第十五話
その日、俺はマゾ騎士の剣術の稽古に付き合って居た。
魔王の幹部撃破の報酬や高難易度のクエストを請け負ってたから貯金はあるし、あんまり高収入な仕事を独占しちまうと他の連中が食いっぱぐれになるので最近はアホ女神の借金返済目的以外じゃクエストを受けてない、お陰様で暇を持て余し気味だったんで暇潰しにやってたんだが……。
「ふざけてんじゃねぇぞ雌豚ァ!! 足を止めた無抵抗の相手にしか攻撃当てれねぇとか救いようがねぇにも程があるだろうが!! 稽古ですらロクに当てれねぇなら剣なんぞ捨てちまえ!!」
「そ、そこまで言う事無いだろう!? 私だって頑張ってるんだ!!」
「頑張った上でこの程度なら才能がねぇなんてレベルじゃねぇぞ!?」
前々から剣の腕がからっきしなのは知ってたが、正直改めて剣を合わせると予想以上に酷く、どうやって矯正した物か頭を抱えたくなる。
太刀筋自体は悪く無い、と言うよりしっかりした教えが見える程度には手ほどきを受けているのだろう、護身術目的臭いが。
と言うのも剣の振り方、狙いの位置、足運びや視線の動きから前線で戦う目的には見えん、それよりは貴族が習う様な剣術だ。
空振りする太刀筋ばかりに目が行きそうになるが無茶苦茶に剣を振り回してる訳じゃ無い、剣先にブレは無いし握り方や返し方は型が出来ている、致命的な距離感の計り間違えを解消しちまえば何とかなりそうなんだがな……。
そもそも此処まで酷くなった理由はなんだ? 本人曰く不器用だかららしいがそれにしちゃ度が過ぎてる、無理矢理前線に出れる様に護身術を我流で矯正しようとして失敗したか? あーいや、此奴の場合性癖の可能性が大きいか。
ボコボコに打ちのめされて嬉しそうな顔で倒れるマゾ騎士の頭に水を被せた後、どうした物かと悩む。
俺の剣はそれこそ我流だ、自分のスタイルに合わせて作ったモンだから参考にならん、やってやれねぇ事はねぇだろうが一旦何かしらの形が出来た剣術に無形の我流を教えてもどっち付かずになるだけだ。
経験を積ませて自力で調整させようにも討伐クエストは微妙なラインの物しかねぇし、俺は今クエストを自重しているからなぁ。
手加減しまくって稽古付けようにもその状態ですら差が開き過ぎてる、こうなりゃ一から十まで手取り足取りって奴しか無いんだが……何で俺は弟子を扱く師匠見たいな事考えてんのかねぇ。
自分が師匠に鍛えられていた時はさぞ手が掛からない生徒だったんだろうと考えつつ、俺はマゾ騎士を蹴り起こして指導の続きをするのだった。
▽
「ちょっ!? 待てリチャード!! いくら私と言えどコレは恥ずかしい!! それに今は、その、汗がだな……」
「つべこべ言わずに剣先に集中しろっての、ったく一丁前に羞恥心なんぞ持ち合わせやがって」
「鎧を脱がされてインナーだけの状態で背後から腕に手を添えられたら誰でも恥ずかしいに決まっているだろう!!」
一から教えるにあたり、この女がどんな視点で剣を振っているのかを調べる為に背後から抱きしめる様に手首を握って剣を構えさせていたんだが、さっきからこんな抗議ばっかだ。
この方法が一番楽なんだが、思いの外此奴は抵抗しやがってずっとこの調子だ。
とはいえ、剣の構え方や重心の取り方はやはりまともだ、俺の見立てが間違ってたんならこの時点から修正しなきゃならなかったが、その必要は無かった様で一先ずは安心だ。
体力に関しては問題は無い、体力と頑丈さしか取り柄が無い女だしな。
手を離し、今度は足運びを見ようとしたんだが、へたり込みやがった。
「はぁ…はぁ…も、もう嫁に行けない……」
「見てくれと身体つきは良いからな、貰い手はいくらでも居るだろ」
「そ、そう言う話じゃ……」
「良いから次だ次、足運びと踏み込みを見せてみな」
「うぅ……」
ふらふら立ち上がったマゾ騎士はそのまま剣を握り直し、俺の立て掛けた案山子に向かって気合いの声を上げながら切り掛かり、肩から腰へ掛けてを一刀両断して見せた。
問題の足運びだが、不器用さが見えるのが良く分かった、コレは口で説明するだけじゃダメか。
目測の誤りはやはり戦闘スタイルの違いが上手く噛み合わずに距離感が狂ってるんだろう、踏み込みの歩数が安定していない。
切り倒された案山子を片付け、ドヤ顔をしているマゾ騎士の頭を引っ叩いた後、問題になっている距離感の授業に入る為に知り合いの道場を間借りした。
「つー訳で、俺の見立てだとお前の剣はちぐはぐな踏み込みが原因だな、生来の不器用さが空間把握能力に影響してんだろう、其処でだ」
俺はそう言って懐からナイフを取り出し、マゾ騎士に見せる。
「コレを、今からお前に投げる、無論当たればタダでは済まん、自分から当たりに行けねぇ様に眉間を狙って投げるからしっかり避けろよ」
「色々言いたい事はあるが……ほ、本気か?」
「冗談でンな事言うかよ、それと一つ忠告しとくとこの道場を暗室にして更に目隠しした状態でナイフを避けて貰うからな、気合い入れねぇと気がつく前に死ぬぞ」
空間を締め切り、視覚を潰せば第六感が働く様になる、そしてその状態から飛来物を避けようとするなら自分の間合い、空間を持たなけりゃならん、これはその訓練だ。
「わ、私は用事を思い出したから今日はこの辺で……!!」
そう言って、俺の目が本気だと悟ったマゾ騎士は逃げようと背を向けるが、その瞬間に足音を殺しながら一足で奴の背後を取り、そのまま目隠しをする。
そして説明しながら仕込んでいた蜘蛛糸を引き、道場の雨戸を締め切り密室を作り上げる。
後は背中を蹴り飛ばし、第六感が働く様にワザと一発外してマゾ騎士の顔スレスレにナイフを投げ、床に刃を食い込ませる。
音に反応し、飛び上がったマゾ騎士は腹を括ったのか集中し始めた。
「よーし良い子だ、んじゃまぁ授業その1を始めるぜ? コレが終わったら名前で呼んでやるよ!!」