キャスター?いいえバトラーです!   作:鏡華

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あけましておめでとうございます&ハッピーバレンタインデー!季節感は気にしたら負け!!

改めまして、今年もよろしくお願いします。本年は作者が就活なので更新遅れることも多いと思いますがゆるりとお付き合いいただけると幸いです。

2部?知らねえようちのカルデアはまだイベント時空で存命だ!



今回はイベントストーリーっぽく短めに。


ショコラ・ド・ランペラトリス

バレンタイン・デー。

 

それ即ち、決戦の日。

 

現代日本においては人口に膾炙した行事であるが、それは辺境の地たるカルデアでも変わらないようで。

 

常日頃なかなか食堂に足を向けないサーヴァントたちが詰め掛け、マスターへの感謝を形に為そうとチョコレートや料理を前に奮闘する姿は最早風物詩の一種だ。

 

 

調理に不慣れなサーヴァントが出張ってくると、それに併せて腕に自信のある者がサポーターとして着いてくる。

 

そしてその中には、サーヴァントだけではなく──。

 

 

 

***

 

 

 

「カレーム、手伝ってくれてありがとう」

 

「珍しくマスターが厨房を借りたいだなんておっしゃってきたなら、バトラーとして手を貸さないわけにはいきませんよ!それに、こんなにたくさんのチョコレートはマスター一人の手には余りますでしょう?」

 

 

立香に淹れたての紅茶を差し出しながら、カレームは微笑む。

 

食堂の一角、テーブルの上には包装紙とリボンで個包装された箱が山積みとなって置かれていた。

 

部屋一面に充満する甘い香りから、その中身は推して知るべし。

 

 

「流石にサーヴァント人数分のチョコレートの準備は骨が折れるね……」

 

「そうでしょうとも。他の方はマスターの分だけ作れば事足りますが、マスター自身はそうもいきませんからね。ですが、材料のチョコレートも調理加工も私を筆頭に料理に一家言持ちの方々で監修いたしました。味と品質には太鼓判を押しますよ!」

 

「あはは、うん。楽しみにしてるよ」

 

 

自信満々に胸を張るカレームに、信頼の笑みで立香は返す。

 

 

「しばらくは甘いもの尽くしでしょうね。食事の方は胃に優しいものをご用意しましょう」

 

「そうだなあ……。一個ずつは美味しいんだけど、数が増えるとちょっと重いんだよねえ」

 

「……やっぱり、そうですよね……」

 

「?」

 

 

不意に目を伏せたカレーム。

 

 

「どうかした?カレーム」

 

「……すみません、マスター」

 

 

カレームは立香の問に対し、意を決したように短く嘆息した後、厨房に下がっていく。

 

少ししてからカレームの手には、一枚の皿が。

 

 

「──それって」

 

「はい、私からのチョコレートです。先程のマスターのお手伝いをしている間にこっそり作ってました」

 

 

まるで悪いことを懺悔するような面持ちで、立香の前に差し出される皿。

 

その上には、低い円柱のような小ぶりのチョコレートケーキ。

 

ダークブラウンの生地を、白い粉糖と赤いベリーソース、鮮やかな色をしたミントが彩っている。

 

 

「わ!美味しそう!」

 

「フォンダン・オ・ショコラです。温かい内にお食べ頂ければ……」

 

「……何でそんなに申し訳なさげなの?失敗でもした?」

 

「い、いいえ!そんなことは決して!!」

 

 

予想外の立香の言葉に、慌てて首を左右に振るカレーム。

 

 

「……マスターに仕えるバトラーとして、本来ならば、皆さんのチョコレートを食した後に胃を休めるジェラートでもお出しすべきなのでしょう。マスターにはいつも私の作る食事を食べていただいているのですから、1年に一度のこういった行事では、他の方に先を譲るべきなのも分かっています。

 

──でも、それでも、私は、感謝を伝えるこの日に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。自分の立場を利用して、他の誰よりも早く、マスターの口に入れて欲しかったんです。

 

……私情を優先して主人の体調に負担を強いるなど、バトラーとしてあるまじき失態です」

 

「…………」

 

 

恥じ入るように身を縮こませるカレームを見て、立香はおもむろにケーキにフォークを突き立てる。

 

 

焼きたての生地がサクリ、と小気味よく割れると、そこから見るからに濃厚な粘度を持つチョコレートソースが(せき)を切って溢れだした。

 

生地にソースを絡めて口に放り込むと、怒涛の勢いでチョコレートの芳香が口内に、鼻腔に押し寄せる。

 

未だ熱を帯びている生地は、端に行くほどよく火が通っており、クッキーにも近い軽快な食感を咀嚼すると、ほろ苦いビターチョコレートの味が舌に広がる。

 

ベリーソースの酸味がピリ、と舌を刺激したかと思えば、対してチョコレートソースが滲みこんでいる内側の生地から、どろりと舌の上に零れると共にミルクチョコレートの甘い暴力が侵略してきた。

 

ソースと共に脳まで蕩けてしまいそうな至高の甘味。

 

 

「ま、マスター……」

 

「──めっちゃくちゃ美味しい!ありがとうカレーム!」

 

「!」

 

 

至福に目を蕩けさせながら、満面の笑みを向けてくる立香を目にして――カレームが抱いていた忸怩たる思いは、どこかに吹っ飛ばされてしまった。

 

代わりに、胸いっぱいの感謝と──幸福感。

 

 

「……はい、はい!ありがとうございます、マスター!どうか、これからもマスターが健やかでありますように!そして、そのお手伝いを私にもさせてくださいね」

 

 

 

バレンタイン・デー。恋人たちの日。

 

しかし、恋を知らずとも、恋人でなくとも。

 

あまねく人を平等に、この日は甘くもてなすのだ。




☆4概念礼装【ショコラ・ド・ランペラトリス】

アントナン・カレームからのバレンタインチョコ。


料理人としてこのイベントは放置できなかったようで、周りのチョコに大人げなく対抗心を燃やして作ったフォンダン・オ・ショコラ。

彼女の異名、帝王(ランペラトリス)を名付けるだけあって、本人が「完璧な出来です!」と豪語するクオリティーを誇る。

中から溢れるチョコレートソースが醍醐味なので、焼きたての熱い内に食べなければいけない。

そう、焼きたてを。

バレンタインチョコの作り立てを──作り手本人が見ている前で!





《絆レベルアップ》

Lv. 1 ⇒ 2

サーヴァントのプロフィールが更新されました。
マイルームで聴けるボイスが追加されました。

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