第四話 大豊作
二度と会う事は無ぇだろう師匠よ、知ってるか? キャベツは空を飛ぶんだぜ?
俺は多分すげぇレベルの死んだ魚の目をしてるに違いねぇ、二足歩行するキノコが居るんだから空飛ぶキャベツが居てもなんら不思議じゃねぇんだがよ、なんつーか、野菜だぞ? なんで空飛ぶんだよ。
いや、ロードランのキノコも確かにおかしかったけどさぁ、なんだよあのハードパンチャー、横殴りのフックでどれだけ人間ぶっ飛ばしゃ気が済むんだよ。
『収穫だぁぁぁぁあ!!』と張り切る冒険者共とアホ三人、この状況に違和感を覚えてるのはどうやら俺だけらしい。
街全体に緊急クエストの知らせが鳴り響いた瞬間は件の魔王軍関連かと期待したのにやる事は農家の仕事だ、やってらんねぇよ。
バシバシ弓撃ったり魔法撃ったりしてっけど、それ食うんだぞ? 自前の刃物で斬るんじゃねぇよ、それで魔物斬ってんだろ? しかもこの時期じゃカエルが主な討伐対象だ、お前ら何も思わねぇのかよ。
一玉あたり一万エリス、正直金貰ってもやりたくねぇ類の仕事なんだが、ウチのアホ共が張り切ってやがる、『クルセイダーとしての私の実力、その目で見てくれ』とか言って突っ込んだマゾヒストは論外だったし、キャベツに襲われてる冒険者庇って恍惚としてやがる。
…………俺、もしかしてまだ亡者化が続いてて本格的に頭が逝っちまったのか?
溜息を一つ吐いた俺はゴーレムアクスを取り出し、真空刃を放ってキャベツを一箇所へ固める様に吹き飛ばしていたが、クッソ情けねぇ姿晒してる気がしてやる気がゴリゴリ消えたので直ぐに辞めた。
「我が必殺の爆裂魔法の前において何者も抗う事叶わず」
横のややこしい馬鹿に付き合う気もねぇ、好きにしてくれ……。
「ふふふふっ、あれ程の大群を前にして爆裂魔法を放つ衝動を抑えられようか……いや、ない!!」
「いや抑えろよ、お前の火力だと周り巻き込むだろうが、そもそも爆裂魔法なんぞ使ったらキャベツが消し炭になるぞ」
思わず口に出た注意を無視したアホ二号はそのまま詠唱を開始、俺が一箇所に固めたキャベツの中心に向かって爆裂魔法をぶち込みやがった。
あーあ、何人か焼けてやがる……てかマゾヒストも一緒に燃えたのか。
何なんだよ彼奴、ロードランでも彼処まで狂った奴は居なかったぞ。
二日酔いの頭痛なのか悩みの所為での頭痛か分からなくなって来た俺はさっさと寝る事に決め、魔力切れで崩れ落ちた魔女っ子を背負った後、無感情にキャベツをはたき落としに行った。
弓で射抜くより真空刃を上手く使って落とした方が傷も無くキャベツを収穫?出来る、出来るだけ素早く収穫を終わらせてやる。
そんな事を考えながら一時間くらい黙々と腕を振っていたんだが、落としても落としてもキリの無いキャベツに段々腹が立って来た、何が悲しくて野菜如きに一時間も浪費しなきゃならねぇんだ。
『おお〜、的確に落としますね〜』と完全に観戦モードの魔女っ子を背負った状態で赤い涙石の指輪を付け、自分の動脈を切った後に竜狩りの大弓を取り出し、内なる大力を使って大矢を番え、キャベツの中へと矢を放つ。
大力によるブーストは人間の身体を限界以上に引き上げ、身を削る痛みと引き換えに莫大な力を与える、赤い涙石は装備者の死の匂いに反応して力を跳ね上げる、あの能面野郎との戦いじゃその代償が致命的な隙になる可能性があった所為で使わなかったが。
だが今回は関係ねぇ、矢の衝撃波で軒並み落とす事が目的なんだからな。
「ちょっ!? な、な、ななな、何やってるんですか!?」
慌てた様な声が背中から聞こえるが、それを無視して第一射を放つ。
その瞬間、空気が弾ける様な音と共に衝撃波が周囲を蹂躙する、感覚的に音の壁をぶち抜いたと感じ、そのままキャベツを撃ち落として行った。
▽
収穫が終わり、打ち上げ会場となったギルド内、俺は首に包帯を巻かれ、安静にしていろと魔女っ子にキレられた。
我ながら流石にやり過ぎたとバツが悪く、大力はまだしも赤涙までは不要だったかと少々反省させられた。
「そもそもですよ!? キャベツの収穫に命を貼るなんてどうかしてますよ!! さっきからそっぽ向いてますが私の話、ちゃんと聞いてるんですか!!」
「へーへー、俺が悪ぅ御座いました、昔のノリでやった事をちゃんと反省してるよ」
今の体は人間だ、不死じゃねぇから死んだら終わり、その辺の事は知識としてはあっても実感がねぇんだよなぁ、ロードランじゃ死ぬのが当たり前みてぇな部分があったしよ。
その辺りの道徳観念は一生治んねぇな、昔から生き死にの事にはかなりドライだった覚えがある、平気で仲間や友人を殺したり見捨てたりしてた様な曖昧な記憶だが。
その点、この魔女っ子は情に熱いのだろう、さっきからずっと俺に向かって説教ばかり続けている、横に座ったアホ女神を見習ってくれ、死ななきゃ安い死んでも安いな感覚は俺と同じもんだしよ。
「しかしリチャード、あの弓は特注品か? 弓も矢も通常の用途で使うには些か巨大過ぎる」
一応、仮にも、騎士の端くれのマゾヒストは意外にも俺の持っていた竜狩りの大弓に興味が行っていたらしく、初めて真面目な顔をしてやがったので説教を誤魔化す様に質問に答えてやる。
「ありゃ元は竜を墜とす為の弓だよ、だから弓も矢も巨大化してるし、矢自体も生半可な槍よりも貫通力がある」
そう言って飯が片付いたテーブルの上に現物を取り出して見せる、ソウル化の技術をちゃんとした形で晒したのは初めてだったが、一スキルとして見られてる様で別に珍しがられては無ぇみたいだな。
「……これ、並みの人間じゃ弦を弾く事すら無理だと思うんだけど、しかもこれ神代の代物よね?」
意外にも真っ先に食いついたのはアホ女神、口ぶりからして竜狩りの大弓を知らねぇってのが分かった、つまりこの小娘はあの時代の後に生まれた神って事になる。
そうでなきゃあの鷹の目が率いた竜狩り隊の事を知らねぇ訳がねぇし、そもそもアノール・ロンド製の代物だ、神の国の物を理解出来てねぇってのはあり得ん。
アッパラパーな理由もそれか、あの男がきっちりと世界を分離したから連中は上から眺めるしか出来なくなり、のちに産まれた神はそれが当然だと思って人間に興味が無くなって行く、この小娘もその一つって訳だ。
「神の時代の弓? なんでそんな物を持ってるんですか?」
「ごく最近入手した訳では無いな、随分と使い込んだ後がある、相当前から使っているんだろう?」
三人の好奇心が突き刺さる、別に減るもんでもねぇし話しても良いんだが、話す理由も無ければその必要も無ぇわな。
「ハッ、なんでンなこと一々教えなきゃなんねぇんだよ、知りたきゃ俺に話す気を起こさせるこったな」
そう言い切った後に俺は酒を一気飲みし、財布をアホ女神に投げ渡し『好きに使え、俺は寝る』つってそのまま馬小屋に帰って干し草の上に横たわった。
どーせ明日にゃ報酬金が入ってくるし、財布には二十万前後しか入ってねぇ、あれぐらいで小声から解放されんなら大歓迎だ。
二日酔いと出血の疲労が思った以上に溜まっていたらしく、俺は思ったよりも早く眠りについたのだった。