八話 放浪者
パーティメンバーを賭けた決闘、街はずれの平野で行われていたそれは実に一方的な物だった。
「どうしたよ勇者様?さっきから一太刀も当たってねぇぞ?動きも単調過ぎて欠伸が出ちまう」
嵐の様な御剣の斬撃、大剣である魔剣グラムを軽々と扱う膂力はその加護によるものなのだが、その力を使っても放浪者を捉える事が出来ないでいた。
それもそのはず、彼の相手にしている男は神の時代にて実力だけで世界の最果てにまで辿り着いた男、四つの王のソウルを内に収めた存在だ、魔剣を持った程度の一般人が勝てる訳がなかった。
紙一重、肌に触れるか否かと言ったギリギリを見切って避けている、その放浪者の動きは読んでいると言うよりも見てから反応して避けていると言った風だった。
(何故だ!? 彼は特に魔眼や何かを持ってる様子は無い、女神様を特典にしたから他の特典も無いはずだ!! なのに如何して剣も使わずに僕の連撃を避けれる!? 何故カウンターを的確に決めれるんだ!?)
今放浪者はポケットに手を入れた状態で御剣を相手にしている、足捌きと反応速度だけを使用して攻撃を回避し、振り切った攻撃全てに蹴りによるカウンターを叩き込んでいる。
早く煩いだけの斬撃の中、放浪者の頭は如何にこの小僧の心を折るかと言う事に思考を割いていた、その結果がこの手加減と挑発。
剣だけでなく両手を使わず、足だけで相手をし、且つ相手のカンに障る罵声を浴びせ続ける。
踏み込もうと足を踏み出した御剣の足を払い、転倒させたあと後頭部を踏み付け顔面を地面へと擦り付けるように踏みにじる。
「ほらほら、気張れよクソガキ。テメェは選ばれた勇者サマなんだろ?無様に地べた這い蹲ってザマァねぇな」
「グッ、舐めるのも大概にしろ!!」
そう言って御剣は起き上がりざまに魔剣を一閃するが虚しく空を切る、そればかりかその刃先の上に放浪者は立っていた、心底くだらない物を見る目をしながら。
「顎がガラ空きだ小僧」
そう言って放浪者の鋭い蹴りが顎先を打ち抜く、普段ならコレで意識を持って行くのだが、今回はある程度加減をし半端に意識を残した状態にして彼の手から魔剣を蹴り飛ばす。
回転しながら上空に打ち上がった魔剣はそのまま重量に従う様に落下、丁度落下地点に居た放浪者はそのまま魔剣を掴み取る。
その瞬間に御剣の身体に自由が戻るも彼の手に魔剣は無い、これまで魔剣に頼り切りだった彼は徒手空拳での戦い方を知らずに立ち止まってしまう。
「その魔剣は僕にしか使えない!! 真価の発揮しないその剣は普通の剣と何ら変わらないから僕のこの鎧には通用しないぞ!!」
その発言を放浪者は完全に無視し、肩から体当たりを入れて御剣の身体に衝撃を与えた後そのまま下から上に掛けてを一閃、彼自慢の鎧ごとその身体を両断した。
「––––え?」
それは誰の言葉か、惚けた様な声が響くと同時に御剣が膝から崩れ落ちる。
だが彼が喧嘩を売った男はそれを許す男では無い、放浪者は御剣の腹に膝蹴りを入れて身体を立たせた後、首を掴んで持ち上げソウルから取り出した女神の祝福を無理矢理飲ませる。
「起きろよ無能、
身体が全回した御剣をそのまま投げ飛ばし、彼の前に魔剣を放り投げる。
それに頼って来た男なのでつい御剣は魔剣へ手を伸ばす、それが彼の強さであり自身を特別足らしめる存在だったからだ。
だがその瞬間彼の手は放浪者によって踏み砕かれる、態々相手が武器を拾うのを待つほど優しい男では無く、また彼の好敵手もこの状況なら武器を捨て殴り掛かって来る男だったからこそ余計に容赦が無い。
「魔剣がありゃ竜も殺せるんだろ?人間一人余裕じゃねぇか、ほらやってみろよ小僧」
踏み砕いた手を踏み躙り、苦痛に歪む御剣の顔を見て壮絶な悪党の表情を浮かべる放浪者。
利き手と逆の手で魔剣を握って立ちあがる御剣に、彼は両手を大きく広げてさあどうしたと言わんばかりに挑発を続ける。
プライドも何も無くなった御剣は魔剣の力を解放し、そのまま放浪者へ斬りかかった。
単純な振り下ろし、魔剣の力を解放した状態でのそれは竜を一撃で仕留める力を秘めている、だがそんな物は放浪者の潜ってきた修羅場では日常的なものだ。
左手を使って剣の腹を払い、大きく開いた胴をシミターの抜剣と同時に一閃、そのまま彼の両手両足の腱を切り、その際に取り落とした魔剣を拾いながら見下す。
「才能ねぇよ、お前。凡人以下じゃねぇか」
「ぼ、僕は、魔剣に……選ばれたんだ、それで、この世界を救うんだ……」
「はぁ? その程度で自分が特別だとか思ってんのか? んで? 特別な僕が世界を救ってあげます? あっははははっ!! なんだそりゃ、ばっかじゃねぇのか? オーケーオーケー、教えてやるよ特別ってのはカエル見てぇに這いつくばってるテメェじゃなく、この俺みたいな奴だってな!!」
放浪者の握っている魔剣グラムは御剣の転生特典として持ち込まれ、彼専用の武器としてこの世界では存在している。
しかし、その専用武器は初めから御剣専用だった訳では無い、ただ単にそう言う風に神の手で後付けされただけであって、真に魔剣に選ばれた訳では無い。
何の変哲も無い人間が魔剣や聖剣に主人として選ばれるなど信じられるだろうか? ロードランを駆け抜けた銀髪の騎士も自分の意思、強さを見せ付けた事で聖剣に認められ、その手に収めたのだ、それ故に銀髪の騎士との戦いでは放浪者と言えども聖剣に拒絶され握る事すら出来なかった。 …………尤も、彼はそれらを投げたり蹴ったりとぞんざいに扱っていたが。
つまり他人が触れられる程度の専用武器ならば、神の手では無く魔剣の自体の意思で所有者が変わる事もあり得るのだ。
白く輝く魔剣グラム、御剣響夜専用だったはずの魔剣は放浪者と言う強烈な才能と強さによって所有者を乗り換えてしまったのだ。
声にならない衝撃、全身から力が抜けて唯の人になってしまった響夜に追い打ちをするように放浪者がこれ見よがしに魔剣を振る。
次の瞬間、大地が大きく裂け、巨大な渓谷が出来上がった。
その威力、その範囲、それは全て御剣響夜の扱っていた時とは雲泥の差の威力であり、正に魔剣の名に恥じない威力だった。
「コレでテメェは唯の人間だ、特別でも何でもねぇ何処にでも居る無力な小僧だ、まっ精々頑張れや」
そう言って放浪者は渓谷の底に向けて魔剣を捨てる、元よりこの様な武器が好みでない彼にとって魔剣は不要な物、その行為にはなんの躊躇も無かった。