キャスター?いいえバトラーです!   作:鏡華

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ご飯時投稿の方がより飯テロ効果が高い。作者気付いた。
動物の解体シーンがあるので、そういうものが苦手な方はご注意ください。
誰だよ!敬語キャラ3人も出した奴は!私だよ!!!

(閑話)
帝都イベ刺さりすぎてしんどいんですけど。
今回の魔王ノッブで聖杯捧げることを決意しましたし、坂本さんにも捧げようか迷い中です。
ああいうエミヤ族に弱いんですって……。(ジークフリートLv.100マスター)


ぐだぐだぐつぐつ親子丼

それは、第5特異点・イ・プルーリバス・ウナムを攻略した数日後のことだった。

 

 

「と、いう事でマスター、ジビエに行きましょう!」

 

「……どういう事?」

 

 

 

***

 

 

 

「うははははは──!我が三千世界に敵は無し!というか神秘纏ってる幻想種な時点でカモネギじゃし!クラス相性?是非もないよネ!」

 

「ちょっと!ノッブだけ楽してません!?こっちは地上で対空戦頑張ってるのに何ですか動かず一斉掃射って!☆4の癖に!☆4の癖に!」

 

「やっかましいわ弱小人斬りサークル!水着になってから出直してくるとよいと思うぞ!いやー人気者は辛いネ!」

 

「は~~~?こっちはオルタ化しましたしー!両方とも☆5ですしー!」

 

「アレは元はと言えばわしも半分入っとるじゃろうが!!ノーカンじゃノーカン!」

 

 

北米大陸、ニューシカゴ。

 

平常運転の二人──魔人アーチャーこと織田信長と桜セイバーこと沖田総司は、舌戦を繰り広げながらも襲い来るワイバーンの群れを千切っては投げ千切っては投げの大立ち回りを演じていた。

 

そしてそれを後衛で見守る立香とマシュとエミヤとカレーム。

 

普段食堂でよく見かける面子は、アメリカの広大な地平線と、それを照り付ける日差しに対峙していた。

 

 

「おー、お見事。バッファローではなくて残念ですが、それはそれ。ワイバーンの肉も興味があったので、結果オーライという奴ですね」

 

「いや、うん、カレームが満足ならいいんだけどさ……」

 

『──いつもならレイシフトどころか、厨房を出ることすらない君が、一体どういう風の吹き回しだい?』

 

 

立香の持つ通信機から聞こえてくるロマニの声に、カレームは目元の日差しを遮っていた手を下ろす。

 

 

「だって、こんな広大で肥沃な大地とか、生前含めて初めてなんですもの!未知の食材の宝庫ですよ!フィールドワークするでしょう!普通!」

 

『そういえば、予算に頓着せずに高級食材取り寄せまくったって逸話があったね、君……』

 

 

目を輝かせながら喜色満面の様相を呈するカレームに、スピーカー越しのため息を吐くロマニ。

 

 

「仕事に妥協しなかったと言って下さい。というか、ぶっちゃけ私の料理の価値を考えたら、どれだけ材料費かけてもお釣りが来るんですよね。当然ですけど」

 

「……それならば、食材採集にも手を貸せば良いと思うのだがね。前衛の枠はもう一人余っているぞ?」

 

「嫌ですねエミヤさん。貧弱キャスターな私がライダークラスに敵うわけないでしょう。一対一ならまだしも、あんな大群、秒で死にますよ。秒で」

 

「少しは悪びれましょうよ……」

 

「カレームのそういうところ、たまにどうかと思う」

 

 

堂々と胸を張って自己本位発言を連発するカレームに、3人はロマニに続く形でため息を零す。

 

食堂で「客」と「料理人」の立場にある間は決して礼儀を忘れないが、料理を手伝う「同業者」となった途端、良くも悪くもやや容赦が無くなるのが、彼女の癖であった。

 

 

「まあまあ、私が役に立つのは()()()ですから。今はあのお二人に任せて──」

 

「マスター!終わりましたよー!沖田さん大勝利ー!ですとも!」

 

「──おや、噂をすれば、ですね」

 

 

飛んでくる声に目を向けると、そこには地に沈むワイバーンの山に乗る二人の影。

 

 

「この第六天魔王に現場担当させて高見の見物とはいい御身分じゃのうお主ら!まあ?こんな雑魚、いや雑竜?如きワシの手にかかれば瞬殺なんじゃけどネ!」

 

「もう、そーゆーのいいですから!というか、半分は私が仕留めたでしょう!」

 

「いやーそれはないじゃろ。ほらわし無敵じゃし?魔王じゃし?人斬りとは格が違うっていうか?」

 

「は──い──?そこまで言われたら戦争ですよ戦争!今度は本能寺じゃなくて池田屋でファイアーさせてあげま──コフッ!?」

 

「はいはい二人ともそこまで。素材剥いじゃうから降りてねー」

 

 

今度はお互いを相手に戦闘開始しそうな二人を諌める立香の隣で、カレームはエプロンをたくし上げ、足首辺りまで垂れていたそれを膝上でまとめる。

 

 

「それでは始めますね。逆鱗と牙以外は好きにしても?」

 

「うん。あ、魔石とか出てきたらそれも分けといて」

 

「分かりました!ではしばらくの間お待ちくださいねー」

 

 

マスターの指示に笑顔で応えた彼女は、肩に掛けていた大きめのバッグを地面に降ろし、魔力で編んだ狩猟用の解体包丁をその手に顕現させた。

 

まずはワイバーンの心臓を一突きし、血抜きをする。

 

血液が体外に流れ出ている間に皮膚に刃を滑らせ、削ぐように皮ごと鱗を剥いでいく。

 

その中で一体につき一枚だけ採取できる逆鱗だけは立香が持ってきた素材回収ボックスの中に収納。

 

剥ぎ終えた後は角や牙──この牙もボックス行である──などの食べられそうにない部位を切除してから、腹部の正中線に沿って刃を入れ、本格的な解体を開始した。

 

 

「ふむふむ、ベオウルフさんの言葉通り、肉質は豚よりもやや鶏に近いですね。ですが脂身の質の悪さが目立つのは下級竜だからでしょうか。内臓部分も同様に駄目。しかしもも肉は柔らかくて良質。逆に羽根付近は運動量が多いので煮込み向き。喉元部分も非常に良いですが、耐火性能を考えると調理に骨が折れそうだなぁ……。

ふうむ、思ったよりも食べられる部位が少なそうですね……。まあ、元の図体が大きいので量は問題ないでしょう。可食部位のみ回収して、きちんと洗浄してから吟味しましょうか」

 

 

ブツブツと独り言を繰り返しながら、部位ごとの肉質を丹念に調査するカレーム。

 

両手を血の赤と脂の黒で(まだら)に染め上げながらも、細腕一本で鮮やかに巨体を捌いていくいく姿は、立香がおおよそ初めて見る、彼女のサーヴァント然とした姿だった。

 

 

『何か、随分と手馴れてないかい?竜を捌いた経験でも?』

 

「あるわけないじゃないですかそんなの。まあ、体の構造なんて牛でも鶏でも竜でも大差ありませんから。これくらいは一体やってみれば後は流れで出来ますよ」

 

『うぅん、僕は解剖はまだしも、動物の解体は経験ないからなあ……。とは言え、竜を牛や鶏と一絡げにするのは君くらいなものだよ』

 

「そうですか?あぁ、今度は魔猪とかも捌いてみたいですね──と。終わりましたよマスター」

 

 

切り分けた肉をまとめ上げ、素材受け取りのために傍らに居た立香に声をかける。

 

辺りにはワイバーンの姿形はどこにもなく、骨や皮などの残骸が積みあがっていた。

 

 

「うん、お疲れ様。じゃ、皆を呼んでくるね」

 

「はい!」

 

 

後方で休憩していた面々に向かって行くマスターを見送り、タオルで両手を拭きつつ改めて目の前の肉の山を見やる。

 

 

「少し多いですかね……帰還ゲートに入りきるかどうか……。調子に乗って捌きすぎましたね……」

 

 

でも今から処分するのも少し……、と少し逡巡したところで。

 

 

 

 

「──うわっ!ノッブ、それどうしたの!?」

 

 

マスターの声に、思わずカレームは振り返る。

 

そこには、両の腕に卵を()()抱えた信長の姿。

 

 

「いやあ、今日はワイバーンが妙に低空におるから気になっておったら、奴らの巣っぽいのを見つけてのう!見よ!大漁じゃぞコレ!ま、一個しかなかったんじゃけど!」

 

「姿を見かけないと思ったらそんなことしてたんですか貴女……」

 

「ワイバーンの、卵ですか、これ……?」

 

 

呆れた顔をする沖田を無視しつつ誇らしげに見せびらかすそれに、マシュと立香は揃ってまじまじと見入る。

 

 

『いや、いやいや!?待ってくれ、竜種が繁殖行為をするなんて聞いたことがないぞ!?下級竜を生み出すことで増殖するはずで、卵なんて必要ないはずだ!』

 

「まーここ特異点じゃし、辺りに親玉もおらんし、下級竜(こ奴ら)だけで数を増やせるよう生態系が変化したんじゃろうな。何て言うんじゃっけこういうの、がらぱごす?」

 

「成程、道理でいくら狩っても一向に減らないわけだ」

 

「へー、にしても大きいですねー。鶏の卵の何個分くらいでしょコレ」

 

 

腑に落ちたと言わんばかりに頷くエミヤの一方で、沖田は立香たちに続く形で卵を見つめる。

 

 

「のう、これ持って帰ってもよいか!?孵してわしのペットにするんじゃ!うむ、これはライダーノッブ実装不可避じゃな!」

 

「ダメです」

 

 

却下まで0.2秒。

 

立香の実戦で鍛えられた反射神経が無駄に発揮された瞬間であった。

 

 

『研究職のスタッフが熱視線を送っているけど、カルデア内で孵化して暴れられたら厄介だしね。ゲートの容量もいっぱいいっぱいだし。後日改めて調査するから、悪いけど、今のところはそこで処分してくれ』

 

「え~~~そんな~~~~」

 

「そうやって可愛い子ぶるのやめてくださいよ。気持ち悪いんで」

 

「処分と言っても、これどうしますか?」

 

「このまま放置したら孵化してまた我々を襲うだろうな」

 

「でもただ割っちゃうのも何か忍びないなあ……」

 

「じゃ、ここで食べちゃいましょう」

 

「うん……うん?」

 

 

不意の声に立香がその方向を見ると、そこには途轍もなく良い笑顔をしたカレームが。

 

 

「竜の卵だなんて珍味中の珍味ですよ。食べてみましょう!ね、ね!」

 

「うおぅ、カレームから今までに感じたことのない圧が……!」

 

「お主本当に食に関しては貪欲じゃのう……。じゃがわしも食べてみたくはある」

 

「ほら、信長さんもこう言ってますし!」

 

「う、うぅん……。まあ、いいんじゃないかな」

 

 

キラキラとしたカレームの目と、信長の後押し。そして自らの好奇心に、立香は首を縦に振るしかなかった。

 

 

「やった!ありがとうございますマスター!そうと決まれば早速準備ですね!」

 

『そこで作れるのかい?こっちは物資の準備とか何もしてないけど……』

 

「何のための陣地作成スキルだと思ってるんですか!資材が乏しいので厨房とまではいきませんが、即席のコンロくらいなら訳ないですよ。調味料一式と主食は持ってきてますし」

 

 

彼女が言葉と共にバッグを再び地面に降ろして開くと、中には大小様々な瓶がぎっしりと詰まっているのが窺えた。

 

 

『え、あ、そのやけに大きい鞄何かと思ったら!うわ、生米とパンまで入ってる!準備良過ぎやしないかい!?』

 

「バトラーたるもの、何時いかなる時でもマスターの空腹に応えられるようにしておきませんとね。

 ではメニューは何にしましょう?何かリクエストはありますか?」

 

「うーん、沖田さんの時代は高級品でしたので、卵の食べ方とかよく知らないんですよね……」

 

「ワシは味が濃くて飯に合うのがよいぞ!醤油ドバっと使ってOK!」

 

「ふむふむ。醤油……卵……あ、あれ。親子丼、でしたっけ。とかどうでしょう?」

 

「親子?」「丼?」

 

 

カレームの言葉に、マシュと沖田はきょとりと首を傾げる。

 

 

「あれ、マシュはともかく、日本では結構有名だって聞いてたんですけど……?エミヤさん?」

 

「ああ。ただ親子丼は明治時代──沖田総司の生きた時代の後に生まれたものだからな。馴染みがないのも仕方あるまい」

 

「へえ、そうなんだ」

 

 

思わぬ形で聞いた蘊蓄に、立香から感嘆の声が漏れた。

 

 

「ネーミングが戦国も真っ青の世紀末センスじゃよな。鶏肉と卵使うから親子て。直球すぎじゃろ。引くわー。まじ引くわー」

 

「あ、そういう由来なんですね。それはまあ、確かに中々……」

 

「いや、髑髏で盃とかしてた人が言う事じゃないでしょう。しかも黄金とか趣味悪すぎワロタ」

 

 

むべなるかな、信長の言葉で料理の全容を何となく察したマシュが口ごもる。

 

その横で、沖田が冷静なツッコミを入れた。ついでに茶々も入れた。

 

いや別に茶々さんと掛けたわけじゃないですよ。(by沖田)

 

 

「とは言え、今回は本当に親子の可能性が大いにあるわけですよね」

 

「微妙に食べづらくなるようなこと言わないで沖田さん……」

 

「まあまあ、美味しければそれで良いんですよ。

 と、いうことで。私は近くの川でお肉を洗って来るので、エミヤさんはお米炊いておいてください。お鍋とかは投影でお願いします。あ、信長さん火つけてくれます?鉄砲の火薬でも宝具の炎でもいいので。あとドクター、玉ねぎと三つ葉だけ物資供給お願いします。

 ──では、皆さんよろしくお願いしますね!」

 

「…………」

 

 

言うだけ言ってさっさと歩いて行ってしまうカレームの背を見送りつつ、6人の心は一つになった。

 

 

 

 

────人使い荒っらい……。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

ぐつぐつ、コトコトと、火で底を炙られている親子鍋の上で、黄色い表面が小刻みに波打つ。

 

土鍋でふっくらと炊き上がった御飯を丼に盛り──親子鍋含め、どれもエミヤの投影品である。「もしかして、このためにわざわざクエストに誘ったのかね?」とは、本人の言──敷き詰められた白の上に、滑らせるようにして具を移すと、火の通った卵が控えめにふるりと揺れた。

 

最後に三つ葉を添えて。

 

 

「出来ましたよー!はい、皆さんどうぞ!」

 

 

適当な丸太を長椅子に見立てて座るパーティーメンバーに、順番に器と箸を渡していくカレーム。

 

手に持った瞬間に伝わる熱と、醤油や出汁の香りが食欲をそそる。

 

 

「わわ、こんな外で丼食べるの初めてだ……!」

 

「私もです、先輩。手で食べる軽食は何度かありますが、こうして食器を使う食事を屋外でというのは、何だかドキドキしますね……!」

 

「うんうん!日本人ならやっぱりこの香りじゃのう!飯が進むわ!」

 

「いやーそういうのは食べてから言うものでしょう……。では、いただきます!」

 

 

手を合わせてから、箸を差し入れて、一口。

 

 

「熱っ!はふっ、はふ……」

 

 

熱々の卵と白米を舌の上で転がしながら冷ましつつ、ゆっくりと咀嚼していく。

 

とろとろと口内を伝う卵と、醤油や砂糖が煮詰められたものが甘辛くも優しい味を真っ先に舌に伝えた。

 

肉を噛むと、プリプリとした程よい弾力と共に、鶏よりもやや味が強い肉汁が溢れる。

 

じんわりと熱が通った玉ねぎは、サリサリとしたささやかな食感と共に、自然な甘さを広げていく。

 

噛めば噛むほどそれらの風味が白米と絡み、渾然一体の旨味をダイレクトに舌に伝える。

 

飲み込むと、食道から鼻にかけて抜けていく熱と出汁の香りが余韻となって、すぐさま次に箸を進めさせた。

 

 

「んん!美味しいですねワイバーン!お肉はあまり食べたことありませんが、沖田さんこれ好きですよ!」

 

「む、確かに。思ったほど抵抗感はないな。これは食材の選択肢が一つ増えたようだ」

 

「うん、美味しいね。アメリカの土地でお出汁の香りを嗅ぐと妙な安心感があるなあ……」

 

「マスター、こういう時は"乙なもの"と言うのじゃぞ!」

 

「オツ……確か、日本で趣きのあることを指す言葉、ですよね。こうして外の風景を眺めながら食事を楽しむのは、確かに、何か、嬉しいような、落ち着くような、不思議な心地です」

 

「お!なんじゃ、マシュ、お主もいけるクチよのう!

 しっかし、この味。わしのかつての料理番にも負けずとも劣らぬ。そこな料理人よ、どうじゃ、わしの専属にならんか?これぞ本当の『信長のシェ──「規制三段突き!!」ノブァッ!?何をする人斬り!」

 

「殺らねばいけない気がして、つい」

 

「字ィー!?というか、食べるの早いのじゃが!じゃが!」

 

「美味しくて、つい。ということで、おかわりいただけますか」

 

「なーにここぞとばかりにキメ顔しとるんじゃ!壬生狼モードやめい!」

 

「はいはい。まだおかわりありますから。あまり暴れないでくださいねー」

 

 

 

 

地平線に日が傾く中、わいわいと賑やかな食事風景は、橙の光に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『……あのぅ、カレーム、今日の僕らの夕飯なんだけど……』

 

「ええ。勿論、親子丼をお持ちしますよ」




絆Lv.2

「え!?私のお勧め……ですか?いえ、嫌というわけではないんですけど、新鮮な注文なので、むず痒いと言いますか、なんといいますか……」



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