向に進化したものだ。

 どれ、後は自分が加勢すれば数分と掛からず壊滅させられる、そう判断して足を動かした瞬間――機体内部から鳴り響くアラート。

 

 

【警告――熱源体急速接近】

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。