ならびに更新が遅れに遅れまして申し訳ございません。
中々納得のいく展開が思い浮かばず、書いては消し書いては消しの繰り返しでした。
とりあえずは出来たものの……
まあそんな感じで第二十六話です。
どうぞ!
「提督。偵察機から報告です。横須賀第三の派遣艦隊を確認したと。ただ……」
「ただ?何かあったのか?」
「発見したのは超過艤装なのですが、その数がどう考えても一艦隊を超えているので……」
「なに?向こうからの連絡では6隻だっただろう?神崎さんが嘘をつくとは思えないが……発見したのは何隻だ?」
「9隻です」
「9?3隻多いな……護衛か何かで付いてきたのか?」
「不明です。到着予想は二時間後です」
「ふむ。何はともあれ迎えには出ねばならぬな」
「はい、わかりました、護衛は」
「第一艦隊で良いだろう」
「承知しました」
そして二時間後。呉第一鎮守府に9隻からなる艦隊が現れた。それらがそのまま埠頭に付けると、やがて内6隻から艦娘が降りてきた。そして植野の前へ来ると同時に、9隻すべての艦影が消滅した。
「貴方が呉第一鎮守府の植野提督ですね?初めまして。横須賀第三鎮守府交換訓練派遣艦隊旗艦の須磨です。一週間、どうぞよろしくお願いします」
「呉第一の植野だ、よろしく頼む」
「秘書艦の大淀です。よろしくお願いします」
「それで……このあとは何をすれば良いでしょうか?」
「いくつか聞きたいことがある。執務室で話をしよう」
「了解しました、私だけでよろしいでしょうか?」
「そうだな」
「では他艦には鎮守府を案内していただけますか?あ、それと、埠頭に超過艤装の常時展開をお許しいただけますか?」
「ふむ、了解した」
「ありがとうございます」
須磨はそう言うと、超過艤装を展開した。出現したのは、大和型戦艦を軽く凌駕する巨大な軍艦、ただしその甲板上には一切の兵装が見受けられない。
「V級特務艦ヴォールン、自律戦闘システム始動。一番ならびに四番は対空、二番ならびに三番は対艦、副甲板は特務に備え」
その声と共に、甲板上が光に包まれたと思った次の瞬間には、先程まで確かに無かったはずの兵装が存在した。
これも彼等にしか存在しない機能の一つ。
艦船時代から、人の手が必ずしも必要ではない彼等。つまり艦娘となっても、在りし日の軍艦そのままである超過艤装は、艦娘本人が乗船する必要はない。艦内に再現された戦闘用人工知能が本人同様に全てをこなす。
つまり、この場合、艦娘本人の意識と、軍艦内コンピューターと、別々の体を操作する、同じでありながら別々の。普通なら混乱すると思われた。が、意識の根本がコンピューターである彼等は、かなり単純な方法でこれを解決した。
二つ意識があるなら、そのまま分ければ良いんじゃね?と。重複する意識をそのまま、並列化しただけである。
人間とそれを素体とする普通の艦娘ではまず不可能である。
さらにこの意識並列化によって、偶然ながら別の利点も判明した。
複数艤装所持艦娘の、超過艤装の
「では行きましょうか。執務室はどちらですか?」
「あっちだ、着いてきてくれ───ああ、青葉」
「はい」
「彼等に鎮守府の案内を」
「わかりました!」
「では行きましょうか。後の指揮は頼みますね、雹」
「了解──えっと、青葉さん、ですね。初めまして……ですよね?」
「あ、はい、そうですね」
「僕は二度目だよね、やっほー青葉さん。演習の時はごめんね、後遺症とか残ってない?」
「いえいえ、完治しておりますよ」
「それは良かった。どうしても僕じゃああんな戦い方しか出来なくてさ───あ、そうだ。雹、ここにはどこまで情報公開OKなの?」
「A級機密までは無条件で、各軍のS級機密及び軍機以上は、それぞれの旗艦に──ああ、艦隊は全員連邦でしたね、須磨に許可を取れと」
「それはまた大分大盤振る舞いだね。僕の兵装まで公開OKとは──じゃあ青葉さん達にアレな事をした詫び含めて、何で僕があんな戦い方しか出来ないのか教えるよ」
「じゃ他の人たちは私が案内するね!」
「よろしくお願いします、島風
この世界で初めて会った姉を見て、琴風はそう言って微笑んだ。
一方で、横須賀第三鎮守府。
「演習以来か、どうも、大和さん」
「そうですね常陸さん」
「初めまして、艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよ、よろしくね!」
「貴女が那珂さんですか。私は湧別と言います。よろしくお願いしますね」
「そんな固くなくて良いよ?那珂ちゃんって呼んで良いよ?」
「初めまして、霙型防空駆逐艦一番艦、霙よ、よろしく」
「同じく、霧。よろしく……」
「初めまして、陽炎型駆逐艦、八番艦雪風です!」
「陽炎型十二番艦磯風だ。よろしくたのむ」
「どうも初めまして、潜水艦伊310よ、よろしく」
「初めまして、伊58です、ゴーヤって呼んでも良いよ!」
「衣笠です、よろしく」
「さて、取り敢えず顔合わせも終わったところで、大和さん、貴女には少々知っておいてほしい事がある。説明を行うので執務室まで同行していただけないだろうか?」
「?はい」
常陸が大和を連れ、神崎と共に執務室へ向かい、姿が見えなくなったところで、
転生艦達は噴き出した。
「待って常陸の敬語とか初めて見たんだけど」
「ふふっ……伊吹さん、それ、くくっ、言っちゃダメなやつ……」
それを見て、衣笠が不思議そうに言った。
「あの方が何か?」
「ふふっ、いや、あのね、常陸ってね……あ、伊吹、これどこまで言って良い?」
「全部」
「マジか?!えっとね、常陸の性格は軍艦時代の艦長とほぼ同じなんだけど、その艦長がさ、滅多に敬語なんて使わなかったから、常陸も敬語なんてほとんど使ったこと無いの」
だからあんな真面目くさった顔で敬語使ってるのを見ると笑えてくるんだ。
そう続けた伊310に、那珂が怪訝な顔で疑問をぶつけた。
「その人そんな態度で戦艦の艦長になんかなれたの?」
「うん、というかそれ以外の態度の取りようが無かったんだよね、彼は帝国の皇子殿下だったから」
帝国の威信をかけ、技術を結集して建造された巨艦は、単艦でも大戦力である。実際、超兵器アラハバキを単艦で相手している。そのため万が一にも皇帝一族に牙を剥かぬよう、皇子が艦長として任じられた。
彼が立場上敬語を使って良いのは、兄である皇太子、父である皇帝のみ。
当然ながら人工知能も搭載されていた戦艦アドミラル・ヴェルスだが、現在その人格は、初代艦長たる皇子がモデル。無論知識としては敬語の使い方は知っているが、使う相手が居ない。
「皇子が、艦長?」
「うんそうだよ、あれ、私何か変なこと言った?」
とはいえそれで話が通じるのは転生艦のみ。史実を辿った普通の艦娘には何のことやらさっぱり。
「えーっとね、私達はね……」
怪訝な顔をしている呉第一鎮守府派遣艦隊の面々に、説明を開始した。
一方その頃、大和は、執務室でより詳しい説明を受けていた。
「……超兵器、ですか」
「そうです、にわかには信じがたいかもしれませんが……」
「なあ、神崎よ」
「どうかしましたか、長門司令」
「会議室へ移動したらどうだ?」
「会議室……?ああ、テレビですか」
「ああ、常陸、例のビデオは持っているのだろう?」
「ああ。そうか、そっちが手っ取り早いか……外にいる連中も呼ぼう」
例のビデオ、とは、大和達が派遣されてくる前に、転生艦群と、横須賀第三の各艦種代表者を集めて見た、超兵器群の映像である。
劔のデータベースや、各艦の砲塔付属カメラ、航空写真・映像などをかき集め、どうにかすべての超兵器の映像を集めた物。
当初超兵器だと確認されていなかったヴィントシュトースから、ヴォルケンクラッツァーやフィンブルヴィンテルのような化け物まで、全ての超兵器の姿を集めたその動画は、超兵器の異様な強さを物語るのに十分だった。見終わったとき、神崎すら顔を青ざめさせ、代表者のなかにははっきりと震えている者達もいた。
「トラウマにならなきゃ良いけどな……伊吹、聞こえるか、超兵器について説明するから全員つれて会議室に来い。そうだ、例のを見せる」
「全員揃ったな、ではこれから俺達の主敵の動画を見せる。そして可能であれば貴艦らにも共闘を要請したい。これを見て不可能だと思うならそれで良い。ただそれを他のところで喋らなければな」
「これから見せるのは、俺達が帝国海軍の軍艦になる前、やはり軍艦として存在したとある世界のとある惑星での動画だ。そこで俺達が戦った、とある兵器群との戦闘記録、その一部だ」
「それらはいずれも化け物じみた兵器で、地球では超兵器という名で呼ばれていたらしい。事前注意としてはこれくらいか。くれぐれも、相手を過小評価せずに見てくれ。では伊吹」
「はい。途中。各超兵器ごとに、我々が知っている事について解説を入れていきますので、お聞きください」
最初に映し出されるのは、動画。炎の海を駆け抜ける蒼い艦。
「高速巡洋艦ヴィントシュトース。この動画は連邦海軍所属駆逐艦ウロボロス第一砲塔カメラが撮影したものです。最高速度は70ノット以上」
「当初は連邦、帝国共に互いに相手側の新兵器だと考えていました。撃沈したのは連邦海軍所属駆逐艦ウロボロス。被害は帝国海軍所属巡洋艦2、駆逐艦18撃沈、連邦海軍所属巡洋艦2、駆逐艦12撃沈、6撃破です。また撃破艦もほとんどが修理不能と判断され解体されました」
炎は全て、撃沈された軍艦の放つ最期の灯火。
「撃沈方法は、搭載全ミサイル、噴進砲を周辺に叩き込み進路を限定、誘導先に対潜短魚雷を囮にロケット推進誘導魚雷を紛れさせて撃沈しました」
今の艦娘、つまり大戦型の軍艦ではだいぶ厳しい方法である。
動画は、最終的に右に大きく傾き、艦上構造物が廃墟と化した状態で停止したヴィントシュトースの姿で終わっていた。
「続いてヴィントシュトースの拡大強化型、ヴィルベルヴィント、シュトルムヴィント、です。どちらとも動画撮影を担当していた囮艦隊旗艦が轟沈しているため、航空写真のみとなります」
「最高速度はヴィルベルヴィントが80ノット、シュトルムヴィントに至っては180ノットに及びます。連邦、帝国はこの時これら超兵器を第三勢力と判断、合同で迎撃を始めました。両艦共に撃沈方法は、阻止艦隊及び無人機で行き足を止め、主力艦隊の間接レーダー管制射撃により撃沈しています」
「当然阻止艦隊の損害は大きく、一番成功したシュトルムヴィント戦でも半分以上が撃沈破され、近接火力支援に当たっていた戦艦群にも損害が出ました」
スクリーンに映し出された合同艦隊は、隊列を大きく崩し、炎上しながらも搭載火器全てを盛んに撃ち放っていた。
「現在南極付近に観測されている超兵器ノイズはこれら三隻によるものと判断されています。数日前、演習当日に一時的に北上しましたがその後また南下しました。原因は不明ですがいつまた北上してくるかわかりません。これの迎撃への協力を、呉第一鎮守府にも要請する次第です」
しばらく部屋は沈黙に包まれた。
「なお勿論ただで協力してもらおうと考えているわけではありません。我々には、各艦へ超兵器を相手取るための兵装を提供する用意もあります。ただその場合でも我々の艦隊から誰か一人は同行する必要がありますが……」
「なぜでしょうか?」
「迎撃兵装の取り扱いに慣れた艦、そしていざというときに殿になる艦が必要だからです。無論提供する兵装のなかに全自動迎撃システムは存在しますが、奴等の攻撃はそれで凌げるほど甘くはないので、迎撃に長けた専任艦が必要です」
例えば、高速系超兵器なら酸素魚雷など。超兵器は基本的に質で勝ってるのに数でも押し潰しにかかる相手である。
それを捌くには時に個艦防衛だけでは不足する。
「我々型の軍艦が、相手の攻撃を捌き、進路・攻撃のタイミングを指示します。その通り動けば、犠牲は最悪でも1隻だけで終わるでしょう」
無論その1隻は、
「無論その時に沈むのは我々の誰かですが」
その頃、全く同じような説明を、似たような経緯で、呉第一鎮守府で行われていた。こちらでの説明担当は琴風。本来姉妹艦が存在しないはずの駆逐艦島風のことを姉と呼んだ理由、複数の超過艤装の理由、全てを説明していた。
「今頃、同じような説明を横須賀でも、大和さん達相手に行っているはずです」
「この、超兵器とやらと、君達の、転生とやらについての、か?」
「ええ、協力のお願いも」
「かまわない。此方としてはメリットは大きい。近代艦の兵装を貸与してもらえるならば、深海棲艦への攻撃も容易い。また超兵器とやらもどうやら日本の敵であるらしい、なら我々が迎撃するのも任務のうち。本来なら我々の力だけでやらなくてはならないことに協力してもらえるならありがたいことだ。良いだろう、呉第一鎮守府は貴艦隊、及び横須賀第三鎮守府に協力しよう」
「ありがとうございます。ついてはもうひとつお願いがあります」
「なんだ?」
「明日からの遠征艦隊、我々から1隻ずつで構いませんので、護衛役に組み込んでいただきたいのですが」
「ああ、構わないよ」
「ありがとうございます」
以上です。
なお、この展開に伴って前話の内容を少々訂正しました。
それでは感想批評質問等お待ちしております。
今年も本作品をよろしくお願いいたします。