キャスター?いいえバトラーです!   作:鏡華

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卒論から脱却してきましたよイヤッフー!
&私からのクリスマスプレゼントです!メリークリスマス!

そして全国のパティシエの皆さんお疲れ様です!!!!

ちなみにクリスマスって24日の日没から25日の日没までらしいですね。


戦場のクリスマス

──クリスマスとは、それ即ち戦いである。

 

 

「と、思うんですよねえ。私は」

 

「ノット否定なのだな。キャットにチョコはご法度というのに。これはニンジン1本では足りぬのである」

 

 

厨房で砂糖をこね、チョコをこね、小麦粉をこね──ついでに愚痴を零しているのは、我らがシェフ、アントナン・カレームと助手のタマモキャット。

 

この2人のみでなく、現在キッチンにはエミヤ、ブーディカ、マルタに藤太などなど、料理に自信のあるサーヴァントたちがひしめき合っている。

 

 

本日は12月24日。

 

泣く子も黙るクリスマスイブである。

 

 

夜のパーティーに向けて、七面鳥やケーキなどなど、様々なご馳走を作っている最中なのだ。

 

しかしながら、如何せん量が量である。

 

今夜ばかりは特別な日と、カルデア内にいるサーヴァント、職員のほぼ全てが押し掛ける。

 

200は下らないその数に見合う数を作るため、現在キッチンはフル稼働。

 

地獄の行進が如く、ひたすらに”料理”という敵と戦い続けているのである。

 

 

「料理を作るのは楽しいし、好きですけれど、こう……何ていうんでしょうね。以前マスターが仰ってた『虚無』って、こういう感じなんでしょうか……」

 

「深く考えない方が賢明だワン。キャットは賢いからな。そういうのとは向き合わないのだ。マスターの笑顔だけを考えたらよいぞ」

 

「そうですね……そうですね!ありがとうございますキャットさん!忙殺されて危うく初心を忘れるところでした!ようし、マスターと皆さんのために頑張りますよー!」

 

 

隈のできた目に活気を取り戻しながら、カレームは自らの口にクッキーを放り込む。

 

 

「むむっ、摘まみ食いか?数が足りるかどうかという時にそれは見過ごせぬワン」

 

 

咀嚼するカレームの頬をツンツンとつつくタマモキャット。

 

 

「あぅ。違いますよ。これは事前に用意していた回復用クッキーです。魔力を練り込んであるのでお手軽に補給ができるんですよ。キャットさんも一ついります?」

 

「にゃんと、ドーピング!そういう手もあるのか。ニンジン型はあるのかワン?」

 

「ええ、本当に用意しておいてよかったですよ……。今回は形にこだわっていないのでシンプルな丸型しかありませんが、それでもよければどうぞ」

 

「ふむ。それではいただくとするかな。贈り物には寛容なキャットである」

 

 

あーん、と大きく開けられた口にクッキーが放り込まれる。

 

サクサクとした食感に素朴な小麦とバターの香りが心地よい。

 

 

「うむ!元気100倍120%なのだワン!」

 

「ようし!それではどんどん作っていきますよー!ノルマのブッシュ・ド・ノエル200個!」

 

 

ほんの少し顔の血色が良くなった二人は、キッチンの片隅で小さく決起した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「「「「わあああ~~~!!」」」」

 

 

一番目を惹く大きなターキーを中心に、グラタン、サラダ、ポテトディップにピザ……。

 

そして、仕上げとばかりにブッシュ・ド・ノエルが一席につき一つずつ。

 

普段の近代的な造りとは打って変わって、絢爛豪華なイルミネーション、そして卓上のご馳走たちに、幼い声が喜色満面にあがる。

 

 

「すごいのだわ、すごいのだわ!お城のお姫様にでもなったみたいだわ!」

 

「すっごい!きれー!おいしそー!ねえねえ、これっ全部食べちゃっていいの?」

 

「わあ……すっごぉい……」

 

「すごいですすごいです!サンタも太鼓判を押すご馳走の山なのです!」

 

 

他の者よりも先駆けてやって来たナーサリー、ジャック、バニヤン、ジャンヌ・オルタ・リリィが各々に感嘆を漏らす。

 

 

「すごいねコレ……皆、お疲れ様!」

 

 

そしてその同伴で着いて来たマスター、立香が労いの言葉を掛ける。

 

 

「ありがとうございます!頑張った甲斐がありました!」

 

「ご主人、報酬にはニンジンをいただくぞ♪」

 

 

今にも気の緩みで倒れ込みそうな脚を叱咤しながら、その言葉に胸を張って応えるカレーム。

 

対称的にタマモキャットは喜々としている。

 

他のキッチンメンバーも、大きな仕事を終えたとあって、厨房内で一休みしている状況で、どこにそのような気力があるのか甚だ疑問である。

 

 

とはいえ、後はディナーをつつがなく終えるのみ──と、カレームが安堵の息を吐こうとした、その時である。

 

 

「あれ?でも()()がないね?」

 

「ええ、()()がないのだわ?」

 

 

ひそひそと話す、ジャックとナーサリーの声が聞こえてきた。

 

 

「ジャックさん?ナーサリーさん?どうかしまた?」

 

「ねえねえコックさん──」

 

 

 

 

 

 

「「──ツリーはどこにあるの?」」

 

 

 

 

 

「……え?」

 

ザァ、と血の気が引いていく音を身体の内に感じながら、とっさに食堂を見渡す。

 

イルミネーションはある。飾りつけのモールも、ウォールステッカーもある。

 

しかし──肝心のツリーがない!

 

 

そう、去年同様、工芸菓子(ピエスモンテ)ででも作ろうと思っていたクリスマスツリー。

 

しかし、1年が経って想像以上に増えたカルデアメンバーに合わせた料理に忙殺されて、何時の間にかすっかり失念されていたのだ。

 

 

「ちょ、ちょっとお待ちくださいね……」

 

 

取り繕った笑顔を子供たちに向けながら、慌てて厨房に駆け込むカレーム。

 

 

「エミヤさん!スポンジとクリームは!?」

 

「残念ながらブッシュ・ド・ノエルで綺麗に使い切っている。マジパン用の砂糖も同様だ」

 

「じゃあ、ポテトでもお肉でも、何か食材は!?ブーディカさん!マルタさん!」

 

「残念ながらこっちも品切れ。それに、もうそろそろ他のお客さんも来る頃じゃない?」

 

「外からモミの木でも取って来れれば良いんですけど、この場所じゃ……。ああもう!せっかくのあの方を祝う行事なのに!私としたことが完全に忘れて……!コホン、忘れてしまって……残念です」

 

「……!」

 

 

万事休す。

 

焦りに唇を噛みながら、打開策を探すカレーム。

 

否、あるにはあるのだ。

 

とっておきの()()()が──アントナン・カレームにはある。

 

だから、これはどちらかと言えば躊躇に近い。

 

()()を使うことへの拒否感が、彼女に実行を思いとどまらせている。

 

しかし。

 

 

「カレーム?大丈夫?」

 

 

様子を見に来た立香の、厨房を覗き込む、その心配そうな顔で、彼女の腹は決まった。

 

 

──自分の下らない矜持でお客様を失望させて、何が料理人か!

 

 

 

 

「……マスター。魔力の蓄えはありますか?」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

「──お待たせしました!実はツリーは今から作る予定なんです」

 

 

言葉とは裏腹に、カレームは手ぶらで厨房から出てきた。

 

 

「今から作るんですか?でも……」

 

「でも、コックさん何も持ってないよー?木なら私が刈ってきたげようか?」

 

 

ジャンヌ・オルタ・リリィと、バニヤンの不安げな声に、カレームは笑顔で返す。

 

 

「ご心配ありがとうございます。ですが、大丈夫ですよ。()()()()()()()()()()

 

 

 

立香とカレームは、互いを見やり、頷き合う。

 

瞬間、カレームは自らの身体に魔力が漲るのを感じた。

 

食堂の真ん中──椅子やテーブルのない、ぽっかりと空いた空間の前に立つカレームに続いて、その周りに子供たちと立香が集まる。

 

 

 

目を閉じて、心の中で()()を唱える。

 

頭の中に、鮮明なイメージを思い浮かべる。

 

それと、魔力があれば、十分。

 

そっと、彼女の唇が、言葉を紡ぐ──。

 

 

 

「──《甘美なり我が傑作(ピエス・ルクス・モンテ)》」

 

 

 

そっと呟かれたその響きとは裏腹に、ぶわり、と勢いよく魔力の波動が空間に満ちる。

 

思わず目を閉じて、再び開くと──そこには、天井に届くかというシュークリームタワーがあった。

 

 

電飾のように彩られた果物に、オーナメントのように吊り下げられたマジパン。

 

そして──頂点には星型の巨大なアイシングクッキー。

 

 

その堂々たる居姿に、しばし皆見とれ、声も出さずに立ち尽くした。

 

が。

 

 

 

「「「「……すっごーい!」」」」

 

 

子供特有の甲高い声で、現実に引き戻される。

 

 

「これ、全部お菓子!?わたしたちで食べていいの!?」

 

「聖夜の奇跡なのですね!まるでサンタみたいです!はっ、もしやカレームさんはサンタさん……?先代以外にもいらっしゃったとは!」

 

「素晴らしいわ!灰かぶり(シンデレラ)に出てくる魔法使いのようね!絵本の中みたいでとっても素敵よ!」

 

「おっきい……!これなら、私もおなかいっぱい食べられるかな……」

 

 

「皆さん、はしゃぐのは良いですが、これは他の皆さんと一緒に食べるデザートですからね。まずはテーブルの上の料理をお楽しみくださいな」

 

 

「「「「はーい!」」」」

 

 

 

 

パタパタと足音を立てながら席につく4人を見送る立香に、1つのシュークリームが差し出される

 

 

「マスター、魔力供給お疲れさまでした。多少の回復にはなるかと思いますので、お一つどうぞ」

 

「え、でも、さっきデザートって……」

 

「ええ。だから、マスターだけ特別……です。皆さんには内緒ですよ?」

 

 

口元に人差し指を添えて、控えめに笑うカレームに笑い返しながら、シュークリームを受け取り、口に頬張る。

 

 

小ぶりなそれは、ふわふわとした生地を舌で楽しんだ後、歯を遣わずに口内で押し潰すと中からクリームが溢れだす。

 

バニラの香りが芳しいカスタードクリームは、滑らかな卵の風味を楽しませてくれる。

 

もちもちと生地を噛みしめると、ほんの少しの小麦の匂いが鼻を掠めていった。

 

 

「……美味しい。それに、何か身体に元気が出てきた気がする……」

 

「それは良かった!料理もパーティーもまだまだこれからですからね。全力で楽しんでください!」

 

 

顔の血色が良くなった立香に、笑顔で返すカレーム。

 

こうなっては疲れなど何のその。

 

このクリスマスパーティー、全力で楽しんでやろうではないか。

 

 

 

 

ぞろぞろと、こちらに向かってくる足音と、扉が開く音に、カレームは一層の笑顔で応えた。

 

 

 

 

「──メリークリスマス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




[宝具]

甘美なり我が傑作(ピエス・ルクス・モンテ)

Arts全体宝具
味方全体にランダムでNP獲得量アップ(3ターン)〈オーバーチャージで効果アップ〉・HP回復量アップ(3ターン)・宝具威力アップ(3ターン)・敵全体に確率で魅了付与(1ターン)



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