第十一話 お祭り
デュラハンを撃破した俺は英雄扱いに辟易しながら頬を膨らませているアホ女神に頭を抱えていた。
単騎で魔王の幹部を討ち取ったからか俺個人に対して莫大な報奨金が支払われた、そうならねぇように街の周辺で戦ってたんだが、剣を交えてる間にんな事をすっかり忘れてたんだわ。
増援が来る前に終わっちまったから完全に俺の手柄なわけで、ギルドでその場に居た全員の飲食費を払うって宣言したら金に困ってるアホ女神がずるいだのなんだの言ってガキみたく拗ねちまった、魔女っ子もマゾヒストも素直に喜んでたのに器が小っちぇな。
無視しても良いんだが、このアマはかまってちゃんだからな、無視したらしたで面倒な事になる事間違いなしだ。
「いい加減機嫌直したらどうだよ、ガキじゃあるまいし細けぇ事で膨れてんじゃねぇ」
「ふーんだ、人気者は言う事が違いますわねー、余裕ってやつかしら?」
ああ、こいつ単に俺がちやほやされてるのが気に入らねぇだけか、分け前の話じゃねぇだけ面倒だわ。
「はぁ……」
「あーっ!! ため息、ため息吐いた!! 私の顔見てため息吐いた!! 何よちょーっと強いからってリチャードばっかり!! 私は女神なのよ!? 偉いのよ!? 凄いのよ!? もっと褒めてよ!! 甘やかしてよ!! 持て囃してよ!!」
「俺はこれ以上にねぇくらいテメェを甘やかしてると思うぞ……」
好きな料理作ってやってるし、ツケを肩代わりしてやってるし、魔物に襲われても助けてやってる、これ以上なにしろってんだよ。
ワガママ全開のアホ女神はそう言って酒を一気飲みしてやがるが、それも俺の金なんだぞ?
俺の作ったつまみを食いながらやけ酒を呷るアホ女神、これ以上アホな理屈で絡まれたくは無かったんで、忙しい厨房の中へと入って料理を作る事にした。
最近はパーティーメンバーの飯を頻繁に作ってるからか最早許可も要らなくなった、つかギルドの職員も注文を入れて来やがる始末だ。
すっかり趣味になっちまった料理、元は師匠の嗜好品だったんだがなぁ、細けぇ注文が多かった所為で身に染み付いちまった。
んな事を考えながら料理してたんだが、夕方から夜中まで続いた宴会で周りの連中の大半が酔い潰れちまった頃にカウンター席にアホ女神が来た。
厨房の奴らも後半は俺任せにして酒飲んでやがったから起きてるのは俺と此奴の二人、アホ女神は程よくアルコールが回ってんのか顔が赤けぇがな。
「デザートか? ジェラートとケーキがあるぞ」
「ねぇ、アンタさ、一回死んでる訳じゃん?」
ちらっと周りを見たが俺たちの話を聞いてる奴は居ねぇ、アホ女神の目も真剣そのもの、どうやら真面目な話らしい。
「まぁな、で? それが何だよ」
「死因は? あの時、女神の目でもアンタの死因がわからなかった、他の魂なら人生丸ごと見通せるんだけど、アンタのだけは分からなかったの、何処出身でどんな死に方したのか教えて欲しいんだけど」
その問いかけに俺は少し考え込む、此奴の口が軽いのは重々承知してるが軽過ぎて信憑性が薄い、別に話してやっても良いんだが……まぁ教えねぇ方がうるさいか。
「真面目な内容みてぇだし、特別に教えてやるが……流石に此処じゃあな」
そう言って俺は余り物で作った料理と良さげな酒を何本か持って、アホ女神と共にギルドの外へと出た。
▽
「ここなら良いだろうよ、人気もねぇし何より月がよく見える」
俺が選んだのは城壁の上、潜伏スキルを使ってりゃバレる事はねぇし、街のお祭り騒ぎの中にいなくて済む、横に居る女がガキじゃなけりゃ最高だったんだがな。
「俺の死因の話、だったな?」
「うん、アンタの強さはハッキリ言って異常よ、才能の塊にしても出来ない事が少なからずあるのに、アンタの才能には底が無い。 日常的な些細な事にさえも、ね。 そんなアンタがそんな若い姿で死ぬって言うのが考えられないわ、事故死? 病死? 何にしてもアンタが死ぬ姿が思い描けない」
腐っても女神、あんぽんたんのアッパラパーの頭をしててもこの手の事には真剣な訳だ。 死後を司る神か、不死人にゃ縁のねぇ存在の癖によ。
カラン、と酒のグラスの氷が鳴る、普段からこれぐらい真面目な女なら少しは見直すんだがね。
「ま、俺様は天才だからな、テメェの意見も尤もなんだが……死因は単純なモンだよ、正面からやって負けた。 ただそれだけだよ」
そう言って俺はコートの下のシャツをたくし上げ、丁度心臓の部分を見せてやる。
其処にはあの男に殺された時の傷跡が残っている、こっちに来てダークリングが消えた代わりに俺の死因であるこの傷は消えていなかった。
まぁ、あの男に負けた事は悔しいが単にそれだけだ、あの時あの場所で俺が敗北したって事は、俺と奴の差がそれだけ開いちまったって事だ、そしてそれこそが俺の人生のエピローグ、長年探し求めていた俺の産まれた意味だ。
「…………嘘でしょ? リチャードより強い奴ってちょっと想像出来ないんですけど」
「強さで言えば俺より弱ぇよ、同じ武器使って正攻法で戦えばまず負けねぇ自信はある、だが奴の強さはそこにゃねぇよ」
あの男の強さは剣の腕じゃねぇ、確かにそれも何割かはある、俺以外の並みの連中には負けねぇだろうが、奴の強さはもっと別の場所にある。
「俺を殺してくれやがった奴の強さってのはな、格上との圧倒的な差を縮める強さだ、その為にゃ鋼の精神でなんでもやる奴だったんだよ」
「例えば?」
「魔剣・聖剣の類いを当たり前の様に投げてきたり、敢えて暴発させたりだな、兎に角武器の扱いが雑だった」
「…………はい?」
多分あの男が魔剣グラムを使えば蹴り飛ばしたり投げ付けたりと本来の用途以外の方法で活用しやがるだろう、武器防具を使い捨てにする事に何の躊躇いも見られねぇ奴だからな。
苗床の道中での会話でハルバードを投げまくってる事に呆れた覚えがある、何しでかすか分からん男だった。
「えーっと、要するに……奇策使い?」
「それだけなら良かったんだがな、奴は後の先を取る事に関しちゃ超一流でな、二の太刀が異様に早えぇもんだから一太刀目を避ける時に避けさせられるとそのまま首が飛ぶんだよ」
「避けさせるって、何? 避けてるんじゃないの?」
「才能のカケラもねぇ奴だったからな、一太刀目で斬れるに越したこたぁねぇが、本命は二の太刀三の太刀って奴だ」
避けられる事を前提にしながら一撃で斬り捨てに来る、そして斬撃を避けさせ、回避しきって無防備になった体勢に本命を入れてくる、一の太刀から二の太刀までの繋ぎも異様に高速化してたから斬撃が連動して見えるんだよ。
「ふーん、世の中ってのは広いのね、で? なんでそんなのと戦ってたのよ?」
「今じゃ因縁めいたモンだが、その因縁ができちまったきっかけは快楽殺人って奴だな、意味も無く殺し回ってた中の一人でしか無かった。二回目も同じだった、その時は慢心を突かれて負けた。三回目は逆恨みか、奴の知人に致命傷与えて誘きだしたんだがな、返り討ちに遭った。 四回目はちょっかい出しただけだったが、五回目は本気を出して殺しに行った。まぁ殺しきれなかったがな」
「えっと……控え目に言っても、アンタってストーカー? 狂人? 私これから殺されちゃうの?」
「今は意味も無く殺し回ったりしねぇよ、する意味がねぇ。 つかストーカーじゃねぇよ、奴と俺の世界が近いのが問題なんだよ、ちょっとした事でしょっちゅう交わってたからな」
世界の境界線が曖昧だった時代だ、時間ですらまともに機能していないあの時代に比べりゃ、道理がきちんと働くこの世界ならあの男とは永遠に知り合わなかっただろうよ。
そんな事を考えながらグラスの酒を飲んでると、世界の境界線の話に疑問符を浮かべているアホ女神に気が付いた、考えりゃ此奴は神の中じゃ若ぇんだった。
「まずそっからか……まぁ良い、今日は気が向いたから話してやってるんだ、聞きたいことに全部答えてやるよ」
夜は長いんだ、話す時間くらいいくらでもあるさ。