風の聖痕 風と水の祝福『凍結』   作:竜羽

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ここからはリリカル編。はやてが主人公です。


リリカル編
夢の戦い


あるところに一人の少年がいました。

少年は特殊な家系の家に生まれましたが、その家系に連なるものが持つ異能の力を持たなかったばかりにいつも虐められていました。

ある時、少年は風の声を聴きました。

それから、少年は風を友とするようになりました。

家を飛び出した少年は海を渡り、異国の地で一人の少女に恋をしました。

しかし、少女を悲劇を襲います。

悪い魔術師に少女の父親と母親は殺されてしまい、少女は連れ去られてしまいます。

少年は必至で少女を助け、少女も少年を助けるために水に力を願いました。

そして、悪い魔術師を退けた二人はとても強い仲間を見つけて、長く激しい戦いの末ついに魔術師を倒しました。

その後、永遠の愛を誓った二人の間に子供が生まれました。

生まれた子供と共に少年の国に戻った二人は、その後も様々な事件に巻き込まれながら、愛する家族や仲間のために戦い、幸せな日々を過ごすのでした。

 

 

 

 

 

ここまでが風と水の契約者(コントラクター)物語(ヒストリー)

ここからは、蒼天(かずま)大海(ツォイリン)を受け継ぐ、風と水の祝福を受けた子供――八神はやてが紡ぐ物語譚(サーガ)

 

 

 

始まります。

 

 

 

 

 

「相変わらず馬鹿げてるぜ」

 

風を身に纏い、空中に浮かぶ和麻は目の前の光景にそう漏らす。

その場所は太平洋に存在する絶海の孤島。人々の記憶に存在せず、ただ豊かな自然と共に時間が過ぎていくだけだった。しかし、今そこには暗雲が広がり、木々は消失、大地は荒れ果ててしまっている。

まるで何か大きな存在に破壊されたような爪痕は島全体におよび、それは大きな円を描くように広がっている。

その中心に元凶が存在した。

四本の足でその大地を踏みしめ、全長は上空の和麻から見てもかなり大きく感じるほど巨大だ。

狼のような三つの首を持ち、全身からはどろどろとした、真っ黒な瘴気のような黒い霧を噴きだしているその姿は、冥界の番犬と言われるケルベロスに酷似している。

まるで、世界そのものを憎んでいるかのようなその巨大な化け物に相対するのは、二人の男だった。

ケルベロスに対してはあまりにちっぽけであり、誰がどう見ても二人がケルベロス戦っているとは思わないだろう。

例え、そう言われたとしても、すぐに二人がケルベロスの巨大な牙で殺されると断言する。

しかし、和麻はそう思わない。

何せ、今この目の前で繰り広げられている戦い主導権を握り、相手を追いつめているのは二人のちっぽけな男たちなのだから。

 

「喝あああああああああああっっ!!!」

 

男のうち、着物を着こんだ初老の男、神凪重悟の烈迫の気合いと共にその身から紫色の炎が沸き起こり、ケルベロスに向かって放たれる。

――神炎

選ばれた最高峰の炎術師にのみ許された、神の名にふさわしい炎がケルベロスの体を貫通し、さらにまるで大蛇のように動きケルベロスの全身を蹂躙する。

 

「おおおおおおおおおおおっっ!!!」

 

さらにもう一人の男、神凪厳馬も蒼き炎を召喚。炎を上空まで伸ばし、そのまま振り下ろす。

まるで蒼い炎の剣で斬りつけるかのような一撃に、ケルベロスは右半身を深く斬り裂かれ、右手と右足を失う。

斬られた腕と脚は蒼き炎に包まれ焼滅し、斬られた胴体も炎が包み込む。

 

「神炎使いはこと攻撃力ならチートだな。特にこういう動きの遅いやつ相手なら固定砲台になれば無敵。俺の仕事が減って楽だぜ」

 

和麻が感心している間にも、重悟の紫炎と厳馬の蒼炎がケルベロスの体を蹂躙していく。

ケルベロスも破壊された体を再生させるが、二人の神炎使いの苛烈な攻撃に徐々に再生速度が追いつかなくなってきている。

 

「……お父さん」

 

「目が覚めたか、はやて」

 

和麻の腕の中で、愛娘のはやてが目を覚ます。

彼女はいまだ意識がはっきりしていないのか、薄目を開けるだけだが、その視線はしっかりと父親である和麻に向けられている。

 

「もう大丈夫だ。お前を苦しませる呪いは解いたぜ」

 

ケルベロスはほぼ満身創痍だった。

巨大なケルベロス。

威圧感も桁違いであり、怪獣と言ってもいいほどだったが、その場にいた術者たちは一騎当千という言葉すら生ぬるい、最強の術者たち。

治癒能力者たちを島から脱出させた楯無を除いても、人間を超えた力を持つ神炎使い。さらには精霊王と契約を交わした契約者。

歴史をひも解いても、一人存在するだけでもまれな存在が四人もそろっていたため、ケルベロスは登場からわずかな時間でぼろぼろになっていた。

まずは、和麻の妻にしてはやての母親である八神翠鈴が莫大な水を召喚。地面をぬかるみに変え、ケルベロスを沈めて氷結させることで動きを封じ、そこを重悟と厳馬による一方的な攻撃を加えていった。

 

「そろそろ終わりにするぜ。はやてを苦しめようとしたその報いを受けやがれぇ!!」

 

和麻の瞳が蒼く染まる。

契約者のみに許された精霊王の力の行使を行うために、封印を解き放ったのだ。

莫大な風が吹き荒れ、島を覆っていた暗雲を吹き飛ばす。

ケルベロスを蒼い風が包み込む。風に煽られ、紫炎と蒼炎がさらに勢いを増してケルベロスを燃やし始める。

風はやがて竜巻となり、二色の炎を伴いその勢いをさらに増していく。

上っていくはずの竜巻がその向きを下に変え、再びケルベロスを包み込み、循環する。

蒼き風と炎、そして紫の炎による終わることのない圧倒的な蹂躙はケルベロスを完膚なきまでに破壊し尽くし、さらにそのまま空中に浮かび上がる。

島の上空で∞の文字を描きながら、風と炎の破壊の権化は内部に存在するケルベロスを殺し続けたのだった。

 

 

 

 

 

「……また、あの夢や」

 

少女、八神はやてはパチリと目を覚ます。

ボブカットにした母親譲りの茶髪を揺らしながら起き上り、窓から差し込む朝日に、眩しそうに父親似の赤みのかかった目を細める。

 

「もう、五年になるんやな」

 

感慨深げにはやては呟く。

あれは彼女がまだ四歳の時のこと。

神凪の祖父たちと迎えた初めての誕生日でのことだった。

 

 

 

 

あの日、最初に気が付いたのは和麻の弟の煉だった。

はやての四歳の誕生日の祝いにやって来た煉は誕生日パーティの翌日、一緒に寝ていたはやてのそばに突如現れた、鎖でぐるぐる巻きにされた本を見つけた。

煉をはじめ、八神家に集まっていた更識、神凪両家の者たちはその正体を調べた。

その結果、これが魔導書だとわかった。しかし、その本には彼ら、それこそ世界中の術式に精通している更識の者でさえも、見たことのないような魔術式が施されていた。

それでも、宿っている魔力の流れだけでも観測できた。だが、驚くべきことにこの魔導書ははやてから魔力を吸い上げていたのだ。

ここで言う魔力とは、術者が術を使う際に用いる異能の力の源であり、魔術師が魔術を用いたり、魔道具に込める力のことである。

ちなみに、精霊魔術師は魔力を必要とせず、精霊との通信回路(パス)を通して意志を伝え、意志の力で精霊の力を借りるため魔力を使っているわけではない。

話を戻す。

はやてから魔力を奪っている未知の魔導書。それを放置すれば彼女の身にどんなことがことが起こるかわからない。

対応は早かった。

まず、更識が把握している誰もいない無人島にとぶ。

そこで治癒能力者と、八神夫婦、更識家当主の楯無、さらに孫娘が心配のあまりついてくることを頑として譲らなかった重悟と厳馬が見守る中、はやてと魔導書のつながりの切断を行う。

和麻は風術師だ。

風の精霊は破壊力という点では四大精霊の中で最弱だが、こと切断などにおいてはもっとも優れている。鎌鼬などがいい代表例だ。

和麻がその力の全てを込めて放った風の刃は、物理法則を、さらには未知の魔術さえも超越して、はやてと魔導書の繋がりを切断した。

これで終われば一安心だったのだが、切り離された魔導書が暴走を始めた。

急いでその場から楯無の力で離脱した全員の前で、魔導書は島に存在したあらゆるものを侵食、取り込むことで巨大なケルベロスへと変貌を遂げた。

それから、戦いが始まったのだった――

 

 

 

 

 

「あの時、聞こえた声は一体何やったんやろう?」

 

父の腕の中でうっすらと見えた戦い。

ケルベロスが父和麻と祖父である重悟と厳馬(重悟は祖父ではないがはやてはそう思っている)により、完全に倒されたときに、はやての頭の中に聞こえた声があったのだ。

 

『よかった。あなたを、殺さずに済んで』

 

「……きっと、あの本の声やったんやな」

 

だとしたら、あの魔導書もはやての命を奪いたくなかったのかもしれない。当時は幼く、何もわからなかったはやてだが、成長した今ではそう思うのだ。

 

「はやてちゃーん!起きたー?朝のトレーニングの時間無くなっちゃうよー?」

 

下の声から母親の翠鈴の声が聞こえる。時計を見ると、そろそろ起きて朝の訓練をする時間だった。

 

「あかん!お父さんとフィ姉を待たせてまう!!」

 

急いできていたパジャマを脱ぎ、ランニング用の服装に着替えるはやて。

そのまま部屋を飛び出し、階段を駆け下りリビングに入る。

 

「おはようお母さん!お父さんとフィ姉は?」

 

「もう、玄関で待っているわよ。早く行ってあげなさい」

 

「はーい」

 

キッチンから顔を出した翠鈴にそう言われ、はやては玄関に向かいランニングシューズを履く。

そして、父と姉のように接して育った少女が待っているだろう家の玄関へ向けて、はやてはドアを開いた。

 

 

 

 

 

八神はやて八歳。

私立聖祥大附属小学校3年生になったばかりの春。

彼女の物語が始まった。

 

 

 




こんな感じでリリカル編です。初っ端から闇の書の闇とのバトル。だがしかし、人外たちには敵わなかった。
神炎×2に契約者×2ですからね~。
風の聖痕編と同時進行で書いていきます。
次回はなのは達の登場です!

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