十二話 昔話
ロードランの話をしていたはずなんだが、ある気がかりがあったもんでいつの間にか俺自身の話に内容が変わっていた。
……俺の一番古い記憶は自分を捨てた娼婦の母親を絞め殺した瞬間だ。
捨てられた理由も、その間どうやって生きていたのかも殆ど覚えてねぇ、だが一つだけはっきりと今でも覚えている事がある。
「『お前なんか、産まれなきゃ良かったのに!!』それが俺の母親が最期に言った言葉だったよ」
その時は何にも思わなかったが、今になって思えば母親が俺を捨てた理由が何と無く分かっちまった。
「要は、俺が怖かったんだろうよ。ガキの頃からこの才能は有ったからな、日に日に常人離れしちまうガキが薄気味悪くてもしょうがねぇさ」
望んだガキじゃねぇんだから堕胎しちまえば良かったのに、とは思うがそれ自体当時の技術じゃ非常にリスキーな物だ、命欲しさにそれをしねぇってのは良くある話だ。
ある程度まで育てたのも赤子で捨てちまうと世間体ってのが不味くなるからだろう、んな倫理観気にしてるような奴だったから俺はこうして生きてんだが、まあ複雑だわな。
「次に覚えてんはアストラに行って騎士になった事か、まぁ良い飯食いてぇからって理由だったと思うんだが、詳しくは覚えてねぇ」
使命だなんだってもんは無かった、唯漫然と戦ってりゃ生活出来る職業、俺にとっちゃそれ以上でもそれ以下でも無かった。
何匹竜を狩っても、何体デーモンを殺しても、決して満たされる事は無かった。
いや、そもそもその騎士団で俺は一人浮いていた筈だ、何せ好き好んで騎士になる連中は誰かの為や使命の為に剣を取った連中の塊だ、俺みてぇに産まれた意味すらわからねぇ奴が居るような場所じゃねぇ。
その頃から俺は俺が産まれた理由ってのを探し始めたんだ、国を襲う邪悪な竜だの封印されていた悪魔だの、それまで以上に積極的に戦いに身を投じる日々だった。
そんなある日、王から叙勲される事になったんだけな、渋々推し進められて出席したが、勲章を貰った瞬間に俺の人生はこんなもんの為に会ったのか?って感じたのをはっきり覚えてる。
ダークリングが出たのはその時か、勲章投げ捨てて王を斬り殺した後に自覚したもんだから多分そうだろうとは思う、気付いて無かっただけでもっと前からかも知れねぇが。
後は毎日毎日戦い続けだった、ダークリングが出来ちまった以上それ以外にやる事も無かったからな。
んで、ロードランに行ったのもその流れからだ、あの時は取り敢えず行って見るかって程度だったんだが、まさかそれが正解だったとは夢にも思わなかった。
「後はさっき話した様に世界の覇権を争って負けた、それが俺の人生の幕引きで、その瞬間の為に俺は産まれたんだと思ってる。 だから、俺はオマエに聞きてぇんだ、女神アクア」
「何を?」
「––––––俺の人生に、価値はあったか?」
俺は俺の結末、人生に納得しているし後悔もない、果たせねぇ約束をしちまった事は申し訳ねぇがそれを含めて俺の物語だと考えてる。
だからこそ知りたい、俺の命が他人から見て価値があったのかを、神から見ても何か結果を残せていたのかを。
「そんなの当たり前じゃない、価値の無い人なんて居ないでしょ」
「………そうか、だったらいい」
肩透かしを食らった様な、何を当然な事を聞いてるのかと言った顔をしたこいつは、心からそう思っているのだろう、表情豊かな奴だから良く分かる。
「お前は良い女だな、アクア」
「あれれっ? もしかして今更私の魅力に気付いちゃったの? まあしょうがないわよね、私は心優しく清らかな美しい水の女神様だもの、ツンデレの貴方もメロメロになるのも必然よ必然、この世界じゃ上げ底のパッドエリスが調子に乗ってるみたいだけどやっぱりこの私が一番だって分かるわね? さあ!!早くアクシズ教に入信してこの私を甘やかしなさい!!」
…………ちょっと褒めたらコレだよ、このアマ。
しんみりした空気なんぞ一瞬でぶっ飛んじまった、俺はアホの頭に拳骨を打ち下ろし、涙目の抗議を聞き流しながら月見酒を続けるのだった。
▽
翌日、俺は一夜で使い切れなかった賞金の大半をアホ女神達に投げ渡し、こっそりと購入した高級釣竿セットを持って川釣りと洒落込んでいた。
ロードランから続く数少ない俺の趣味、釣りは良いぞ? 問題児の尻拭いを考えねぇで静かに時間を過ごせるし、何より飯を掻っ払われずに済む。
今日は鮎の友釣りをしてたんだが、鮎料理を作り終わった辺りで誰かの視線を感じた。
…………しかも俺の作り立てほかほかの料理に向かって。
視線の主を探していると、見るからに二、三日森で迷子でしたって感じの女が茂みの向こうから見ているのを見つけた、つか目が合って慌てられた。
飯、一人前しか用意してねぇんだなぁ……。
「あ、あの、えっと、コレはその!! 森で迷子になっちゃって、荷物も落としてしまって、だからつい!!」
「……食うか?」
「……いただきます」
おずおずと出てきた女はウチの魔女っ子と似たマントとローブを着て居た上に目が赤い、紅魔族か? はぁ、こいつの方が発育が良いしウチの魔女っ子と交換できねぇかね。
そんなことを思いながら飯が食い終わるのを待って名前を聞いたんだが、恥ずかしそうな顔で俯いちまった。
「……まぁ名乗りたくなけりゃ別に無理にゃ聞かねぇよ、だが礼ぐらいは言って欲しいもんだな」
「ご、ごめんなさい……あの、笑わないで下さいね?」
「んな事で俺が笑うかよ」
「じゃあ、その、我が名はゆんゆん!! アークウィザードにして上級魔法を操る者!! やがては紅魔族の長となる者!!」
「やっぱり紅魔族か、まあんなところだろうとは思ったよ」
「えっ? あの、それだけですか? 笑ったりはしないんですか?」
俺からすりゃ、名前があるだけ幸せだと思うんだが、まぁ流石にゆんゆんって名前はなぁ。
「別になんとも? まぁ精々覚えやすい名前だなって程度でしかねぇよ」
「ほっ……」
名前を名乗るのが恥ずかしいのか、珍しい奴も居たもんだな。
そう思いながら俺は別の川魚を釣る為に別の竿を使ってたんだが、電波娘が何故か俺の隣に座って動かない。
ああ、迷子だって言ってたし、あれか、帰り道が分からんのか。
それにしてもさっきから俺に話しかけようとして躊躇っての繰り返し、なんなんだよこの娘。
結局この空気に耐え切れなくなった俺は早めに釣りを切り上げて街まで連れて行く事になった、はぁ。