「さて、鎮守府に来た訳だが、どうするんだ?」
鎮守府の正門前で長門が振り向いた。
「どう…する…とは?…はあ、疲れますね…」
「お前本当に軍人なのか?…先程お前は、提督になると言った。提督が必要なくとも、それを報告するため仕事をここでする必要があるとな。ここに、提督として入るのか、部外者として…いや、部外者ではないのか。一時的関係者として入るのか。」
「そうですね、私としては提督として入りたいのですが、まあそれは長門さん含めて艦娘のリンチもしくは襲撃に遭うのは目に見えてますし…。とはいえ一時的、というには少々長く居ることになりますね。ちなみに今、鎮守府の書類はどなたが?」
「私と妹、大淀がしているな。」
「では大淀さんの部下の事務員で。」
「は…?」
「ですからここに入るには肩書きが必要なのでしょう?じゃなければ、今確実に人間に敵意を抱く艦娘に襲撃されるから。まあ肩書きが提督だったら同じことですが。なら直接彼女達に害を為したわけでもなく、むしろ使われる立場の方がまだ襲撃を受けにくいのでは?そう思いまして。」
「変わらないと思うがな。それで良いんだな?言っておくが、それで命を喪っても私は無論、軍も何もできないぞ?」
「承知の上ですよ。麗号作戦よりは生存率は高そうです。しかし、久しぶりですね」
命を懸けるのは。そう言って神崎は笑った。
「そうか、では来い。」
こうして神崎は任務先に足を踏み入れた。当初の予定とは全く異なる肩書きで。
「あまり人の気配がしませんね。」
「それはそうだろう、ここに居るのは
「ああ、私が言ってるのはそういうことじゃ無いですよ?貴女方だけでなく、動物全体引っ括めて、体温と言うか気配と言うか…ああ、気配がしっくり来ますね。そういうものを感じないと言ったのです。別に貴女方が人か兵器かUMAかそんな事は知ったことじゃ無いです。別に兵器だからと言って動物ではないとはなりませんし。」
「ふむ…確かにまあ他のところと比べると外に出ている者は少ないかもしれんな。」
「おや、スルーされるとは意外ですね。てっきり罵倒されるかと思ってました。」
「いや、そのように返されたのは初めてなのでな。ところで神崎よ。UMAとはなんだ?」
「あー…未確認生命体…河童とかツチノコみたいな物だと思ってください。」
「ふむ…ああ、ここだ?ここが一応執務棟だ。あっちにあるのが艦娘寮だな。」
「案内ありがとうございます。食堂は…自分が行くだけ無駄でしょうね。ぶっ殺されるのがオチでしょう。」
「だれも
「そう言って馬鹿正直に受け入れてくれるとは思いませんよ。『"邪魔者"が来た。』そう思われるのが現実でしょうね。ま、事務員として頑張ってみますよ。今執務室には?」
「大淀が居る筈だ。ドア開けてそうそう殺されるとは思わないが、用心しろよ?あいつが一番前提督の被害を受けているからな。」
「私を心配しててよろしいのですか?ああ、そうでした。私は提督じゃなくて、"事務員"でしたね。では長門さん、案内ありがとうございました。
そう言うと神崎は執務棟へ入っていった。
「気づいて居たのか…?それで普通に振る舞っただと…」
暫し呆然としていた長門だったが、やがて右手を上げて左右に振る。すると建物の影や植え込み、木の上や門の方から、艦娘が四人歩いてきた。天龍、龍田、川内、神通の四人だ。彼女たちは駅からずっとつけていて、長門の合図によって、提督を抹殺、深海棲艦に殺されたと報告する予定であった。
「どうしたんだ長門、連れてくるなんて。途中で殺るんじゃなかったのか?」
「脅されてでも居たのかしら?そういう風には見えなかったけれど?」
「事務員として雇ってくれだとさ。それに…お前達に気づいていた。」
「何だって?」
「あら、バレバレだったの?」
「のようだな。伝言がある。『護衛と監視お疲れ様でした。艤装として認識される薙刀よりは、市販の刃物の方が携行には向いている。後で本部に報告がてら甘味を送るよう脅迫しておくので皆さんでどうぞ。』だそうだ。」
「ふざけてんのか…?」
「甘味を送るよう…脅迫、ですか…?しかも本部…大本営を…今回の人は一体何者ですか?」
「ふむ…今の大本営のトップ、楠木大将がある部隊の生き残りなのは知っているか?」
「確か、艦娘と初めて接触した人だったかしら?ほぼ全滅した部隊の生き残りだったわよねえ?」
「そこの生き残りだったそうだ。」
「…嘘だろ…もしかしてあいつが…」
「初代吹雪が人間と交渉する際、他の初代艦娘と共に侵攻を防いだ怪物、だろうな。生身で深海棲艦とやりあった唯一の人類。そうは見えないが、嘘をつく理由が無いし、書類の経歴もそう書いてあった。」
「じゃあどうするの~?まさか提督として受け入れるの~?」
「いや、さっきも言ったが、大淀の部下として事務員として働くそうだ。」
「それで良いのですか?」
「…あとは…あいつ次第だな。」
「柄にもなくアドバイスしてしまいましたね…自分の命を狙う相手だと言うのに…まあ、でも、この程度の
そう呟きながら、執務棟の中を執務室へ向かう。正面の部屋だ。言われなくとも分かる。
「なるほど、大淀さんだけですね。これは頑張らなくては。」
何時からか、神崎は艦娘の艤装の気配を感じることができるようになっていた。7年間、艤装の開発、改良、修理を行っていたからだろうか。先程の軽巡に気付いたのも、天龍が持つ刀の気配から、艤装の気配を手繰り寄せていた。
感じとるとは言え、そこまではっきりしたものではなく、普通に人間が居そうか居なさそうか、その程度の感覚と同じレベル。
「じゃあ、恩返しといきますか。───失礼します。大淀さん、いらっしゃいますか?」
執務室のドアを開いた。
────10年前、東京湾
日本国自衛隊対不明生物対処部隊司令部。
数ヵ月前突如現れ、人類に攻撃をかけ、シーレーンを途絶させた、謎の生命体──通称"深海棲艦"──に対処するために急遽新設された部署。しかし…
数ヵ月に及ぶ消耗戦の結果、海上自衛隊、在日米軍の艦船はほぼすべてが撃沈され、その戦力を喪失。航空自衛隊、在日米空軍も似たような物だ。海上自衛隊の残存部隊と、陸上自衛隊の迎撃により、本土への上陸は許しては居なかったが、島嶼群は不明。
そして今、深海棲艦は東京湾へと襲いかかろうとしていた。東京には未だ内陸へ避難を完了していない市民が多い。そこで自衛隊は深海棲艦上陸遅延作戦、"麗号作戦"を発動。それは残存する戦力全てをかき集め、市民の避難の時間を稼ぐ、作戦と呼べるかどうか怪しいものであった。
しかし他に打つ手がない日本は、海上自衛隊護衛艦<こんごう><きりしま><せとぎり><まきなみ>潜水艦<じんりゅう><おやしお>などの海上戦力や、陸上自衛隊、航空自衛隊残存航空機全てを東京湾に配備。深海棲艦の襲撃に備えた。
さらに水際戦闘を行うべく、乗艦、乗機をなくした隊員達で部隊を編成。東京湾へ配備した。それが自衛隊特殊戦闘群。
そして当時、現海軍大将、楠木茂と神崎啓斗はその中でも随一の戦闘能力を誇る第二部隊の第一分隊に所属していた。
戦闘能力を誇る、と言っても、タ級と殴りあったり、姫を叩いたりするような化け物ではない。腕の良い狙撃手による超長距離狙撃、海岸近くの地形を利用した強襲からの接近戦によって、近海にいる駆逐級や軽巡を仕留める程度であった。
それでも、地道に戦果を上げ続けた結果、軽巡ツ級轟沈12、駆逐級轟沈132、重巡リ級撃破5、戦艦タ級撃破1という戦果を上げていた。なお、重巡や戦艦は湾に迷い込んだ所を狙撃でひたすらボコり続けた結果である。
「なあ神崎。」
「なんですか楠木君、今更泣き言言っても配置は変わりませんよ。」
「いや、今回は生きて帰れるかと思ってな。」
「生きて帰れるか、ではなく、生きて帰るんですよ、我々は。可能な限り生き残るために足掻くんですよ。戦果などその過程の副産物ですよ。」
「そこまで言っちゃうか…」
「ほらほら、戯れ言はこれくらいにして。いつやつらが来るかわからないですから…って噂をすればなんとやらですね。」
『アグレッサーよりイージス。目標捕捉。編成は姫3、戦艦以下多数だ!数が多すぎて数えきない!』
「だそうです。あんなところに殴り込めとかなに考えてるんでしょうね?」
「…そう言っていつも先陣きって突っ込むのは誰だ?」
「私ですね。」
「…何かなに言っても無駄な気がしてきた。」
「楽しいじゃないですか?」
「あれと近接戦闘やって楽しいって心の底から言ってるのはお前だけだぞ、この
「そう言ってる割には君も
「お前のお守りしなきゃいけないからだろうが!」
「まあまあ、落ち着いて。行きましょうか。」
「誰のせいだと思ってんだ!…まあ、良いか。また生きて会おう。」
「当然でしょう。貴方も死なないでくださいよ。生きて会いましょう。」
2027年8月29日、麗号作戦は終結した。
生存者は2名。それ以外の隊員、約2万は国民のため、その身を散らせた。
この作戦は、深海棲艦出現以来、人類の起こした最大の作戦であると同時に、これからの長い戦いの始まりの合図でもあった。
この日、生き残った隊員は、深海棲艦への対抗の鍵となる、『艦娘』という存在と、史上初めて接触した。
提督が何か超人になりました。おかしいですね…最初はちょっと変な人にする予定だったのに…(汗)
ちなみに今は生身でドンパチ無理です、そんな体力残ってないです。
次はヴィローネサイドです。
感想質問アドバイス等大歓迎です。