第五話 厄介事
世の中には宗教っつーものがある。
ロードランの白教然り、太陽信仰然り、暗月然り。
崇め奉る神が存在し、その神は曲がりなりにも信仰を受ける対象として威厳がある訳だ。
「お願いじまず、おがねがじでぐだざいぃぃ」
この借金抱えたアル中女神にも当然自分の宗教がある訳だ、確か……アクシズ教だったか?こんな姿晒してる女神が自分の主神だって知れたら余裕で宗旨替えするね。
朝釣りの帰りに飯食いに来たら猫撫で声で『リチャード様〜? キャベツ収穫の報酬はおいくら万エリス?』と聞いて来やがったからまさかとは思ったが……。
泣いていて話にならんアホ女神の代わりに側にいた魔女っ子とマゾヒストに説明を聞いたんだが、此奴の収穫したのが換金率の低いレタスで、しかも昨日の夜だけで俺が丸々やった金全部使った上に大金が入ると見越してツケまでしていたらしい。
「ハァ……幾ら足りねぇんだよ」
「えっ!? 貸してくれるの!!」
「報酬金は五百万ちょいだったからな、テメェの借金肩代わりするぐらいはできるっての」
「持つべき物はイケメンで優しい金持ちの仲間よねリチャード!!」
文字通り現金な奴だ、呆れを通り越して哀れでならん。
アホの代わりにツケ代十万エリスを支払った俺は装備を新調した魔女っ子とマゾヒストの自慢話を聞き流しつつ、張り出された仕事を見に行った。
「あン? 今日はヤケに高難易度な仕事が多いな」
「本当ですね、今の私達ですと完全に力量不足の物ばかりです」
爆裂魔法の試し撃ちがしたくてうずうずしていた魔女っ子が冷静なるレベルの物ばかり、カエル狩りの十倍は難度の差があるからなぁ、俺だけなら余裕でこなせるんだが、此奴らに足を引かれたくはねぇしなぁ……。
やるなら一人でだな、特にマゾヒストなんぞ自分から棒立ちになって殴られに行くような奴だ、下手したら命に関わる。
つまり暫く仕事がねぇって訳だ、釣りでもしてのんびり待つか? いや、そもそも何故低難易度から中難易度の仕事が軒並み消えた?
そんな疑問を浮かべてると受け付け嬢が『実は……』と控えめに事情説明をしに来た。
曰く、近くに魔王軍の幹部が現れ、その影響で弱い魔物の大半が姿を消してしまったらしい、幹部とやらはえらく傍迷惑な奴だな。
「要は其奴を殺しゃ良いんだろ? 楽勝じゃねぇか」
「いや、あの、魔王軍の幹部ですよ!? それに居場所も特定出来ていません!!」
つまり目撃情報のみって事か、ビビリようからして積極的にヤり合いに行こうって奴は少なそうだ、………自分の足で探さねぇとダメか。
先ずは何処から探るかねぇ……と考えていたら、服の裾を引っ張る感覚に意識が持って行かれ、そっちを向くと魔女っ子が俺を見上げていた。
「あの、折角の機会ですので爆裂魔法の訓練に付き合って欲しいのですが……」
何で俺がと一瞬考えたがよくよく思い返せば一発撃ったら行動不能になる娘だ、碌に魔法の練習もできねぇんだろう。
それに爆裂魔法は性質的に街の周辺では無駄撃ち出来ん、熱波と爆音と閃光が近所迷惑レベルを通り越してるからな。
そうなると人里離れた場所に行かねぇとならねぇし、行き帰りの護衛も必要だ、マゾヒストの奴はキャベツ収穫の時に一太刀も喰らわせられて無かったから使い物にならんし、アホ女神は今日の食費も無い有様だからバイトするしか無い、つまり頼れるのが俺だけしか居ないわけだ。
「ちょっと待ってろ、準備だけ整えてくる」
「……!! ありがとうございます!!」
▽
弁当と買えるだけの魔力と疲労回復のポーションを持って行った先は廃城の見える丘の上、位置的に街への迷惑にはならず、動かない標的が存在するこの場所は御誂え向きの場所だった。
「ほれ、街中の魔力ポーション買い占めて来たから好きなだけ爆裂魔法撃てるぞ」
「本当ですか!? リチャードさん愛してます!!」
見えるようにポーションを並べてやるとキラッキラした目で詠唱を始める魔女っ子、後先考えずにボコボコ爆裂魔法を撃てる機会なんぞ無かったのだろう、嬉々として爆撃しまくってる。
あの城、人が住んでたら今頃絶対ブチギレてるだろうな、俺なら確実に魔法使った奴を殺しに行く、どんな手段を使っても必ず探し出して殺しに行く自信があるわ。
そんな他愛も無い事を最初の頃は考えていたが、魔女っ子の爆裂魔法を見続けている内に新しい呪術を思い付き、気が付けばそれの実験をする為に毎日一緒に城を爆撃していた。
この世界じゃ呪術もスキル化されてるらしく、回数制限が無くなり魔力を使う様になった、つまりポーション使えば好き放題撃てる。
俺は魔力の質はともかく量はある、つまり新しい呪術の完成まで存分に実験出来るって寸法だ。
そうして何日か掛けて完成した新呪術『炎の鎚』狙った空間に爆炎を引き起こす少々特殊な呪術だ。
従来の呪術は呪術の火を起点にして発生する物ばかりだったが、コレは狙った場所が起点となって発動させられる。
それによって火球系の呪術とは比べ物にならない射程距離を確保出来るようになった、まあどうしても発動前に空間に揺らぎが出来ちまうし、発動後の軌道修正ができねぇから火球系の上位互換にはならなかったが。
「ふふふっ、リチャードさんも遂に我が爆裂道を理解し、共に歩む事を決めたのですね?」
「ンな訳ねぇだろ、お前みたいな偏執狂と一緒にするんじゃねぇ」
「んなっ!! 偏執狂とはなんですか偏執狂とは!! 訂正して下さい!!」
「背負われてる癖に暴れるなよ、あと耳元で騒ぐな」
最早城の原型が無くなる程爆撃をかましたのでそろそろ新しい練習場が欲しい所だ、魔王軍の幹部についても全然情報が集められてねぇ、つかすっかり忘れてた。
明日こそは本題に戻らにゃアホ女神の知能が低下する一方だ、俺の名前で食堂にツケやがるし、造花作りを手伝わせて来やがるし、良い加減うざったい。
それプラス好き放題爆裂魔法撃った帰りに背中でよだれ垂らして寝られるのもいい加減にして貰いてぇしな。
んな訳で、俺は翌日の訓練をキャンセルし装備を整えてたんだが、そんな時に限って緊急連絡が入っちまった。
またキャベツか何かかと邪推したが、武装して正門へとの誘導だったのでまともな戦闘だと判断、シミター片手に真っ先に正門へと向かった。
着いた先には人集りの向こうに首のない騎士が首の無い騎馬に乗って岩の上に佇んでやがる、全身から発する怒気からして生半可な怒りじゃねぇ。
先に来ていた冒険者の一人に奴の事を聞くと、アレが魔王軍の幹部の一人だと言う、この街には駆け出しの冒険者しか居ないのでまともにやっちゃ勝ち目が無いとまで付け加えてくれたが。
つまり、奴はそれなりに優秀な強さを持ってる訳だ、カエルや知性のねぇ魔獣相手に辟易していた所にコレだ、既にシミターの柄には手が掛かっているので後は踏み込むのみ。
そう人知れずほくそ笑んでいた俺だったが、奴の発した言葉によって思わず足を止める事になってしまう。
「俺はつい先日、この近くの城に越して来た魔王軍の幹部の者だ……!!」
……………城?
「ま、毎日毎日毎日ッ!! おっ、俺の城に毎日欠かさず爆裂魔法をぶち込むあ、頭のおかしい大馬鹿は誰だぁぁぁあ!!」
あの城、住居者居たのか……。