キャスター?いいえバトラーです!   作:鏡華

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※1.5部の真名バレあります!
お酒回。私が呑兵衛ではないので難しかったですが楽しかったです。

就活がもうちょっとで落ち着く予定なので、次は早めに更新したいなあ……。


以下2部2章バレ
↓ ↓ ↓




ナポレオンほちい……ほちい……→ガチャ→爆死
そりゃあカレーム書いてたら来ないよなあ!タレーラン直属の部下だもんなあ!?(血涙)

ナポ「小難しい理屈を垂れるのはよくない。タレーランになるぞ」
カレーム「ほんっっっっとそれ」


BAR in Chaldea

アルテラは激怒した。

 

必ず、かの邪知暴虐の地を暴かねばならぬと決意した。

 

アルテラにはカルデア内の不文律がわからぬ。

 

アルテラは戦闘機械である。

 

剣を薙ぎ、破壊の限りを尽くしてきた。

 

けれども悪い文明に対しては、人一倍に敏感であった。

 

 

 

 

「──さて」

 

 

時は深夜。

 

アルテラは立ちはだかる扉を前に、自らの破壊の意志を再確認する。

 

ここの所カルデア内に蔓延ってる悪い文明を駆逐する、という固い意志。

 

と言うのも、マスターやマシュが寝静まった深夜、彼らに隠れるようにコソコソと施設内を歩き回るサーヴァントの姿を確認したのである。

 

それも、海賊やアウトローなど、普段から悪い文明の気配がするものばかり。

 

奴らの行動を見張っていると、必ずここ──食堂に吸い込まれていく。

 

これはマスター、ひいてはカルデアを脅かす悪い文明が築かれているに違いない、と、アルテラはその企み(仮)を粉砕しようと、勇み足で乗り出した。

 

サーヴァントたちが集まる周期を把握し、次の集会が行われるであろう夜に食堂前で待ち伏せ。

 

案の定、ぞろぞろと多くの下手人が扉の前までやってきては一度立ち止まり、キョロキョロと辺りを警戒した後、ひっそりと中へ入っていく姿を確認できた。

 

おそらくは、まさに今、この中で悪の密談が行われているのであろう。

 

その現場を押さえ、この手に持つ軍神の剣で叩きのめす。

 

 

 

決意を固め、いざ──と、扉を開け放つ。

 

 

 

が。 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー!ようこそ、バー・カルデアへ!」

 

「……………………?」

 

 

飛んできた声を理解できなかった故、たっぷり時間をかけて咀嚼して、それでもわからなかったため、首を傾げた。

 

状況把握のために、やけに騒がしい周囲を見渡す。

 

 

ジョッキをぶつけ合い、大声で笑う海賊たちがいた。

 

グラスを傍らに、カードゲームに勤しむアウトローがいた。

 

小酒杯を手に、顔を赤らめている暗殺者がいた。

 

盃に口をつけ、一人でとっくりを空にしていく侍がいた。

 

 

想定を大きく外れる光景(ぶんめい)に、アルテラはキョロキョロと辺りを見回しながら、手持ち無沙汰げに軍神の剣を握り直す。

 

 

「アルテラさん?珍しいですね。ここにいらっしゃるのは初めてですか?」

 

 

カウンター越しに声をかけてくる料理人の方に、半ば縋るように近づいて行った。

 

破壊の化身にも場の空気を読む力はある。

 

 

「何をお飲みになられます?ラム酒、ウォッカ、老酒(ラオシュウ)に清酒、他にも色々ございますよ」

 

「飲む……?それは悪い文明か?」

 

「ううん……悪いかどうかはTPOによりますが、少なくともここにいる方々にとっては良い文明だと思いますよ。わざわざルールを守ってまで、お酒を飲みたい方々ばかりですから」

 

「酒?ルールとは何だ?」

 

「……あら、もしかしてアルテラさん、ご存じないまま来られたんです?」

 

 

アイスピックで氷を砕く手を止め、面食らったように目を瞬かせるカレーム。

 

 

「すみません、確認もとらずに……。では、改めて説明させていただきますね。ここは“バー・カルデア”。深夜限定の、サーヴァント専用の酒場です」

 

「酒場……密会の場ではないのか」

 

「違いますよ!?カエサルさんやシバの女王様がそのように企んでいたこともありましたが、統括である私が目を光らせているので、悪だくみの場にしている方はいません!」

 

「そうなのか……?」

 

 

堂々と胸を張って言い切るカレームを、しかしアルテラは胡乱な詮索を捨てきれずにじとりと見つめる。

 

 

「密会を行っていないにしても、マスターや職員を締め出して悪い文明に耽溺しているのであれば見過ごせないな。この場を軍神の力で消し飛ばすしか……」

 

「わ、わ、違います違います!これは寧ろマスターたちの安全のために行っていることでして……」

 

「……安全のため?悪い文明ではないのか?」

 

 

三色に輝く軍神の剣を下ろしたことを確認して、カレームはそっと胸を撫で下ろした。

 

 

「はい。ここで振舞われているのは()()()()()()()()お酒なんです」

 

「サーヴァント用……?」

 

「神秘の宿っていない通常のお酒では、サーヴァントの方々はまず酔えません。職員の方の数少ない娯楽でもありますから、人間用のお酒にサーヴァントが手をつけることは禁止されているのです。ですが、英雄というものは飲むのも食べるのも大好きですから、今度はサーヴァントの方々から苦情が出てしまって……」

 

「それで、サーヴァント用、というわけか」

 

「はい!僭越ながら私がプロジェクトリーダーを勤め、エミヤさん、パラケルススさん、マーリンさん他キャスターの方々と共に開発させていただきました!

 いやあ、中々骨が折れましたが、酒呑さんの神便鬼毒酒、メイヴさんの蜂蜜酒、奇奇神酒などを参考にしてですね、発酵段階にも魔力を混ぜることでサーヴァントの方にも酩酊作用を……」

 

「いや、参考元からしてよろしくない文明だろう、それは」

 

 

熱く語り始めたカレームを遮り、思わずツッコミを入れるアルテラ。

 

人の言葉を断ち切るのはやや悪い文明だが、明らかにまずい代物を無視するのもまた悪い文明である。

 

 

「やはり破壊……」

 

「いえいえ!あくまで参考!参考ですから!宝具をそのまま混ぜ込んだりはしてないです!流石に!サーヴァントの酩酊以外の効果はありませんよ!

 ……ともあれ、人間の身には劇物ですからね。悪酔いされた方の乱闘に巻き込まれでもすれば死者が出かねませんし、何よりマスターやマシュ筆頭に、未成年の教育によくないです。ですので、こうして深夜に、サーヴァントのみが出入りできる場のみで、サーヴァントの飲酒を許可している、というわけです」

 

「……ふむ。気遣いは良い文明、だな」

 

 

説明を飲み込んでから、改めて周囲を見渡す。

 

誰も彼も、幸せそうに頬を赤らめて、杯を煽っている。

 

時折、鼓膜が痛いほどの大声が飛んでは来るが、それも酔っている故で、声色は喜びに満ちているものばかりだ。

 

 

「しかし……酒、酒か……うむむ……」

 

「? あ、アルテラさんも飲みますか?」

 

 

破壊の意志は無くしたようではあるものの、どこか難色を示すアルテラ。

 

 

「い、いや、私は、酒はあまり……」

 

「そうですか?実際に飲めば、害がないことも分かると思いますよ。果実酒やカクテルなど、度数が低くて飲みやすいものも揃えてますし、おつまみも色々ありますよ!」

 

「……破壊する前の文明の吟味も、大事だな……そうだな……」

 

 

誘惑に負けた──もとい、言いくるめられたアルテラは、軍神の剣を傍らに立てかけ、椅子に腰かける。

 

その様子に、カレームはニッコリと笑みを深くした。

 

 

「ご注文はありますか?」

 

「……酔いにくいものが良い」

 

「では、私のお勧めを出していきますね。現代はお酒の種類がかなり増えていて、私も驚きましたよ」

 

 

流れるような手つきで、グラスに氷やリキュールを入れ、マドラーで混ぜていく。

 

赤とオレンジのグラデーションが、目にも美しい。

 

 

「やはり飲みやすさではこれですかね。カシスオレンジです」

 

 

目前に置かれた、背の高い円筒グラスを、アルテラはまじまじと覗き込む。

 

 

「私が知っている酒と、随分と違うな……」

 

「そりゃあ、1500年も経てば全くの別物ですよ。おつまみもすぐに出しますね」

 

 

カレームの言葉を聞きながら、恐る恐る、控えめに口をつけた。

 

鼻を突き刺すようなアルコールの刺激臭はなく、代わりに爽やかな果実の香りが口内を吹き抜ける。

 

オレンジとベリーの、自然のままの酸味と甘味。

 

すりつぶされた果肉による、ざらつくような舌の感触を少し堪能した後、飲み込むと、ほんの少しの喉が焼ける感覚が、酒精の存在を思い出させた。

 

 

「……酒、という感覚が薄いな。なるほど、これは飲みやすい」

 

 

拍子抜け、と言わんばかりに気の抜けた顔を見せるアルテラの前に、皿が置かれる。

 

 

「お待たせしました、おつまみです。甘いお酒に合うものとして、生ハムとクリームチーズのクラッカー乗せにしてみました」

 

 

皿の上には、これまた等間隔に置かれたクラッカーを皿のようにして、小さく切り分けられた生ハムとクリームチーズが置かれていた。

 

花弁のような生ハムと、白いクリームチーズ、そして散りばめられたバジルの葉の対比に、目を魅かれる。

 

一つを手に取って齧ると、パリ、と乾いた音がして、クラッカーが破片と欠片に分断された。

 

クラッカーを噛み砕くことに専心していると、穀物の香ばしさを追う形で、生ハムの塩気と、クリームチーズのまろやかさが舌の上を支配する。

 

思い出したかのようにバジルの風味が鼻を掠めたところで、グラスを再び手に取り、口の中を果実の風味で洗い流す。

 

肉とチーズ、そして穀物という重厚感の直後に味わうことで、果実の甘酸っぱさが、よりはっきりとした輪郭で現れた。

 

すると、今度は逆に、動物性の旨味が欲しくなり、もう一度とつまみに手が伸びる。

 

酒、つまみ、酒、つまみ、酒、つまみ、酒……。

 

 

「お、美味しいのは良い文明だが、止まらんのは悪い文明ではないか!?」

 

 

最後の一口を煽った勢いのまま、空のグラスを力任せに置くと同時に叫ぶアルテラ。

 

顔が赤いのは怒りだけではあるまい。

 

 

「あ、飲み終わりましたか。おかわりはいりますか?次はファジーネーブルかマリブコークか……あら?」

 

 

作業を中断し、手元からアルテラへ視線を戻すカレーム。

 

しかし。

 

 

「アルテラさん?何か、妙に顔が赤くありません……?頭もフラフラ揺れてますよ?」

 

「なんだと?戦闘機械たる私が、何か不備が……ぐぅ」

 

「あ、アルテラさーん?」

 

 

自分の言葉も言い切らない内に、座った姿勢のまま寝入ってしまったアルテラに、カレームはやや慌てたように声を掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

いくら揺さぶっても、酔っ払いが集う喧噪の中でも、結局彼女は起きず、翌日の朝食の時間に、激しい頭痛と共にようやっと目覚めた。

 

そのままお茶漬けを食べて帰った。(お茶漬けは良い文明)

 

 

結婚式の宴で、酒を飲み過ぎたことが死因とされているアルテラ。

 

その逸話から、彼女の霊基は酩酊状態に極端に弱い、ということは、カレームはおろか、サーヴァントになって以来酔ったことのないアルテラ自身さえ知らなかった。

 

彼女も、最悪の事態を避けるために極力セーブして飲んでいたものの、予想よりもかなり弱くなっていたようだ。

 

 

 

 

それ以降は、介抱用の付添人として、エレナ・ブラヴァツキーを傍らに置き、深夜の食堂に訪れる彼女の姿があったとか何とか。

 

 

「──迷惑をかけるのは、悪い文明だからな」

 

 




会話3
「コック帽を作った理由ですか?厨房だと大きい男どもがひしめき合うせいで私が埋もれてしまうんですよ。料理長として少しでも威厳を保たないといけなくて……。どいつもこいつも縮めばいいのに。いいえ?何も言ってませんよ?」

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