キャスター?いいえバトラーです!   作:鏡華

23 / 29

※今回の話には正月イベント及び2部3章までのネタバレを含みます!※

あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!
新年なので、新しいことをと思い、twitterアカウントを作ってみました!

ID→ @kyoka_hameln

ハーメルンでもtwitterでも、どうぞよろしくお願いします!

え?福袋?
……殺生院さんがいらっしゃいました……。


深夜のほっこりおうどん

「新年、あけましておめでと──!」

 

 

2019年の1月3日。

 

3が日の最終日。

 

 

新免武蔵守藤原玄房──宮本武蔵。

 

世界の漂流者である彼女は、彷徨海カルデアベース──自らの友人であり、マスターがいるであろう場所にひょっこりと、新年の挨拶にやってきた。

 

うっかり時間を間違えて深夜──もっとも、白紙化された地球に夜も何もないのだが──にやってきてしまったが、それはそれ。

 

賑やかな連中揃いの彼らのことだ、きっとこの時間でも祝いに賑わっているだろう、と高を括って、堂々と、宴会をしているであろう食堂の扉を開けた。

 

 

──の、だが

 

 

「──う?」

 

 

生憎と、そこはもぬけの殻。

 

煌びやかなおせちも、新春かくし芸大会に勤しむサーヴァントたちの姿もなく。

 

張り上げた祝いの声は、虚空に虚しく消えていった。

 

 

「あっれー?おかしいなあ……」

 

 

と、武蔵は首を傾げて部屋を見渡す。

 

すると、ぽつん、とテーブルに座る影が一つ。

 

 

「──おや、武蔵さんではないですか。お久しぶりですね」

 

 

所変わっても、再召喚されても変わらず料理長を務める、アントナン・カレームの姿があった。

 

 

「カレームちゃんじゃん!久しぶり!誰もいないけど、どうしたの、これ?」

 

「ああ、そのことですか。それが──」

 

 

かくかくしかじか、とカレームは事のあらましを武蔵に伝える。

 

 

 

 

「慰安旅行、ねえ……。何か、現在進行形で迷惑を掛けてるような気が……。それにしても、マスターがお出かけしているにしては人、いや、サーヴァントが少なくないです?あと、何でカレームちゃんそんなに不機嫌そうなのかしら?」

 

 

武蔵の言葉に、唇を尖らせたまま、カレームは応える。

 

 

「それが、皆さん座を経由してその慰安旅行と同じ場所に向かっているらしくて……おかげで、日本の食文化を勉強して備えていたおせちやお雑煮はマスター達の口に入ることなく、ダヴィンチちゃんや職員方、少人数で消費されました……。お陰様で楽させてもらいましたよ、ええ……」

 

「なるほど、要は寂しいのね」

 

「ぐぅ……」

 

 

天眼を使ったが如き鋭い指摘に、短く唸って撃沈するカレーム。

 

 

「ええ……ええそうですよ!新年早々こんな置いてけぼりの気持ちになるなんて思ってませんでしたよ!」

 

「うんうん。分かりますとも。私だって今まさにそんな気持ちですもの」

 

「でしょう!?」

 

 

しきりに共感の頷きをする武蔵の肩を掴み、カレームは涙目で詰め寄る。

 

その様子は、やや自棄のようでもあった。

 

 

「こうなったら置いてけぼり同士、無聊を慰め合いましょう!お好きな料理を作りますよ!なんせ材料は有り余ってますので!有り余ってますので!」

 

「え、ほんと!?じゃあ、うどん!おうどん作ってください!いやあ、カレームちゃんのうどん、一回食べてみたかったのよね!」

 

 

カレームの言葉に、武蔵の顔はパッと花やぎ、自らの大好物を即座にリクエストした。

 

 

「うどんですね!わかりました!私のフラストレーション──いえ、全霊をかけて、作らせて頂きます!まずは麺の生地作りから……!」

 

「いや、そこまではしなくでいいです!」

 

 

 

***

 

 

どどん、と。

 

 

湯気を立てる器が二つ。

 

中には琥珀の(つゆ)と、そこに揺蕩う白。

 

上には油揚げ(お揚げさん)と、慎ましく添えられた葱。

 

 

(かぐわ)しく香りをたてるそれに、武蔵は頬を紅潮させる。

 

 

「うわあ、美味しそう!これは期待大だわ!……ところで、何で二つ?」

 

「せっかくですし、私もご相伴に預かろうかと。他に誰かお客様がいるわけでもないですし。いやあ楽でいいですね!」

 

 

──ううーん、こりゃ相当根深くなるわよ、マスター。

 

 

笑顔にどこか影を背負うカレームから視線を逸らすように、武蔵は手を合わせて、箸をとった。

 

 

 

出汁の中から引っ張り出した純白の麺を啜ると、空気と共に芳醇な昆布と鰹の香りが口内を経由して鼻腔に雪崩れ込んでくる。

 

つるつると抵抗なく唇を滑り入ってくる麺を噛めば、シコシコとした歯応えと共に、優しい味が広がっていく。

 

時折混ざる葱の、シャキシャキとした食感と香りがアクセントとなり、全体の味を引き締めた。

 

油揚げを食むと、たっぷりと含まれた甘い出汁と、吸い上げられた(つゆ)がないまぜとなったものが、じゅわりと溢れ出す。

 

ふわふわとした油揚げの歯ざわりを楽しもうと咀嚼を続けるにつれ、口内にじゅわじゅわと出汁が広がっていく。

 

その風味が口に残っている間に再び麺を啜ると、つるりとした食感との対比が感じられ、趣き深い。

 

食べ進める中で臓腑の底に熱が溜まっていき、身体全体に熱が回っていく。

 

出汁を飲み干す頃には、すっかり身は火照り、じわりと汗をにじませていた。

 

 

 

「──ぷはあっ!美味しー!美味しすぎて一気に食べちゃったわ!おかわり!おかわり頂戴!」

 

「ありがとうございます!それではもう一玉茹でますね」

 

「わーい!新年早々こんなに美味しいうどんにありつけるなんて、今年はいい年になりそうね──って、あ!」

 

 

と、武蔵が発した言葉は、厨房に発とうとしたカレームを引き留めるには十分だった。

 

 

「? どうかしましたか?」

 

「どうしたも何も!私ってば、一番言わなくちゃいけないことを忘れてました!」

 

 

武蔵はカレームに合わせて立ち上がり、正面に向き合う。

 

そして──静かに、頭を下げた。

 

 

「──あけましておめでとうございます。昨年は大変お世話になりました。今年もよろしくお願いします。……って、ちょっと堅苦しいけどね。新年の挨拶、ちゃんとカレームちゃんにしてなかったでしょ?」

 

 

厳かな雰囲気もそこそこに、茶目っ気たっぷりに笑う武蔵に、カレームも釣られて笑った。

 

 

「……ええ、こちらこそ。今年もよろしくお願いしますね、武蔵さん」

 

 

新年の夜は、まだ長い。

 




会話5(エミヤ所属時)
「未来にもこれ程素晴らしい腕を持っている方がいるとは、この世も中々捨てたものではないですね!弓兵ではなく、その道を極めれば私同様キャスタークラスのサーヴァントにもなれたと思うのですが……もったいない、実にもったいない……」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。