聖杯が足りねえ!
インドもぐだぐだも最高でしたね……育成が追いつきませんね……。
最近多忙で感想返信が滞っていますが、全て拝読しています。
とても励みになっております。ありがとうございます!
「──ブッ潰れて死に晒せゴラァ!」
「シャバ僧が、ナメんなってぇの!」
地面が抉れ、石礫が舞う。
空間を削り獲るかのように猛進する戦輪──チャクラム。
炎纏うそれを真正面からナックルが捉え、殴打1つで力任せにその急進を押し留める。
鈍く激しい金属音が、耳をつんざく。
少しばかり空回りして動きを止めた、身の丈程もある戦輪。
その陰から飛び出るように跳躍する男。
彼は再び戦輪を手にし、剥き出しにされた108の刃を目の前の女に向ける──。
「……今日はまた、一段と激しいですね」
モニターでシミュレーションルームの内部を観測していると、不意に背後から掛かる声。
振り返ると、ワゴンを供に置き、モニターをのぞき込むカレームの姿があった。
「うん。本当なら訓練として、俺も中で指示を出すべきなんだけど……今回は、2人きりで存分に
「ええ、それが良いでしょう。こんなところにマスターが放り込まれれば、ひとたまりもありませんよ」
そう、どこか遠い目をして呟く彼女の眼には、戦闘の余波で見るも無残に破壊されていく部屋が映っている。
後の修繕と、ダ・ヴィンチちゃんからのお説教を考えると胃が痛くなる光景だ。
そんな俺の心情とは裏腹に、破壊の中心に位置する2人の顔はとても清々しい。
「それにしても、珍しい取り合わせですね。あの2人──アシュヴァッターマンさんとマルタさんって、接点ありましたっけ?」
「あー、アシュヴァッターマンにインド異聞帯での戦闘ログを見せたら、気になっちゃったみたいでさ。マルタさんもマルタさんで、意気投合しちゃって……」
「あぁ、なるほど……。あの時、マルタさん出ずっぱりでしたものね」
「そうなんだよ。いやあ神性特攻が刺さること刺さること……。おっ決まった」
***
ハレルヤッ!と女──聖女マルタの、ホーリーナックルで覆われた拳が、男──アシュヴァッターマンの顎を捉えた。
見事なまでに美しく入ったアッパーカットで、彼の身体は吹っ飛び、そのまま地面に背中から倒れこむ。
大の字に寝っ転がる彼を見下ろし、煤埃に汚れた頬を拭いながら、一言。
「──アンタの拳、悪くはないけどまだまだ甘いわね。出直してきな」
「……ガッ、グ……!畜ッ生、まだ
脳を揺らされたダメージに喘ぐのもそこそこに、アシュヴァッターマンは起き上がり、再び武器を手にしようとする。
打ち負かされたにも関わらず、闘志に満ちた笑みが、長い前髪の隙間から確認できた。
「いや、そもそもアンタ、まだ第1再臨もしてないでしょう?ちゃんとマスターに種火もらって、霊基を強化してからね──」
「──2人ともお疲れ様!休憩にしよっか!」
「ひょわっ!?ま、マスター……」
パシュ、を気が抜ける開扉音と、歩み寄ってくるマスターの声に、マルタは慌てて居住まいを正す。
いくら夏の魔力で気が大きくなってようと、マスターが舎弟にしか見えなくなっていようと、それでも、女の子らしい羞恥心はあるのだ。
プロジェクションが解除され、殺風景になったシミュレーションルームに、立香の靴音が響く。
ちなみに、何故か投影されていたのは夕暮れの川辺だった。
「やー、さすがマルタさん!相変わらず拳のキレが尋常じゃないね!夏の凄女は伊達じゃ──アタッ」
「からかうんじゃないってぇの!誰が凄女、よ!」
興奮気味に語る立香を、軽く──ほんの軽く、チョップすることで諫める。
「あはは、ごめんね。でも凄いんだもん。やっぱりかっこいいや、マルタさんは」
「ま、まあ?このくらいは?乙女のたしなみとして当然よ!」
まっすぐな賞賛に、照れ臭げに髪をいじるマルタ。
そんな、和気あいあいと話している2人に、ずんずんと割って入るのは、アシュヴァッターマン。
「おいマスター、早く俺を強化しろよ!ンでもって戦いに連れてけ!
怒。
己自身の不甲斐無さに対する怒りに身をやつしながら、それを自らの力たらしめんと燃やす。
憤怒の化身、アシュヴァッターマン。
未だ召喚されて間もないながらも、真っ直ぐな性根の彼を、立香はとても好ましく思っていた。
故に、こうして詰め寄られる体勢でも、臆せず、笑って応える。
「うん。ちゃんと用意するから、いずれね。でも今は、種火より先におやつにしよっか」
「あァ?」
「あら、もうそんな時間?」
訝し気に片眉を跳ね上げるアシュヴァッターマンと、何のことはない顔のマルタは正しく対照的だった。
「うん。ちょうどカレームが持ってきてくれたから、ね」
と、シュミレーションルームの扉の方に目を向けると、そこから顔を覗かせていたカレームが笑顔で手を振っていた。
***
「はい、どうぞ!」
満面の笑顔で、一縷の躊躇もなく差し出されたソレを、アシュヴァッターマンが受け取る。
場に流されてしまった自分に怒りを感じながらも、片手にすっぽりと収まる器を覗き込むと、乳白色が一面に広がっているのが見えた。
それを脇目に、立香とマルタにも器が手渡される。
「今日のおやつは何?」
「プディングです!プレーンの他に、ココアや黒蜜のフレーバーも用意しているので、お好きな物をお代わりしてくださいな」
「やった!俺、プリン好きなんだよね!」
「それはよかった!あ、マルタさんとアシュヴァッターマンさんにお渡ししたものには卵もゼラチンも使っていないので、安心してお食べください」
「え?ゼラチンも卵もなしに固まるの?」
料理の心得があるマルタから、疑問が上がる。
「はい。バナナと牛乳を使って。ペクチンとカルシウムが反応すると凝固作用が起こるんです」
「へえ、面白いわね」
「作り方自体はシンプルなので、また今度一緒に作りましょう!」
女性2人の会話を尻目に、鍛錬で節くれだった指で、繊細な造りをしているデザート用スプーンをつまむように持ち、すくう。
ほとんど抵抗なくくり抜かれたそれが、ふるふると切なげに揺れた。
口に運ぶと、ひやりとした冷たさと、噛むまでもなく蕩けるような舌触りが、口内の敏感な神経を通して快を伝えてくる。
一切の混ぜムラの無さが、作り手の技術を感じさせた。
熟れたバナナの強烈な甘味と、牛乳のコクがストレートに合わさった、素朴だが飽きの来ない味。
体温で温められると共に、蕾が開くかようにその風味が強くなっていく。
抵抗なく喉の奥に落ちていった後もその開花は続き、臓腑から鼻先にかけて、甘美な香りが駆けあがって来る。
「……ンっだこりゃ、滅茶苦茶ウメェじゃねえか!」
荒げた声と同時に、2口目。続いて3口目。
相変わらず怒気を孕ませながらも、その手は留まることは無い。
「怒りながら褒めて食べてる……」
「器用なもんね……あ、美味しい」
言動こそ激しいものの、どこか品を感じさせる食べ方にどこか感心しつつ、続くように立香とマルタもスプーンを動かす。
ちなみに、立香の器には卵をたっぷりと使ったカスタードプディング。
バニラの風味と、クリームと見紛うような滑らかさ、そして何よりカラメルソースのほろ苦さが、カスタードの旨味を存分に引き出している。
「お気に召していただいたようで何よりです!特にアシュヴァッターマンさんは、牛乳をたくさん摂っていただきたいですしね」
「ハァ?何でだよ」
「アルジュナさんが仰ってましたよ?『あんなに苛々しているのは、カルシウムが不足しているからでは?』と」
「だァれがカルシウム不足だ誰が!!アルジュナの野郎、そんなこと言ってやがったのか!」
「私、サーヴァントに栄養不足も何もないと思うんだけど……」
「アルジュナも天然だなあ……それを鵜呑みにするカレームもどっこいどっこい」
1人は怒り、1人は呆れ、1人は笑う。
三者三様の反応に、カレームはきょとんとした反応で返した。
「よォし、決めた!これ食ったら次はアルジュナと戦闘だ!ついてきやがれマスター!」
「えっまた!?」
「ちょっと、だからまだ種火の準備がね……」
「あぁ!?クソッ、しょうがねえな……。じゃあ周回だ!オラオラ行くぞ素材狩りだァ!」
──うん、今日もカルデアは平和ですね。
わいわいと賑やかな3人に笑みを浮かべながら、カレームは次の場所へ向かうため、ワゴンに手を掛けた。
渦中ながらも場にいなかった1人は、どこかでくしゃみをしていたとか。
[絆Lv. 4で解放]
「
ランク:B+ 種別:対宴宝具 レンジ:1~100
最大補足:1~1000
彼女の得意料理かつ伝説的な代表作である
ウィーン会議で出されたそれは数フィートもの高さを誇りながらも、上で道化師が跳び跳ねてもびくともしない頑健さでその美を諸国王侯に見せつけたという。
宝具として昇華された
自身やマスターの魔力だけでは飽き足らず、周囲の人間の魔力や他のサーヴァントから放たれた宝具の魔力すらも取り込んで利用することが可能。
巨大で堅牢な菓子は存在するだけでランクD以下の攻撃への盾となり、食すことで人間・動物・サーヴァントを問わず大幅な回復効果やステータスアップが見込める。
最も特異な点として、この菓子は単に高濃度に圧縮された魔力というわけでなく、完全に異なる物質として変化していることが挙げられる。
それ故に魔術師以外の人間が食しても害は無く、宝具の効果は遺憾なく発揮されるという稀有な性質を持つ。
では、一体何に変化しているのか──それは本人すらも不明である。