「どうしてこうなった……」
「んぐ?」
「?」
頭を抱える雁夜の目の前で、シオと桜が揃って首を傾げる。人外のサーヴァントではあるが、その見た目は少女そのものなシオと、精神状態は別として見た目は美少女の桜のその行動は、現状を一瞬忘れさせてくれる。いや、気をしっかり持て雁夜。目の前の現実から目をそらしてはいけない。そっと、目の前で食事をとっている己のサーヴァントと義理の姪から目をそらし、食卓を眺める。
どこから知ったのか、それとも察したのか、料理自体が下手だったのか、細かく刻まれ――というか潰され―—、そのうえでドロドロに溶かされた消化に良さそうな鍋らしきもの。これは早めに起きていたシオが懸命に作り上げたものらしい。見た目はカオスだが、他の面々が普通に食べているところを見るに、味は悪くないようだ。
どろどろの朝食から目をそらし、そっと自分の横の席に目をやると、そこにいるのはゆっくりと朝食を口に運んでいる鶴野――そう、あのアルコール依存症の兄である。無理やりシオによって運び出され、居間で一通り胃の中身を戻した後、シオによって強引に食卓の席につかされたのだ。
そして隅の方に置かれているのは、臓硯の本体だという刻印蟲が入った容器。外からの刺激があった方が、臓硯が戻ってくるときの目印になる、らしい。
奇しくも、サーヴァントが起こしたはちゃめちゃな行動のおかげで、久しぶりにほとんどの家族がそろっての朝食をとることになったのだ。留学中の慎二がいないが、それにしたってこうやって3人揃うのが稀である。ほんと、どうしてこうなった。
「マスター、イタダキマスしないのか?」
「あ、いや、食べるよ……いただきます」
シオに促され、恐る恐る、目の前のそれを匙にすくって口にいれる。……うん、おいしいと言うまででもないが、不味くもない。雁夜の様子に満足したのか、シオは自分の分を
賑やかさの中心であった彼女がいなくなり、残った面々にあるのは沈黙。食器が擦れあう音は響いているが、それだけである。
気まずい。そう感じた雁夜はさっさとこの場を去ろうと食事をかきこもうとして、
「――おじさん。おじいさまはどこなの?」
――できなかった
桜は本当に不思議に思っただけのようで、その瞳には何の色もない。その疑問は鶴野も思っていたらしく、隣からの視線が突き刺さる。
この家を支配していた、間桐 臓硯という存在。あのサーヴァントが好き勝手しているのに、それを咎めに来ないのはおかしい、と2人は思っているのだろう。それは間違いではない。間違いでは、ないのだが……。
と、キッチンからシオが戻ってきた。なにかあったのだろうかと3人が見ると、
「じじーはそのムシだぞ!」
爆弾を落として去っていった。
完全な沈黙が、3人の空間に流れる。
「っておいバーサーカーお前なに爆弾落としていってるんだー!!」
数瞬置いて、雁夜の口から出たのは怒号。立ち上がると、普段の彼の体調からは考えられない速度でキッチンへと駆け込んでいく。
――お、マスターきょうはたいちょうがいいみたいだな!シオががんばってデートしたおかげ
――なに言ってるか分からないがバーサーカー!物事には順番ってのがあるの!いきなり結論から話しちゃいけない時があるの!
――シオは、じじーがどこにいるかきかれたから、こたえただけだぞ?
――確かにそうなんだが、ってかあの距離で聞こえるってお前どんな耳してるんだ!
――アラガミはきほん、ごかんはすごくいいぞ!あ、でもなんでかいま、みみはあんま、ちょうしよくないなー
――もうアラガミってなんなんだよ……
キッチンから聞こえる言葉は不思議とよく通り、食卓を囲む2人にも完全に聞こえてくる。
そっと桜と鶴野は目を合わせ、その後相変わらず動かない臓硯らしい刻印蟲を見る。
「……朝からさわがしくてごめんなさい、おじいさま」
「いや、たぶん今口にするべきは違う言葉だと思う……」
あっさりと信じて蟲に話しかける桜と、それにツッコミを入れる鶴野。幸か不幸か、それが義理の親子の初めての、まともな会話だった。
「……食べるか」
「はい」
再び食事を始める2人。相変わらず沈黙が続いていたが、先ほどよりは少し、気まずさがなくなったような気がする。キッチンからは相変わらず賑やかな声が聞こえてくる。そう言えば、あの少女は誰なのだろう、と鶴野は思った。戻ってきたら、弟に親父のことを含め詳しく聞かないとな。そう考えながら、鶴野は義理の娘との朝食の時間を過ごしていった。
「――で、こいつは誰なんだ?」
朝食が終わり、臓硯がいない今、魔術の修行と称して蟲蔵に入る必要もなくなったため、雁夜が桜とともに居間でくつろいでいると、アルコールが抜けて多少意識が覚醒した鶴野が、シオを指さして弟に問うた。指し示している指が震えているのは、アルコールの禁断症状であって、別に未知の存在が恐ろしいわけではない……ないってば。
指名された当の本人は、いつのまに書庫から持ち出したのか、難しそうな書物を読んでいる。読めるのかお前、それドイツ語だぞ。
鶴野の疑問は桜も抱いていたようで、雁夜を見つめている。兄ならともかく、姪に見られては答えないわけにはいかない。雁夜は疑問に答えるために口を開いた。
「そいつはサーヴァントっていう、聖杯戦争を戦うために召喚する使い魔だ。クラスはバーサーカー、英霊らしいんだが、未来の月からきたとか言ってる」
「ほんとのことだぞ。シオは2075ねんからきたんだ!」
「はいはい……で、真名はさっきから自分で言ってるようにシオ、らしい。見た目はあれだが、人間じゃなくてアラガミとかいうやつだ」
以上。と言って、雁夜は解答を締めくくる。というか、自分もこれ以上は知らない。ステータス?見ようと思えば見れるらしいけど、嫌な予感しかしないから見ない、見るものか。
鶴野はその答えで満足したらしく、次の疑問を投げかけてくる。
「親父がああなったのは、どうしてだ?」
「バーサーカーがやったから、詳しくはそっちから聞いてくれ。というか俺にもよくわからん」
バーサーカー、説明。そう雁夜が言うと、おー!と本から顔を上げて説明を始める。
「シオおなかすいてたから、じじーにかんのうげんしょーでキオクをおもいだしてもらいながら、ちょっとイタダキマスしたらイタダキマスしすぎて、じじーがコアだけのこしてばくはつしたんだぞ!」
「雁夜まるでわからんぞ」
「大丈夫、俺も分かってない。でもその蟲がジジイの体から出てきたのは事実だ」
というかシオの説明、昨夜より分かりづらくなってないか?順序立てて話させた方が、こいつの場合分かりやすく説明してくれるようだ。次からはそうするように言っておこう。
「……まぁ、こんだけ言っても出てこないところを見るに、親父があれなのは本当みたいだな」
「本当だ、頭が痛い事実だけど」
「酒がほしい……ああ、いやまだもう一個聞き忘れてた」
そういって、鶴野は雁夜を見る。
「聖杯戦争を戦って、勝ちぬいたら――お前は何を願うんだ?」
※シオが2075年と言っているのは間違いではないです。GODEATERのストーリーが2RBまで全部終わっているのを示すためにこの年にしました
林檎版GEOはまだですか!!(口癖になりつつある)