第六話 首なし騎士
さて、マジギレしてる首無し騎士にゃ悪いが奴には賞金掛かってる、騒音の文句はあの世で女神相手に愚痴ってな。
改めてシミターを握り直し、斬り掛かるタイミングを計っていたが、首無し騎士の剣幕と周りの怯え様を見て魔女っ子が前へ出て行きやがった。
黙ってりゃ分かんねぇだろうに、素直なこった。
「我が名はめぐみん!! アークウィザードにして爆裂魔法をこよなく愛する者!!」
名乗りを上げ、堂々と自分の仕業だと告げる魔女っ子、俺も一緒になって爆破しまくってたのに全部自分でかぶる気か?
忠告だけで済まそうとしている首なしが『爆裂魔法を使うな』と言っていたが『紅魔族は日に一度爆裂魔法を使わなきゃ死ぬ』とか言う無茶苦茶言ってやがる。
ふと見ると魔女っ子の後ろ姿は微妙に震えている、あの調子じゃプレッシャーに弱ぇ見たいだな。
その姿に俺は不意打ちを諦め、溜息と共に堂々と前へと出て行く、十三のガキに敵を押し付けるなんざ恥ずかしくて耐えられるか。
つくづく甘くなった自分に悲しくなるが、そんな事を考えていたのが悪かった、アホ女神が飛び出し意気揚々と首なし騎士に向かって行き、『あんたの所為でクエスト受けれなくて困ってんのよ!! 浄化してあげるわ』と啖呵を切りやがった。
だがその直後、『紅魔の娘を苦しませてやろう』と首無しが指先を魔女っ子に向ける。
奴の手に集まる瘴気の様な物が呪いの類だと瞬間的に察した俺は、嬉々として庇いに行こうとしているマゾヒストより先に魔女っ子の前まで走り、代わりにその呪いを食らった。
「ほう、仲間が庇ったか。だが逆にその方が仲間意識の強い紅魔の者には効くだろう、死の宣告を貴様の代わりに受けたその者は一週間後に死ぬ」
死の宣告、奴曰く一週間後に俺は死ぬらしい、確かに倦怠感と命が流れ出て行く様な不快感はあるが、コレはダークリング以下のもんだ、別に耐えれない程の物でもない。
声にならない動揺を見せる魔女っ子、首なしの言った様にこの娘は仲間意識が強いらしい、涙目になってやがる。
『その男の呪いを解いて欲しければ城まで来るが良い』と首なしは言い残して消えていく、追撃しても良かったが魔女っ子の精神状態がよろしく無かったので諦めるしか無かった。
「ま、気にすんな、この手の事は慣れてるからよ」
そう言って軽く頭を撫でてやったが魔女っ子は俯くだけだった、人が気にしてねぇって言ってんだから気にすんなっての、これだからガキのお守りは面倒なんだよ。
悪態と共に宥め方を考えつつ俺はソウル内の解呪石を探す、本来の用途じゃねぇがそれでもこの程度の呪いなら十分に解呪出来るはずだ、無理なら城に行きゃ良いしな。
だから割と呑気してるんだが、そんな事を知る訳ねぇマゾヒストが俺の胸倉を掴み上げた、なんだ意外に真面目な面もあるんじゃねぇか。
「何故私に庇わせてくれなかったんだ!! 私が呪いに掛かればお前が苦しむ事は無かったし、私もあのデュラハンにあんな事やこんな事を要求されて色々大変な目に合えたんだぞ!?」
訂正、この変態は筋金入りだ、真面目さの欠片も感じられん。
「ふふーん、リチャード? このアクア様が直々に助けてあげても良いわよ? そ・の・か・わ・り、解呪したらちゃーんと私を崇め奉るアクシズ教に入信して、毎日私にお祈りを捧げて、お小遣いい〜っぱい私にくれて、高級しゅわしゅわをたっくさん貢ぐ事!! それからそれから––––」
アホ女神は完全に無視、目当ての解呪石も出て来たのでそのまま胸へ押し当て、呪いを解く。
「あっ、ちょっ、何やってんのよ!! 折角このアクア様が呪い解いてあげるって言ってるのに!!」
「自力で解けるに越したことねぇだろが、まぁ俺の経験だな」
ロードランじゃバジリスクかシースぐらいにしか使わなかったからな、余っててしょうがねぇ。
「だから言ったろこの手の事にゃ慣れてるってな、俺はテメェらに心配される様な二流じゃねぇ、だからめぐみんも何時も通りに後ろから好き放題やってりゃ良いんだよ」
どの道一癖も二癖もある連中だ、押さえつけるより好きにやらせる方が良いし、そう出来る場を整えてやるのがベスト。
どーせ生きる目的ってのを達成しちまった後なんだ、少しだけならこのアホ共に付き合ってやるのも悪くねぇ。
さてフォローは終わったし後は居場所が知れた首なしをどう料理するか……だな。
▽
首なしの襲撃から数日が経過した、俺はあの後街の鍛冶屋や廃材置き場から刃こぼれした刃物や廃材を回収し、修復中の奴の城の内部とその周囲に罠を張り巡らせていた、潜伏と霧の指輪と静かに眠る竜印の指輪のセットが楽で仕方ねぇや。
多分コレならこっちから仕掛けねぇ限り絶対に見つからん、その証拠に城の内部は敵の拠点にも関わらず俺の仕掛けた罠で満載だ、どう頑張っても一週間は外に出れねぇ自信があるし、火炎壺も山ほど埋めたから下手したら城全体が燃える。
懲りずに爆裂魔法を撃ちに来てる魔女っ子に誤射されねぇ様に設置するのは大変だったぞクソッタレ。
罠は再利用されねぇ様に発動した後は自壊しちまう程度の耐久性にしてあるし、この挑発でまたあの首なしは街まで来るだろう。……尤もこんな真似しなくても爆裂魔法の所為で又来るかもしれねぇが。
設置作業中にいっぺん此処で仕留めてやろうかとも考えたが、そうなると報奨金が俺の独り占めになっちまう、そうなったら明らかにあの借金アル中女神がキレる、流石に進んで厄介ごとを拾う気はねぇからな、ヤるなら街の周辺でだ。
廃材回収に二日、設置に三日掛けた大掛かりな挑発を終えた俺はその足で街へ帰り、ギルドで酒でも呑もうかと考えていた矢先に中から飛び出して来たアホ女神に押し倒された。
「リチャード!! クエスト受けましょうよ!! ね? ね? ね? もう私はバイト生活嫌なの!! コロッケが売れ残ったら店長に怒られるの!! 借金返したいの!!」
帰って早々コレだ、この女は自分が女神だって事忘れてんじゃねぇの? 世俗に塗れ過ぎだろ。
わーわー俺の胸元で泣くアホに折れた俺は掲示板の前に行き仕事を選ぶ、しかし殆どが高難易度の物しかなく足手纏いを連れた状況では少々難の有るものばかりだ。
そんな中、湖の浄化作業の仕事が張り出されているのを発見する。
内容は汚染された湖に魔物が住み着いたのでそれを浄化してほしいと言う物、湖が綺麗になれば魔物は別の場所に移るので倒す必要は無いらしい。
檻の中にでもこの女神を入れて沈めときゃ大丈夫か、前に水の女神だとか言ってた記憶がある、浄化に何時間掛かるか分からねぇが、その間に湖近くの他の仕事も纏めて受けちまおう。
で、弁当などの用意をしてから現地入り、アホ女神の話によると浄化作業は大体半日ほどだと、なら俺の仕事も丁度終わるな。
「てな訳で、俺は熊と猪と鹿の魔物を狩って来るから湖は任せたぞ、トイレがしたくなったら引き上げて貰え」
「アークプリーストで女神な私がトイレなんて行くわけ無いでしょ!!」
「紅魔族もトイレには行きませんとも!!」
「く、クルセイダーも行かない、ぞ?」
「…………そう言う事にしといてやるよ」
色々言いたかったが、下手したら俺はこの中で一番年長の可能性があるから黙って言葉を飲み込んだ。
アホ女神は人間の寿命なんぞ遥かに超えてやがるだろうが、俺もダークリングが現れてからは何年生きてるのか知らねぇし、長い間ロードラン以外にも放浪しまくってたからな、少なくても見た目以上は生きてる筈だ。
檻の中で三角座りしながらぼーっと浄化作業に入り始めたアホを見つつ、アレが年上ってのも嫌だなと思いながら俺は狩りへと向かうのだった。