1997年11月17日 〇七二一 対馬要塞 比田勝軍港
水平線から差し込む朝日が、埠頭を照らしている。
目を焼く朝日を、彼女は横たわったままぼんやりと見つめていた。
そこかしこから立ち上る煙。
出撃の時にあれほど頼もしく見えた砲台は全滅し、焼け焦げた鋼鉄の残骸と化している。
破壊しつくされて原形をとどめていないあの瓦礫は、確か軍港の管制棟だったはずだ。
まっぷたつに折れた護衛艦の艦首が、沖合の波間からのぞいていた。
埠頭のコンクリートに広げられたシートの上に、無数の少女たちが横たわっている。
みな血に塗れ、痛みに
目を閉じたまま、ピクリとも動かない者もいる。
その中の一員である彼女は、だが、それらの光景にいちいち心を動かすには摩耗しきっていた。
ただ、まるで光に吸い寄せられる虫のように、無意識に明るい方向を眺めていただけだった。
「おい! お前たち、気を確かに持てよ! すぐ輸送船が来る!」
自分たちに向かって人影がかがみこみ、なにかを怒鳴っている。
「こんなところで死ぬな! 勝ったんだ、俺たちは勝ったんだぞ!!」
勝った? ……私達が?
視線を動かさないまま、彼女はぼんやりと考える。
「深海棲艦の奴らはほとんど沈めた! 九州に渡ろうとした幻獣どもも海の底に叩き込んだ! これで九州は、日本は大丈夫だ! 俺たちが勝ったんだ!」
勝ったの? 本当に?
人影の言うことがいまいち理解できなかった。
だって、勝ったのなら、なんで、誰もいないんだろう。
――さんがいない。――もいない。――さんですら帰ってこなかった。他のみんなも。
――官、も。
わたしが、私だけが、生き残った。
どこかで、すすり泣く声が聞こえる。
……――督。
誰かのつぶやきが、風に乗って彼女の耳に届いた。
……ああ、そうか。
……周りの子たちも、おんなじなんだ。
「だから、こんなところで死ぬんじゃない! 生きて、鎮守府に帰るんだ! 家へ帰るんだ!」
純粋に、疑問を感じた。
だって帰っても、もう、私以外誰もいない。そんな場所は、私の
でも、それじゃあ 私の
だれも い ない のに
わたし は どこ に かえれば いいん だ ろう?
ゆっくりと意識が薄れていく
小さく、しかし深く息を吐いて、彼女はゆるやかに目を閉じる。
青く澄んだ空に高く高く上る雲が、やけに目に残った。
幻獣が九州に上陸したのは、それから1か月後のことだった。