少しは休ませろやボケェ!!!!!!!!!!
年に一度行われる、サーヴァント一の雄を決定する祭典。
例年はローマで行われていたネロ祭。
そして今年は所変わってニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンにて執り行われることとなった。
その名も、バトル・イン・ニューヨーク。
カルデア中のサーヴァントがこの時ばかりは出場者・観客を問わずに会場へ足を運び、カルデア職員もまた、シバによるパブリックビューイングで熱狂に包まれる。
それ程の観客を擁するイベントであれば、彼らに食事を提供するスタッフの規模もまた大きく。
その名もカルデア・キッチン・トラック、略称C.K.T──またの名をUnlimited Burger Works!
エミヤ主導による、ブーディカ・頼光・タマモキャットなど、料理を嗜むサーヴァントたちが出店するワゴン型フードショプ。
今回は開催場所と同じくニューヨーク出張版であり、カレームも勿論それに参加予定だった。寧ろ、主催として代表者となるのが定石だろうと、思われていたのだった。
そう、
「何っで……なんですか──────!!!!!!!!」
彼女の絶叫が摩天楼──マディソン・スクエア・ガーデンのスタジアム、通称"ガーデン"を見下ろす高層ビルの最上階に響き渡る。
目下盛り上がりを見せるガーデンに向けられたそれは、しかしながら夜景を一望できるガラス張りの壁によって阻まれた。
煌びやかなパーティー会場──、本来はワゴン車よりもよっぽど彼女のホームグラウンドである場所の中心で、彼女は理不尽と怒りに肩を戦慄かせる。
「本来ならば私も一緒にマスターや観客の皆さまにお食事を提供するはずだったのに……!きちんと説明はしてもらいますよ──英雄王!」
キッ、と彼女が睨め付けた先には、黄金の玉座に腰を落ち着け、静かに寛ぐ天上の王が一人。
黄金の王・ギルガメッシュ──ちなみに現在はゴージャスP、すなわちキャスタークラスである──は、カレームのキャンキャンと喚く犬のような訴えも素知らぬように、グラスを傾ける。
「
「そういうことを訊いてるんじゃないんですよこっちはぁ!さも当然のように連れてきて、拉致ですよこれは!拉致!!」
さもこの場にカレームがいることが当たり前、というような口ぶりに、彼女の口調は更に荒ぶる。
と、その両者の間に割り込む影が一つ。
「ままま、喧嘩はそのあたりにしておいて。詳しくはこの美人秘書、ドルセント・ポンドからご説明させていただきますねぇ♪」
頭の上に生えた2つの耳をご機嫌にピョコピョコと動かしながら、営業スマイルでカレームに詰め寄るドルセント。
自分もよくやる圧の掛け方に、思わずカレームもたじろぐ。
「な、なんですか。どうせこの祭りの開催期間中、専属で料理番になれとか、そういう話でしょう?それなら──」
「いえいえ。今回貴女に担ってもらいたいのは、運営全体に関わる大っ変に重要な役目なのでして……」
「フン。この祭りが我に捧げられるためのものならともかく、主賓となるからには為すべき責務というものがあろう。その一旦として貴様を登用した、というわけだ」
「は、はあ……?」
話が見えず、目に見えて困惑するカレーム。
「単刀直入に申し上げますとぉ、貴女に勝者への景品を作ってもらいたいのですよ!」
「景品……ですか?ええと、もう既に景品引換券は用意されているんじゃないんでしたっけ?AUOくじ、とか言う……」
「こんな大掛かりな催しですもの。景品がたった一つじゃ味気ありませんこと?というプレジデンテのお考えで、追加を用意することになったのです!それ自体でも消費でき、価値あるものとして代替通貨にもなり得る……そして何より、大量に生産できる景品を!
──と、なれば適任は貴女でございましょう?フランス料理の開祖にして食文化の特異点たる貴女直々の一品!これは売れ──コホン、祭りの良い目玉となるでしょう!」
「なるほど……?つまり、参加者の方々の士気を上げるような料理を景品として振る舞えば良い、と?」
「はい!その通りでございます♪」
「それならば、勝ち上がってくるであろうマスターに、間接的にではありますが料理をお出しすることができますね……」
しばらく顎に手を当て、思案した後、カレームは顔を上げる。
「承知しました。きちんと対価をいただけるのであれば、協力するのも
「ありがとうございますぅ!流石はプレジデンテの見込んだ御方ですわ♪それでは早速なのですが、打ち合わせの方を……」
「はい。メニューは追々決めるとして、どれ程作ればよろしいのでしょう?」
「あぁ、それは大体算出済みですわ。こちらをどうぞ♪」
上機嫌にドルセントから差し出されたタブレット──ギルガメッシュ御用達の私物である──を覗き込む。
その画面に映し出された表計算ソフトに入力された数字を見て、目を剥くカレーム。
「……正気ですか?」
「はい♪正気も正気、本気と書いてマジと読みます♪」
「ちなみに動員人数は……」
「もちろん、貴女お一人ですが?」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」
きょとり、と当然のごとく宣うドルセントに、カレームはブンブンと必死に首と手を振る。
「こんな千だのニ千だのを2週間ちょっとの開催期間で1人で作れと!?流石に限度がありますよ流石に!量が必要なら藤太さん呼んできてくださいよ!」
「ですからぁ、プレジデンテの催しに相応しい質が必要なんですよ~!第一、藤太さんはカルデア食糧庫の要で、有難味が薄れてきちゃってるじゃないですか~!」
「ええそうですね私も大変お世話になってます!ですがこれは物理的に不可能です!無理です!」
「──ほう、仮にも料理人の王を名乗る者が、始める前から泣き言とはな」
ぎゃいぎゃいわいわいとヒートアップする舌戦に冷や水を浴びせるように、賢王が口を開く。
「英雄王……」
「そう難しく考えずとも、貴様の
「……!そういえば、千里眼持ちでしたね、貴方……」
今回の現界ではまだ誰にも──マスターにも見せたことのないはずの宝具の性質を言い当てられ、少しばかりカレームの身体が強張る。
「確かに、宝具を使うとなれば可能でしょうが……。報酬は上乗せしてもらうとして、成功するかは魔力とメニュー次第、ですかね。メニューに関して案はあるのですか?」
「このニューヨークという場と熱狂の祭り、相応しきものは限られてこよう。すなわち──」
「──カロリーだ!」
ギルガメッシュの言葉を遮り、鋭い声が飛んだ。
「カロリーは正義。カロリーはすべての問題を解決する。カロリーは不可能を可能にする!何はともあれカロリーだ!!」
堂々と、モップ片手に仁王立ちで、そう高らかに宣言するのは、メイド服を模した水着を着用したアルトリア・ペンドラゴン・オルタであった。
「えーっと……黒い方の騎士王様?何故こんなところに?」
「試合にはセイバーの方の私が出るらしいからな。無聊を慰めるついでに、ここに来ればジャンクフードにありつけると聞いて、気紛れで臨時メイドをしている。そういう意味では貴様と同じか」
「はあ、そうですか。……ジャンクフード?」
「む、知らんとは言わせんぞ。ニューヨーク、アメリカ、それ即ちジャンクフードの
「それってつまり……」
「作れ。これは私の一存ではないぞ。ゴージャスPの意向でもある」
「正気ですか英雄王!?」
この短時間で二度も人の正気を疑うことになるとは、彼女もゆめ想定していなかった。
「場と空気によって生み出される価値というものもある。この祭りの限りではそう悪くなかろうよ」
「……まあ、納得はしました。エミヤさんたちが販売しているものも似通っていますしね」
「ならば、あの
「そう言うと思いましたよ……。ところで、英雄王。ご存知かと思いますが」
つい、と手を挙げるカレーム。
「私の宝具、製菓メインなんですけれど……」
「応用でどうとでもなるだろう」
「ああもう臣下に無茶ぶりしてくるなあこのプレジデンテ!」
予想していたとはいえ、辟易する返答に思わず天を仰ぐ。
「ええと?つまり?本来とは違う宝具の使い方で?ジャンクフードを?千二千作り続けると?ブラックってレベルじゃないですよ……」
「まあまあ、そこは一番働いているプレジデンテに免じて呑んでくださいな~。給与は弾みますよ?」
「給与、と言っても……私はQPをいただいても厨房に籠りきりで使う機会がないですし……。今回ばかりはお褒めの言葉一つで許す私ではありませんよ」
「あらら~。……だ、そうですよ、プレジデンテ?」
「フン、案ずるな。策はある」
ぷい、とそっぽを向き意地を張るカレームに対し、しかしギルガメッシュは狼狽えることは無い。
「此度の催しの観戦にと、
「"太陽の"……!?」
ギルガメッシュの言葉に、ぴくりとカレームの耳が動く。
「"太陽の"……太陽王、
「左様。貴様、確か建築物への造詣も深かったそうではないか。褒美としては十分だと思うが?」
その表情の変化を間近で見ていたドルセントは、後にこう語る。
「──何というのでしょう。黒髭……いえ、どちらかと言うと刑部姫でしょうか。最高のお宝を見つけた時の彼女の高揚にソックリだったのですよねぇ」
「……そ、そこまでの報酬を出されてしまっては、仕方ありませんね……。分かりました。その依頼、お請けしましょう!」
「善し。交渉成立だな。では早速働いてもらうとするか!」
「カロリーだ!早くカロリーを寄越せ!」
「少し静かにしていただけます!?慣れない使い方なので集中力使うんですよ!」
カレームが承諾の意を示した途端に主張を激しくするアルトリア・オルタを一喝して、カレームは自身の内の魔力の巡りに意識を集中する。
カルデアからの魔力供給を感じながら、頭の中で強く、その真名の輪郭をなぞった。
──サーヴァントの宝具解放により迸る魔力の余波が、辺りに一陣の風を巻き起こす。
魔力を練り合わせ、五大元素を合成し、一つの神秘の創造へ、今至る──!
「──行きますよ!宝具解放!《
***
食む──というより、食いちぎる、という表現がより近い形で、端に歯を立てる。
薄い皮が突き破られると同時に、その中にパンパンに詰め込まれた肉汁と粗挽き肉が怒涛にあふれ出した。
それは固めに焼かれたパン生地に沁み込み、追いかけるようにそれにも歯を立てると、シャキリと音を立ててレタスが瑞々しく千切れていく。
ケチャップとマスタードの酸味と辛味が、素材のほのかな甘味を塗り潰していくが、それもまたジャンキーで趣き深い。
もっきゅもっきゅとホットドッグを咀嚼した後、ずぞぞぞとジュースを啜って口内をリセットした後、ハンバーガーを食み、フライドポテトを口に放り込む。
胡椒の効いたパティのガツンと来る肉の旨味と、とろけたチーズ、そして塩と油の沁み込んだポテトは、体には優しくないが心に優しい味をしている。
「やるではないか料理人。何時ぞやに食べた炒飯よりはいけるぞ。だのに何をそんなにしょぼくれている」
摩天楼の頂上で、湧き上がる眼下の会場を見ながらジャンクフードの山の傍らでひたすら食事を続けるアルトリア・オルタ。
どことなく喜々とした雰囲気の彼女とは裏腹に、カレームはその陰で暗く沈んでいる。
「いえ……元は英雄王からの命とは言え、我欲に駆られてこんな事に自分の宝具を使ったことに自己嫌悪と言いますか、何と言いますか……」
「何を言う。皆が喜び、祭りが盛り上がる。これ以上に役に立つ宝具などそうそうないぞ。ほら、見てみろ」
アルトリア・オルタの手に引かれて、会場──目下試合を行っているガーデンを見る。
「フハハハハハ!そうら勝者には褒美をやるぞ!この我が認める財宝よ!うむ、祭りらしくなってきたではないか!良い、良いぞ!フハハハハハ!」
「こちらでは景品交換を行っておりますよー♪くじはもちろん、その他の景品も応交換です♪ふふふ、循環、循環。経済してますねえ♪」
主催──ギルガメッシュとその秘書・ドルセントは意気揚々と祭りに準じる。
それに呼応するように、肉薄する勝負に高揚する出場者と、盛り上がる観客たち。
誰も彼も、この一時、泡沫の熱狂に身を任せ、喜色満面の様子である。
自分の宝具で──自分の作った料理で、万人が笑顔になっている。
これが、料理人にとって悦びでなくて何であろう。
誉でなくて、何であろう。
「……まあ、たまには、こういうのも、悪くないかもしれませんね」
「ところで、食い切ってしまったのだが。おかわり」
「えっ……はあ!?もう一回やるんですか!?」
もう一回どころか、結局、この祭りが終わるまで、何度も宝具を使わされることになるのだが、今の彼女にとっては、露知らぬことである。
[絆Lv. 3で解放]
魔力付与 D
後世にまで語り継がれる彼女の緻密な技術が昇華されたスキル。食材の加工過程で魔力を練り込み、第二級程度の魔術補助礼装に変化させることができる。そのまま食せば魔力供給となり、携帯しているだけでも軽微なステータスアップが見込める。
芸術審美 C
デッサンや建築物の知識を基に料理の盛りつけや美しさを初めて探究した逸話から得たスキル。芸術品への深い造詣を持ち、芸術面に逸話を持つ宝具を目にした時、低確率でその真名を看破できる。彼女が生前傾倒していた建築物に関するものだと、その確率は上昇する。
食材解析 A+
視覚・洞察系スキルが複合され生み出されたオリジナルスキル。
彼女が「食材」と認識したもの限定でその性質・正体を即座に看破し、調理に最適な動作をとることが出来る。無論、その調理の過程には捕獲・解体・血抜きも込。
A+ともなれば、仮に神代の魔獣と評される生物だとしても、彼女が食べれると判断した時点で一介の食材と成り下がるだろう。