オリ鯖のデータは後書きで少しずつ出していきたいと思います。
絆レベルが上がると開示される本家システムみたいな雰囲気を感じていただけると幸いです。
あとこのキャラ出して!とかこんな料理出して!とかこのキャラの好物こんなんだよ!といったアドバイスやリクエストは大歓迎なのでお気軽にどうぞ。
パシュ、と空気の抜けるような音と共に扉が開かれる。
その先に広がる食堂と、カウンターの奥に見える厨房に向かって、彼女は足取りも軽やかに、むしろスキップして迷いなく進んでいった。
「さて、ここが新しい私の城ですね!設備や備蓄を確認したいところですが、まずはマスターの空腹という火急の事態に対処致しませんと!ええと、鍋とコンロは……」
誰に言うでもなく、思うがまま口を開く彼女は、もはや一種の興奮状態のようでもある。
その後に続くように立香、マシュ、ダ・ヴィンチにロマニが食堂に入る。
「マスター!マスターと御三方にアレルギー、宗教上の理由などで食べられないものはありますか?」
「あ……いや、別にないけど……」
「了解しました!ではすぐに調理に取り掛かりますね!少々お待ちを!」
何か続けて言おうとする立香を尻目に──というよりはあまり見えていないように、彼女は厨房の奥へ引っ込んでいった。
「……あちゃあ、これは人の話を聞かないタイプだぞぅ……人の注文を聞く立場の料理人があれでいいのかなぁ……」
「超一流の料理人っていうのは、注文をとる前から客に最もふさわしい品というのがわかるらしいからねぇ」
ため息をつくロマニとけたけたと笑うダ・ヴィンチちゃんと共に、立香とマシュはテーブルにつく。
お昼時とは言え、職員が一斉に持ち場を離れることは難しいためか人気は少ない。
「マシュ、アントナン・カレームってどういう人かわかる?」
「はい、確か19世紀フランスを代表するパティシエにしてシェフ。外交官タレーランお抱えの料理人として数々の食卓外交を成功させたことで名を馳せ、数々の調理道具やレシピを考案した現代フランス料理の祖だと記憶しています」
「立香君の知ってるところだとコック帽やクリームの絞り袋、プリンやスフレのレシピとかだね。
料理人の名前が厨房から表舞台に出た、いわゆる『有名シェフ』の元祖でもある。文献だと男性のはずなんだけど……」
「そこはそれ、アーサー王という前例がいるじゃあないか」
「いや、君もその例の一つに入ると思うよ……」
マシュへの補足から派生して軽口を叩き出した大人2人に苦笑しつつ、立香の腹の虫は今まで以上にうるさく主張し出した。
それほどの功績を残す一流料理人から直々に料理を振舞ってもらえるとなると、期待しない方が無理な話である。
一体どのような皿が出てくるのかと考えるだけでも我慢ならない。
「何が出てくるんだろう……」
思わず呟いたその一言に応じるように、カレームは湯気を立てた皿を器用に4つ持ち、厨房から出てきた。
「お待たせしましたマスター!まずはこちらになります!」
まず立香の前に一つ、次にマシュ、ダ・ヴィンチちゃん、ロマニの前に皿が置かれ、その脇にナイフとフォークが並べられていく。
その皿の上に鎮座しているのは──
「……オムレツ?」
声を漏らしたのは誰だったか。
皿の上には、ふっくらとした黄色の木の葉型が乗っているのみだった。
付け合せも、中に具が混ぜこまれている様子もない。
白の差し色も、焦げ目の一つすらない、ひたすらにシンプルな黄色。
「はい、オムレツ。更に言うとレアオムレツですね」
「え、いやいやこれだけかい?なんかちょっと拍子抜けと言うか……」
「もちろんメインは他にご用意いたします。こちらは前菜代わりの品ですので、そちらを召し上がりつつ、次の皿をお待ちください」
ロマニにそう言って一礼した後、カレームはすぐさま厨房へ再び下がる。
後には呆然とする3人と何やらしたり顔の1人、そして湯気を立てる4枚の皿が残された。
「ふっふぅ~ん?へぇ~なるほどねぇ……」
「1人で何か納得してないでこっちにもどういうことか教えてくれよレオナルド……」
「いやいや、彼女もいっぱしの英霊なんだなって話しさ。
卵は最も調理の難しい食材の一つ。それを何の混じり気もなくただシンプルに焼くというのは料理人の技量が際立って表れるものだ。おまけにオムレツはフランス料理の基礎中の基礎。そんな料理を召喚されてからマスターに出す最初の一皿として選ぶというのは自分の腕に相当の自信を持っているってことだよ。腰が低いようでいて、彼女なかなかプライドが高いと見える」
「へぇ……」
ダ・ヴィンチちゃんのうんちくを聞きながらも、立香は目の前の皿に意識が釘付けになっていた。
ほかほかと立ち上がる湯気が頬を撫でるだけで、口の中に涎が溢れ出す。
空腹はもう限界にまで達していた。
皿の横に置かれたナイフとフォークを手に取り、ぽってりとしたオムレツの腹に刃を差し入れる。
吸い込まれるようにほとんど抵抗なく入ったそれを抜き取ると、中からスクランブル状の卵が顔を出した。
とろとろとした半熟状態でありながらも生の卵が流れ出さず、外側のみにしっかりと火が通っているのでフォークを刺しても形が崩れない絶妙な火加減。
一口大に切り分け、口の中に入れた瞬間――彼の中のオムレツの観念がひっくり返った。
「~~~!」
声にならない感嘆を上げながら、咀嚼を続ける。
ふわふわとやわらかく焼き上げられた表面部分を噛み潰すと、中からとろり、と半熟部分が口内に溢れ出す。
噛み続けることで二つの食感が渾然一体となり、絶妙な塩胡椒の味付けにより引き立てられた卵そのものの濃厚な風味が舌の上に乗る。
鼻からバターの香りが抜け、飲み込むとまたとろりとした感触が喉をくすぐった。
「……なんだ、これ」
最初の1口を飲み込んだ後、呆然と呟く立香。
隣で同じように1口食べたマシュも、目をキラキラとさせながら感動を抑えきれないようだ。
「先輩!すごいです!ふわふわで、とろとろで、それで、それで……とってもおいしいです!」
「うん……こんなオムレツ初めて食べたよ」
自分の興奮を一生懸命伝えようとする後輩を微笑ましく思いながら、二口目に手を伸ばす。
こうなってはもう止まらない。
「卵を焼くだけでこんなに違うものが出来るのかい……!?料理というか、こんなのもう錬金術の域じゃないか!」
「うーん、いい仕事をするねえ。彼女は食を一つの芸術と捉えている節があったらしいけれど、なるほどこの域まで達すればさもありなん、と言ったところか」
驚愕と感激の入り混じった目を瞬かせながら声を上げるロマニとは対照的に、感じ入るように瞳を閉じながらゆっくり噛みしめて味わうダ・ヴィンチちゃん。
それ以降は、各々が目の前の皿に集中するように、ひたすら黙々とオムレツを口に運び続けた。
皿の上が寂しくなっていくのを惜しみながらも最後の一口を飲み込んだ後、立香は感嘆を込めた息を吐き出す。
「あ~おいしかった……」
「はい……とてもおいしかったです……」
二人してこの感動を陳腐な言葉でしか言い表せないことに気恥ずかしさにも似たくすぐったさを感じて、お互いに顔を見合わせて思わず吹き出してしまう。
くすくすと笑い合う中、また腹の虫が鳴った。
オムレツを迎え入れた胃が、もっと、これでは足りないと主張し始める。
そういえば、これは前菜だと言っていたような……と、立香が考え出した時、芳しい──これはソースだろうか──香りが漂ってきた。
見ると、ワゴンを押しながらテーブルにやってくるカレーム。
その上に乗せれらた様々な料理を見せつけられては、もうたまったものではない。
「さあ、マスター。コースはまだまだ続きますよ。思う存分、ご堪能ください」
肉から魚、サラダにスープにデザート……。
つい作りすぎたので、と一緒にカルデア職員にも数々の品が振る舞われ、期せずして食堂は歓迎会のようなにぎわいを見せた。
その主役が厨房にいるという違和感を除けば、だが。
キャラクター詳細
アントナン・カレーム(☆1キャスター)
「シェフの帝王」「菓聖」と謳われた世界最高峰のキュイジニエ(料理人)にしてパティシエ。
フレンチを始め現代料理の基礎を構築した料理研究家の面も併せ持つ。
フランス革命後の波乱の時代を生き、歴史上初めて厨房に光を当てた稀代の天才。
キャスターとしての現界だが、本人の心持ちとしてはバトラーであるらしい。
「だって私魔術とか使えませんもの。え、戦う?私が?厨房の外で?何故に?」